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016話

改訂版です



「はぁ……」


 リビングの安楽椅子に身体を沈め、侍女の人に入れて貰った紅茶を啜る。

 王都の屋敷の昼下がり、ワタシは珍しくヒマだ。

 一昨日にリプロンで起こった超絶ビックリな出来事のショックも癒えて、とってもお気楽気分なティーブレイクですよ。

 とは言え、ししょーが消えた直後は暫く身体に力が入らず、何もかもそのままで続き部屋の寝室に転がり込んで寝コケちゃったんだけどね。

 何て言うか、おどけるししょーとか初めて見たし、あまりの衝撃に脱力しちゃって意識を手放したって感じでした。

 しかし、朝になって気が付いたワタシは備え付けの風呂に入って一服した後、迷わずギャルソンさんを呼んだのだ。


「朝食と、昨日のベリー系タルト二種にミルフィーユをワンホールずつお土産にお願いします!」


 そして開口一番にそう言ってやった。

 大銀貨のチップが効いたのか、ギャルソンさんはにこやかに「承りました」と答えてくれましたよ。

 しかもケーキのお土産は昼頃まで掛かる(当たり前だ)と言うので、丁度イイやと豪華な昼食まで食べるオマケ付だっ。


 ハッハッハッ、ししょーめ、豪華朝昼食+ケーキ三ホールの代金を食らえい!(心の叫び)


 いやー、何か一矢報いた感じで少しだけ心のわだかまりが解消した感じでしたわ。

 しかしねぇ。

 自分で言うのもナンだけど、どうもワタシってば単純に出来てるらしくて、その後にリプロンで色々と遊んだ後、夜になってからマルシル王都までの長い道のり(普通はかなりの旅行って距離)を「これでもか!」と爆走し捲くったら何だかスカッとしちゃったのですよ。

 盛大にスカされたのはアレだけど、鍛えて貰った上に従騎士と魔法士にして貰ったのは本当なんだからイイかーって感じになっちゃった。

 久々にちょっと疲れた感じで帰宅(無論忍び込み)した時には、すっかり元通りになってましたよ、エエ。

 ホントに自分は脳筋って言うか、単純に出来てるよなぁと、しみじみ思っちゃいましたわ。

 でもそんなこんなで御令嬢サマ生活の日常に戻ってみると、高等学院の方はもう卒業式なだけだし、サラのヤツも卒業式を待たずに国へ帰ったらしいとの事で、やる事が無いと言うか、ぶっちゃけヒマになってしまった。

 ししょーのくれた攻撃系の魔法書でも勉強してみるかとざっと読んだものの、やっぱり地味な感じの内容だったから保留にしちゃったしね。


「はぁ。出来れば魔法銃の研究を進めたいんだけどなぁ」


 ボソッと独り言を呟いて溜め息。

 今ワタシは秘匿してる実験用元込め上下二連銃の次世代に当たる、連発銃の研究開発をやってる所だ。

 一フィート(約30cm)位の実験用銃身も製作したし、実証実験だって順調に行ってる。

 この実験の続き、特に連発メカニズムの実験が屋敷で出来ればこんなにヒマしてる事は無いのですよ。

(無論、父上の屋敷でそんな事をやったらシャレにならない結果になるのでムリ)

 構想にン年、製作にほぼ三年を費やした魔法の力で弾丸を飛ばすシステム自体はもう出来上がってるから、後はそれを使う銃さえ出来れば夢は叶う。

 そんなところで寸止めを食らってる状態だからこそ、他の事にやる気が出なくってヒマしてるんだしね。

 でも実はこれが結構な難題で悪戦苦闘してる。

 一撃でオーガの魔法&物理抵抗力をブチ抜く威力を求めたせいか、それを撃ち出す銃に馬鹿みたいな耐久力が必要になっちゃったからだ。

 実験用の二連銃だって、その魔法弾カートリッジを安定して撃てる様になるまでは随分と掛かった。

 最終的に各パーツを魔法剣同様に強化した挙句、更に銃身とチャンバーを別の魔法の力で押さえ込む形で何とかすると言う「魔法力馬鹿食い仕様」で何とかなったものの、そのやり方の延長線上で連発メカニズムを作るのは至難の業なのですよ。


「何か全く別のアイデアが欲しいよな……」


 今のままでは例え出来たとしても四十ポンド(約18kg)を超える重さになるし、大きさも馬鹿デカくなっちゃう。

 その上反動も凄いから、もう完全に人外サン専用銃って感じなんだよね。

 まあ自分が使えればそれでイイとは思うものの、微妙だ。

 お陰で日頃使ってる上下二連銃は未だに火薬銃ですよ。

 流石に威力が弱くて掃除が大変な黒煙火薬スモークのカートリッジなんて使ってないけれど、魔法合成の無煙火薬は魔法士協会から買わなきゃならないのでとってもお高い!

