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160話

済みません。私事で色々とあったせいで遅れました。



「うりゃあっ」


 最早元が何だか判らなくなってる扉と思しき物体を気合と共に蹴り飛ばすと、その先は思った通りに自然洞窟の様な空間だった。

 ボロボロに腐った窓の隙間から外の光が見え、やっと目的の風呂場に辿り着いた事を確認してホッとする。

 ホント、デボラさんとやらには会ったら先ずワンパン入れないと気が済まないわ。


 だって此処まで来るのって本当に大変だったんだよね。


 まず玄関口とは別に建物の外に有るらしい風呂場への出入口を探したら、そこがコンクリで塗り固められちゃってた上に、やたらと御丁寧な仕事のせいで、普通のやり方じゃ突破するのに凄く時間が掛かったのですよ。

 それだけでもムッとしたのに、それを突破したら突破したで、地下への階段スペース全体が虫だのナンだのの楽園状態になっちゃってたから、更にエラい目に会うと言うオマケ付!

 一瞬、泣いて逃げちゃおうかと真剣に思った位の極悪トラップでした、エエ。


「ふんっ」


 虫除けの魔法なんて全く利かないレベルで大量の虫どもがたかって来るのを、此処まで来たのと同じ様に風系魔法で振り払いながら、気合を入れて洞窟(風呂場)の中に踏み込むと、ワタシは入り口から此処までの全域に渡って灼熱地獄の魔法陣を想写した。

 何だかんだ言ってもこの砦は他人(西聖王国の王サマ)の持ち物なので、此処のお片づけも出来るだけ穏便なやり方を考えてたけど、こうなったらもうヤメヤメ。

 派手だろうがナンだろうが、殲滅あるのみだ。


「おらぁぁぁ!」


 すぐ側に居る半透明のクーちゃんとピーちゃんに目配せをして了解を取り、魔法力をブチ込んで魔法を励起。掛け声も勇ましく、ストレス解消も兼ねて灼熱地獄の魔法をドカンと発動すると、風呂場から表の出入り口までの全域が一気に高温状態になって、わんさか飛び交ってたウザい羽虫共が一斉に燃え上がった。

 ワタシにたかってた連中も、あっと言う間に火の粉状態ですよ。


 そして周囲をクルッと見渡し、高熱に晒された辺り一帯の可燃物が燃え始めたのを確認してから、更に風系魔法で空気の流れも生み出してやれば、此処はもはや地獄の一丁目。何とも言えない音が響き渡って素晴しい勢いで周辺が燃え盛り、ありとあらゆる生物が死滅して行く中、腰に手を当てて高笑いで笑う。


「ハァッ、ハッハッハッ! ざまあ見ろ!」


 あー、スッキリ!


 ってまあ、幾ら地精であるクーちゃんの支援(建造物維持のお願い)があるからって、何時までもこんなのやってたら建物が崩壊しちゃうので、一頻ひとしきり笑ってストレスが解消したワタシは灼熱地獄の魔法を終了し、今度はちょっとアレな風系魔法を駆使して冷却に入った。

 ブオォォォって音と共に入り口から窓へ風が吹きぬける中、強力な風系魔法のせいで即座に実体化したピーちゃんを肩に乗せ、ナデナデしながら待つ事しばし。急速な冷却は色々とヤバいから、ここは仕方が無いところだ。ついでにその間にクーちゃんにも実体化して貰う。

 何故かニコニコして張り切ってるクーちゃんの頭もナデナデし、両手に花状態を暫く堪能すると、漸く煙が消えた室内を睨みつけて改めて気合を入れる。

 何しろここからが本番だからね。幼女化後初の精霊魔法もどき奥義の発動その一だ!


「クーちゃん、お掃除お願いね!」


 超必殺(別に殺さないけど)呪文を唱えると、キュッて鳴いて片手を挙げたクーちゃんがババッと分裂して、外の出入口辺りから中の風呂場まで一気に散った。

 前は二、三匹がせいぜいだったけど、流石は今のワタシって感じで五倍は軽くイッちゃったクーちゃんズを見れば、一匹一匹がそれぞれにまるまるまるぅっと、フン転がしの如く汚れの玉を作って行って、凄い勢いで辺り一面が綺麗になって行く。

