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171話

更新の日時が無茶苦茶な状態になっておりまして、本当に申し訳ありません。

また過去分の改訂に付きましては一応六話まで終わらせましたが、話の筋に直接関係する改変等はない筈ですので、放っておいても大丈夫だと思います。

なお、次回更新は25日か26日の予定です。



 昼食はパスタ料理だった。

 トマトと赤ワインがベースの肉の煮込み料理が掛けられ、更にその上から粉状に削ったチーズを振った、昼食としては贅沢な一品だ。

 全てが細かく刻まれたその肉煮込みはセロリの香りがアクセントになっていたので、子供達にはどうかと思ったものの、難なく受け入れられてた。

 それどころかアンジェを中心にお代わり合戦になって、エラい騒ぎでしたよ。

 自分がセロリを美味しく食べられる様になったのはつい最近だってのに、この子達はエラいなぁと口に出したら、都市連合やガルーノの農民なら昼食なんて無い上に、夕食だってヘタをすれば玄米や燕麦の粥でも啜るのがせいぜいな時期もあるんだと、ロベールさんに言われちゃって納得。

 要は、彼らにとってはセロリなんて関係無くなる程の御馳走だったって事だね。

 頭の中が西聖王国基準に染まってたから、すっかり忘れてたわ。


「で、そもそもデボラさんって、ここで何をやってたの?」


 昼食の喧騒も終わり、ワタシとロベールさん、そしてデボラさんは再び三人でテーブルを囲んだ。

 危ないから明後日の朝まで砦敷地から出ない様にと言い含めた子供達は今、ニャンコをお目付け役に二階で勉強をしている。

 可愛い兄妹はともかく、年少三人組は本来なら学校に行ってる年齢だし、騎士になる積りなら世の必須知識は絶対必要になるからね。


「私は元東聖王国の宮廷騎士でありましたが、ある事件に絡んで職を辞した後、貴女様もご存知のドバリー様に討伐士協会へ誘われたのです。しかし協会も安住の地足りえず、五年程前に辞表を提出した際にまたドバリー様に此処を紹介されまして……」

「西聖王国の秘密要塞監視役って事かぁ」


 話の皮切りに最も聞きたい事を訊くと、デボラさんのバックに居たのはやっぱりマチアスおじ様だった。

 ランス支局捕縛の件を考えれば当然だとも思うけれど、本当に抜け目が無いって言うか、コワいヒトだよね。


「エルロワ要塞の件でしたら全くの別件です。逆に近寄らない様に言われておりました所を勝手な事をしてしまったので、ランスに御相談に行った次第で……」


 と思ったのも束の間、ソレはこっちの思い過ごしだったらしい。

 って言うかあの謎の要塞って、エルロワ要塞なんて名前なのか。


「じゃあ単に引き篭もり先を宛がわれただけってコト?」

「左様です。東聖王国を出る切っ掛けとなった事件のせいで、つい二年前まで追われておりましたから、追っ手を迎え撃つには便利だろうと言われまして」

「事件ねぇ……。詳しく聞こうとも思わないけど、暗殺者と長期に渡って戦い続けるのは大変だよね」


 この砦に来る前の事を思い出してそっと溜め息。

 一体どのくらい続いてるのかは知らねど、暗殺者に狙われ続ける生活は想像以上に厳しい筈だ。

 デボラさんが戦場生活じみた毎日を送ってた理由はコレだったんだね。


「それが……実はドバリー様も勘違いをなさっておられたのですが、先方の狙いは私の殺害では無く、情報を引き出す事だったのです。ある件に関して私は実質的に真実を知る唯一人の者でしたから」

「それって逆に言えば、暗殺者と戦うよりもしんどいんじゃない?」


 ワタシの返事に、最初から腕組みをして目を瞑ったままだったロベールさんがうんうんと肯いた。

 それを見たデボラさんも肯きを返す。

 ま、ちょっとでも世を知ってりゃ誰だってそう言う「嫌なものを見た様な反応」だよね。

 暗殺して終わりじゃなく、捕縛して情報を取る事が目的なら、一見平和裏に見えても実は反対で、攻撃手段がとてもエゲツなくなっちゃう。

 しかも何らかの組織に属しているならば尚更だ。

 先方とやらは恐らく大きな政治力を持ってるんだろうし、そう言う奴等はどんどん搦め手で攻めて来るから、組織は頼りになるどころか枷にしかならない。

 例えばソイツの上役を買収するなり脅迫するなりして動かすだけで、ヘタをすればあっと言う間に詰んじゃうもんな。


「お解かり頂けて幸いです。その様な訳で最終的に独りにならざるを得なかったとお考え下さい」


 カップに注がれた冷たい紅茶をクイッと飲み干し、デボラさんが少し遠い目になった。


 彼女は隷属紋を背負っているからワタシにウソはつけない。

 その上で矢継ぎ早に質問しても淀み無く答えて来るから、言ってる事はまず本当なんだろう。

 綺麗なお姉さんにしか見えない外見からはそんな情報は全くと言って読み取れないけど、このヒトは持ってる気配が結構凄いってのが、さっき子供達を諌めた時に解っちゃったからね。

