147話
私事で色々とありまして、しばらく更新が出来ませんでした。申し訳ないです。
今回は二話連続で更新させて頂きますので、どうかお許しを。
「そもそも討伐士協会は国家ではありませんから、例え褒章が出たとしても爵位など論外です」
言ってる事が判らんって事を態度で示すと、マルコさんが疲れた様な感じでこっちを見た。
何だか全く話が噛み合わない。
フェリクスおっさんとマルコさんの関係の話なのに、何でこうなるのかな。
「言われなくてもそんな事知ってるよ。世俗との関係をブッた切らないと入れない以上、討伐士協会のヒトらなんて上から下まで全員が無位同然の根無し草だもんね。でも、だからこそ外の色んな連中が名誉爵位だの各種称号だのを出して、活躍してるヒトを引っ張ろうとするワケでしょ?」
ちょっとイラッと来たので、ぞんざいな物言いで討伐士協会をブッた切って様子見。
あの件で協会がおっさんにくれた物はランス支局長の座で、男爵云々とかは全く別の話なんだよな。
と言うか、おっさんの支局長就任は初めから決まってたみたいだから、あの件で協会からの褒賞なんて本当は無かったんじゃないかと思うんだよ。
それどころか、普通に考えればリプロンからランスへの異動なんて左遷だし、とっくの昔に討伐騎士に成ってておかしくない実力を持ってたジュリアンさん昇進の件にしても今更感が強い。
ロベールさんの話じゃ、おっさんってば協会内でもかなりの問題児みたいだし、あのヒトの協会内での立ち位置って実は結構ヤバいんじゃないのかね?
「確かに言われる通りですね。しかし如何に名誉とは言え、爵位は本人の許諾無しでは与えられませんので、既に発表されている以上、バルリエ閣下が除隊後に聖公国で男爵様に御成りになられる事は決定したも同然です」
ま、どうでもイイ事を考えてるバヤイじゃないかと思いつつ、話を聞きながらマルコさんを見る。
すっかりキョドった感じも無くなって、冷静な様子を取り戻したのは良いけれど、何だか微妙な雰囲気だ。
おっさんがエラくなっちゃうのがイヤって感じでも無いし、一体何が原因なんだろう。
「まあ騎士爵と男爵じゃドエラい違いだから、他の国が同じ様なオファーを出せる筈も無いし、決まりって言えばそうだけどねぇ」
口にするのも馬鹿馬鹿しい程当たり前な事を言いながら、ワタシはテーブルに乗り出すと、お面の様な表情になったマルコさんの顔を覗き込んだ。
そろそろ面倒臭くなって来ちゃったし、ここはもう直球勝負で正面突破と行かせて貰いますよ。
「でもこれでさっきの話題に戻るんだよ。おっさんに男爵位をくれるのは公王家なんだから、副官のマルコさんにだって公王家から何か出たっておかしく無いよね?」
要するに、あの件のスポンサーは聖公国なんだよね。
西聖王国の有名部隊を全滅させた上に、三馬鹿公爵家の一つであるロダン家の次男も捕まえたって聞いて、大の西聖王国嫌いな公王サマが大喜びで(元々騎士爵を出してた)フェリクスおっさんに男爵位を出したり、他の者達もよしなにって感じで協会に多額の寄付でもしたってのが実情だと思う。
その時は総裁殿下が出張っちゃったせいで何も出なかったワタシにだって、魔物ドラゴンを退治した時は即座に称号を出した位なんだから、その御喜びようも判るってモンだ。
魔龍討伐者称号なんて、他ならぬ女王陛下の御依頼があったシルバニアならともかく、全く縁の無い公国も出した理由はソレ以外に考えられない。
で、こう言う裏がある以上、マルコさんにだって公王家から何らかのオファーがあった筈だ。
そして多分、そこにこそ、この妙な話の食い違いの原因がある気がするんだよね。
「わたくしは大罪人の娘なのです。ですから公式に表彰されたり、褒賞を貰ったりする様な事はあり得ません」
ほえ?
