164話
久しぶりに火曜日に投稿してみました。
「マリーさんっ」
アンジェの失態を指差して笑ってると、残りの二人がやって来て何やら話し掛けて来た。
影が薄いせいなのか、はたまたフツメンであるせいか、どうもイマイチこの二人の名前って覚えられないんだよね。
ゴリとラーだっけ?
「ボクがエリオで、あっちがレーモです」
おっと。
さすがに今更名前も訊き直せないよなーと思ってたら、それが顔に出たのか、片割れがさっさと名乗ってくれたので助かった。
しかし何の話でしょうか。
やっぱ使い魔に関する事とかかな?
まあどんな質問でも、このマリーお姉さんが答えてあげますよー。
余裕な笑みを浮かべつつ、ワタシは相手の次の言葉を待った。
「アイツ、馬鹿で脳筋だけど一応女の子なんで、あんまり弄らないでやってくれると嬉しいんですけど……」
な、なにゅうん!?
エリオ君とやらが何やら恥ずかしげな様子で口に出した言葉を聞いて、ワタシのお姉さんぶった余裕の笑みは一瞬で崩れ去った。
こっちは学院で嫌々ながらも散々恋愛相談に乗せられて来たクチだ。
こんな状態の男子が何を言いたいのかなんて、一々訊き直さなくても判る。
要は「僕達のアンジェを苛めないで下さい」って事だよ!
こ、コイツら、ワタシの設定年齢より更に一つ年下だってのに、まさかこんな激ヤバシチュの中でも青春とかしちゃってるんじゃないよね?
探る様に訝しげな目で睨みをくれてやると、ちょっとテレた様な顔で二人が揃って目を逸らした。
うわっ、間違いないわ、コレ。
アンジェのヤツ、二人の騎士が一人のお姫様を巡ってとか、そんな超絶上等状態でリアルが充実してらっしゃったのか……。
「はぁ」
ガックリ。
なんか戦いに勝って勝負に負けたって気分だ。
考えて見れば、アンジェだって十人並みの容姿とは言え、決して不細工な部類じゃ無い。
それどころか、小マシな恰好でもして言葉に気をつければ、イイ線行っちゃってもおかしくない素材なんだよね。
脳筋バカヤロ様少女だと思って舐めてたわ。
ちちち、ちっくしょうっ。彼氏いない暦=年齢のワタシに謝れぇ!
心の中で魂の叫びを上げつつ、「そうなんだ。あの娘も大変だね」と意味深な言葉を返してカウンターを入れると、ワタシは素直に赤面した二人を置いてササッと距離を取った。
あーあ。なんか凄まじく置いてかれちゃった気分。
「にゃにゃん」
何時の間にか背後に居て、ドンマイって感じでポンッと前足で肩を叩く猫さんに振り返って抱き付く。
猫さぁーんっ。
ヨヨヨッと泣きつくと、猫さんはヨシヨシと頭を撫でてくれた。
ああ、癒される……。
ホント、この猫さんってばなんて良いコなんだろう。
もうこのコが精霊獣だろうと何だろうとどうでもイイや。
だってこの一連の反応で、このコが「ワタシだけの味方」だって事はハッキリしたんだし、それならもうそれでイイもんね。
むっちゃ可愛いし、強そうだし、猫モフ感も堪んないし、一石三鳥だっ。
「それで猫さん、改めてお願いがあるんだけど」
猫さんが軽く威圧を掛けてくれたせいか、青春しちゃってる年少男子コンビが砦建物の中に走り去って行くのをチラ見して、ワタシは気持ちを切り替えた。
理由は不明なれど、こんな猫さんをゲットしちゃった以上は、やってみたい事がある。
何しろこのコってば、妙に手頃な大きさなんだもんな。
何が手頃かって? それは勿論乗るのに手頃な大きさって事ですよ!