 例え一発で仕留めたとしてもゴブリン程度に使ったら完全に赤字で、オークでも二発撃ったら賞金は全て飛ぶ。

 密かに研究して自前で作りたいくらいだ。

(そんな余裕は無いけどさ)

 ちなみに、撃発方式が魔術以外は火打石になるせいか、世間では銃なんてまだまだ単発の先込め式が主流なので、ワタシの愛銃の様な弾薬カートリッジを使った元込め式の銃は一般では割りと珍しい。

 魔術ドンと来いの魔法士とか騎士連中が使う銃だからね。

 それらの中には輪胴式の連発銃や短銃もあるけれど、魔法力の薄い一般人達とはそんな所にも壁がある。

 まあ軍隊の使う銃は魔石を内臓してて魔法力の薄い人でも撃てるらしいので、お金さえあれば何とでもなるレベルとは言え、それじゃ一般人が貴族相手に蜂起しても簡単にヤられちゃうよな。

 西聖王国とかで良くある、反乱を起こして村ごと潰される様な話でも貴族側の兵に死者が出ないワケはこの辺にもあると思う。

 何だかやってられない話だわ。


「ふう」


 何だか考えが明後日の方に行き始めちゃったので、再度お茶を啜って頭を切り替える。

 ホント、ヒマだと碌な事を考えない。


「そう言えばサラのヤツ、いきなり帰ったっぽいけど、何かあったのかな?」


 頭の切り替えついでにサラの事を考えてみる。

 そもそもワタシがオリジナルっぽい兵器を開発出来た理由はアイツの助力があってこそのものだからね。

 何しろアイツってば、仲良くなった後で色々と突っ込んだ話をしたら、即座に私設研究室として屋敷を一つ、ポンと用意してくれやがったのですよ。

 しかも資料や材料から設備に至るまで、何もかも言う通りに用意してくれちゃう太っ腹さだ。

 お陰でそれまで子供の遊びに毛の生えたレベルでしか無かったワタシの各種研究は一挙に一端いっぱしの応用魔法科学の研究室レベルに跳ね上がった。

 そのせいもあって、高等学院の三年間は「ししょーとの修行」「サラの所で研究」「学校での勉強」の三つで全て費やしちゃった位ですよ。

 青春とかしてるヒマはこれっぽっちも無かったもんなぁ。

 学院生の皆さんはそれなりに学校生活をエンジョイしてらしたと言うのに、自分は何時もシコシコと独りで孤独な作業の毎日だった。

 ううっ、ヤな事思い出しちゃったわ。

 で、でも、お陰様でワタシの魔法知識は特殊な部分だけはスンゴイ事になったんだから、将来を考えたら良かった……と思う事にしよう。

 うむ。他にも工学系とか化学系とか色々な知識も増えたしねっ。


「げっほ、げほげほ……」


 ちちぃ。

 また余計な事を考えちゃったせいか、茶にムセちゃったよ。

 大体サラって言えば、今ヒマしてる最大の原因はアイツがあの屋敷を引き払って帰っちゃったせいなんだよね。

 確かに帰る際に引き払ってくれと頼んだのは自分だけど、そのテのイベントが好きな筈のヤツが卒業式を前に突然帰るなんて思わなかったのですよ。

 その連絡だって「残念だけど卒業式には出られそうも無い様です。仕方無し」と走り書き一文だけの手紙だったし、なんだかなーって感じだ。

