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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
騎士達の襲撃
169/221

168話

先週末に更新が出来ませんでしたので、本日更新させて頂きました。



「敵が来たから、子供達は全員地下室へ行って扉を閉めてね」


 ワタシがそう言うと、向かいに座ってたアンジェが即座に小さな返事をして机の下を潜り、エレナちゃんを抱えて地下の牢屋部屋へ駆け降りて行った。


 ふんむ。何と言うか、こう言うところは流石の脳筋者って感じだよね。


「こう言うのを見ちゃうと、アイツって結構頼りになるとは思うんだよねぇ」

「確かにそうでやすねぇ」


 アンジェの早業に、ロベールさんと顔を見合わせて笑う。

 アイツも今の内にツバを付けといた方がイイのかも知んない。

 アリーの時も思ったけれど、年少者のクセにイザッて時に動けるヤツは結構得難い人物なんだよね。


「てめえら急げ! センパイ達の足手纏いになるぞっ」

「うわっ、ちょっと待って」

「変わり身早過ぎだよっ」


 そうこうしてる内にあっと言う間に地下に着いたらしいアンジェの怒鳴り声が聞こえて、呆けてたゴリとラーが慌てて後を追った。

 そこまで大急ぎなんて言って無いのに、何だか凄い慌て様でつい笑っちゃうわ。

 ロベールさんも苦笑してるし、ホントに愉快な奴等だよね。


「マリーさん……」


 おっと。

 可愛らしい声に振り向けば、一人残されたラウロ君が心配そうな顔でワタシの服の裾を掴んでた。

 これはヘラヘラ笑ってる場合じゃ無いですな。

 彼は子供達の中で唯一人、貴族の残酷なやり口を知ってるからね。

 御両親の事件だって護衛の騎士くらいは居た筈だし、同じ様にワタシ達もヤられちゃうかも知れないって思ったら、そりゃ怖くなって当たり前だ。


「大した事なさそうだから大丈夫だよっ。でもこっちがイイって言うまで、絶対に出て来ないでね」

「ハイッ、後武運をお祈りしてます!」


 頭をナデナデしながら「心配いらないよ」って感じに明るく言うと、ホッとした顔でラウロ君も地下へ下りてくれた。


 取り敢えずはフォロー成功と言った所かな?


 ワタシはこの襲撃、出来る限り短時間で完膚なきまでに一蹴したいと思ってる。

 クソみたいな連中のせいで世の中や大人を信じられなくなってる子供達に、そんな大人ばっかじゃ無いって事と、更にそいつらにだって力はあるんだって事を見せたいからだ。


「ニャンコは階段で子供達を守ってね」

「にゃんっ」


 階段を見て子供達が地下室へ入ったのを確認すると、ワタシは子供達の守りをニャンコに頼み、気合と共に階段扉を閉めた。

 ヨシッ、やってやるぞ。


「敵は討伐騎士級五人! ロベールさんは二時の方角に一人残ってるから、奴等の突撃直後に此処から出てそいつを捕縛して。レティは此処でワタシの迎撃補


助。あと当然ながら思考加速魔法使用可アクセルフリーねっ」


 ワタシは居住まいを正すと、ロベールさんと戻って来たレティに二面作戦の指示を出した。

 小走り程度の速さで近付いて来る五人の内、もたつき気味の一人の動きが止まったのが観えたので、ソイツは出来れば無傷で捕まえたい。

 どうやら指揮官っぽいし、要塞の内部情報とかを聞き出すにはうってつけだよね。


「たったの騎士一個小隊で御座いますか。随分と舐められましたね」

「何かの罠なんじゃないでやすか?」

「多分ここにワタシ達が居るって情報を持って無いんでしょ。ただ一応、後詰は居るものと考えといて」


 探知魔法もどきでやって来る連中の影を観ながら、敵の少なさにブツクサ言ってるレティとロベールさんに注意を入れる。

 そもそも連中はワタシ達が此処に来てから今まで、真っ当な斥候も偵察も出していない。

 それは夜間砦外に放ってるワンちゃん達だけでなく、クーちゃんにも確認済みなので間違い無い筈だ。

 だから間抜けな話だけど、向こうは古い情報を元に討伐騎士一人デボラサンをヤりに来たんだろうと思う。

 そもそもが炊事の煙を確認しての強襲なんだろうし、それなら四人も居れば普通は楽勝だもんな。


「って、アレ? 何だかワタシだけ取り残されてない?」


 そんな事を考えつつ一旦視界を戻すと、何時の間にやら二人共が皮鎧姿になっててガックリ。

 なんだかなぁ。

 こっちは作業ズボンに丸首シャツ、足も素足にサンダル履きだってのに、この差は何なんだと言いたい!