 勿論天井だろうが壁だろうが、彼らに重力なんてモノは関係無いから縦横無尽の御活躍だ。

 しかもクーちゃんが通った後は石やコンクリの地肌のみって形になるだけで無く、補修までやってくれるから正に全自動! 丸っきり新品同様ですよっ。

 ちなみこの間、ワタシは基本腕組みして突っ立ってるダケの監督サンだ。

 改めた気合はなんだったんだよって感じだけど、コレって結構マジな精霊魔法もどきの発動で、ぶっちゃけクーちゃんをある意味で野放しにする魔法だからコントロールが大変なんだよね。

 なんたって放っとくと、クーちゃんのサービス精神がむやみやたらと発揮されちゃって、石壁が顔が映る程にツヤツヤになっちゃったり、ヘタすると別の材質に変化しちゃったりするくらいのヤバいワザなんで、気が抜けないのですよ。


 だから決して他人ヒト任せでサボッてるってワケじゃ無いよ?


 なんて思ってる内に幾つもの黒い丸石みたいな汚れの固まりを残し、次々と役目の終わったクーちゃんズが消えて行くと、あっと言う間に綺麗に成っちゃったお風呂場エリアを見渡して、ワタシは最後に残った一匹のクーちゃんにお礼を言ってナデナデした。


 いやあ、精霊魔法もどきって本当に便利ですね!


 っと、こんな段階で一息吐いてる場合じゃないわ。

 まだまだ先があるんだから、さっさとやらなくては。

 色々と気持ち良かったせいか、つい気が緩みそうになるのをグッと堪え、窓枠すら無くなって唯の四角い穴になっちゃった窓から黒玉をホイホイと表に投げ捨てる傍ら、浴槽に集水の魔法陣を想写して、今度はピーちゃんの力を借りたその二の発動に備える。


「次はピーちゃんお願いね」


 準備が完了してお願いすると、ピーちゃんが「ピピッ」と元気なお返事をしてくれて、直後に入り口から窓にかけての空気の流れが爆発的に加速した。

 ブボォォォッ! ってすんごい音と共に、さっきまでの風の勢いを遥かに超える強風が吹き抜け、周囲は一転して風嵐の真っ只中だ。

 おお凄いっ。浴槽に強烈な勢いで水が溜まって行ってますよ!


「むう。相変わらず凄い魔法だよな、コレ」


 自分でやっておきながら、思わず独り言も出ちゃうってモンだわ。

 何しろ集水の魔法ってヤツは空気から水分を抜く魔法だから、それだけだとバケツ一杯の水を作るのも結構大変なので、それなりの量の水を集めるには、同時に強力な風系魔法を行使して大気をドンドン循環させないといけない。

 でもこんな地下室では、普通の魔法じゃそんなの超ムズだ。

 詳しい説明はメンドいからパスだけど、魔法学の常識では「魔法のみで直接的に物体を動かす事は極めて難しい」とされるからだね。

(例えば前にシュペングラーさんがやった土系攻撃魔法なら起動時に爆薬とかを使ってる筈だと思う)

 つまりこんな地下室内で空気の循環を作ろうと思ったら、温度を弄ったりして三つの窓穴から空気を逃がす事で気圧差を作り、徐々にその勢いを上げて行くくらいしか出来無いのが通常の魔法の限界って事なのですよ。

 そこで精霊魔法もどきの御登場ってワケ。

 さっきからワタシがやってる風系魔法は正にソレで、そこに更なる援軍を呼んだって感じですな。

 つまりワタシとそれに協力しているピーちゃんは、精霊魔法(片方はもどきだけど)を使えばある程とは言え度直接大気を動かす事が出来るので、こうやって二人が同時にソレを行使すれば、こんな常識外れな事が出来る。

 あまりに常識外れだから色々とヤバいので、そうそう他人ひとサマには見せられない魔法であるものの、こんな便利なやり方があるんだから使わない手は無いよねっ。

 凄まじい暴風が吹きぬける中、見る見る内に浴槽に溜まって行く大量の水を見ながらニンマリ。

 ボイラー室からの配管を新設するのはメンドいので明日に回しちゃったから、今日はコレで水を溜めないとお風呂に入れないんで、上手く行かなかったらどうしようかと思ってたけど、こんなに簡単にイケるとは思ってなかったわ。


「あっ!」


 そう言えば今思い出したけど、さっきクーちゃんにやって貰った「お掃除」って、フェリクスおっさんがやってた煙り芸に似てるじゃんか。

 だって吐いた煙なら、その本体である煙の粒子は既に動いてるワケなので、一つ一つに作用する様な魔法を使ってそれらの動きを操り、一纏めにする事は割りと簡単な話だもんな。


