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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
要塞の町
150/221

150話


「その二つ名ってマジなの? アイツ等にそんなカッコイイ名前が付いてるなんて、今の今まで知らなかったんだけど!」


 思わずパパッと前に出て問い質すと、首無し親爺は「お、おう。一応知られた二つ名だと思ったがな」とか何とか言いながら、不自由気味な頭髪を掻き毟った。


 マジですか……。

 もう超ガックリしちゃって、しゃがみ込みそうになっちゃうよ。

 くっそぉレティのヤツ、道理でワタシに二つ名を教えないと思ったわ!


「デントの支部長をやってるホリガーってモンだ。噂の千体斬りに会えて嬉しいぜ」


 突然発覚した衝撃の新事実にガックリしてると、今の事が無かったかのように、ニカッと笑って首無し親爺が仕切り直して来たので、こっちも挨拶して握手に応じる。

 考えて見れば初対面でまだ挨拶すらしてないってのに、いきなり詰め寄って勝手にガッカリしてりゃ、丸っきりアホの子だもんね。

 それに何だか手下のマッチョ達も微妙な目で見てるし、後ろのマルコさんに至っては額の血管がピクピクしてそうな気配だから、ここで二つ名がどうとか言ってダダ捏ねたら後でエラい目に会わされそうだ。


 でもホントいい加減、そのアレな二つ名は勘弁して欲しいんですけど!


「たった二回スタンピード討伐に参加しただけだし、最初の時は九百八十だったんだから、魔物の一日千体斬りなんて一度しかやって無いんだけどね」


 取り敢えず裏に魂を込めた叫びを秘めつつ、落ち着いた口調でやんわりと「その呼び方止めてね」ってな事を言って様子見。

 ホント、せめて「討伐姫」の方にしてくれってんだよね。

 そっちの方がちゃんとした称号なんだしさぁ。


「カァーッ、如何にも強ええヤツの言いそうなセリフだぜ! 従騎士デビュー戦で九百八十もヤりゃあ、それだけで千体斬りの二つ名にゃ十分だってのに、アンタにゃ他にも色々あり捲くりだろうがっ」


 しかしそんな思いは全く通じなかった御様子で、右手を顔に当てて天を仰いだホリガー氏がデカい声で芝居がかった台詞を吐いた。


 ちょっ、勘弁してよっ。


 お陰で付近の連中が一斉にこっちを向いちゃったじゃんか。

 しかも言うなって言ったばかりの学院病モロ出しな二つ名までデカい声で言ってるし、シャレになんないよなぁ。


「他って言われてもねぇ……後はデカザリガニをヤったとか、成りたてのドラゴンもどきの首を取ったってくらいでしょ?」


 マッチョ達のお陰で遠巻きにはなってるものの、あっと言う間に人垣に取り囲まれちゃった中、ちょっと抗弁してみる。

 そもそもワタシの討伐士としての勲章は、主にデカザリガニ達と生まれたての魔物ドラゴンの首を取ったって事だけだから、そう大した内容じゃ無い。

 単にそれらが連続して起こったから悪目立ちしちゃってるだけで、他の名立たる連中と比べたらお寒い限りと言ってイイ位だ。


 その証拠に、魔物ドラゴンを討伐したのにも関わらず、討伐士協会は二度目の勇者勲章ブレイブをくれなかった。


 これは協会本部が、ワタシの実力は(存命してるだけでも十人は楽勝で居るって聞く)ダブルブレイブのヒトらには及ばないと判断してるって事だと思う。

 実に素晴しい判断だ。

 何たって討伐戦現場って所は年季や場数がモノを言う事が多い。

 多少強くてもポッと出のヤツなんて簡単にヤられちゃったりするんだから当たり前なんだよね。


「七大騎士筆頭と総裁魔法顧問を道っぱたでボコッちまった話はどうしたよ? お陰でこっちじゃ朝からお祭り騒ぎなんだぜっ」


 えっ?