覗き込むワタシの視線を真っ向から迎え撃ったマルコさんの口から、思わぬ言葉が出て来てちょっとビックリ。
「ふうん。大罪人、ねえ」
ほほぅと溜め息を吐きつつ、姿勢を戻して腕を組む。
何が出て来るのかと思ったら、そう来たかぁ。
「立ち入った事聞いて悪いんだけどさ、その話って詳しく聞いても良い?」
キナ臭い話を口にしたせいか、背筋を伸ばして毅然とした態度になったマルコさんに訊いてみる。
嫌なヤツだと思われちゃうだろうけど、ここはちょっと、いや、どうしても聞いておきたい所だ。
何故なら、もし今の言葉が真実ならば、マルコさんは所謂「黒丸印が付いてる」ってヤツで、簡単に言えば未判決の犯罪容疑者みたいなモノになっちゃうからだね。
ほとんど国の法では、大きな権限を持ってる官吏が汚職で死罪になったりすると、その家族にまで累が及んで準犯罪者扱いになる。
ロクでも無い事をしてるヤツの家族なんて叩けば幾らでも埃が出るんで、その「叩く」って行為をやり易くする為だって言われてる法律だけど、この準犯罪者扱いになると色々と押さえられちゃって、実質的に士族としては死んだも同然になっちゃうのですよ。
「問い合わせ一つで直ぐにでもお分かりになられる話ですので、全く構いません」
なんか興味本位丸出しって感じだったし、ちょっと訊き方が不味かったかなと思ったら、マルコさんは嫌味一つ無く、態度も崩さないままで肯いてくれた。
うーむ、出来たヒトだ。
ワタシなら「御自分で御調べになっては如何ですかぁ?」くらいの事は言っちゃう流れだけどねぇ。
「もう十年は前になる話ですが……」
しかしその凛とした様子とは裏腹に、マルコさんの話は結構酷い話だった。
話によれば、マルコさんのお父さんは西聖王国直参上級士族で中央官僚だったそうだけど、マルコさんが騎士学校に行ってる間(普通このテは寄宿生活だ)に巨額の公金横領で逮捕されて公開処刑されちゃったんだそうだ。
当然ながら家は取り潰しに成っちゃうし、お母さんも後を追って速攻で自害しちゃったそうだから、一門からも即座に絶縁された一人娘のマルコさんは、一時完全に孤立した上に捕縛命令まで出てたらしい。
辛うじて、騎士学校の担当教官の機転で討伐士協会に逃げ込む道を選択出来たから何とかなったって話だけど、若くて美人な娘さんが西聖王国の腐れ役人共に捕縛されちゃえば悲惨な事になってただろうから、その点だけは救われたって感じだね。
「それはまた何とも言い難い話だねぇ」
話を聞き終わると、ワタシはダウナーな気持ちを吐き出す様に長い溜め息を吐いて目を瞑った。
ウキウキしちゃう様な話が聞けると思って付いて来たのに、こんな嫌な話を聞かされるとは思わなかったよ。
なんか超ガッカリって感じ。
「正直に申しまして、この様な事はこの国ではさほど珍しい話ではありませんので、閣下にはお気になされない様にお願い致します」
ワタシが思いっきりダウナーな感じになったせいか、はたまた余計な事に首を突っ込んでくれるなと言う予防線か、マルコさんが突き放す様に言った。
「そう言われちゃうと、ますます何も言えなくなっちゃうけどさぁ……」
言われなくてもこんな話は西聖王国では良く聞く話だし、運が悪いとしか言い様の無い話だってのも判る。
西聖王国で公開処刑になる様な高位の役人なんて、余程の間抜けじゃ無い限りは政争の敗者か、融通の利かない真面目サンに決まってるしね。
マルコさんを見る限り、お父さんって人は実直で煩型の面倒臭いタイプだった思うけど、そう言う人って一寸でも躓いたが最後、ここぞとばかりに大量の濡れ衣を被せて始末しちゃうのが西聖王国の直参官僚共のやり方だもんな。
「しかしさぁ、ソレってもうかなり前の話だよね。普通、黒丸印なんて保っても五年って所なんじゃないの?」
目を開けて、話の論点をズらすついでにちょっと疑問に思った事を口に出す。
幾ら腐り捲くった西聖王国でも、準犯罪者指定が十年なんてのはあまり聞いた事が無い。
