表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/221

154話


 色んな物が剥ぎ取られた山賊共の成れの果てを灰にする作業も終わり、魂が抜け出ちゃう様な溜め息を吐きながら地べたに座り込んで、未だに何やらお話中のレティとロベールさんをボーッと見る。

 何時ぞやの傭兵部隊との戦い以来の事だけど、ホント、人を焼却するのって慣れないわ。

 何て言うか精神とか心とかって部分が無条件で荒む気がするんだよね。


「ひぃ様」


 お話し合いが終わったのか、駆け寄って来た二人に片手を挙げて立ち上がると、レティのヤツがササッと隣に来て話し始めた。


「賊どもはどうやら西聖王国の正規兵で間違い無い様です。数人を尋問してみましたが、近場の拠点から出撃した部隊で、この辺りに巣食う賊の討伐の為に行軍中と言う事で一致しておりました」

「正規兵って事は国軍かぁ。ヤな話だねぇ」


 全員がそれっぽい制服だったからそうじゃないかとは思ってたけど、実際にそうだと聞かされちゃうと複雑な気分だわ。

 腹の立つ話だけど、西聖王国に於いては国軍(要は王サマの軍隊)の部隊が山賊に早変わりするなんて事は日常茶飯事だ。

 特にこの辺みたいな人里離れた場所では、行き掛けの駄賃とばかりに小規模な商隊なんかを襲う事が当たり前の様にある。

 何せ死人に口無しだから全員殺害して埋めちゃえば誰も気が付かないし、そもそも当の兵隊達にそう言う行為に対する罪悪感が全く無いんで、もう処置無しなんだよね。

 おかしいと思った初手のクロスボウ攻撃も、おそらくは音や後の書類処理(銃の実包管理ってコスト高だから何処でも煩い)を考えて、なるべく銃を使いたくなかったって事なんだと思う。

 見た感じだと連中、クロスボウ以外は銃しか遠距離攻撃手段を持ってなかったみたいだしさ。


「って事は、何時までもこんな所でグズグズしてられないって事か」


 辺りを見回せば色々と転がってた物はすっかり回収されちゃってて、戦闘の痕跡はともかく、まともな遺留品は無さそうに見える。

 襲われたのはこっちの方だとは言え、こんな下らない事で妙な嫌疑を掛けられちゃうのも真っ平ゴメンだから、こんな所はさっさとズラかるに越した事は無い。


「二人共、証拠品とか残してないよね?」

「銃弾の空薬莢に至るまで、全て回収済みでさぁ。尋問したヤツらも止めを刺して一緒に火葬にして貰いやしたし、心置きなく出られやすぜ」

「こちらも大丈夫です。幾つか話さねばならぬ情報が御座いますが、それは道々と言う事で」


 念の為、二人に確かめてから撤収を指示して高速で歩き出すと、少し離れて付いて来るレティを残して、ロベールさんだけが側にやって来た。

 あんな事があった以上、密集して移動するのはヤバいって事かな。

 確かに、幾ら山の中では絶好調になるワタシでも木の上とかに居られたら探知出来無いし、バラけてた方が襲撃し難いのは道理だ。


 はぁ。


 単独行のクセが残ってるせいか探知魔法もどきに頼りっきりで、そんな基本的な事すら頭に無かったってのは問題かも知れないわ。

 ちょっと反省。


「先ずは戦利品の話ですが、アッシのストレージにギッチリと、連中の装備だのナンだのは突っ込んでありやすんで、必要な時は言ってやって下せえ」

「必要って言ってもねぇ……そう言えば連中の使ってた銃ってどうだったの?」

「イヤー、実はアッシの話もソコがメインなんでやすよ。連中、騎士の三人を除いて全員が輪胴式小銃リボルビングライフルを使ってやした」

「え、マジで!?」

「マジでやすね。それも六連発の最新式が三十八丁、弾の方も掻き集めたら千は楽勝でありやした」


 反省しながらもロベールさんの話を聞けば、あまりに別次元の連中の装備内容にビックリ。

 どおりで連中の射撃間隔が短いと思ったよ。


「ランス駐留の国軍ヤツラだって上下二連か三本纏めの小銃を使ってたのに、その異様な装備の良さはヤバいね。その割に個々もそうだったけど、部隊としてはお粗末な程弱かったし」

「姫サンから見たらお粗末に見えたかも知れやせんが、ありゃイザとなったら火力で押せると思い込んでるバカ共にありがちな戦い方なんでやすよ。連中だってまさかあの距離で、銃を構えた端から次々に、それもあっと言う間にヤられちまうとは思ってなかったって事でやすね。西聖王国の役人の部隊なんて、そんなのが多いんですぜ?」

