139話
何か本当に色々とグダグダな状態でして、読んで頂いてる方々にはご迷惑をお掛けしております。
そもそも魔法人形なんてブツは操り人形なんだから、その動きはギクシャクとした感じで当然なのに、この動きってどう言う事なのかな。
様々なレアモノを見た経験がある元お姫サマのワタシだって、こんなの見た事が無いよ。
しかもあろう事かこの御前、さっき感触がどうのとかまで言ってやがった。
ダイレクトに五感のフィードバックがあるとか、どうせヨタ話と思って聞き捨てちゃったけど、もしそれが本当ならトンデモ無い事だ。
なんたってワタシが何体か見た事の有る、信じられない様な大金を突っ込んで開発したと言われるブツ達だって、せいぜいが所、魔法眼の出来損ないみたいなので視界を確保するのが関の山だったんだからね。
例えそれが視覚と触覚のみだったとしても、それを実現出来てるってだけで、もはやこのクマは魔法人形なんてレベルを遥かに超越した別の何かだよ。
「なんじゃ。今度はダンマリか」
やってられないポーズの御前をしげしげと見つめてると、呆れ返った様な口調で御前が声を上げたので、ワタシは我に返った。
おっとマズい。
こんな超レアモノ初めて見ちゃったからつい見入っちゃったけど、良く考えたら、今ってそんな事考えてるバヤイじゃ無いわ。
取り敢えずは謝っておきますか。
「いやぁ、まあ、笑っちゃってゴメンって感じだけど、ソレって凄いね。遠隔操作の魔法じゃないでしょ。魔法力がダイレクトに繋がってる感じ?」
うわっ。詫び言先行で言葉にした積りだったのに、即答で口にした言葉が詮索9割って感じになっちゃったよ!
バッカじゃないのか、このワタシって奴はっ。
ホント、我が事ながら疲れちゃう性格だよなぁ。
「お主・・・本当に変わっておるのぉ。普通はもっと違う話をしようとするものだと思うがな」
案の定、御前からは呆れ声で嫌味っぽい物言いが返って来てゲンナリ。
まあ当然って感じですわ。
でも、もう言っちゃった物はしょうがないし、このまま押して出るしか無いよねっ。
「まあ無礼は承知ってトコロかな。でもそんな凄い人形生まれて初めて見たし、訊くだけならタダだろ?」
ハッハッハッハー!
どうだこの傲岸不遜っぷりは。
相手が直系王族だって思うと、ちょっとビビって足がプルプルしちゃいそうだけど、構わず言い切ってやったわ。
「ふうむ。そこ迄この人形を褒められれば悪い気はせぬな・・・」
すると何も考えずに催促してみたのが良かったのか、ワタシの物言いに御前が考え込む様にして縫いぐるみの腕を組んだ。
おおっ、これはちょっとイイ反応ですよ。
もしかしたら、多少なりともヒントっぽい答えが期待出来るカモ。
「ならば良く見抜いたと言っておこう。確かにこの人形は、魔法剣を持つ様にワシと直接的に魔法で繋がっておる。影斬の要領で魔法力の影を移し、その繋がりを伸ばす感覚じゃな」
ゲッ、マジか!?
「へぇぇぇっ。そりゃ凄い!」
全然期待してなかったのに、いきなりド真ん中、それも普通なら秘中の秘ってトコロを答えてくれた御前に仰け反る。
さ、さすがは直系王族サマだわ。
どんな術式なのか想像も付かないけど、この人形が御前とやらの魔法分身体で動いてるらしいって事が判っただけでも、こっちにとっては値千金の大ヒントだ。
良くそんな大事をこんな軽々しく口に出来ちゃうよなぁ。
「おおっ『凄い』と言ってくれるか! お主、本当に見所の有る者よのぉ」
しかし、多分人形の秘密の最奥に通ずる内容を口にしたってのにも関わらず、御前の方はそんなのどうでもイイって感じで、妙な所に食い付いて来やがった。
何やら「バンザイ!」って感じの大仰な仕草までしてますよ。
いやー、マジでまた爆笑しそうになるんで辞めて欲しいわー。
「凄いモノは凄いだろう? 別におべっか使ってるってワケでも無いし、思った事を素直に言っただけだぜ」
笑い衝動を堪えながらも、何とか正直なトコロを言葉にして返す。
実際に凄いと思ったんだし、ウソじゃないもんね。
まぁ似た様な概念や技術はあるものの、魔法世界ではワタシの言う魔法分身体ってヤツは確立されていない技術の筈だから、御前の方からしたら「どうせ言っても理解出来まい」って感じだったのかも知れないけれど、そんなに食い付かれちゃうとこっちも困るよなぁ。
「ふうむ・・・どうやらお主は影斬どころか、その先にまで理解の範疇が及んでおるようだの。流石はシルバニアの隠された血を引く者、と言った所か」
ぶへっ。
そ、そこでそう繋げて来ちゃうんですかっ。
直系王族ってハンパ無い!
「オヒオヒ。こっちは名乗ったワケじゃ無いし、そもそもそんな雲の上のヒトらとは関係無いっての」
勿論こっちは速攻で「シルバニア王家とか、マジで関係ありませんー」って感じで返す。
幾ら何でも、普通に考えたら実母サマとシルバニア王家って関係無い筈なんだから、ヤバい噂は即打ち消しておくに限るもんね。
冗談でもそんな噂が他国の王族間で広まったりしちゃったら、今の好待遇が吹き飛びかねないしさ。
「おおっ、そうであった。確かにワシもそなたも正式には名乗っておらなんだな。だがまあ良い。何しろあの様な伝説級の魔法を見せて貰った以上、そなたの出自は知れたも同然」
「だーかーらー、関係無いって言ってるだろっ」
「うむうむ。正式に認められておらぬ以上、否定する以外に法はあるまいな。じゃが安心せい、来るべき時にはこのワシも今日の事は必ず証言いたそう!」
うへぇ。何かこの御前、完全に勘違いしちゃってて取り付くシマが無いんですけどぉ。
って、ちょっ、そこのじい様! 何を急に跪いちゃったりしてるんだよっ。
王族とか関係無いって言ってるよね!?
「いや、マジで違うって! こっちは単なる一従騎士なんだから、変な勘違いは辞めてくれっ」
もう「お願いしますよー」って感じだ。
ベアトリス陛下の冗談ダケならまだしも、他国の直系王族が「そうだ」と認めちゃったりしたら、色々と面倒なコトが巻き起こりかねない。
ホントに勘弁してよっ。
「判った判った。その日が来るまで、今日の事は他言無用と致そう。クリスもそれで良いな?」
もう相手が直系王族でも構うもんかって勢いで、結構な剣幕で押し捲ると、降参って感じの手振りをしながら、御前が漸く矛を収めてくれたのでホッとする。
ああ良かった。
でも「良いな?」って念を押されたじい様が、僅かにだけど不服そうな顔をしたのが少し気になるわ。
今宵もこの辺までに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。