173話
またもや更新の日時がズレてしまい、申し訳ありません。
真夜中の山中をたったかたーとニャンコが走る。
歩くだけでも大変そうな新月の暗闇の中、木々を右に左にホイホイと避けながら上り下りを駆けて行く。
「ふあーあっ」
木々の隙間から覗く星明りと探知魔法もどきから現在地を把握したワタシは一つ大欠伸をした。
悪条件の中で一生懸命に走ってくれてるニャンコに対して、乗ってるこっちは謎の猫魔法のせいで超お気楽状態だからね。
何時もなら寝てる時間だし、欠伸の一つも出ようってもんだ。
ちょっと申し訳ない気もするけど、ニャンコには後で暫く休憩時間があるから、それで相殺って事にして貰おうと思う。
「最初に言った通り、魔物は出来る限り無視でお願いね」
「にゃにゃっ」
遠い木の陰からそおっとこちらを伺ってたワーフルフ(原人みたいな魔物)が、こちらと目が合った瞬間に全速力で走り去ったのを見て、ニャンコに改めて注意を入れる。
大玉と一体化してる以上、ほとんどの魔物は逃げて行くとは思っていても、気を付けるのに越した事は無い。
これからの事を考えたら道草なんて食ってる場合じゃ無いし、出来る限り無視して先に進むのが吉だ。
何しろ時間合わせの為にこっちが砦を出たのは先発の連中より二刻(約二時間)は遅いからね。
この時刻となれば、彼らはもう既に包囲網を完成させてる筈だ。
そんなところで肝心要のワタシが道草食って遅れたりしたら、申し訳が立たなくなっちゃうもんな。
そう。これからやる要塞攻略戦は、今や結構な人数を動員した立派な「軍事作戦」になってるのですよ。
ワタシが単独でやる魔法実験だった筈なのに、マルコさんの登場のせいでそうなっちゃったのだ。
話は数時間前に遡る。
「レティ殿と途中で行き会った際、今夜にも閣下が要塞攻略に動かれると聞きましたので、我々だけでもと急いだ甲斐がありましたよ!」
驚いて名前を呼んだせいか、ワタシの姿を認めたマルコさんが直後にそんな事を口走ってくれたもんだから、ロベールさんとデボラさんが物凄くびっくりしちゃってねぇ。
即座にエラい勢いで詰め寄られちゃったんだけど、そんな中、マルコさんが「後から討伐騎士&従騎士約七十名を中心とする総勢三百の任務部隊が丸ごと閣下の援護にやって来ます」と続けて来ちゃったので、もう単独制圧は諦めるしか無くなっちゃったのですよ。
そこで二人を宥めつつ、四人で要塞攻略に付いて話し合った結果が今進行中の作戦だ。
とは言え、勿論ワタシが独りで要塞に乗り込んで初期制圧を行う事は変わらない。
そこだけは絶対に譲らなかったからね。
でも、基本それ以外は全部彼ら任せになった。
具体的には任務部隊を本格制圧用の本隊と幾つかの小隊に別け、各小隊の方は今までの捜索活動とロベールさんが指揮官尋問で得た情報から全ての逃げ道を塞ぎ、本隊の方はワタシの攻撃開始を合図に正門前に押し寄せてそこを押さえる事になってる。
その後、要塞の初期制圧が終わった時点でこっちが信号弾を上げたら、本隊が要塞内に雪崩れ込んで本格制圧って感じですかね。
まあ最後までワタシの単独突入に反対したマルコさんはちょっとウザかったけどさ。
「今回は一切手加減無しの全力で大規模魔法を使うから他はジャマ」と言い切って、何とか納得して貰いましたよ。
ただし、この話合いにはオマケがあって、結果的にワタシとロベールさんはマルコさんにドカンと怒られる事になっちゃった。
と言うのも、彼女とその部隊は本来全く違う目的で動いてたらしく、こっちに来た理由は「事実関係の確認の為」だったそうで、何の事実かって訊いたら、その瞬間にマルコさんの目がキラーンと光っちゃってね。
「我々の本来の任務は青の森で猛威を振るい始めた、首に懸賞金が掛かる名付のハイオークが率いる百を超えるオークの群れの討伐でした。しかしあの森の何処を探しても該当する魔物の群れが見当たらず、何日も捜索に費やした後に発見したのは、大量のオークと見られる魔物が討伐された痕跡だけだったのですっ」
ガッチリとこっちを睨みつけながら、そんな事をのたまってくれたもんだから、ワタシもロベールさんももう真っ青ですよ。
何しろその討伐跡を見たマルコさんは即座にそれを「少人数が無双した結果」と判断し、ワタシ達の仕業だと断定して全部隊と共に追って来たんだそうだ。
