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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
騎士達の主(あるじ)
140/221

140話


「ソレって今日の事は無かった事にしてくれるってコトか?」


 じい様の態度がちょっと気になったけど、ここはそんな些細な事に構ってる所じゃないので、グイッと一押ししてみる。

 和平交渉どころか、話そのモノを一気に纏めちゃう絶好のチャンスだもんね。


「ふむ……それは構わぬが、お主が色々と聞いてしまった話は黙っていると確約してくれぬか? こちらにも事情があっての」


 すると未だに降参の手振りを辞めない御前クマから、好感触の返事が来たのでニッコリ。

 コレってさっきの「他言無用と致そう」ってセリフと合わせて考えると、そっちのヤバい魔法の事は黙っててやるから、こっちの事も黙っといてくれよって事だよね。

 実にイーブンな取引きだ。


「オイオイ。こちとらだって腐っても騎士の端くれだぜ? 基本のお約束は守るに決まってるだろ」


 元々、騎士なら「手合わせの最中に偶然知っちゃったヤバい話」は知らん振りでスルーするのが基本だし、ここはウンと言っておくのが吉だ。

 しかしワタシの返事を聞いた御前クマは、何故か器用な仕草で肩を竦めて見せた。


「確かに基本と言えばそうじゃがな。世の中色々と世知辛いのも事実であるし、ランドルフやドロテアの件もある」


 ああ、成る程ね。

 騎士間のお約束なんて一笑に付されて裏切られるのが当たり前の世の中で、ちょっとアマい物言いだったわ。

 大した事の無い話ならともかく、黒鎧野郎や魔法士女のセリフには結構ヤバい話もあったし、運び出される時に口にしてた話なんか、輪を掛けてヤバそうな雰囲気だったもんな。


「はっ、クドいぜ。ガキだからって舐めるんじゃねえ。そっちにもこっちのネタはあるんだし、お互いイーブンって事だろ?」


 でも、そんなの聞こえない振りに決まってるじゃんか。

 誰だって余計な厄介なんて背負い込みたく無いっての。

 それにぶっちゃけた話、ワタシに判ったのは黒鎧野郎達が最終的に罪一等を減じて貰えそうってコト位で、後は何を話しているのかもサッパリだった。


「別に舐めてなどおらぬが……そうか、ならばその剣はお主に取らそう。それで手打ちじゃ」


 え、その剣って、まさか今ワタシの目の前に転がってるこの剣のコトですか?

 御前クマが可愛らしいおててで、さっき投げ込まれた剣を示したのでちょっとビックリ。

 嘘でしょ?

 デ剣とイイ勝負か、ヘタすると上回っちゃう様な極上モノだよ、コレ。

 値段を考えたダケで眩暈がしちゃうんですけどっ。


「マジかよ。こっちはそっちの手下を三人も重症にしちまったんだぜ? それなのにそんな業物まで貰っちゃ、そっちが割に合わないじゃねえか」


 思わず本音が口から出ると、御前クマが天を仰いだ。


「お主、根っからの騎士なのじゃなぁ。ワシにとっては好感しか無いが、その様な欲の無さでは世を渡るのも難しかろう」


 げぇ。折角退いてやったってのに、まさかのダメ出しですかぁ。

 見れば御前クマのヤツ、天を仰いだついでに、何時の間にか「心外だ」ってポーズまで決めてた。

 なんだかなー。大きなお世話だってんだよね。


「そもそも臣下が勝手にお主に喧嘩を売った挙句、更に余計な事にまで巻き込もうとしたのだから、あるじであるワシが詫びるのは当然じゃ。しかるに、その為に赴こうとしたら周りが泣いて止めおったせいで、生身で来る事すら叶わなんだ。斯様な無様を晒しておる以上、こちらとしては剣の一本くらいは出さねばメンツが保てぬ」


 心外ポーズのまま喋る御前クマの言葉を聞きながら、ワタシは心の中で溜め息を吐いた。

 まあ、言いたい事は判る。

 要するに直系王族のおエラいさんが謝るんだから、ケチケチしてたら沽券に関わるって事なんでしょね。

 でもさぁ、この場合はどう考えてもタダの口止め料だよな。


「そこまで言われちゃ、こっちも黙って貰っておくしか無いけどさぁ」

「口止め料なんて、こっちからは一切要求してないゾ?」って意味を込めて、こっちも心外だってポーズを決めながら、ワタシは剣を手に取った。


 ああ、やっぱりコレは良い剣だわぁ。

 デ剣もそうだけど、これもカタナ剣のクセにデカいし、ズッシリとした重みが心地良い。

 コレ、本当に貰っちゃってイイの?