「刑の執行と戦闘をはき違えてる様な連中って事? ソレってちょっとシャレにならないよ」


「まあそうでやすね」って言うロベールさんの返事を聞きながら、ワタシは暗澹たる気持ちになった。

 兵隊だろうが荷物持ちだろうが、国軍所属の兵士である以上立派な西聖王国の役人だ。

 でもロベールさんの言う「役人の部隊」って言うのは役人が兵士になってるって感じの、なんちゃって野郎どもを指す。

 このテの連中って、屑だらけの国軍でも更に最低の連中なんだよね。


 西聖王国の兵士ってのは大まかに分けて大体三種類に分かれる。

 先ずは衛士を筆頭にする城塞都市所属の兵士で、主に地元の行政官に雇われてる彼らは、アレの町みたいな小規模な所は当然として、例えそれがリプロンみたいな大都会でも、その地の出身で家族もそこに住んでるから地元への帰属意識が高く、真面目で結構強いし、城外に出ても悪辣な活動に手を染める事が滅多に無い。


 次が地方一体を所轄する軍隊の兵士で、主に地方の代官によって雇われてる彼らは、基本的に魔物と戦う軍隊なので、地封貴族の領軍なんかと同じ様に部隊として動けば意外に強く、頭を取ってるヤツによっては規律もしっかりしてるから、やっぱり悪辣な活動に走る事が少ない。 


 で、最後が所謂国軍って連中で、彼らは実働部隊と役人部隊の二つにパッキリと分かれる。

 しかも表ヅラは至極真っ当な筈の近衛騎士団を筆頭とする実働部隊ですら、やってる事はおエラいさんの私兵そのもので、内容は考えるのもイヤな位に腐ってるってのに、軍規や輜重を差配する各地の軍監を筆頭とする役人部隊と来たら、実態はもう本職のヤクザ者や賊連中だって裸足で逃げ出す様なクズ共だ。


 下っ端部隊ですら結構な士族の次男三男で構成されてて、大抵は権威を振り翳す役や武力で圧倒して殲滅する役が仕事のソイツらは、当然真っ当な戦闘行為なんて出来無いから弱かったのも納得だけど、そんな連中が中隊規模でウロウロしてるなんてヤバいどころの騒ぎじゃ無いわ。


「って事は更に色々とヤバいって事だね。この辺でそんな連中が巣食ってる拠点って何処なの?」


 やってられないポーズで溜め息を吐きながら訊くと、ロベールさんが露骨に嫌な顔になって更に嫌な気分が増す。ああ、コレってかなりヤバい話っぽいな。


「それが……アッシもあねさんも、そんな話は全く知らないんでやすよ。そもそも西聖王国がロダーヌ河東岸の直接統治を諦めて、ランスにまで撤退したのはもう随分と昔の事ですぜ? だからデントにだって役人一人居やしないってのに、連中は殆ど糧食も持ってやせんでしたから、近場から出て来た事は確実って事で、おそらくは隠し砦か何かじゃねえかってのがアッシらの一致した所でして」

「えっ、ソレってマジな話なの?」


 話に驚いて、思わず大きな声が出ちゃう。だってソレってかなりのヤバい話ですよっ。


「そ、速攻で離脱! 目標は話に出た古砦っ」


 パパッと後ろを見て、レティが肯いたのを確認してダッシュ!

 通りで魔物の影が薄いと思ったわ。

 普通なら安全地帯で弱い者いじめしてる様な連中がウロウロしてるのに、正規の拠点が無いって事は、そもそもこの辺り一帯がその絡みのヤバい秘密組織の手の内って事になる。

 となれば、ワタシの探知魔法もどきじゃ判らない危ない仕掛けが随所にあるって考えるのが普通だ。

 最低でも走ってれば追跡者の有無は判るって事で、今はとにかく逃げるしか無いわ。


 うひぃーって感じで山道を走る。


 勿論、ししょー走法は禁止だ。

 レティ達が付いてこられない上に、何かあった時に対処のし辛い極端なスピードでの移動は逆にヤバいからね。

 さっきの連中は前から来たので、本当なら後退するか山に入るかしたい所なんだけど、実は奴等の方が先行してたって場合もあるし、土地勘の無いこんな山の中でヘンに回り道とかして、逆にヤバいヤツらにぶつかっちゃうのもマズければ、山中で罠だらけの死地に入り込んじゃうのはもっとマズい。

 今は比較的安全度の高い山岳路を前進するのが吉だね。

 五マイル(約8km)も先に行けば、デント村を出る時にロベールさんが言ってた「変わり者の討伐騎士バッツが独りで守ってる古砦」があるって事だし、取り敢えずはそこで情報を仕入れるのがベターだわ。


「あー、ツいてない!」


 走りながら声に出して己の不運を嘆く。

 何だってこう、ワタシってばヤバい事に首を突っ込んじゃうのかな。

 だってロベールさんの話通りなら、今のワタシ達ってば絶対に関わりたく無い「西聖王国の闇部分」に直接手を突っ込んでる状態ってコトなんだからね。

 死人に口無しとは言うけれど、賊連中を全員殲滅しといてホントに良かったわ。

 しかし、マジ顔で山岳路を騎士走法で疾走してるってのに、振り返って確かめると、付いて来るレティとロベールさんが二人共に妙な顔で笑ってて気持ちが悪い。


「二人共、マジな状況で何ヘラヘラ笑ってるのよ!?」

「イヤー、だって姫サンがそこまで慌てるのって珍しいでやすからね。イケナイとは思いやすがつい笑っちまって」


 オヒオヒ。


 緊張感が無いにも程があるでしょっての!

