169話
色々とありまして、更新が無茶苦茶な状態になっております。申し訳ありません。
さぞかしブックマークやポイントも酷い事になっているだろうなと思っていたのですが、何時の間にやらブックマークも250件を超えておりまして、ただただ感謝するだけであります。
評価やブックマークを入れて下さった方々、本当に有難う御座います。
「なーつもちーかづく、はーちじゅうはちやー」
「キュッキュ!」
可愛らしいおててのクーちゃんと手合わせ遊びは楽しいなー。
最近こう言う構い方をしてなかったせいか、クーちゃんもとっても楽しそう。
ああ、癒されるるるぅ。
「ひぃ様?」
「フンフフンフーン」
「キュキュッキュー」
あらいぐま(ラクーン)じゃなくて狸であるクーちゃんのおててにはワンコと同じ様な肉球がある。
手を合わせる度に感じる、そのふよふよとした感触が堪らない。
ニャンコ(の肉球)もイイけどワンコ(の肉球)もね! て感じだ。
いやー、肉球って本当に素晴しいですねっ。
ドゲシッ!
ホッコリした気分で癒されてると、いきなり後頭部に結構な打撃が!
真面目に痛い。
「いったいなー、ナニすんのよ!?」
涙目になりながら振り向くと、何だか鬼の形相になったレティが手刀を構えて立ってやがった。
主人の後頭部をナンだと思ってるのか、小一刻くらいは問い詰めたい!
「先ほどから声をお掛けしているのに無視なさるからです。いい加減に現実逃避は御止め頂きたいのですが?」
「色々とショックなモノを見ちゃったせいで癒しが欲しいんだよっ」
ショックなモノを見ちゃった時は思考を停止するに限る。
色々な感情が噴出しちゃうのを避けるにはそれが一番だからね。
もっとも、未だロベールさんが戻って来てない状況で、全てを放り投げてクーちゃんと遊んでたらレティじゃなくても怒るわな。
「って言うかソレ、終わったんなら収納したいんだけど?」
「ええ。もう結構ですのでお願いします」
ヤレヤレと言った感じで立ち上がると、消えて行くクーちゃんにお礼を言いながら、ワタシは死体袋に入った死神騎士の遺体を次々にストレージ腕輪に収納した。
見回せば色々と酷い有様だったホール内も、誰も見てないのを良い事にクーちゃんズに頼んでお掃除して貰ったから、今はもう綺麗サッパリ。
個別にパーツを揃え、それぞれ死体袋に入れた死体もこれで専用のストレージ腕輪に収納完了だから、もう惨劇があった事など誰にも判らないと思う。
勿論子供たちはまだ地下にいる。と言うより、新たにまだ半刻(約三十分)は出て来ないでと言って、ニャンコに見張りをさせている。
あの子達にこんなヤバい死体は見せられないし、知らないままでいられるならその方がイイからね。
「で、レティの見解はどうなの?」
「わたくしも背中に強制隷属魔法陣が刻まれている『騎士』などと言うのは初めて見ました。途轍も無い話になって参りましたね」
「正直、知りたくなかった事実だけどねぇ」
そう。問題は強制隷属魔法陣だ。
首に例のブツと同じ魔法力の流れを感知したせいで、慌てて砦建物に戻って身体の方を調べたら、そうだったんだよね。
他にも色々な魔法陣が刻まれてたけど、ソレは首下から背中に掛けてのド真ん中に位置してるからすぐに判った。
しかも四人全員が揃いも揃って、と来たもんだ。
こんな事、普通なら絶対に有り得ない。
赤級以上の魔法力を持つヤツ(騎士の最低線)ならば、隷属系魔法陣なんてデリケートなブツは本人の意思力によって必ず無効化する。
そもそも隷属系魔法陣なんて、騎士紋の様に本人が受け入れる姿勢を持ってても長持ちし難いんだから、それが強制隷属ともなれば、普通は刻む事すら難しい。
それなのに、と来れば考えられる事は唯一つ。
超絶イヤな話だけど、彼らは「意思の無い生き人形」だったってコトだ。
「やはり元凶はロベール殿にも入れられておりましたアレで御座いますか……」
「そうだね。しかもロベールさんと違って彼らの場合、もう治す云々なんて世界はとっくの昔に過ぎ去ってるんだよ」
「それはどう言う事で御座いましょうか?」
「彼らの脳は重要部分がもう大分前に死んでるみたいだからね」
「!」
後ろを向いてしゃがんだままのワタシにも、レティが絶句して口を開けた事が手に取る様に判った。
まあ、あまりといえばあんまりな話だもんな、コレ。
ワタシだってそう結論付けた時は相当なショックで、クーちゃんの癒しに逃げちゃった位なんだからさ。
でも証拠は色々と見つけちゃったし、どう考えても真実なので言わざるを得ないよな。
「人の仕業とは思えない悪夢の様なお話で御座いますね……」
ああ。何だかレティの声が怒りに震え出しちゃってるっぽい。
マジでキレる五秒前って感じだ。
コイツってばこのテの話に弱いんだよね。
キレて暴れ出すと歯止めが利かないヤツなんで勘弁して欲しいんだけど……。
そっと立ち上がって振り返ると、目だけをキラーンと光らせた無表情のレティが両手を握り締めてる姿が目に入った。
凄い力で握り締めてるせいか、両手共に血が滲み出しちゃってますよっ。
コレ相当怒ってるわ。もう激怒って感じ。ヤバいです。
「……そんなに怒っても事態は変わらないと思うよ」
サァッと血の気が引きながらも、取り敢えずはジャブを放って様子見。
「ひぃ様はお怒りになられないのですか?」
「こっちは一周回っちゃって逆に呆れ返ったよ。でもさ、おエラいさんが千人単位の人間を云々なんて話、何処にでも転がってる話じゃ無い?」
更にハハハと乾いた笑いで先制し、両手を上げて再度の降参ポーズをすると、毒気を抜かれたのかレティが苦笑を返した。
おお、助かったか?