 ほんの少し漏らしただけで、あのアンジェが押し黙る様な気を持ってるなんて、一体どんだけ凄まじい修羅場を乗り越えて来たんでしょうか。


「ええと……一応言っておきますけれど、私は男に騙された事なら二度程ありますが、性的暴行を受けた事はありませんので御心配無く」

「へっ? って、ああゴメン。美人系の女の人って色々と大変だから何となく……あははは」


 更にイヤな話で、やっぱり性的にも酷い目に会わされた事があったんじゃないかと、何となく思ったところにデボラさんからの突っ込みが!

 乾いた笑いで誤魔化しつつ、隣にいるロベールさんに目線で助けを求めるものの、女性同士の話に首を突っ込まない事を嗜みとしている風があるこのヒトは、こう言う状況では頼りにならない。


「まあ騙したオトコ二人は双方共に先方の関係者でしたから、そう言う意味では、性的にも酷い目に会わされたのかも知れませんね」


 ワタシが困っちゃった事を察してくれたのか、御本人自身が助け舟を出してくれた。

 ぬう。何だか色々思考が読まれちゃってる気がするな。

 まあケジメは取ったって意味で、相手の正体の話をしたんだと思うけど……。


 降参ポーズで明るく笑うデボラさんに適当な相槌を打ちながら溜め息。

 何て言うか、懐の深いヒトだよね。

 良くある話と言ってしまえばお終いだけど、本人にとっては傷跡を抉る様な話だろうに、何だかとっても申し訳が無い。


「解るよ! ワタシも昔、本当に酷い目に会わされた事があるし、イケメン野郎なんて大抵は屑か腹黒だよねっ」


 だからこっちもとっておきの切り札を出す事にした。

 同じ様な傷跡を晒す(とは言え性的にこっちはセーフだけど)事が良い事とも思えないけれど、少なくともこの場に於いて、デボラさんの意気に感じた事だけは解って貰えると思うんだよね。

 今でも少し思い出すだけでムカっ腹が立つ話なので、気持ちは伝わってくれると思う。


「昔、ですか。となりますと、やはり貴女様はブロイ家のアンナ姫様でしたか……」

「ブフォッ! ちょちょちょっと、何でいきなりそんな話に!?」

「例の事件は御父上方の謀略も原因とは言え、基本的に十割御相手の方が悪かったと聞き及んでおりますので。それに貴女様は『あの』コーネリア様にとても良く似ていらっしゃいます」

「げっ……(絶句)」


 意気に感じた事を解って貰おうとしただけなのに、突然こっちの身元がドドンとバレちゃってアセってると、更にショックな話が出て来ちゃったせいでワタシの頭は一瞬パニックになった。

 まさか一発で「あの事件」の話になるとは思わなかったよっ。

 実母サマの名前はともかく、その事件の話は自分にとって真剣なトラウマだから、マジで勘弁して欲しい。


「ちょっと待ってやって下さい! そいつは世に言う『脳筋姫の嫉妬事件』の事でやすか? だったら何で姫サンだけが悪人にされちまってるんです!?」


 ワタシが絶句した事を肯定と受け取ったらしいロベールさんが割り込む様に参入して来た。

 と言うか、何だか凄く怒ってる感じだ。

 そっか。あの事件は結構有名な話なのに、ワタシの正体を知ったロベールさんやおじ様がその事について訊く事が無かったのは、知らなかったからでは無く、気を使って黙ってくれてたって事みたいだね。


「あの事件を仕掛けたのは『情婦』の方ですよ。次期王の醜聞になる事を嫌って、姫様が独りで悪者役を引き受けたと聞いております」

「信じられねえっ。ソレが本当なら、マルシルの王宮だってクソの掃き溜めじゃねえか!」

「ああ、もうっ。その話は却下! 怒ってくれて嬉しいけど、もう終わった事なんだからさ」


 密かに深呼吸をして心を落ち着け、客観的な思考を取り戻した上で新たに会話に参入する。

 どうもこのデボラさんってヒトは事件の顛末を良く知ってるヒトの様だ。

 ブロイ家と繋がりがありそうな経歴じゃ無いから、マルシルの先王絡みかな。

 血縁上の大叔父にあたるあの元王サマは、妙な理由とは言え自分を可愛がってくれた人だし、密かに各国情報筋と繋がりが深いらしいから、あの事件についてワタシ贔屓な話をそっと流してくれててもおかしくは無い。