 何故だか知らないけど、二人共この早着換えのワザを中々教えてくれないんで、ワタシはもうこのままで行くしか無いんだよね。

 気が抜けると言うか何と言うか、ホント、勘弁して貰いたいわ。


「着流しで八百からのゴブリンとオークの集団を切り伏せた御方が何を仰いますか?」

「全くでやすよ。たかが五、六人相手に姫サンが一々着替える必要なんてありやせんぜっ」


 ギロッと睨むと、揃って目を逸らしやがった二人の言い訳をハイハイとあしらう。

 ちっ。二人共こう言う時に限って口が良く回るみたいだけど、だからってそんな軽口で許すと思わないで欲しいわ。

 後で絶対にそのワザは教えて貰うからね!


 しかしこっちのそんな事情も関係無く、一人を残した四つの影は森を抜けると凄まじい速さで砦に向かって来た。


「左右の大窓に一人ずつ、玄関二、来るよ!」


 しかも全員が途中から更に加速して、一息で堀と塀を跳び越えやがった。

 ちっ、これって敵は間違い無く三倍加速を使ってるわ。

 騎士卿級の連中じゃんか!


 そう思った瞬間、バンッっと言う音と共に大窓から影が突入して来た。

 即座にインベントリからデ剣を抜いて、こっちも思考加速魔法をかける。


 って、間違えた!


 一瞬握り心地がヘンだと思ったら、抜いた剣が総裁殿下に貰った黒い剣だったよっ。

 ちょっと失敗。

 でもまあイイかと思い直して、近場に来たヤツに逆撃で突っ込み、擦り抜けざまにソイツの片腕を飛ばす。

 まずは一人。


 ヒュン!


 ところがどっこい。片腕を落とされたのに、ソイツが平然と剣を振付けて来ちゃってビックリ!

 危うく躱かわし損ねる所だったわ。


「ひぃ様、コヤツらは死神騎士です! 手足を失っても平気ですし、即死させないと自爆します!」


 へっ、しにがみきしぃっ!?

 ソレって……西聖王国でも最強って言われる勇名高きアレの事ぉ?


 レティの声に意識が逸れた瞬間、突っ込んで来た反対の窓から来たヤツを膝への蹴りで凌ぐ。

 直後、そこに合わせる様に別のヤツの横殴りの剣が!


「ほぃっ」


 思いっきりエビ反ってそれを避け、一気に床を転がって間合いを取る。


 あっぶなーい!


 今の剣筋、もしその前のヤツに合わせて動きが止まってたら、ソイツごと斬られてたわっ。

 コイツらって仲間を斬る事に何の躊躇も無いのかよ!?


「ちっ、シャレになんないっ」


 片手を失ったヤツが再度斬り掛かって来るのをギリギリでかわし、一瞬反対にいたヤツの盾にすると、ワタシは振り向きざまに背後から来たヤツの側


頭部に斬り付けた。


 すると「キンッ」と言う軽い音と共に防具ごと頭の半分が斬り飛んじゃって、あまりの手応えの無さに驚く。

 頭頂部に軽兜が付いた鎖頭巾に、口元だけが出てるお面の様なフェイスガード、そんな装備ごと斬ったのにコレってなんなの!?