 真っ黒黒スケの西聖王国のマジな闇部分にケンカを売っちゃったんだから、後はもうダッシュで離れて知らぬ存ぜぬで通すしか無いってのに、コイツらってば何でこんなに余裕アリ捲くりなんだよっ。

 ホントに冗談じゃ無いよ。












 色々と思う事はあるものの、現場から約五マイルは離れた所に至って、ワタシは漸く走法を歩法に戻した。

 運がイイのか悪いのか、此処まで来る間は探知魔法もどきにも全く人間の反応は無かったから、結果論的にとても助かった。


「流石にここまで離れれば大丈夫でしょ。後は知らぬ存ぜぬ、アンタ達も解ってるよね!?」


 ヘラヘラ笑いが止まらない感じの後ろの二人に振り返って念を押すと、さしもの強者つわものコンビも両手を上げて恭順の意を示した。


「イヤー、面白かった……じゃねえや、危ない所でやしたっ。ところで姫サン、この後はどうなされるお積りで?」


 でも言葉の途中でキリッとした顔を無理矢理な感じで作りやがったロベールさんにガックリ。


 このヒト(無論、人では無い)達って、なんでこんなに余裕があるんだろう。

 幾ら西聖王国が屑の集まりだと言っても、コワい連中だって山ほど居るから、所謂闇の部分に首なんか突っ込んじゃえば、即座にソイツらと問答無用で二十四時間連日連夜のガチバトルの始まりだってのに信じられないわ。


「さっき言った通り、話に出た古砦で情報収集って所かな。とにかくこの辺りのそれなりの情報が無いと、さっきの件だってどう逃げれば良いのか判らないしね」

「ひぃ様、先程から『逃げる』と言う形で一貫されておられる様ですが、たかが西聖王国の役人風情にそこまで弱気になられなくても良いのではありませんか?」

「全くでさぁ。どれ程腕が立とうが汚ねえ手を使おうが、フォルダンとカルノーを纏めてヤっちまった姫サンの敵じゃありやせんぜ」


 オヒオヒ!


 折角真面目に答えたってのに、余裕アリアリなお二人さんが得体の知れない返事を返して来て更にガックリ。


「あのさぁ、ワタシだって別に無敵ってワケじゃ無いんだし、そう言う妙な期待をされても困るだけなんだけど」


 何か色々と力が抜けながらも、辛うじて反論を口にすれば、二人は「意外」って顔で顔を見合わせた。


「ひぃ様は出奔なさって一個人となられたのですから、もう守る物など御自分の身一つだと思われるのですが、何故そこまで守りに拘られるのですか?」


 なにゅう!?

 ってアレ? ぬう……良く考えて見ればそうかも知んない。


 レティの呆れたような物言いに一瞬怒っちゃったものの、そう言われてみればそうだと自問自答して溜め息。

 確かに今のワタシはヤツの言う通り、一介の討伐従騎士に過ぎないから、どちらかと言われれば、組織相手には襲われる側と言うより襲う側ではある。

 って言うか、そもそも今のワタシって護る様な物は何も無いんだよね。

 守護騎士の官職なんて本気でいらないし、例の商会だって今の所は完全にマチアスおじ様のモノで、ワタシの関与なんて極少数の関係者しか知らないんだから、そこに手を突っ込もうとするヤツはいない筈だ。


「姫サンにはアッシやレティのあねさんって言う、ヤバい連中相手には手馴れてる手下もいやすし、例のラクーンもどきやムクドリもどきだって居るんでやすから、人様の寝首を掻く様な連中なんて相手にならないと思うんでやすが、間違ってるんですかねぇ」


 うっ!


 更に追撃する様なロベールさんの台詞にグウの音も出なくなって、ワタシはそのまま立ち竦んだ。

 ワタシを傀儡とした陰謀って言うマルコさんの情報を聞いたせいか、何時の間にやらワタシってば昔の感覚に戻ってたみたいだわ。

 たった十六年弱とは言え、人生の殆どを地封貴族の総領姫として過ごした感覚って、やっぱ簡単には抜けてくれないんだなぁ。


「とは言え、あまり考え無しで行動されても困りますが」

「ちょっとソコ! 折角反省してるってのに、妙なオチを付けないでくれる?」


 レティのボケにガクッとしながらも、突っ込みで返したワタシは再度古砦とやらに向けて歩き出した。

 何だか精神的に妙に疲れちゃったよ。

 でも、なんかまだ納得行かないんだよね。


 歩きながらでも、もっと良く考えてみますか。



今宵(昼ですが)もこの辺りまでにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