 自分で出した結論にウンウンと肯いてると、ホリガー氏が大仰なやってられないポーズと共に大声で出した言葉に目の前がクラッと揺れた。


「だ、だってソレ、たった三刻(約三時間)前の話じゃ……」

「オイオイ、ここはこの辺りじゃ討伐士達の一大拠点だぞ? 近場でそんな大ネタがありゃ、伝わるのに四半刻(約15分)も掛かんねーよ!」


 う、うそでしょ? ヤバイッ、マジでちょっと眩暈が。


「ア、アレはちょっとした間違いで……」


 急速に心臓がバクバク言い出しちゃったせいで、フラつきながらも何とか声を絞り出そうとするけど上手く行かない。

 マズいっ。

 顔とか超真っ赤になってるクサいし、どうしよう!


「間ぁ違いもへったくれもあるかよぉ!」


 オロオロしてる間も無く、ホリガー氏が一際デカい声を上げて畳み掛けて来た。


「貴族や士族のアドバンテージが一切無え、タダの見習いから腕一本でのし上った討伐従騎士が、ギガリッパーに始まって、あれよあれよって間に魔龍までっちまった挙句、衆人環視の大街道で天下に名だたる大物と決闘騒ぎだっ。しかも一方的展開で勝っちまったなんて聞いたら、現場の討伐士ヤツなら誰だって大喜びでドンチャン騒ぎだぜ!」


 ホリガー氏が凄い剣幕で怒鳴り付ける様な大声で捲くし立てると、直後から周囲のざわめきが大きくなって、更にヤバさが加速した。


「あの強そうな女が千体斬りかよっ」「バッカ、制服着てんのは『突撃上等』のマルコじゃねえか」「じゃ、じゃあ、あの小っさい方だってのかよ!」


 ああ、マルコさんの二つ名って「突撃上等」なんですね、軍人っぽい二つ名で良いですねぇ。

 瞬間的に現実逃避して、耳を塞ぎたくなる衝動に耐える。

 いや、もう、ホント、一体どうしろって言うんだよっ。


「凄っげえぇ、オレじゃ気配も読めねえっ」「あんなのニセモノだって」「どう見たって只の貴族のガキだろ」


 真っ赤になって立ち尽くすこっちの気も知らず、周囲の連中がデカい声で思い思いにこっちに向けて喋る声が聞こえてきて、色々と削られ捲くる。


 はぁぁぁ。これじゃ呈の良い晒し者じゃんか。


 まあ見世物になった所で、今のワタシは例の殺し屋が持ってた隠蔽魔導具を都合の良い様にカスタマイズしたブツを使ってるんで、まず素顔がバレる様な心配が無いってのが唯一の救いではある。

 もう顔に別の皮膚が張り付いちゃう様な感覚で、隠蔽と言うより変装って感じだけど、中々に満足の行く仕上がりでちょっと気に入ってるんだよね。


 しかしコレ、どうやって収めりゃ良いんでしょうか。


 見れば当のホリガー氏は、多分ワタシにここの討伐士達の声を聞かせたいとか、そう言った意図を持ってるみたいで、「どうだっ」って感じで胸を張ったままこっちを見ているだけだから頼りにならない。

 身体から超絶的に力が抜けて行っちゃってるし、このまま暫くの間晒し者の刑ですかね。

 まるでイジメだ。


「絶世の美少女って聞いたのに」「噂なんてそんなモンさ」「大したこたねーな」


 イジメと言う脳裏の単語にちょっとムッとしたところで、今度は容姿の話で盛り上がって来た周囲に更にムッとする。

 良くもまあ女の子に向かってそう言う言葉を吐けるモンだと感心しちゃうわ。

 ツラを覚えて、後で纏めてボコッてやろうかね……って、今はとてもじゃ無いけどそんな気力は無いけどさ。


「軽く不細工じゃね?」「美少女は言い過ぎだよな」「アレが美少女なら私なんて絶世の美女だ!」


 ちょっとソコ! お前みたいなメスゴリラがデカい口叩いてんじゃないっての!