 そうか、そう言う事だったのか。


「うんむ。これでまた一つ利口に成ったわ」


 またまた独り言を呟いて納得。

 デボラさんとやらもそうらしいけど、どうやらおっさんも地系(つまり固体系)の魔法がお得意なようだね。

 ランス討伐戦の時もソレっぽい大ワザを使ってたし、ワタシもちょっと研究してみようかな。


「フフフッ」


 謎が一つ解決して、更にニンマリとしながら、浴槽一杯に水が溜まったのを確認してピーちゃんにストップをかけ、こっちも魔法を終了する。

 浴槽に水さえ貯めちゃえば温度は何時でも上げられるので、此処での作業も一旦は終わりだ。

 未だ微風が流れる地下室内でピーちゃんが半透明になるのを見届けると、ワタシは上機嫌で綺麗になっちゃった階段を上がった。


「あれ、ラウロ君?」


 しかし扉も何もない出入口から外へ出ると、玄関口前でボーッと気が抜けた様に佇むラウロ君を発見してビックリ。

 声を掛けると、心此処にあらずって雰囲気だったラウロ君がビクッっと震えて、怯えた様な顔でこっちを見た。


「マリーさん、本当に、何とも無いんですね……」


 んん? 何の話かな。


 確か食後に決まった午後の予定では、ラウロ君とエレナちゃんの兄妹はホールの片づけをやる事になったレティのお手伝いをやってた筈だ。

 灼熱地獄の魔法を使うかどうかはともかく、精霊魔法もどきを見られるのはマズいから、別行動にしたんだよね。


「いえ、何か凄い音がするので外に出たら、恐ろしい事になってたので驚いちゃって・・・」


 あちゃあ。思わず片手で顔を押さえて溜め息。

 やっぱ適当な理由をつけて、外に出ない様に話しておくべきだったわ。

 この様子だと、どうやらラウロ君は灼熱地獄魔法とか暴風の魔法とかを直接見ちゃったっぽい。


 うーむ。何と言って誤魔化そうか。


「うんとねえ、ワタシって本当は従騎士と言うより魔法弟子だから、色々と師匠直伝の秘術とかが使えるんだよ。だからあんまり気にしないでくれると嬉しいなぁ」


 取り敢えずは魔法士章を出す事で納得させようと近付くと、初めて見たらしいソレに怯えたラウロ君の目が釘付けになった。

 ヨシッ。これで少し時間稼ぎが出来そうだ。


「え、ええ。火事だと思ってすぐレティさんに言いに行ったんですけど、あの人もそう言って全然相手にしてくれなくて……」


 と思ったモノの、ラウロ君はどうも既にレティに色々と諭されてた様で、魔法士章を見せながら近寄ったら、怯えた様な雰囲気もフワッと消えてくれた。

 にゃるほど。レティのヤツもグッジョブって感じだけど、この様子だとラウロ君は直接的に精霊魔法もどきを見たってワケじゃ無さそうだ。

 まあ考えてみれば、建物の中から火や煙が出てるのを見ちゃったら、火事でヤバいってビビる方が先だもんね。


「ま、まあ、知らない人がいきなりあんなの見ちゃったらビックリするよね。でもワタシにとっては平常運転だからさ」


 魔法士章のⅧの字を確認したラウロ君があっけに取られた顔をしてくれたお陰で、ワタシはその場をほとんどロクな説明もせずに力ワザで誤魔化し、ダメ押しって感じでラウロ君の肩を抱いてニコッと微笑んだ。


「八位の魔法士って……マリーさん、本当に凄いヒトなんですねっ」


 うむっ。どうやら誤魔化しは成功した様だ。

 最早どうにもならない「ヒト」認定ではあるものの、ラウロ君に憧れっぽい目を向けられて、ワタシは罪悪感を感じると同時にちょっと嬉しくなった。


 でも危ない所だったね。


 紅蓮の炎が燃え盛る中で平気の平左で高笑いって言う、アレとしか言い様の無い姿が見られちゃってたらどうしようかと思ったよ。

 そう言えばチラッと見たホールのゴミ溜めの中に、取り外したドアみたいなヤツが幾つかあったなーと思いながら、ワタシはラウロ君を連れて上機嫌でホールに向かった。



今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、ありがとう御座いました。


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