「ちょっ、凄すぎっ……」


 一瞬真剣にこの剣で色々試したくなる気持ちをググッと堪える。

 どうでもイイ奴相手ならともかく、今は複数の騎士卿級相手にガチで戦ってる最中だ。

 子供達の為に一蹴するって狙いもあるし、ここは我慢のしどころだよねっ。


 心の欲求を必死に殺しながら体を入れ替え、すでに死体になってよろけたヤツに背後から肘をぶち込み、片手無し野郎にブチ当てる。


「ぐおっ」


 死体野郎の特攻を食らって上手く踏み込めず、たたらを踏みそうになった片手無し野郎に笑いながら突きでフェイント。

 そして見事に引っ掛かったソイツの剣を掻い潜り、刹那の隙間を狙ってその頚部を狙う。


 スパッ。


 うわっ、ナンだよこの素振り感覚!

 もはや手応えもクソも無く、ネックガードっぽいブツごと剣が首をスルッと通り抜けちゃった感触にもう呆然。

 勢い余ってたたらを踏みそうになるところを何とかギリギリで返り血を避けて間合いを取った。


 おお、ちょっと危なかったわ。


 しかし、取り敢えずこっちに掛かって来てるヤツは残り一人だ。


 体当たり気味の突きワザを脊髄反射の速度で繰り出した縮地ワザで逃げ切り、ソイツの背後に回り込んで瞬き半分。

 一瞬こっちを見失ってキョドったソイツの首を斜め後ろから斬り飛ばす!


「ふうっ」


 一撃で首元から上が無くなった最後のヤツを一瞥して息を吐く。

 残身の中で探知魔法もどきを観れば、残り一人はレティと建物の外でやり合ってるようで、思った通りホール内にもう敵は居なかった。

 これで一応一息吐ける。


「しかし剣が切れ過ぎて困るってのも、アレな話だよなぁ」


 今の立ち回りを思い出しながら残身を解く。

 ホント、この剣って白剣に匹敵するトンデモ級の切れ味だわ。

 二人目のヤツを斬った時なんて、余りの抵抗の無さに返って危うくなる所だったしさ。

 しかも初めて使ったってのに、何時の間にか刀身にパチパチと雷気が纏わり付いてるし、コレってもしかしたら雷光剣に特化したブツなんじゃないの?


「もしかもクソも無いか」


 ワタシが魔法剣化したワケでも無いのに雷気が纏わり付くって事は、もうソレしか考えられない。

 今の所、これが製作時からの仕込みなのか、はたまた雷光剣の使い手が使い込んだせいなのかは判らないけど、どちらにしろこの剣が雷光剣の剣技に「慣れてる」事は決定だ。

 それはつまり、この剣を使ってた総裁殿下は同門の使い手だって事になるし、となれば、ワタシのムチャ振りワザと同系列で上位互換モノクサい、例の雷公剣とやらを使うと考えるのが自然だよね。

 そりゃ絶対に勝ち目無いわ。


 ガチで戦わなくって、ホントに良かった!


「にぃやぁぁぁん」


 むっ?


 改めて総裁殿下の恐ろしさにブルッてると、地下階段の扉を少し開けてこっちを覗き込んでるニャンコが何か言って来た。


 ヤバいヤバい、忘れるところだったよっ。


 レティの言う通りなら、コイツらは全員爆弾抱えた特攻野郎だ。

 しかもそう言う仕掛けって、例え自爆に失敗しても一定時間後に勝手に爆発したりするから始末に終えない。

 早い内に処理をしないとマズいよね。


「ニャンコ、ありがとうっ」


 ニャンコにお礼を言ってから、速攻で間近な死体に近寄る。

 仰向けに転がってるソイツの革鎧の中で、そこだけ違和感のある鳩尾部分を外すと、中から甘イモ(さつまいも)くらいの大きさで妙な網目模様が掘り込まれた金属製の筒が出て来た。

 取り外して見れば鎧側には着火用の魔法陣があるし、これがレティの言う爆弾で間違い無いだろう。

 肉体や装備を爆散させる事が主目的っぽいけど、この大きさで中身が黒色火薬じゃ無いのなら、その殺傷能力は周囲に対して相当な脅威になる。

 網目模様の切れ込みも爆発時に破片として飛び散らす為だろうから、もし近くに居れば怪我じゃ済まない。


 剣呑な仕掛けにウンザリしながらも、ホイホイッと他の二人からも同様に爆弾を取り外し、ストレージもどきに放り込む。

 この手のブツは色々な都合上、点火システムは鎧側にある筈(一緒だったら輸送もおちおち出来ないしね)だから、取り外しちゃえばもう終わりだ。


「ふう」


 色々終わってホッと一息。

 ワタシは探知魔法もどきで戦況を観つつ、血で汚れていない所に座り込んだ。


「しかし死神騎士団かぁ……」


 他国からそう呼ばれて揶揄されるコイツらは、腐れた西聖王国の騎士団では「唯一マトモ」と言われる連中で、その鉄の規律と自己犠牲溢れる戦いぶりは幾つもの物語になってるほど有名だ。

