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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
要塞の町
148/221

148話


「わたくしはその様な者に成る為、一族の反対を押し切って騎士学校に入ったのですっ。そのわたくしがあの様な者達の仇を取るなど、バカバカしいにも程があります!」


 オタついちゃった体制を立て直しながら、立ったまま力説するマルコさんにちょっと呆れる。

 直参官僚家の跡取りのクセに高等学院に入らず、騎士学校へ行った理由がそんな脳筋オチだったとは思わなかったわ。

 しかもこんな反応ってコトは、もしかしてマルコさんってお父さんが嫌いだったのかね。

 無念の死を遂げた筈の実の父親を「あの様な者」呼ばわりなんて、大概にも程があると思うんですけど。


「え、えーと、マルコさんのお父上って、真面目で頑固一徹なお役人さんとかじゃ無かったの?」


 何か収拾がつかなくなって来ちゃった感じの中、恐る恐る思ってた事を口にすると、マルコさんに鬼の様な形相でギロッと睨まれた。


「全然っ違います! 父は典型的な官僚ろくでなしで、真面目などと言う事からは極めて遠い精神の持ち主でした。やれ賄賂だの付け届けだの、貴族あほう共には媚び諂い、逆に弱い者達には散々搾取した上に村ごと皆殺しにした事もある様な、ハッキリ言って世にあだなすダニや虱と言った男ですっ。処刑されても自業自得!」


 倍増しで物凄い剣幕になっちゃったマルコさんにビビッて引き捲くる。

 こりゃマルコさんのお父さんって本当に悪人だった臭いわ。

 世の中の事を判らない子供ならともかく、こんな立派な大人のヒトが此処まで言うんだから、さぞかし悪かったんだろうなぁ。

 なんか物凄くガックリ。


「母は政略結婚で嫁いで来た癖に、おのれも省みず父の権威をバックに毎日毎日遊び呆けている様な女でしたので、小さな頃から顔を合わす事すら滅多にありませんでした。わたくしなどは7歳に成るまで乳母が母親だと思い込んでいた位ですから、自害したと聞いてもナンとも思いませんでしたよ」


 更についでって感じでマルコさんの口から出たお母さんに関する話で二度ガックリ。

 はぁ。その物言いじゃ、お母さんって人もかなり香ばしい人だったんだろうねぇ。

 やっぱ勝手な思い込みはダメだわ。

 ちょっと反省。


「要するに悪人共が勝手にヤりあって、より強い悪人の方が勝ったというだけの事です。わたくしにとってはせいせいしたと言う気持ちはあっても、それ以外はありません!」

「でもそうなると、マルコさんが討伐士協会の軍人やってるのって願ったり叶ったりって感じでしょ? なんで辞めようと考えてるのかな」


 鬼の様な形相のマルコさんがビシィッと言い切った所を見計らい、即座の切り返しを入れて先手を取る。

 さっき「西聖王国など出て行きたい」って言ってたけど、おそらく「連中」とやらに他所への異動を潰されている筈のマルコさんがそれを実行するには、討伐士協会を辞めて自由騎士(浪人)になるしか無い筈だ。

 勿論、密かにどっかの国と繋がりでも作っているんなら別だけどさ。


「そ、それは……」


 狙い通り、一気に今までの勢いが消し飛んだ上に、キョドって口篭るマルコさんが面白い。

 勿論、好機を逃さずワタシも椅子をスッ飛ばす様にして立ち上がった。

 今度はこっちの番ですよ。


「マルコさんってさ、ずっとおっさんの副官として戦って来たのに、おっさんを見捨てて逃げようってコト?」


 急がず慌てず、一言一言噛んで含めるような言い方で話しながら、ワタシはゆっくりと机に沿って動き、マルコさんとの距離を詰めた。

 怯えた様に後退りし始めたマルコさんをググッと睨みつけて嗤う。

 にゅふふふ、逃がさないよぉ。


「わ、わたくしは……」


 すぐに壁際にまで追い詰めると、マルコさんは上擦った声を上げながらシオシオになってしゃがみ込んだ。

 うむ、勝ったな。

 さあ出て来るのはコイバナか、はたまたヤバイ話か、どっちだ?