「……確かに、そう言われてしまうとそうですね。それに彼らに対しても、妙な義侠心や同情心など僭越の過ぎる話で御座いましょう」
「まあね。でも良くこの事実が知られてなかったと思うよ」
ちょっと落ち着いて来たレティの様子に気を良くして、更に少しだけ話題を逸らしてみる。
と言っても、実際にこれは今のワタシにとっても大きな疑問の一つだ。
今回襲って来た彼らが「こう」と言う事は、他の連中、つまり西聖王国最大最強の暴力装置である親衛清廉騎士団の騎士は、かなりの割合がそうである可能性が強い。
もしそうだとしたら、そんなの西聖王国の上層部が全員絡んでる国家プロジェクトに決まってるので、関わってる人間の数も多けりゃ、戦ったヤツの数だって膨大な筈だし、何処からでも情報なんて出ちゃうと思うんだよね。
なのに片隅のそのまた隅っことは言え、一応政治事の表舞台に立ってたこのワタシが全く聞いた事の無い話なんだからさ。
「様々な理由から、死神騎士の綺麗な死体は今まで誰も手にした事が無いと言われておりますので……」
話題の矛先を向けられたレティが淡々と語りだした話を聞けば、ちょっとした事ですぐ自爆する上に、上手く殺したとしても時間経過で爆発しちゃう死神騎士の遺体なんて、敵側には全く渡った事が無いんだそうだ。
しかも親衛清廉騎士団はあらゆる情報が非公開な上に、他の部隊からも隔離されてるお陰で関係者が極端に少なく、その上隷属紋で秘密厳守を誓ってるヤツばかりなので、味方側からのリークも無いに等しいと言う事だった。
「成る程、ガッチリ守っちゃってるワケだねぇ。確かにこんなのがバレたら、西聖王国王宮は半大陸中のあらゆる騎士と魔法士から非難轟々だもんな」
「その程度では済みませんよ。恐らく半大陸中の各国家から孤立すると思われます」
「へえ、そりゃスゴい。じゃあさ、ランスにいるアルマスのオネエにこのストレージ腕輪を届けて貰える?」
イイ感じになって来たところで、ワタシは腕輪をポイッとレティに渡した。
世の中には『長い物に巻かれろ』と言う素晴しい格言がある。
しかもソレがヤバい事となったら尚更だ。
こんなモノは見なかった振りをして偉いヒトに渡しちゃうしか無い。
ワタシの知る一番偉いヒトと言えば、シルバニアの女王陛下とその直臣であるアルマスのオネエだからね。
さっさと渡しちゃって、後の始末はお任せする(丸投げとも言う)のが一番だよ!
「今直ぐ、で御座いますか?」
「善は急げって言うでしょ。アンタの言葉通りならコレは特級のネタなんだし、この中に居る騎士達の無念を晴らす為にも、ダッシュで魔法士協会に御注進し
て欲しいと思うんだけどね」
「……ひぃ様のお言葉とも思えませんが、確かに仰る通りで御座います」
ちっ、レティってば相変わらず勘の鋭いヤツだ。
こっちの密かな狙いにもう気が付きやがった臭い。
「ワタシだって義憤に燃える事はあるよ。社会正義、とかさ」
何の事かなぁーって感じでウソ臭いセリフで牽制すると、レティがワザとらしい溜め息を吐いて腕輪を腕に通した。
「マチアス殿にも伝えて援軍を送って貰う積りです。恐らく往復で丸一日は掛かりますので、くれぐれも短慮は無き様に」
「ハイハイ、判った判った。行ってらっしゃーい」
新婚カップルを南国の島に送り出す様に、有無を言わせずに手を振って見せれば、チラッとこっちの顔を見た後、レティは諦めた様な顔でそのままスパッと砦建物を出て行った。
ふう。これで厄ネタは綺麗サッパリ終了!
次は玄関のすぐ外に転がしてある、レティが捕まえて来た「捕虜その二」の素性を確認して、その後にやる事をやるだけだ。
自分にとってこの死神騎士の一件は、躊躇してた要塞攻略を一気に進める良いチャンスになったと言って良い。
基本的に人間を殺める事に躊躇のあるワタシにとって、要塞とやらの主戦力が脳ナシのお人形である事は僥倖だもんな。
もう何の憂いも無く、人を人と思わない様な本当の全力魔法戦を試せる。
幼女化後、本気の戦闘になった事は数々あれど、持てる魔法力を全開にした魔法戦闘をやった事は無い(雷撃は途中キャンセルだったしさ)から、人里離れた要塞攻略なんて、良い機会だとは思ってたのですよ。
「でもレティのヤツが気が付いたっぽいから、ダッシュでやらないとマズいだろうな」
例の極悪魔法陣を背負ったヤツは、自分が全力魔法戦闘状態に入った時にどうなっちゃうか予想がつかないので、出来うる限り、そう言う戦闘に巻き込みたく無い。
ヘタに制御が効かなくなって、そのせいで彼女達がどうにかなっちゃったら、自分で自分を許せなくなっちゃうもんな。
ロベールさんならこっちの言う事を聞いて、周辺で落ち武者狩りに勤しんでくれそうだけど、レティはド真ん中に突っ込んで来そうだから、マジで心配だったんだよね。
と言うワケで、ヤツがいない今夜が最大のチャンスだ。
今宵もこの辺りで終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。