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156話

何だか前回にも増して短くなってしまった気はしますが、思い起こせば元々一話分はこれ位だったなと思い直したので此処で切ってみました。なお、次回は出来る限り明日中に更新する予定です。




「申し訳ありません!」


 何時でも来いやって感じで気合と共に歩いてたのに、何事も無く目標の岩まであと百ヤード(約90m)位まで来たと思ったら、岩の陰からタタタッと小汚い子供が走り出て来て、いきなり地べたに平伏しちゃったのでビックリ。


 むう。どうやらコイツが今のお粗末な襲撃の司令塔らしいけど、これって一体どんな戦術なんだろ?


「こちらの間違いで御座いましたっ。どうかお許しを!」


 ザ・ドゲザって感じで平伏し続ける子供に困って周囲を見れば、レティとロベールさんがそれぞれにボロ雑巾の様になった襲撃者を引き摺りながらこっちに向かって来てた。

 レティなんか両手に一人ずつ引き摺ってるんだけど、三人ともボロボロにヤられちゃってて気の毒なくらいですよ。

 いつもの様に胸ポケットに潜り込んで頭だけ出してるピーちゃんに確認すれば、敵性存在は他にはもう居ないらしい。

 探知魔法もどきにも端っこの方でゴブが数匹ウロついてるのが観えるくらいで、他には反応無しだ。


 あーあ。どうやらコレって戦術とかじゃなくて、もう勝敗が決しちゃったってコトみたいですな。


 とは言え、これはちょっと困っちゃう展開だ。

 レティ達が引き摺ってる連中はみんなワタシの設定年齢と同じ位の年少者だし、目の前でドゲザってる子供なんてどう見ても十歳くらいだ。幾らなんでもヤっちゃうワケにはいかないし、どうしよう。


「間違い、ねぇ?」


 しょうが無いから、取り敢えずヤバそうな低い声を出して意思の疎通にチャレンジ。

 こんなお子様連中なんてどうこうする積りも無いけど、だからと言って殺意を持って人を襲った輩をホイホイと許す訳にも行かない。

 ヘタに情けを掛けて野放しにして、後で普通に暮らしている人達が犠牲になるのもイヤだからね。


「ま、間違いだって、言ってんだっ、離しやがれ!」


 するとコワい声を出したせいか、プルプル震えるだけでダンマリになっちゃった子供に代わって、ロベールさんが引き摺って来た、三人の中でも一番ボロボロになってる感じのヤツが大きな声を上げた。

 ウンウン。お姉さん、元気な子は好きだなぁ。

 ロベールさんに目線で合図してソイツを放り投げて貰い、目の前に転がって来た所を掬い上げる様な蹴りを入れてカチ上げる。


「グヘッ!」


 綺麗に縦に一回転してフッ飛び、未だに震えたまま無言の子供の上を飛び越えて地面にもんどり打ったソイツを睨み付け、ワタシは腕を組んだ。


「お前達は本当に救い様の無いクズな蛆虫だなっ」

「く、クズでも、蛆虫、でも、ねえ……」


 超絶エラそうな態度&コワそうな低い声で嘲りの言葉をくれてやると、蹴られたヤツがヨロヨロと起き上がったので、ちょっと感心。

 あんなの食らって立てる以上はまず一般人じゃないと思うけど、それでもあの年齢じゃマトモに鍛えてないとムリだからね。

 結構な魔法力も感じるし、騎士学校の脱走生徒か何かかな。

 だとしたら、何か色々とメンド臭い理由がありそうな気はする。


 でも、だからって簡単には許さないよ?


 例え子供だろうがナンだろうが、どんな理由があれ、無関係の人を殺す事に躊躇いを持たない様なヤツには、まず恐怖を刻み込んで「失敗したらこうなる」と言うトラウマを植え付けるのが最も有効な対処だもんな。


「ギャッ!」


 ワタシは小指一本のスラッシュで立ち上がったヤツの足を挫いてスッ倒し、スタスタと歩いて近寄ると、再び逆方向に蹴りを入れた。


「グバッ!」


 勿論初めからすっごく手加減はしてるけど、本気になればオークだって一撃必殺のワタシの蹴りだ。

 それが例え身体強化魔法を使う騎士学校の生徒だって、そんなの連続で食らったら溜まったモンじゃない。

 見ればさっきのお子様の側で芋虫の様に丸まって転がったソイツは、もう息をするのも苦しい様子で、腹を押さえて横向きに寝転んじゃった。

 中々にイイ感じだし、そろそろ仕上げって感じかな。


「聞こえるか? お前達はその間違いとやらを確かめる前に致死の矢を放った。であれば、このワタシもお前達を死体にしてから間違ったかどうかを考える事にして良いと言う事だっ」


 ガンッて音がするくらいに片足で寝転んだヤツの頭を踏み込み、精一杯コワい声を出してお子様の方に向かって凄む。


「そうだな、そこの小僧!」

「た、たしかに仰る通り、です」


 ぬう。さっきは気が付かなかったけど、ずいぶんと可愛い声ですね。

 指名されたお子様が震えながらも出した声の意外な可愛らしさに、微妙な罪悪感を感じながらも続ける。


「例えお前達にどれ程の理由があろうとも、生きる為に無関係の人間を殺して良いなどと言うのなら、今此処で全員斬って捨てるしか無いぞ?」


 エラそうに大上段から物を言って様子見。さて、このお子様は何て答えるのかな?