 まあアイツは立場も立場だから、色々とメンド臭い事に振り回されるのも仕方が無いんだろうけどさ。

 何しろちょっと前までと違って、今のヤツは商伯家ことスベンボーグ伯爵家の次席爵位を持つ実力者サマだ。

 ワタシが付けた愛称のサラの方はともかく、本名のリーゼロッテ・ザーラ・ソレンスタムの名は伊達じゃ無い。

 そんなヤツならちょっとした世界情勢の動きが一つあっただけでも、忙しくなっちゃうのは仕方が無いのかも知れん。


銅章ブロンズになったら、ウチに来て見せなさいよ? ま、準備は色々やっとくから安心してくれてイイけど』


 ふと最後に会った時のヤツのセリフが頭の中に浮かんだ。

 思い出して見れば、その時は何時も通りだったから何も気にせず、言葉の中の「準備は色々」と言う所に引っ掛かっただけだった。

 そうそう。

 確かその時に「その準備って何?」と聞いたのに、ヤツはフフフと笑って「後のお楽しみ」と言うだけだったんだよな。

 うーむ。

 考えて見ればあの時のアイツのセリフは色々とおかしかった。

 それにアイツが具体的な事を言わない時は何か妙な事を考えてる時が多い。

 サラってば超絶リアリストのクセに、オカルトとか怪しげなコトが好きなんだよね。

 ワタシのなんちゃって精霊魔法に食い付いて来たのもそのせいだしなぁ……。

 むう。アイツの件は少し考え直してみる必要があるのかも知れないな。


「姉上!」


 サラの事を考えながらホケッとしてたら、麗しの我が弟君クロード君(10歳)が声を上げてタッタカターと走って来た。

 いやぁ、ホントこの子は何時見ても可愛いわぁ。

 ワタシの卒業式出席の為、この王都の屋敷に来てる母上と一緒に来たので、しばらく滞在中なんだよね。


「クロ君、今日はもうイイの?」


 その可愛らしさに一発でサラの事が頭から消えたワタシは見事な金髪を揺らして走り寄って来たクロ君に話し掛けた。


「ハイ! 今日の予定はもう後はありません!」


 うんみゅ。元気なお返事に姉は嬉しくなっちゃうよ!

 何しろクロ君は「美少年ってこう言うのを言うんだよ!」って感じの凄い美形少年だ。

 あの父上と母上の息子だから、そりゃ美形に生まれて当然って感じだけど、そんな子なのに性格も良くて、ついでに昔っからワタシに懐いててすっごく可愛いのですよ。

 ホントに可愛い。

 思わず頭をナデナデしちゃう。


「姉上、ここ数日いらっしゃらなかった様ですけど、何処かに行ってらしたのですか?」


 うっ……。

 調子こいて全く無警戒のままだったせいか、邪気は無くとも痛い質問に言葉が詰る。

 しかも頭を撫でられて少し照れ気味になったクロ君の可愛らしさに内心ウルウルしちゃってたから余計だ。


「あ、ああ、例のアレよ。何時もの修行って感じかしら?」


 思わず適当な事を言って誤魔化してみるテスト。

 するとクロ君は目をウルウルさせてワタシの両手を掴んだ。


「またですか……姉上のお気持ちは判りますが、ボクは姉上が心配なのです! ボクがもっと強ければ姉上を護って差し上げるのに!」


 ぐはぁっ!

