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145話


「ハイッ!」


 気合一発、レティが頭部にブチ込んだバスタードソードの一撃を食らって、はぐれオーガの両目がグルンッと回った。


 ありゃ即死だわな。


 レティのヤツ、オークの群れとった時とはまるで別人みたいになっちゃって、ちょっとコワいです。

 オーガを一撃で屠るなんて、一体何処の騎士卿サマだっての。

 鍛え直したいからって頼まれて、再出発の時に前後を代わってみたものの、色々と悔しかったのか、なんだかレティの気合の入り方がハンパじゃない。

 さっきトカゲ野郎の斥候っぽい三匹を一瞬で始末しちゃった手際も凄かったし、アレの町の時の補佐のおっさんじゃないけど、あんなの見せられたら誰でもビビるよなぁ。

 しかも動きや獲物のやられ様を見る限り、ワタシが前に知ってたレティの腕より一段上っぽい気がするからシャレにならない。

 色々と妙な心配をしてたワタシが馬鹿みたいだ。


 しかし……。


 探知魔法もどきで周辺警戒をやりながら、オーガ死体に魔法陣を想写して、ついでに樹上から降って来たゴブ三匹にスラッシュで引導を渡すと、ワタシは溜め息を吐いた。

 この大きな森を直接ショートカットするって言うコース取りは、やはり完全に間違いだったようだ。

 こんな人里近い森なのに、単体のはぐれモノとは言えオーガまで出て来るなんて、ロダーヌの東側ってハンパ無いわ。

 ちょっと舐めてたカモ。


「三時方向から魔物四体、多分トカゲ、かなり速い。距離は約百五十ヤード(約135m)」


 そうこうしてる内に今度はトカゲ野郎の影が急速接近して来たので、レティに警戒の声を投げる。


「了解で御座いますっ。ひぃ様は討ち漏らしをお願いします」

「ホイホイ」


 気合満点のレティに妙な返事を返して、ワタシはインベントリからフェリクスおっさんに貰った連発銃を引き抜いた。

 どうせフォローなんて要らないんだろうけど、一応念の為ってヤツだね。


「いやー、姫サンにもビックリしやしたが、アネさんにもビックリでやすよ。あれじゃ近い内にも金章間違い無しって感じでやすね」


 前を歩くロベールさんが降参ポーズでこっちを向いたので笑って返す。

 当然こっちも降参ポーズだ。

 何たって突っ込んで来たトカゲ共は、迎え撃ったレティに見る間に次々とやられちゃって、討ち漏らしもクソも無い有様だ。

 勿論ワタシの出番なんてこれっぽっちも無い。


「でもさー、この森ってマジで魔物多くない? ロダーヌのこっち側って魔物が強いのは知ってたけど、数がここまで居るなんて聞いてなかったよ」


 さっきまでしてたマジな話が途切れたので、ヘラヘラと笑うロベールさんにちょっと訊いてみる。

 此処ってちょっと魔物の数が多すぎるんだよね。

 この森に入ってからまだ一刻半(約1時間半)程度だってのに、あのオークの群れを除いても、もう百体近く討伐してるしさ。


「うーん。アッシだってこの森に入ったのは初めてでやすが、多分さっき丸ごとブッ潰しちまったハイオークと率いてた群れのせいなんじゃないですかねぇ。あいつ等がこの森をノしてたとすりゃ、居なくなった途端、色んな魔物が探索に出て来ちまってもおかしくは無いでやしょう」

「ああっ、そう言う事かぁ」


 トカゲ共の死体の処理を始めたレティに「胴体はやっとくから」って合図を出しながら、ワタシはロベールさんの答えにポンッと手を打った。


「まあそろそろ止まって来るんじゃないですかね。ゴブリンは馬鹿だから別としても、ハイオークをヤった連中がアッシらだって判れば、他の連中はもう襲っては来ないと思いやすぜ」


 成る程ねぇ。

 確かに探知魔法もどきにゴブと思しき影は幾つもあるけれど、他の魔物でこっちに向かって来そうなのは、今のトカゲ共が最後っぽい。


「って事はこれからは多少静かになるって事で、ロベールさんの話もバッチリと聞けるってモンだね」


 レティが大丈夫だって判った以上、今重要な話は、もし適性が無かったら多分十歳くらいで思考加速魔法の餌食になってた筈のロベールさんの話だ。

 今まで色々聞いて来て、このヒトの魔法に対する感覚とかクセってヤツも大分判って来た。

 一言で言えば、ロベールさんは思考加速の魔法感覚で魔法技術を見てるから、ある意味でワタシの同類って感じで、普通の魔法士とは魔法に対する視点が全く違うんだよな。

 だから内容もかなり面白いんで、聞いてて飽きない。

 後ろからポンポンと肩を叩いて話の続きを催促すると、ワタシは通り過ぎざまにトカデ共の胴体に魔法陣を想写して、クーちゃん達に回収を頼んだ。


「何処まで話しやしたっけ? まあ纏めちまえば、頭の中が速くなると色々な事が見えてくるんでやすよ。物事の動きがハッキリするって言うんですかね。そしたら周囲の連中やそのテの魔法陣とかのやってる事が一々腑に落ちるって感じで、おかげで色んな魔法を見て覚える事が出来たって感じでやすか」


