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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
騎士達の主(あるじ)
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137話


 ワタシは地上の魔法陣も解くと、傍目には完全にノーガード状態を演出して警戒態勢を解いた。


 停戦を受け入れますよーって意思表示だ。


 クーちゃんやピーちゃんはイザとなれば盾になってくれるから、実はノーガードどころの騒ぎじゃないけれど、そんなの普通じゃ考えられない話だしね。


 すると思った通り、さっきのじい様達までダッシュで戻って来て、場は一気に緊張感が薄れ始めた。


 なんだかなー。ホント、精神的にすっごく疲れちゃうよなぁ。


「成る程ね。元騎士ってコトなら、色々と判る事もあるよな」


 もう何度目かも判らない溜め息混じりに言葉を口に出すと、ワタシはやってらんないポーズでじい様達を睨んだ。


 騎士ってヤツは士族が成るモノ(貴族の人が成る為には一時的にでも貴族籍を抜ける必要がある)だけど、職業でありながらも称号だから、その後に貴族に戻っても称号自体は残せるんだよね。


 だから騎士の称号ってヤツは、例え高位貴族家の跡を継いだとしても、返上とかしないのが普通なのですよ。


「俺は騎士だから生っ白いお貴族サマ育ちとは違うゾ?」って感じで睨みも効くし、それ以外にも騎士の称号を持ってると色々と便利な事が多いからねぇ。


 そんな騎士の称号を返上しなきゃいけなかったって事は、御前コイツってばズバリ、臣下に下る事の無い王族、つまりは王子か王様って事になっちゃう。


 仕える側になり得ない立場になっちゃったからこそ、騎士の称号を手放さざるを得なかったって感じかな。


「だからナンじゃ? 侘びの意味も込めて『休戦』では無く『降伏』の意思を示したと言うに、信じぬと申すか」


 こっちの力の抜けたセリフに、御前とやらが更に力が抜けそうになるセリフを返して来て、ドッと疲れる。


 まーねー。


 確かに御前コイツの言う通り、騎士が佩刀はいとうを放り投げるってのは、相手に降伏するって意思表示だけどねぇ。


「はぁ。いや、まあそう言う事なら話は判るけどさぁ・・・」


 こっちはもうそんなのどうでもイイやって感じで、身体中から力が抜けそうになってて、何とか返事を返すのが精一杯だよ。


 要するにこの御前とやらは、ワタシと黒鎧野郎の戦いに裁定を下す為に出て来たダケって事で、こっちの魔法陣を無効化レジストしたのも、追い討ちを止める為とかそんな感じで、深くは考えずにやっちゃったんだと思う。


 勿論悪気なんて、これっぽっちも無いんだろう。


 多分カタナ剣を投げて寄越したのも、黒鎧野郎に代わって負けを宣言したって程度なんだろうね。


 そもそも裁定者として出て来た時点で、自分が反意を示されるなんて全く頭に無いから、ワタシが怒った理由も理解出来なかったんじゃないのかな。


 浮世の常識からかけ離れたビックリ仰天の感性だけど、これが直系の王族ってヤツだ。


「ほうっ、随分と聞き訳が良いのじゃな。先ほどまでの威勢が嘘の様じゃ」


「こっちだって、タダの誤解に命を張るほどバカじゃねえ。アンタが魔法の無効化レジストを謝ってる以上、この先はタダの難癖になっちまうからな」


「成る程な。言えば魔法無効化の件は、今は無き娘の形見であるこの人形を失う訳には行かぬ、と思ってやったまでじゃ。許せ」


 始まった時と逆の形で、今度は静まり始めた空気の中、一転して軽口の叩き合いになったと思ったら、レジストの件を更に謝られちゃってグッタリ。


 うええ。ちょっと気を抜いた隙に、二度も謝られちゃったよ。


 御前コイツってば、ちょっとズルくないですかね?


「エラいヒトに二回も謝られちまったら、こっちだって空回りを謝るけどさ、せめて人形の姿くらい見せてもイイんじゃないか?」


 元王サマか王子サマ(御前ってのは引退したヒトの俗称だから)に公の場で謝らせちゃったのは軽くヤバいので、即座に向こうの非礼をあげつらう事で応戦。


 知らぬ間の事とは言え、こっちは貴族の端くれになっちゃってる以上、色々とメンド臭いんだよね。


 下らない理由で罪に問われちゃうのは勘弁だしさ。 


「おおっ、そうであったか。いや、この人形は一部壊れておって目が見えぬのだ。魔法眼で観ておったから気が付かなかったわ」


 しかし、どうやら御前とやらはこっちのセリフを真に受けちゃったようで、葦の草むらの中からゴソゴソと動き始めちゃった。


 うはぁ。会話による戦いなんて全く知らないと言わんばかりのこの凄まじいボケっぷりは、マジでやってるとしたら相当なモンですよ。


 ひょっとすると、本物の元王様とかなんじゃないのかな。


「へっ、クマ!?」


 そう言えば青の魔法力を持つ何処かの直系王族で、ゴーレムや魔法人形を常時起動する事で魔法力を散らしてるヒトの話も聞いた事があった事を思い出し、ちょっとワクワクしながらも待っていると、ガサガサと葦を掻き分けて出て来たのはやたらと小柄な熊だった。


 いや、より正確に言えば大きな熊の縫いぐるみだ。


 思わず目が点になって凝固しちゃうよっ。何なの、コレ?


「ううむ。この纏わり付く様な感触はヘンだと思っておったが、草むらの中とは思わなんだ。言われて初めて気が付く事実じゃのぉ」


 色々と突っ込みどころ満載な事を言いながら出て来た熊の縫いぐるみに唖然としながらも、ワタシは突発的に襲って来た「ある衝動」をググッと堪えた。


 折角落とし所を探るのにイイ雰囲気になったと言うのに、ここで衝動に身を任せちゃったら全てがブチ壊しだもんね。


 しかし動く縫いぐるみってダケでもとってもシュールな感じなのに、更にじいさんの言葉で喋ってると来たら、その破壊力ってハンパじゃ無い。


 こんなのもうある種の拷問だよっ。


 イ、イカンッ、ここは我慢だ。


 我慢しろ、ワタシ!


「ブワッハハハ!」


 ダメだぁっ。


 我慢しようと思ったけど、ツボに入っちゃって笑いが止まらないよ!


「ク、クマの縫いぐるみが、じいさんの声で喋ってるぅぅぅ! キャッハハハ!」


 ああダメだ。全開笑いが止まらないわ。



取り敢えず、この一話はこの辺で終わりにさせて頂きます。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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