「うむ、持って行け。大体白刃剣など、おいそれと衆目の元で抜いて良い剣では無い。ソレは普段使いの剣として使えば良いであろう」


 思わず確認しちゃうと、御前クマが再度肩を竦めてみせた。

 いやー、この剣だって普段使いにしてたら注目の的だと思うけど、その辺は直系王族サマには判らん話だろうねぇ。


「判った。じゃあ有り難く貰っておくゼ」


 にゅっふふふ。

 何かすっごく儲かっちゃった。

 こんな御褒美があるんなら、偶には脳筋全開モードで暴れるのもイイかも知れないよね。


「そう言えば最後に聞いておきたいのじゃが、噂に聞くお主の師は元気にやっておるのかの?」


 にゅ?

 貰った剣を抱いてニマニマしてると、何時の間にかじい様に抱き上げられてた御前(クマ)が、別れの挨拶っぽい事を言い出してた。

 おっといけない。未だ終わってないんだから、もうちょっとの間は我慢しないとねっ。


「元気過ぎて、オレ程度のヤツじゃ寝込みを襲っても返り討ちに会う位だよっ」

「ハッハッハッ! そうかそうかっ」


 どうせししょーの知り合いなんだから、手紙のやり取り位はしてるんだろうと思って適当な事を言うと、御前クマは大きな声で笑い出した。

 ぬう、謎な笑いだ。

 こんな反応を返すなんて、もしかしてこの御前クマ、さっき脳裏をチラッと掠めた予感通りの人物なんじゃないのかね。

 だとしたらワタシ、マジで命拾いしちゃったのかも知れない。


「次は生身で会おう。その時は是非とも剣で手合わせを頼むぞ? ではさらばじゃっ」


 ちょっと冷や汗が流れちゃったせいでキョドってると、言いたい事を言い放った御前クマを抱えたじい様が、素晴しい跳躍を見せてワタシの目の前から消えた。


 おおー、やっぱあのじい様ってタダ者じゃ無いわ。

 幾らキョドってたとは言え、ワタシの目でも一瞬消えた様に見えるなんて、凄い跳躍ワザだよ。

 やっぱあっちともってみたかったな、と思いつつも、ワタシはいそいそと抱えてた剣を握った。


「さて、では検分と行きますか」


 既に遥か彼方に行っちゃったじい様達を一瞥して、もう一度確認。

 うむ。どうやらこの件はこれで完全に終わった様だし、もう剣を見ちゃってもイイよね。


「おおっ!」


 鞘から抜くと、それはやっぱり溜め息が出ちゃう程に素晴しい一振りだった。

 刀身が黒いから、これは数々作られた黒剣のレプリカの一つだろうと思うけど、これ程見事なモノはまずお目に掛かった事が無いですよ。

 カタナ剣特有の刃紋も鮮やかで、かつ魔法剣独特の青みがかった佇まいは、見ただけでも業物中の業物って雰囲気で痺れちゃう。

 こりゃデ剣と対で使うにはもって来いの剣だわぁ。


「お嬢様!」


 貰った剣を眺めてニマニマしてると、事態の推移を見守っていたらしいレティとロベールさんがダッシュで走り寄って来た。

 ささっと剣を鞘に収めてインベントリに放り込み、苦笑いで振り返る。


「二人共ご苦労さん。あの子供と親達は避難させた?」

「へえ。あっしが子供を連れてった時は、お手打ち覚悟って感じで渋ってやしたが、レティの姉さんが『主の命だ』って強硬に言い張って逃がしました」

「うんうん、二人共グッジョブって感じだね」


 あの馬車ってどうも高位士族の物っぽかったし、ヘンに責任感じちゃって居残ってたりしたらマズいよなーと思ってたけど、流石はレティだわ。

 さっさと子供を拾ったらしいロベールさんもイイ仕事してくれましたよっ。


「じゃ、速攻で離脱ね。愚図愚図してるとロクなコトないしさ」


 ワタシは指示待ちって感じで黙った二人にそう言うと、小川沿いの土手に向かってパパっと走り出した。

 おエラいさんが居なくなった以上、さっさとズラからないと、本当の役人がやって来ちゃうもんね。

 勿論街道に戻る積りなんて無いから、迷わず小川沿いを走り抜けるコースを選ぶ。

 途中で森にでも入っちゃえば、まず役人なんて追って来れないだろう。


 あれ? でもワタシってばまだ三倍加速状態だよね。


 レティはともかく、ロベールさんがこれに付いて来れるって初耳なんですけど。



今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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