「乗ってもイイ?」
「にゃんっ」
「にゃーに?」って顔した猫さんにズバリ一言で訊いてみれば、彼(彼女?)は即答でOKしてくれて、その場で伏せてくれた。
喜び勇んで跨ってみると、鞍がついてるワケでも無いのに、凄くフィットしちゃって驚く。
しかも猫さんがトテトテと歩き出しても、何だか得体の知れない猫魔法でスパッと身体が固定されちゃって、別次元の乗り心地だ。
鞍も鐙も手綱も無いのに抜群の安定感ですよっ。
って言うか、空気のクッションにでも跨ってる感じで、お尻や内股の実感も無ければ身体も振られないので、何かに乗っていると言う感覚すら薄い……。
「マジかよ……」
あまりの素晴しさに溜め息。
動物に嫌われ捲くるワタシは馬になんて乗った事は無いけれど、例えそれが人が乗る事に特化した馬であっても、乗るのはとっても大変で労力の要る作業だと聞くから、コレって反則どころの騒ぎじゃ無いよね。
「これって、猫さんの魔法なの?」
「にゃふっ」
思わず声に出して訊くと「当然」って感じで答える猫さんが頼もしい。
こうなったらトコトン行ってみますか!
「猫さん、あの塀を跳び越えられる?」
あまりの素晴しさに調子に乗って訊いてみれば、猫さんはコクッと肯いて、そのままヒラリと塀を跳び越えて外に出てくれた。
「すっごーい!」
感激のあまり絶叫!
だって猫さんは訊いた直後に、ワタシを乗せたまま高さ十二フィート(約3.8m)はあるコンクリ塀に一瞬飛び乗ったと思ったら、そのままホイッと外に出ちゃったんですよ?
その上得体の知れない猫魔法のお陰か、乗ってるこっちには反動も衝撃も全く無い。ちょっと揺らされた程度だ。
これで驚かないヤツがいたら見てみたいわっ。
「にゃにゃぁーんっ」
得意げな鳴き声と共に、猫さんはそのままタッタカターと走り出した。
素晴しいスピードであっと言う間に森の中に突入すると、木々の間を行く事を物ともせずに突っ走る。
一瞬焦っちゃったけど、こんな普通なら超絶シェイクされちゃう様な状況でも、フェリクスおっさんの自走指揮車が泣いて謝っちゃう様な抜群の安定感は変わらない。
まるで夢の中で風景だけが過ぎ去って行く様な感覚だ。
超楽しい!
「おっと」
しかし楽しい事はそう何時までも続かない。
森に入ったせいか、反射的に意識を寄せた探知魔法もどきに一頭のオークが映ってゲンナリ。
おそらくはぐれオークだろうと思うけど、ツいてないわ。
「しょうがないなぁ」
一言呟いて、仕方無くインベントリからデ剣を出して戦闘準備に入る。
まあオークの一頭くらいは鎧袖一触だし、子供達へのお土産って考えれば儲けモノかも知れん。
「にぃゃん」
と思ったら、任せろって感じで猫さんが鳴いて驚く。
ソレって一体どう言う事なんだろ?
猫さんが強いだろう事は判るけど、ワタシを乗せてるハンディがあっても戦えちゃったりするのかな。
そうこうしてる内に、あっと言う間にそのオークが視界に入って、向こうもこっちに向かって突撃して来た。
「まあイイか。任せるよっ」
猫さんに意思表示を返して様子見。
最悪ぶつかっちゃったら、その瞬間に跳び去ればイイし、猫さんの実力ってヤツを見るのにも良いチャンスだもんな。
見れば「ブモーッ」と威嚇しながら突っ込んで来るオークに、猫さんは全く気にする様子も無く走り続けてて、超余裕って感じだ。
さて、どうなるのかな?
「にゃん」
ズドドドーン!
お互いが正面衝突するかと思った瞬間、フッと体をずらした猫さんが片方の前足を軽く払っただけでオークがフッ飛び、大木に突っ込んだ。
驚きながらもオークを見れば、首が明後日の方を向いてるし、モロにお亡くなりになってらっしゃる。
ぬうっ、これはちょっと凄いわ。
「にゃにゃぁーん!」
得意げな感じで一声鳴いて止まった猫さんから降りると、ワタシはオークに近寄って血抜きの魔法陣を想写しながら、ううーんと唸った。
今のワザは一々検証とかするまでも無く魔法技だ。
ワタシがやった樹蹴りワザと同種の技だと思うけど、狙いどころと言い、絶妙なタイミングと言い、まるで歴戦の猛者だわ。
「凄いねー」
「勝利の踊り!」って感じで二本足で立って飛び跳ねてる猫さんを褒めながら、ワタシは頼もしい仲間が更に一人(?)増えた事にニンマリとした。
今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。