 本当は親衛清廉騎士団とかそんな名前で、確か連合王国や聖王都守護騎士団への切り札として北方方面軍所属だったと思ったのに、何でこんな所に居たのかな。

 しかも四人全員が三倍の思考加速魔法を使うなんて、余程の腕利き部隊だと思うんだけど……。


「申し訳ありませんひぃ様。連中が使う思考加速魔法の持続時間を計る為、ちょっと時間が掛かりました」


 ちょっと呆けた感じで探知魔法もどきを観ながら考え込んでると、レティのヤツが漸く首の無いヤツを引きずりながら玄関に入って来た。


「アンタってさ、本当に転んでもタダでは起きないヤツだよねっ」

「強者には常に多対一で来る連中と対一でヤれる数少ない機会で御座いましたので」


『戦闘中に個人の趣味とか実験を優先にするなよな!』

 って言うこっちの嫌味も何のその、シレッとした顔で答えるレティに半ば呆れて両手を放り投げる。

 ワタシだって色々やりたいところを我慢したのに、自分だけソレって、ちょっとズルいんじゃないの?

 とは言え、コイツがこう言う事をする時はちゃんとした理由があって、それも大抵グロ系の話になるから迂闊に突っ込めない。

 ヘタに追求すると、聞くだけで頭痛がする様なエグい理由を淡々と開陳して来やがるんで、色々とコワいのですよ。

 こんな状況でそんな話をされたら、マジで気分が悪くなっちゃう。


「ちょっと待って」


 フフンと涼しい顔のレティに悔しさを覚えて悶えてると、探知魔法もどきに一つの影が映って来た。

 ソイツの狙いは既に捕縛が終わって動きが止まってるロベールさんの様で、ゆっくりと近付いて行く様子がいやらしい。

 こりゃ連絡役か見張り役が捕虜の口封じにでも来たっぽいな。


「新手が一人来たみたい。ちょっとロベールさんに助勢して来てくれる?」

「一人、ですか? まあ了解しました」


 ちっ。アイツってばホントに何時も一言多いんだよな。


 溜め息を吐きながら、それでも即座に飛んで行ったレティの影を探知魔法もどきで確認して、ワタシも後を追うように砦建物の外へ出た。


 理由は勿論、レティが引き摺って来た首無しなヤツの首を捜す為だね。

 見た所、もうお腹の爆弾は無くなってたし、弔いの為に首くらいは揃えて最低限の礼儀は尽くしてあげたい。

 何しろ彼らは「絶対に私利私欲では動かない」と言われる程、高潔で鳴らす騎士サマ達だ。

 幾ら命令を出す上が腐ってても、本当の屑と同じ対応をしたら後味が悪い。


 そんな思いを胸に、外へ出て塀に囲まれた敷地内をサラッと見渡すと、お目当てのモノはすぐ見つかった。

 ウン。やっぱりちゃんとしたヒトは死んじゃっても違うわ。

 こう言うのって、日頃の行いとかそう言うのが出るんだろうなぁ。


 とっとことーと近寄って、インベントリから出した手袋を付け、更に汚れ避けに医療系魔法術式を掛けながら両手でソレを拾う。

 流石に礼儀云々の話なので、素手はパスだ。


「えっ!?」


 ところがそれを拾った直後、魔法を行使してたせいか、その首筋から既知のヤバい魔法術式を感知しちゃってビックリ!

 危うく首を取り落としそうになって、アセりながらも再度確認。

 でもやっぱり間違いが無い。


「コレ、例のロベールさんが掛けられてた術式じゃんか……」 



本日もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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