 良く判らないけど容姿の話ってのは盛り上がるみたいで、どんどんとソレっぽい話で周囲がヒートアップする中、こっちの怒りゲージがレッドゾーンに突入して来ちゃいましたよ。


 くっそぉ、ザコ共が言いたい事言ってくれやがってぇ。


「ソレがどうしたっ! こっちの知った事じゃねぇっ。馬鹿共が勝手に騒いでろって言うんだよ!」


 我慢の限界が来たワタシはホリガー氏に人差し指を突きつけてガアーっと喚くと、一気に隠蔽魔導具をオフにしてゆっくりと周囲を見回した。


 オラオラッ、この妖精ヅラを拝みやがれぇってなモンだ。


 すると思った通り、ざわめいてた周囲が一瞬、面白い様に静かになって笑う。

 ふんっだ。ざまあ見ろ。

 喚くのはすっごく疲れたけど、超ヘタレ状態だってコレくらいは出来るんだっての。

 とその時、突然背筋にピピッと来ちゃう程の剣気が襲って来て驚く。


 何これっ?


 見れば周囲の連中も一撃で固まった様で、一気に辺り一帯を沈黙が支配しちゃってた。

 でもお陰で一瞬で復活出来たワタシが何事かと剣気の方向に振り向くと、同時にマルコさんにグイッと右手が掴まれて面食らう。

 うわっ、今のやったのってマルコさんなのかっ。


「今の内ですっ、お早く!」


 へっ? と思う間も無くマルコさんに速攻で馬車に連れ込まれ、バタンとドアが閉まると、直後に御者が凄い勢いで馬車を走らせ始めた。

 ううむ。どうやら助かっちゃったみたいですな。


「すっごく助かったよ、何だか悪いね」


 走り出した馬車の中、軽く深呼吸をして体制を整え、取り敢えずマルコさんにお礼を言いながらホッとする。


「いえ、謝らなければならないのはこちらです。申し訳ありませんでした」

「ええっ、別にマルコさんが謝る様な事じゃ無いでしょ?」


 こっちがお礼を言ったのに、恐縮気味に頭を下げたマルコさんにちょっとアセる。

 だって悪いのはこのワタシ、一向にああ言うのに慣れないこのワタシの性格が原因なんだもんな。

 あそこは「そうともっ、このワタシが千体斬りのマリーだ! 恐れ入ったか、ワッハハハ!」って感じで胸を張ってアピールとかしちゃうのが普通だ。

 そうすべき所で、恥ずかしさから勝手にグジグジと縮こまっちゃう方が悪いんだよ。


「閣下が目立つのをお嫌いな性格である事を事前に伝えておらなかったのですから、この件は偏にわたくしの責任であります。ホリガー殿は閣下に実情を伝えたくてあの様な真似をしたのでしょうが……」


「いや、だから別に責任とかそう言うのはどうでもイイよ。こっちだって悪いんだしさ」


 更に謝ろうとする言葉を遮って、この件はもう終わりって感じの手振りをすると、マルコさんがお礼を言って座り直した。

 ふう。取り敢えず妙な謝罪は終わった様だ。

 ああ言う事で変に謝られちゃうと、逆にこっちの性格を責められてる様な気になるんで、本音を言えばあまり触れて欲しくないんだよね。

 チラッとマルコさんの顔色を伺ってから、またゆっくりと深呼吸の体制に入ったワタシは「そう言えば」と思い出した。

 あの場に居た討伐士全員が一瞬とは言え固まった位だし、さっきの剣気はかなりのモノだったよ。


 マルコさんってば見かけに寄らず、相当剣が使えるんだな。


 レティと同等のクラスだと思うし、一度お手合わせでもお願いしてみたいレベルだわ。



今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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