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162話


 丁度奥から姿を見せたレティに三人組への対処をブン投げ、後からやって来たロベールさんと風呂場周りの設備補修に勤しむ事約二時間。

 扉関係から例の木窓まで、ドンドンと造り上げて行っちゃうロベールさんにそっち関係を任せられたので、ワタシは明日やる積りだった件のボイラーからの配管新設に専念する事が出来た。

 これでアレな魔法に頼らずとも、何時でも誰でも風呂場でお湯が出せる。

 嬉しい誤算だ。


「姫サン、夜はどうしやす? 基本的にアッシとアネさんが交代で哨戒する積りですが……」


 魔法力補助の為に精製魔石を設置したボイラーからお湯を流すテストが成功して、喜びの踊りを踊りそうになってると、ロベールさんが夜間の体制を訊いて来た。


「何時でも起きられる様にしておけばそれでイイよ。前にも話したと思うけど、ワタシは魔物圏で生きて行く事だって考えてたんだから、西聖王国の兵隊なんて相手にもならないしさ」

「そうは言いやすが、あんまりナメるのもヤバいですぜ?」


 御機嫌状態で笑いながら答えたのがマズかったのか、渋い顔になったロベールさんに訝しげな目で見られちゃって、ちょっと反省。

 まー言いたい事は判るけどね。

 幾ら西聖王国のヘタレ軍隊だって、強い連中は幾らでもいる。

 しかもそれを非正規活動に限定すれば、その手の軍人や乱破連中のヤバさには定評があるくらいだもんな。


 でも、ソレはあくまでも普通のヤツ相手の話だ。


「これから対抗手段を出すから見てれば判るよ。勿論レティは当然知ってるから」


 ワタシはしょうがないなーって顔で答えると、渋い顔のままなロベールさんを促して、作業が完全終了した風呂場から出た。

 階段を上がって外扉を開けると、外は夏もそろそろ本番になって来たせいか、もう夕方だってのに未だ明るい。

 それでも夕暮れが近い山中は、ほのかに涼しい空気が漂って来てて、聞こえる虫の音も相俟ってのどかな雰囲気だ。

 ウン。こう言う日には食後に冷えた白ワインでも飲みながら、まったりと過ごしたいですな。


「で、どんな対抗手段なんでやすか?」


 ぬにゅう。

 こっちがノンビリとした雰囲気に浸ってるのに、命が掛かってるせいか、待ちきれないって感じで急かして来るロベールさんがちょっとウザいです。

 敵が大きい時は、返って泰然として待つくらいの余裕が必要だと思うんだけどねぇ。


「ぶっちゃけて言えば使い魔だよ」


 心の中で溜め息を吐きつつ気持ちを切り替え、さっさと玄関前に移動したワタシは、地面に馴染みの魔法陣を想写して魔法を励起した。


「成る程。姫サンの使い魔って事は、かなり強力なヤツと考えてイイんでやすよね?」

「そうだね。って言うか、魔物相手ならともかく、対人なら強者の域と言ってイイと思うよ」


 これから見せてあげるって言ってるのに、前段階な内にしつこく訊いて来るロベールさんに遂に苦笑いが出ちゃう。

 このヒトってこんな性格だったっけ?

 って、ああそうか。

 子供達が居るからか。


「子供達を守らせるのにも打ってつけのコだからさ」


 振り向いて言うと、ちょっとキョドった感じになったロベールさんが可笑しい。

 やっぱビンゴか。

 子供達を守らなきゃいけないと気合を入れてるんなら、使い魔なんて謎なブツに頼るのは心許無いもんね。


 何故ならこの使い魔ってヤツ、一度生み出しちゃえば後は召喚魔法と呼ばれる魔法で簡単に呼び出せるモノの、その生み出す工程が超ムズなせいで、術者の数だけ種類が居て、強さにも雲泥の差があるって言われる程にあやふやなモノだからだ。


 だってそもそも形の無い低級な魔法生物に形を与える以上、基本的な工程が術者のイメージ力と魔法力頼みになっちゃうから、大抵はバカみたいな試行錯誤を繰り返さないと、実用に耐えるレベルのヤツを生み出す事すら難しいのですよ。

 しかもその際に使う専用魔法には超高価な媒体が必須って言うオマケまで付くと来た。

 お陰で実際の戦闘に使える使い魔を持ってる魔法士なんて、全体のほんの一握りに過ぎないと言われる。

 結構真っ当な魔法士でもあるロベールさんなら、その辺りの事情ってヤツを良く知ってる筈だもんな。


 だがしかし、このワタシに限って使えないヤツを自らの防衛になんて使うワケが無い!


 ニヤニヤ笑いを浮かべながら、魔法を起動して待つ事しばし。

 魔法陣が黒い穴になったと思った直後、ソレは中から勢い良く飛び出して来た。


「ガフガフッ!」


 おー、ヨシヨシッ。


 出て来た直後から毛の薄い尻尾をピコピコと振り、垂れ耳を振り乱しながらスリスリして甘えて来るこのコは、鼻からお尻までの大きさが五フィート半(約167cm)近い、デカくて凶悪なお顔をしたまっ黒いワンコだ。

 名前は何の捻りもない「ワンちゃん」である。

 随分昔にこのコの身体を作成した時、出て来た瞬間に感極まって「ワンちゃん!」ってつい声を上げたら、ソレが「主人がつけた名」だと認識されちゃったと言う悲劇がその名の由来だ。

 後で凄ーく後悔したけど、後の祭りだったんだよなぁ。


「ガフガフガフゥ!」


 名前の件はともかく、久しぶりに会ったせいか可愛らしさが増した気がして思わずナデナデすると、嬉しそうにペロペロと顔を舐め回してお返しをしてくれるワンちゃんはとっても可愛い。

 相変わらず愛いヤツよ!