 でもそんな事はともかく、こうしてあの事件の真相を知っているヒトやそれを知って怒っているヒトを見ると、何だかとっても救われた様な気がする。

 もしあの頃にこんなヒトらに囲まれてたら……なんて、考えるだけ詮無い話か。


「しかしっ!」

「ロベールさん!?」

「解りやした……でも、これでアッシの中の殺すリストトップはあの王子になりやしたぜ」

「別にイイけど、それはワタシがケジメをとった後にしてよね。それにあれでも一応王太子なんだから、そのまた息子がせめて仮成人を迎えてからじゃないとマズいよ?」


 この場を押さえる為とは言え、ロベールさんには無理に黙って貰って悪いなと思ったものの、突然剣呑な話になっちゃって苦笑い。

 そんな事を言って貰えるのは勿論嬉しいけれど、殺す程では無いにしろ、こっちだってアイツからケジメを取るのは人生における課題の一つだと思ってるから、そうそう譲る気は無い。

 何しろロベールさんの言う事件とやらは、数年前に自分が一方的な冤罪を被せられたある毒殺未遂事件の事だ。

 マルシルの王太子と仮の婚約者(十二歳を過ぎないと本物の婚約者では無い)だったワタシが、彼とその愛人を嫉妬から毒殺しようとしたとされる事件で、一歩間違えれば打ち首獄門になっちゃってたヤバいお話なんだよね。

 さっきも思ったけど、ホントにちょっと思い出しただけで暴れ出したくなる様な酷い話なので、詳細は言いたく無い。

 ただ一言だけ言うなら「イケメン野郎共は敵だ!」って感じだ。ウン、それに尽きる。

 座右の銘にしてやろうかな。


「かなり昔、私は高貴な御方達と極秘である事柄に付いて共同研究に勤しんだ事がありまして、コーネリア様はそのメンバーの御一人でした。残念ながら私はかの御方の詳細は一切知らされなかったのですが、その後にベアトリス陛下を通して幾度か文のやりとりをした事があるのです。ユルリッシュ様との御結婚の話を聞いたのもその文の中でのお話です」


 世のイケメン野郎達に対する敵意を新たにしながら密かに握り拳を固めていると、場の雰囲気を戻そうとしたのか、デボラさんが実母サマの話に切り替えてくれた。

 話が逸れたせいで忘れてたけど、さっきの発言を思い出せば、この人って実母コーネリアサマを直に知ってるヒトなんだよな。

 コーネリアさんの秘密に迫れる良い機会だと思って聞いてたら、中々に初耳な話が出て来ちゃいましたよ?

 ユルリッシュ様ってのは、東聖王国で生まれた際に付けられた腹黒大将ちちうえの実名だし、此処は一発突っ込んでみるところだよね。


「そこで何でシルバニア女王の名前が出るワケ?」

「最後までお会いする事はありませんでしたが、陛下も同じメンバーでありましたので。それにコーネリア様と陛下はとても親しい間柄の御様子でした。私が姫様をシルバニアの王族と判断した主な理由はそこなのです」


 なーんてこったい!

 ワタシは思わず万歳ポーズで両手を上げた。

 実母サマがベアトリス陛下と友達だったなんて正真正銘の初耳だ。

 この話って、もしかしたら例のお墨付きから玉璽に至るまでに関わる本筋の話なんじゃないのかな。

 実母サマってホントに何者だったんだろう?

 まあシルバニアの女王陛下とお友達って時点で、その理由は相当高貴なお生まれか、もしくは彼女も例の免罪符とか言うお墨付きを持っていたかのどちらかに絞られるとは思うんだけど……。


 万歳ポーズから手を下ろして、ワタシはほぉっと溜め息を吐いた。

 とにもかくにもこのデボラさんってヒトは、今まで何も掴めなかった結婚前の(恐らく世に隠れて活躍してた)コーネリアさんを良く知る人で間違いは無い様だ。

 そんな人から彼女の話が聞けるなんて、腹黒大将ちちうえと一切黙秘に等しい妖怪じいさんを除けば初めてだし、聞ける話は細大漏らさず聞いておきたい。

 あの地下部屋に溢れ返ってた世の常識をブッ飛ばしちゃう様な研究内容から伺う限り、彼女が並みの人物じゃないのは判ってるけれど、一体どんな話が出てくるのか、マジで期待しちゃうよっ。



今宵此処の辺までで終わらせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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