確かに見る人が見ればそう言うのって一発で判っちゃう話だもんな。
実際にドンピシャな話だし、反論なんてこれっぽっちも出来無いよ。
「討伐大隊が動く程の目標がっ、何処かの姫サマとたった二人のお供に殲滅されてっ、影も形も無くなっていたとは気付きもしませんでしたよ! せめて事後報告くらいは協会に入れて下さい!」
「……ゴメンなさいっ」
「申し訳ありやせんっ」
青筋を立てて怒り出したマルコさんに即座に謝り倒したのは言うまでも無い。
やっぱ「ほうれんそう」はちゃんとしないとイケナイね。
大いに反省って感じでしたわ。
「さて、そろそろか」
マルコさん達とのやりとりを思い出してる内に結構イイ感じの所まで着てたので、ワタシはニャンコに止まって貰うと、魔法陣を展開して一旦彼(彼女?)を送還した。
ここからは暫く単独行になる。
懐中時計で時刻を確認してから歩き出すとすぐに森林は途切れ、岩だらけの山頂が見えて来た。
この山の頂上から隣山の要塞までは二マイル(約3.2km)も無い。高さ的にもちょっと低いだけだ。
こんな絶好のロケーションを見逃す手は無いよね。
前回此処に来た時にアタリを付けてあるから、後は方向さえ間違わなければ一気に跳べる筈だと思う。
ゆっくりと歩きながら、ヒュオォォォっと風音の鳴る岩場に出た所で各種の風系魔法を励起したワタシは、その後に思考加速魔法も起動して走り出した。
そのまま山頂にあった岩を思い切り蹴ってジャーンプ!
直後に励起してた各種風系魔法を全開で起動すると、ドカーンと加速したワタシの身体は砲弾の様に暗い夜空に打ち上がって行く。
「ぐへぇぇぇっ!」
しかしヨシと思ったのも束の間、加速による圧力がスンゴくって変な声が出ちゃう。
ちょ、ちょっとコレ、凄すぎだよっ。
様々な対処魔法も全開で展開してるのに、音と圧力が凄すぎて吸収出来無いぃぃぃ。
「ぶふぅ」
必死の思いで、何とか体勢だけは立て直してちょっと息を吐く。
あーあ、こりゃ完全に計算違いだわ。
トンデモ無い高さをスッ飛んでる筈なのにそんな事には一切構っていられず、目標にしてる要塞の四隅にそびえる四つの尖塔から目を離さない様にするだけで手一杯だ。
コレ、時速換算だと一体どの位のスピードが出てるんだろう。
とか思ってる間に、あっと言う間に要塞が迫って来ちゃいましたよ!
に、二マイルがこんな一瞬ってどうなの?
って、それどころじゃ無い。ヤバいっ、減速減速ぅー!
アセって風系魔法を一気に停止したのが功を奏したのか、グフォォォーと言うスンゴイ風音が頭上を吹き抜け、一瞬浮いた様な形になったワタシは目指していた尖塔の最上部に取り付けた。
「ふうっ、助かった」
尖塔の尖がった屋根に掴まりながらホッと息を吐き、次の瞬間、スルッと見張り台に滑り込んで、そこに居た二人の兵を素手で襲って黙らせる。
見れば他の尖塔の連中は急な突風に驚いてワタワタしてるので、こっちの異常にはまだ気が付かない様だ。
どうやら怪我の功名ってヤツみたいですな。
では時間もある事ですし、さっさと開幕ベルを鳴らしてあげるとしましょうか!
ガラガラガラーン!
ニマニマと笑みを浮かべながらストレージもどき内にある木々を連続でパージすると、尖塔から要塞内に轟音と共に大量の大木が転がり落ちて行く。
今回の魔法は「全力」なので、魔法力を抑える為の重しもジャマだから一旦は捨てないといけないからね。
イイ音が鳴るだろうとは思ってたし、一大魔法ショー開幕の合図にはピッタリだ。
「にゅっふふふ。やってるやってる」
堪えきれずに声に出して笑ってると、全部で二百本近い葉っぱ付きの樹が落ちて来た要塞内は火が付いた様な大騒ぎになった。
随所で明かりが点いて非常事態を知らせる鐘が鳴り響く中、色んな連中が大声で喚きながら走り回ってる。
バカだねぇ。
こんなのどう考えても陽動に決まってるのに、大騒ぎになっちゃったら敵の思う壺だよな。
「ワーッハッハッハッ! まだまだただの開幕ベルだよっ。本番はこれからだ!」
大混乱って感じの兵隊達の中で、漸くこっちを指差して何かを喚いてるエラそうなヤツを見つけたワタシは、それに応える様に大声を上げた。
今朝もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。