「こ、コイツはまた、エラく迫力満点な使い魔でやすね……」


 ワンちゃんの迫力にちょっと後ずさったロベールさんに「でしょー?」と思いながらフフッと笑う。

 何しろこのコは持ってる魔法力だけでもそこらの使い魔とは比較にならないトンデモさんなので、それが判定出来そうなロベールさんなら、そう言うリアクションも当然って所だもんね。


「あれが使い魔ってヤツか」「おっかねえ」「流石はセンパイだぜっ」


 ふとした声に振り向けば、玄関扉の隙間からこっちを覗いてた三人組が何か勝手な感想を言い合ってた。

 むう。アンジェのヤツ、ここでもセンパイ呼ばわりってコトは、将来魔法騎士でも目指す積りなのかね?

 ラウロ君くらいの魔法力があるならまだしも、アンジェ程度だとシャレになんない苦行を何年も積まないとムリだと思うけどなぁ。


「迫力だけじゃなくて実際に強いよっ。魔物相手じゃオークでも対一は難しいけど、そもそも群れで動くコ達だし、五頭も居れば討伐騎士の相手だって出来ちゃうからね!」


 取り敢えず三人組は無視して、ロベールさんに答えながらも久しぶりの短毛の感触を味わう為にワンちゃんをモフる事に専念。

 ああこの短い毛の肌触りって、ホントに素晴しいですね!


「そんなお話でやすと、まさかコイツは高位魔法生物で、撃たれようが斬られようが姫サンの魔法力を糧にして再生するってんじゃ……」


 おお、流石はロベールさん!

 こりゃ叶わんって態度で分析するロベールさんに、ウンウンと肯きながらグッジョブサインを出して応える。


「言っとくけど、知っての通り魔法士相手には弱いよ? 火や乾燥に弱いからね」


 でも判っちゃいるだろうけど念の為ってヤツで、注意事項も口にして様子見。

 実際ロベールさんの言う通りなので、素人目には一見無敵の様に見えると思うこのコも、基本的には数多ある土系の魔法生物でしか無いから、ホントは熱や乾燥に弱いんだよね。

 つまり魔法士なら火系や熱系の魔法で押せるし、物理攻撃でも剣に熱系の魔法を伴わせてやれば十分に対抗出来ちゃうの。

 幾ら使い魔にしては大きな魔法力を持ってると言っても、盲信しちゃうのは禁物ってコトですな。


「確かにそうでやすが、そいつは魔法士の魔法がコイツが持たされてる魔法力を上回れば、って話でやすぜ。師級のヤツでもなきゃムリな相談でやすね」


 降参ポーズで話すロベールさんのセリフに「解ってるなぁ」って意味も込めて、肯きながらケラケラと笑った。

 魔法知識がこうポンポンと出て来る様な、如何にも魔法士同士っぽい会話なんて久しぶりだからとても楽しい。

 思えばサラと離れてからこっち、魔法関係で突っ込んだ話をしたのはアリーとマチアスおじ様くらいだったから、こう言う会話に飢えてるんだよね。

 ここは時間があまり無い場面だから仕方ないけど、後でロベールさんとこのコ絡みの魔法談義で盛り上がるのもイイかも知れないわ。


「ロベールさんにこのコの事が判って貰って良かったよ。そこでさっきの話なんだけど、このコ達を二十匹出すから、十匹ずつ敷地の中と外で頑張って貰うって事でどうかな?」

「こいつ等を二十でやすか!? イヤー、そりゃ恐れ入りやした!」


 驚きのあまりお手上げなポーズになったロベールさんに更なる笑いで応え、ワタシは久々の短毛モフモフを堪能したワンちゃんから手を離して、続く魔法の行使に入った。

 次々と魔法陣から飛び出して来たワンちゃん達が、最初のコを先頭にお行儀良く二列で並んで行くのを見てニッコリ。

 このコ達はワンちゃんの分身だから基本的にクーちゃんズと同じなので、何匹に増えても対応がラクでイイ。

 一匹を撫でるだけでみんな幸せになってくれるし、同様に一匹に指示を出せばみんなにそれが伝わるんだもんね。


「これ程の戦力があるんなら、姫サンの言う通り、夜の事は考え直さないといけやせんね。ちょっとアネさんと話して来やす」


 そんなワンちゃんズをニコニコしながら見てると、ロベールさんが安心した顔でそう言って、砦建物の中に入って行った。

 ウンウン。

 判って貰えるとこっちも嬉しいよ。

 見れば既に二十匹が出揃っちゃってるし、こっちもワンちゃんズに指示を出して一息入れようかな。

 そんな風に思って、用済みの魔法陣を消そうとした時だった。

 突然何か大きなものが魔法陣から「シュポンッ」って音と共に飛び出してビックリ!

 アレ? と思って目を見開けば、出て来たのはとても大きな黒い猫(?)だった。

 しかも何故か即座に目の前にやって来て、スリスリと擦り寄ってくるから二度ビックリって感じですよっ。


「にゃぁーん」


 ぬうっ。なんでしょね、このコは?


 猫としか言い様の無い鳴き声はとっても可愛いんだけど、鼻の先からお尻までで軽く十フィート(約3m)はあるだろう真っ黒な巨体はトラやライオンだって謝っちゃうほど大きい。更にほぼ規格外なワンちゃん達と比べても段違いに強大な魔法力も持ってるから、その威容は正に強者の貫禄だ。


 こんなコは呼んだ覚えが無いどころか、全くの初対面なんですけど、どう言う事なのでしょうか?



本日もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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