 世の中、自分以外は全て敵と言う主義の人は結構居るし、まあそう言う生き方もあるんだろうとは思うけど、それが「自分以外のヤツは無条件で死んで良し」とかって感じになっちゃえば、ソイツはもう魔物と同じ人間の敵だ。

 もしそんなオツムで生きて行こうと言うのなら、今此処でワタシが許しても意味が無いし、例えこの後で色々教え込むとしても、まずはコイツらの意識ってのを知る必要が有るもんね。


「何故ならそれは世の法などと言う物では無く、人が人として生きる為の最低限のルールだからだ! さあ、お前たちがワタシを襲った理由を言ってみろっ」


 折角待ってるってのに、プルプルと震えるだけで答えも何も無いお子様にイラッと来て、更に追撃。

 全くさぁ。間違いだとか言うんなら、さっさとその話をしろってんだよね。

 これだからお子様相手は疲れるんだよ。

 心の中で溜め息を吐きながら睨み付けてると、プルプルと震えるお子様が意を決した感じで顔を上げた。

 お、やっとお答え下さるみたいですな。


「ボ、ボクはどうなっても構いませんっ。ですから、アンジェ達は許して頂けないでしょうか!」


 な、なにゅう!?

 涙ながらに懇願する顔を見れば、そのあまりの可愛らしさにビックリ!

 ずっと下向いてたから気が付かなかったわ。

 超反省っ。

 あー、もう止め止め!

 そもそもこんな可愛い子が、何の理由も無く人を襲う筈が無い!


「しょうがないなー、今回だけは無かった事にしちゃうよっ」


 速攻で今までの態度を翻し、安心させる為に勤めて明るく言いながら、ワタシはお子様の頭を撫でた。

 と言うより、もうナデナデと撫で捲くった。


 いやー、こんな所でこんな可愛い子に会えるなんて、神サマとやらのお導きってヤツかな。


 なんだか後ろの二人がズッこけてる感じだけど気にしない!


「今までの結構な御話はなんだったんでやすかねぇ」

「ロベール殿、深く考えてはいけません。お嬢様の事ですから、どうせ『可愛いは正義』とか何とか、得体の知れない理由で態度を翻したのに決まっております」

「いやぁ、アッシもこれまでの御付き合いでお嬢サンの事が段々と判ってきやしたよ」


 煩いなぁ。可愛いは正義なんだよっ。

 呆気に取られた様な顔で撫で捲くられるお子様を他所に、それぞれに勝手な事を言い出して、勝手に嘆息してる二人組みをググッと睨み付ける。


「酷い大人達だよねえ。こんな年端も行かない子供達に人殺しなんて出来るワケ無いじゃん。間違いだって言ってるんだから、間違いなんだよ」


 前言撤回どころか何もかも放り投げる様な事を言って、ワタシはまだ呆けてるお子様を立たせると、土埃を払ってあげながら全身をさり気なくチェックした。

 うーん。この子ってば確かに汚れてるけど、何週間もお風呂に入って無い様な汚さでもないし、虱とかの気配も無いから、多分近くに拠点があってそれなりの生活をしてるって感じがするわ。

 一体どう言う背景があるのか、結構な疑問だよなぁ。

 しかもこの子は多分貴族だ。

 育ちの良さそうな体付きだし、幼いのに口調も市井のモノじゃない。

 何よりほぼ橙の魔法力を感じるから間違い無いと思う。


「しかしお嬢様、その子は男の子で御座いますが、宜しいのですか?」

「はぁ? 別にイイじゃん。可愛いんだし」


 何で貴族の子がこんな所で山賊紛いの事やってるのかなーと首を捻ってると、なんだかレティが妙に突っ掛かる様な事を言って来たので、即座に切り捨ててやったら、ヤツは途端に頭を抱えて喚き出した。


「可愛ければナンでも良いので御座いますかっ!? ああ、何と言う蒙昧、何と言う退廃、お嬢様が不良になってしまわれた!」


「オー、ノォォォ!」って感じで全身で拒否感を過大表現するレティにドッと疲れる。

 全くさぁ、百合百合しいのはアンタの脳内だけにしてくれっての。子供達だってビビって引き捲くってるよ。



今宵もこの辺迄にさせた頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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