 いやぁ、今ちょっとと言うか、すっごくときめいちゃいましたよっ。

 イカンイカン。

 半分とは言え血の繋がった弟にときめいてどうするっての。


「クロ君、ありがとう。でも心配は御無用よ? 私ってこう見えても凄く強いんだから」

「あねうえ……」


 ウルウル顔のクロ君の可愛らしさもしっかり堪能してから手を離すと、ワタシはストレージから例のミルフィーユを出した。

 もどきじゃなくて、ワタシが腕輪に仕込んでる方だ。

 コレは実験に実験を重ねたほとんどオリジナルなブツで、結構な量が入る上に、中での時間劣化が少ないから食料品にもってこいなんだよね。


「お友達に戴いたお菓子よ。クロ君と楽しもうと思って持って来たの」


 お姫サマスタイルを崩さない為に侍女の人を呼んで切り分けて貰いながら、別の人に紅茶のお代わりと追加のカップやら何やらも頼む。

 面倒くさい事この上無いけれど、クロ君の素敵なお姉さまであり続ける為には必須な事柄なので我慢だ。


「姉上、このケーキは素晴しい出来栄えの物ですね! 本当に頂いても良いのですか?」


 子供にお菓子類はネコにマタタビである。

 そしてそれは勿論、クロ君だって例外じゃ無いからミルフィーユを見て目が輝いた。

 良し良し。取り敢えず誤魔化しは成功の様ですな。

 しかし……。

 出奔したらこの愛すべきクロ君とも、もう会う事が出来なくなっちゃうかも知れないと思うと複雑な気持ちだ。

 だって出奔は今夜の予定だからね。

 ワタシの卒業式に合わせて父上が王都に来るのは明日だから、その前に出奔しないとマジに時機を見失っちゃうのですよ。

 ウチの他の連中とは別格の奴らが周囲を固める父上が着いちゃったら、その監視下ではおいそれと出奔なんて出来ない。

 しかも今回は領地の精鋭部隊まで一緒だって噂なので、例え屋敷を出られたとしても、直後に網を張られたら絶対に逃げ切れないもんな。

 何しろこの精鋭部隊、聖王国分裂の時に域内のド真ん中で武力干渉をやり捲くった連中が率いる乱破らっぱもビックリな連中なのだ。

 ブロイ家の家臣じゃなくて独立の傭兵団であるのに驚く程の数が居て、対人戦のエキスパートからハイオーガを対一で軽く捻っちゃう様な人外サンまで、多種多様な連中が揃ってる。

 ついでに大将の騎士卿じいさんなんて顔までゲロコワいと来た。

(昔から可愛がって貰ってるけどさ)

 そんなヒト達を向こうに回して何かするなんて無謀の極みですわ。

 だから、ヤるとしたら今夜しかない。

 勿論、今現在の屋敷の主人である母上とは事前に話がつけてある。

 金銭の餞別は辞退したけれど、イザとなったら頼る様に母上の兄上への紹介状と印章指輪まで貰ってる位だ。

 まあ母上の兄上(元聖王国王領に陣取る元直参貴族達の一人)を頼る積もりは無いけれど、保険は大事だからね。


「姉上、お考え事ですか?」

「へっ?」


 出奔の事を考えてたら、ミルフィーユを食してご満悦なクロ君が小首を傾げてテーブルの上のワタシの右手を軽く掴んだ。

 むう。ちょっと頭の中が表情に出ちゃいましたかね?


「少ぉしね。クロ君とこんなお茶会が出来るのも、何時までの事なのかしらって……」


 ガタンッ。

 おおう!?

 即座に口にしようとした誤魔化しセリフを遮り、いきなりクロ君が席から立ち上がってビックリ!


「あねうえ! ボクは何時までもあねうえと一緒です!」


 何事かと思えば、そのままスパッと跪いたクロ君がワタシの右手を両手で握り締めながら見上げて来る。

 ううっ。

 何だかまた目がウルウルしてるし、罪悪感がハンパない!


「で、でもねクロ君、私達が何時か離ればなれになってしまうのは仕方の無い事よ? だからせめて、私達は心まで離ればなれに成らない様にしましょうね」


 即興にしては無難回答乙! って感じのセリフを吐いて誤魔化すと、クロ君ってば今度は膝に擦り寄って来ちゃいましたよ。

 ううみゅ。

 とっても可愛いとは思うものの、こう言うのって他人から見たら結構ヤバいよね。

 でもこのコの場合これは平常運転で、感極まると大抵こうなっちゃうんだよな。

 将来止め処も無いタラシに成るんじゃ無いかと心配だわ。


「ハイッ。何時か離れる日が来ても、ボクの心は何時でもあねうえと共にあります!」


 ぬぅっ!?

 美少年に跪かれた上にこんなコトまで言って貰って、ヨロめかない女子がこの世に居るだろうかっ?


「ありがとうクロ君。私も全く同じ気持ちよ」


 思わずクロ君の頭をナデナデしちゃいながらも、盛り上がる気持ちをググッと押さえる。

 そして椅子から立ち上がるとヨロヨロしながらもクロ君を立たせて椅子に戻した。

 席に戻ってまだ半分ほど残っているミルフィーユに目を転じ、スーハースーハー深呼吸!

 いやー、危ういトコロだったわ。

 さすがに「間違い」は無いけれど、危うく抱き締めちゃうところだったよ。

 恐るべし、我が弟君!

 しかも心を落ち着けて視線を戻したと言うのに、ちょっと顔を赤くしてエヘヘと照れ笑いするクロ君の可愛さにまたちょっと動揺が!?

 オヒオヒ。

 もう馬鹿姉っぷり丸出しだよね、コレ。

 でもまぁイイか。

 夕食まではまだ間があるし、それ迄は愛しの我が弟君を愛でて過ごすとしよう。



この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。


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