それに名誉とは言え、西聖王国の騎士爵サマでもあるおっさんがそんな指定を放っておいてるのも妙だ。
「わたくしもそう思いましたし、捜査にも極力協力した手前、何度も問い合わせましたが、未だにそのままとなっています。バルリエ閣下も何度か本部経由で問い合わされたと聞きましたが、やはり同様だそうで、手の打ち様が無いと言われておりました」
ふうむ。やぱしおっさんも黙って見てたワケじゃ無いんだね。
でもそんな事より「やってられん」って感じのポーズで答えたマルコさんの態度の方が、すっごく気になるんですけど。
討伐士協会に入る士族のヒトって、御家再興とか名誉回復とかを狙ってるヒトも多いって聞くし、今の話の経緯だとマルコさんも当然その手なのが普通だ。
なのに、何かノリが軽くないですかね。
「それってさぁ、マルコさんのお父さんを追い詰めた連中が仕返しを嫌って印を外さない様にしてるんじゃないの?」
取り敢えず、西聖王国ならありそうだなって話を振ってもう一度様子見。
元々王家御直参の高位士族だったって事は、マルコさんのお父さんの政敵だった連中は今でも大きな権力を持ってるんだろうし、的外れな話でも無いと思う。
もしかするとマルコさんってば、その関係の連中の妨害が激しくて、色々と諦めちゃったのかな。
「ほぼ間違いの無い話でしょう。連中はわたくしが士族として復権する事を極端に嫌う様で、今でも様々な下らぬ嫌がらせをしてくる位ですからっ」
あれぇ?
表情と言葉は毅然とした風なのに、ノリが軽い所か「もうウンザリ」って感じで、片手を放り投げたマルコさんの態度に驚く。
これって今は亡きお父さんの仇の話なんだから、普通はもっと深刻な雰囲気になる所なんじゃないの?
「嫌がらせって……そうか! だから第一軍の話に繋がるのかぁ」
でもこれでやっと最初の話が繋がったわ。
うんうんと肯きながらも思い出す。
レティやマチアスおじ様が言うには、元々は西聖王国の三馬鹿公爵とそのお仲間達を抑える為の第一軍司令部が、何時の間にか政治屋と小役人だらけになっちゃって、今やミイラ取りがミイラに成ってる有様なんだそうだ。
総裁殿下直下の部隊だってのに、上層部は西聖王国王宮との癒着だの腐敗だのって噂が出捲くりらしいし、推して知るべしって感じだわな。
「全く馬鹿げた話ですっ。さっさと西聖王国など出て行きたいのですが、下らぬ嫌がらせのお陰で他国からはロクな誘いも無く、わたくしは今でも外とは何の繋がりも無い宙ぶらりんな立場のままなのですから!」
こっちの肯きに反応したのか、ちょっとエキサイトして来た感じのマルコさんに更に疑問拡大。
気持ちは判るけど、お父さんの仇とかはイイのかな。
しかも名誉回復すら狙ってないみたいに聞こえるし、それじゃ直参士族どころか単なる一匹狼のセリフだよ。
「まあ大体の話は判ったよ。でもさ、ぶっちゃけた話、マルコさんって別に御父上の無念を晴らしたいとか、御家の再興を図りたいとか、そんな感じには見えないよね?」
なんだか妙な方向へ行ってる様にしか見えないマルコさんを宥めながらも、直球ド真ん中をブチ込んでみる。
もう完全に「大きなお世話」って感じだけど、ここまで来たら嫌われようがナンだろうがもうイイやって感じだ。
「閣下にお聞きしますっ、そも士族とは何者ですか!?」
すると握り拳したままのマルコさんがいきなり立ち上がって、ちょっとどころか超ビックリ。
えっ、ちょっと、ナニコレ?
「士族とは、魔物に抗う術を持たない一般人に代わり、人類の為に魔物と戦う事が第一義な者達では無いのですか!?」
「ああ、うん。そ、そーだね」
なんだかなー。
何時ぞやのアリーも真っ青って感じな勢いで、アツく語り始めちゃったマルコさんにオロオロしちゃう。
一体全体どう言う事なんだっての。
取り敢えず、この一話はこの辺で切らせて頂きます。
読んで頂いた方、有難う御座いました。