「閣下が……いえ、そのバルリエ閣下が、なのですが、討伐士協会から離れようとされている事を掴んでしまったのです」


 へえ、そうなんだ。

 覚悟を決めたのか、漸く本音っぽい言葉が出て来たマルコさんを眼下に見ながら腕を組んで納得。

 そりゃ話が出ただけでキョドる程愛しちゃってるおっさんが居なくなる協会の軍なんかに何時までも留まってる理由は無いもんね。


「つまり、現状じゃ男爵サマになるおっさんに付いて行く事が出来無いから悩んでるってコト? それならおっさんの家臣に成っちゃえばいいじゃん」


 もうド真ん中以外は言う気無いので、ド真ん中に剛速球を二連発でブチ込んで考える。

 おっさんが討伐士協会を辞めて聖公国で男爵サマになろうとしてるなんて話は初耳だけど、満更有り得ない話じゃ無い。

 例えば、何時ぞやのワタシが作る独立騎士団の顧問云々って時の話だ。

 あの話が出た裏に何かがあるなら、割りと近々におっさんが討伐士協会を辞めるって可能性はあるもんな。


「お解かりだと思いますが、今までお話した事情がありますので、現状のわたくしでは、あの方に御仕えする事も、正式な形では他国に出る事も、出来ないのです」


 こっちへの返事の積りなのか、しゃがみこんだままで目も合わさないマルコさんが切れ切れに言う言い訳に疲れる。


 まー、言う事は一々ごもっともな話だ。

 確かにマルコさんの黒丸指定は王名で出されてる筈だから、そんなヒトを正式に抱えるとなれば、例え外国でも王の勅許が必要になるもんな。

 色々と大変な話だし、そんな面倒事をおっさんに背負わせたく無いってのも判る。


 でも本当の問題はソコじゃないよね?


 この話の最大の問題は、マルコさんとおっさんの仲がハッキリしないって事で、後は全部枝葉に過ぎない。

 肝心な事に白黒付けないままだから得体の知れない状況になっちゃうんで、上手く行けば共同戦線、ダメなら自由騎士(浪人)にでも何でも成れば良いって気合を入れればイイんだよ。

 要するに、さっさと告って勝負賭けちゃえば良いのに、何やってんのかって事だねっ。


「とにかくマルコさんがまだ告ってないのが悪いっ。一番の問題はソコだよ!」


 態度じゃ丸出しなんだし、もういい加減にゲロっちゃえよオラオラって感じで、しゃがみ込んだままのマルコさんに爆弾を投げ込む。


「なっ、いえっ、でも、そのっ、わ、わたくしでは、あの御方の御眼鏡には、適わないの、です」


 しかしビクッと反応しながらも、マルコさんってば、まだ下らない事をウジウジと口に出してますよ。

 全くさぁ。

 本人を目の前に愛人枠でも構いませんと言い切った、アリーの爪の垢でも煎じて飲ませたろうかってのっ。


「そんなの言ってみるまで判んないじゃん」


 疲れながらも声を出すと、漸くと言うかやっとと言うか、マルコさんがこっちを見上げた。


「あの御方は、きっと、閣下の様な方がお好みなのです……」

「へぇ!?」


 まさかの「フェリクスおっさんロリコン疑惑」キター!


 半分涙目なマルコさんの言葉にビックリして絶句。

 でも、なんかこの姿に成って初めて女扱いされた気がして、ちょっと嬉しいかも知れない。

 士族や貴族なら普通に嫁に行く様な歳だってのに、幼女化以降のワタシってば、見た目や設定のせいでずうーっとお子様扱いだもんな。

 もっとも、その前からワタシに言い寄って来る様な野郎サマなんて、ブロイの名前に寄って来るヤツばっかで他は皆無だったけどさ。

 あ、ちょっと涙が……。


「ソレ、本気で思ってるワケ? どう考えても有り得ない話じゃん」


 って、馬鹿な事を考えてる場合じゃ無いわ。

 誤解はきっちり晴らしておかないと。


「どうしてですか!? ランス出動の際も、魔物ドラゴン討伐の際も、わたくしは全ての機会において外され、代わりにずっとあの方の側に居たのは閣下ではありませんか!」


 余計な事を考えてたせいで隙が出来てたらしく、ヒステリックな大声と共にスクッと立ち上がると、マルコさんが半泣き状態で睨み返して来た。

 むう。しまったって感じだけど、そんなの野郎サマには効いても女には全く効かないし、普通なら対立に火を注ぐだけだよね。


 そのまま睨み合いに入った状況に心の中で溜め息を吐く。


 そりゃマルコさんの言う通り、ここまで「触れなば落ちん」って感じのマルコさんに今まで全く手を出して無いんだから、そう言うのも判らない話じゃ無いけれど、何時ぞやのレティへの態度一つ考えても、おっさんは「玄人には強いが素人には激弱なバカヤロ様」だって可能性の方が遥かに強い。

(レティはかなりの肉食獣なので野郎サマ慣れしてるし扱いも上手い)