 ほほう。それはまた随分なお話ですねぇ。

 オーガが出る前と同様、隣にやって来たロベールさんが話し始めてくれたのは良いけれど、話の内容にはちょっと眉を顰めちゃうよな。


「ふーん。それじゃただの『もどき』ってコトじゃないの」


 今のロベールさんはそんな感じからは遠いけど、一応のお約束ってヤツで、ちょっと訝しげな目で睨んでみる。

「もどき」って言うのは、所謂「魔法士もどき」って言う意味で、きちんと魔法を勉強したワケでも無いのに、見様見真似で魔法を使ってるヤツの事を指す。

 世の中そんなヤツなんてザラに居るけれど、そう言う連中は大抵、ちょっとした壁にぶつかっただけで死んじゃうんだよね。


 魔法なんてモノは本当は日常の中の非日常で、そう言う意味では正しく奇跡を起こす方法論だ。

 だから様々な反作用や副作用が付き物な上に、ちょっとでも扱いを間違えれば、その反動が容赦無く術者に降り掛かって来る。

 そりゃ基礎が無くて応用が利かないヤツなんて簡単に潰れちゃうわ。

 ワタシも小さな頃は苦労したもんな。

 クーちゃんやピーちゃんが止めてくれたり、酷い時は身代わりに成ってくれたからこそ生き延びたって感じだし。


 あの小煩い魔法士協会がその手の連中を見て見ぬ振りって態度なのも納得だ。


「まあそこはソレ、アッシは『もどき』連中の悲惨な末路をこの目で見てやすからね。施設から開放された後で、ああは成りたく無いって一心で軍隊に入ったんでやすよ」


 ほぉ、そう来たか。

 デカい魔物が来なくなったからか、漆黒の投げナイフ(?)みたいなヤツをバンバン飛ばし撒くって、周囲にやって来るゴブのお掃除に入ったレティを見ながらニヤりと笑う。

 流石と言うか、成る程と言うか、抜かりが無いよなぁ、ロベールさんも。


「キュッ」


 可愛い声と共に魔物死体を担いだクーちゃん達がわらわらとやって来たので、ロベールさんの話を聞きながら、ホイホイと対応して行く。

 クーちゃん達もバカじゃ無いから、全員分の獲物の処理を頼まれても、魔石はちゃんと別々に渡してくれるので、それも別個に受け取る。

 可愛いだけじゃなくて頭もイイんだよね。

 ホント、後でお礼にモフり倒してあげないとイカンですな。


「キュキュッ」


 最後にレティの方を指差しながら魔石を渡してくれたクーちゃんにナデナデして御礼をすると、ポケットにそれを突っ込んで、ワタシは再びロベールさんの方を見た。


「で、結局卒業後の進路はどうなったワケ? 士官学校に入ったワケじゃないよね」


 話によるとロベールさんは、タダ同然で魔法学の基礎を教えてくれる様な組織は軍隊しかないとアタリを付けて入ったって事なんだけど、魔法力の大きさのせいで即座に下士官学校へブチ込まれた挙句に「コレで飯が食えるなんてサイコー!」って調子で勉強しまくったら、首席卒業しちゃったらしい。

 そりゃ思考加速魔法を呼吸する様に操るヒトに常人が勉強や試合で敵うワケが無いもんな。

 でもそれってば、件の前歴を色々と誤魔化してる手前、ちょっとヤバかったんじゃないですかね。


「当然でやすが、士官学校なんかにゃ行けやせんので、第一軍に入りやした」


 訊いてみればやっぱりって答えが返って来たものの、それもそれで結構大変な話ですよ。


「へえ。良くそれで通ったね」


 不貞腐れた様に笑うロベールさんに更に疑問を投げ返して、ちょっと考え込む。

 だって討伐士協会だろうが何処だろうが、下士官学校を首席で出る様な人なんて、普通なら士官学校(騎士学校)へ行けって言われるに決まってる。

 一般兵や下士官って身分が無い人が成る物だから、そこまで能力がある人ならば、誰かしらエラい人が身分を都合して重用しようとするモノだからね。

 前歴を誤魔化さなくちゃならないロベールさんが断ったのは当然として、簡単には断ったり出来無い筈だし、どうやって凌いだんでしょうか。


「確かに成績上位のヤツで士官課程に進まなかったのはアッシだけでしたが、第一軍には今の十七旅団の前身に当たるバルリエ様の部隊がありやしたからね。そこに入りたいって言ったら『そう言う事か』って簡単に納得してくれやしたよ」

「はぁ。ソレってどう言う事?」

「上位成績者は各部隊で取り合いになるのが常なんで、逆に行き先を選べる特権があるんでやすよ。だから当時、協会内でもピカ一な戦果を挙げ続けてたバルリエ様の部隊の名前を挙げたんでさぁ。元々あのお人は協会内部じゃ伝説だらけの暴れん坊で、部下も凄えヤツらが集まってやしたから、そんな所を志望すれば『男らしいヤツ』って感じで通るんでやすよ」


 ちょっと自慢げに答えるロベールさんの返事にドッと疲れる。


「なんだかなぁ」


 苦笑いを返すのがせいぜいだよ、ホントに。

 要はヒーロー志願のお馬鹿な若造の演技で誤魔化したってコトなんだろうけど、そんなのが通じるなんて、世の中って本当に脳筋にアマいわ。

 ガックリしながらも、前のレティが段々とヒマそうになって来た事に気が付いて、探知魔法もどきで確認すれば、どうやらこのデカい森もそろそろ終わりが見えて来たようだ。


「二人共、そろそろ森も終わるから、この辺からちょっと走るよっ」


 森を抜ければデントの村は目と鼻の先だし、丁度良くロベールさんの話も聞くべき事はほぼ聞き終わった。

 後はいよいよ、うなぎ料理と御対面って感じですよっ。

 ワタシは二人の短い了解の返事と共に、逸る気持ちを抑えつつ、身体制御魔法のみで走り出した。



今宵もこの辺までにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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