 要は身の下関係がきっちり、と言うよりは多分、所謂「根性なし」ってヤツなんじゃないかと思うんだよね。


 そもそも野郎サマなんてのは女と違って、このテの事ではウジウジしてるのが普通だ。

 逆に簡単に好きだとか愛してるなんて迫って来る様なヤツは、大抵白騎士みたいなクソ野郎だって相場が決まってる。


「マルコさんは野郎サマって連中の事が全く判ってないんだねぇ」


 睨み合う目をこっちから外し、やれやれって感じで両手を上げて大げさに溜め息を吐いて応える。

 此処まで来たら仕方無い。最後までエスコートするのが騎士道ってヤツだよねっ。

 こっちの様子に一瞬気を抜いたマルコさんの呼吸の隙間を縫う様に、ワタシはスパッと彼女の額に人差し指を突きつけてボソッと声を出した。


「モロに生き死にが掛かる現場に、好きな女連れてく馬鹿なんて居ないよ」


 うむ。決まった。

 完全に虚を付かれたマルコさんが固まったのを見て薄笑いを浮かべる。


「野郎サマなんて大抵はエエカッコしいなんだから、考えるまでも無い事でしょ? イイ歳して何でそんな事も解んないのかな」


 そして今度は普通の声ですよって感じで、ややゆっくりと喋りながら人差し指を下ろすと、マルコさんはうな垂れて涙目が半分から全部になった。

 本当は解ってるクセに、何時までも逃げを打ってるから余計な事まで考えちゃうんだよ。

 思うにマルコさんは、第一軍内でずっとおっさんの側近をやってる位だから、今の関係の居心地の良さが捨てられないんだろう。

 どうせ部隊の連中にだって微笑ましい様な目で見られちゃってるんだろうし、それが例えヤバい戦場の只中であっても、それなりにリアルが充実してらっしゃったに違いない。


 学院とかでも、そんな「ちょっとイイ感じ」の連中って結構居たもんな。


 こっちは御一人様でシコシコと孤独な作業に邁進してるってのに、イイ御身分だと何度睨みつけてやった事か!

 でもそう言うヤツに限って自分からは勝負を賭けられなくて、ワタシの睨みも何処吹く風って感じで話を持って来やがったりするんだよね。

 そりゃこっちは子爵サマだから、そこらの貴族じゃ全く相手にならない位にエラいワケだし、多少の事なら親とかにも口添えとかしてやれる立場だったけど、なんだかなーと疲れる事が多かったですよ。


「わ、わたくしだって、この身が普通であれば、とうの昔にあの方に告白くらいはしておりますっ!」


 ほほう。それは本当の本気なんですかね。

 意地になって来たのか、今までと全く違ってド真ん中な言葉を吐いたマルコさんにほくそ笑む。


「だったらさ、その印さえ何とかなれば、おっさんに告って勝負を賭けるって言える?」

「む、無論、です」


 即答かよ!

 モロに勝負手なんだし、もっと色々ウジウジするのかと思ったら、呆気無い位にイイ答えをくれたマルコさんにちょっとグッタリ。

 今までの事はナンだったんだよと、小一刻(約一時間)は問い詰めたいっ。


「ぜぇーったいだね?」


 しかしまあ王手は王手なんだし、さっさと詰むとしますかねって感じでダメ押し。


「ハイ。もしその様な事が起これば間違い無くと、御約束しても構いません。しかし幾ら閣下でも、簡単なお話では無いでしょうし……」


 良し、詰んだっ。

 パンッと手を叩き、涙目のマルコさんの話を途中で切捨ててヘラヘラと笑う。


「ざーんねんだけどっ、ワタシってば商伯家に絶対に近いツテがあるから簡単なんだな! 聖公国ならおっさんと一緒だし、お望み通りでしょ?」

「ま、まさか……」


 涙目だった事すら忘れ去った様な顔になったマルコさんが呆然と立ち尽くすのを見ながら、何とかなったと胸を撫で下ろす。

 しかしこの前のハイマン様もどき(?)と戦った時もそうだったけれど、何か今回も何時の間にかエラい事に首を突っ込んじゃってる気がする。

 自分のコトにも手が回らないってのに、他人サマの色恋に首を突っ込んだ挙句、歴戦の討伐騎士(それも大隊長クラス)を他国に斡旋するなんて、どうしてこうなったのか。

 ホント、このノリで行っちゃう性格は何とかしないと、マズいわ。


「とにかく、女と女の約束だからねっ。破ったらワタシがどっか貴族家の麗しいお嬢様でもおっさんに宛がって、進退潰してあげるから!」


 首を捻りながらも決定的な追い討ちを掛けると、呆然としてたマルコさんが気が付いた様に肯いて、ヨロヨロと元の椅子に座った。

 ま、いっか。イイ事をしたんだと思う事にしよう。

 今やランス最大最強の軍権を持つおっさんの副官で、なおかつ結構な実績まで持ってるマルコさんを釣れるとなれば、サラのヤツなら絶対に食い付いて来る事間違い無しだし、ウマく行ったらそれこそウインウインな話だ。

 マルコさんが本当に何処とも繋がりが無いかとか、直属の上司であるおっさんに話を付けて無いとマズいとか、その辺はマチアスおじ様にでも手紙でお願いしておけばイイしね。


 ワタシはゆっくりと椅子に座り直すと、サラにどんな内容の手紙を書いてやろうかなと、考えながら冷たいお茶の残りを飲んだ。



今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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