136話
活動報告でも書きましたが、勝手に一から書き直す事になって、本当に申し訳ありません。
「はぁぁぁ」
強いだろうとは思ってたけど、御前がクーちゃんやピーちゃんが戦うのを止める程までに強いとは思わなかったわ。
おっきな溜め息が出ちゃうよなぁ。
でも彼らが止める以上、御前には雷撃魔法すら通用しないっぽいし、そうなるとこっちにはもう打つ手が無くなるのは事実だ。
ワタシは取り敢えず現状を維持しつつも、肩に降りて来たピーちゃんに頬ずりしてご機嫌をとると、念の為にもう一度訊いて見た。
「ねぇねぇピーちゃん、ホントにやっちゃダメなの?」
ピッ!(ダメ)
ぬう、即答ですか。
ご丁寧に小さな頭を左右にフリフリして答えてくれたピーちゃんが可愛い。
でもやっぱり、ダメなものはダメなんですねぇ。
「はぁ」
更に溜め息を吐きながら、ワタシは雷撃魔法の体制を解いた。
上空の魔法術式が薄れ始め、それに伴ってほぼ出来上がってた雷雲もパパーっと薄れて行く。
あーあって感じだけど、そもそもまだ未完成のこの魔法を行使するには、風精の絶大なる支援を必要とするんで、風精がダメって言う以上はもう続行出来無いんだよね。
「マジでやる気が無いってんなら、こっちだってムリ押しなんかしねえさ」
御前とやらが居る方に向けて涼しい顔で憎まれ口を叩きながら、ワタシは「これでもかっ」って感じに両手を握り締めた。
もう足だってブルブル震えちゃうよ。
クーちゃんやピーちゃんは間違い無くワタシの味方だから、こっちが絶対的に不利だと判断して止めてくれたのは分かってる。
でもでも、強いヤツ相手に尻尾を巻くなんて、およそ自分の信条からかけ離れてるんだから仕方無いよねっ。
ううっ。この憤りを何処にぶつければイイってのよ!
こうなったら、白剣一本で突撃でもカマしてやるか。
ってダメだダメ! そうじゃなくって!
「ああ、くそっ」
最悪な方向へ流れつつある思考を「えいやっ」って感じで断ち切り、ワタシは白剣から手を離すと、無理矢理に奥義(深呼吸)の体制に入った。
スーハー、スーハー・・・。
しかし目を瞑り、両手を腰に当てて深呼吸するとアラ不思議、なんだか一気に気持ちが落ち着いて来ちゃいましたよ。
ふうっ。流石は奥義(深呼吸)だわっ。
こんな時でも期待を裏切らないなんて凄い。
これからは「最終奥義」に認定する事にしようっ。
「うむ。コレで良しっ・・・って、アレ?」
何か色々とスッキリしちゃって独り言まで呟いたワタシはしかし、直後に襲って来た「真っ当な思考」に一気に打ちのめされた。
うわっ。ワタシってば一体何をやってたんだよ!
次々と火を点けられ捲くったせいか、すっかり脳筋全開モードに入ってたみたいだけど、普通に考えたら今の自分って丸っきり大バカ野郎サマじゃんかっ。
思わず頭を抱えそうになった所を、何とか堪えて白剣の柄上に両手を重ねる事で誤魔化し、ワタシは真剣な溜め息を吐いた。
あ、頭が痛いぃぃぃ。
何せ今の自分は、全くの他人の、しかも強者同士の喧嘩に首を突っ込んで、ガンガン暴れ撒くって勝手に空回りしてる様な状態だ。
魔法士女を退けた所で、後は笑って見てれば良かったのに、ホント、何をやってるってのよっ。
「はぁぁぁ」
魂が抜け出ちゃう様な溜め息が出ちゃって、ワタシは頭を振った。
大体、こんな公の場で強者相手に大暴れしちゃったら、後でまたどんな御大層な噂が出ちゃってもおかしくないし、この場だってここまで引っ張っちゃった以上、この後の収め様によっては色々と窮地に陥っちゃうのが必定だ。
ああ、もうワタシのバカバカバカ!
考え無しの脳筋バカ女めっ。
世の片隅でひっそりとやってく積りだってのに、毎度毎度こんな派手で目立つ様な事ばっかりしてるなんて、全く度し難いバカヤロ様だよっ。
「ワタシってば、なんで何時も何時もこうなのかなぁ」
ワタシはもうガックリし過ぎてこの場に倒れそうになりながらも、感謝の意味を込めて、足元のクーちゃんと左肩にとまるピーちゃんを交互に撫でた。
ホント、この二人(?)が止めてくれなかったら、マジで危うい所だったよ。
クーちゃんピーちゃん、ありがとうっ。
お礼を言いながらナデナデすると、何かくすぐったそうな感じで受け容れてくれる二人(?)が可愛い。
いやー、本当に助かったわ。
こんな衆人環視の中で雷撃魔法なんて言う伝説級の大魔法まで使っちゃってたら、一体どうなっていた事か・・・。
考えるだに恐ろしい話ですよっ。
やらなくて良かった!
「何やら未だに怒りが静まらぬ様だが、コレでどうだ?」
クーちゃんとピーちゃんの可愛らしさにニマニマしていると、無粋な声と共に御前(の人形)がこっちの結界ギリギリに何かを放り投げて来て、ワタシはハッと我に返った。
おっと危ない。
この場はまだまだこれから落とし所を探って行かなきゃいけない所なのに、ニマニマしている場合じゃないわ。
「何の真似だよ?」
取り敢えずの返事を返しながらも投げ込まれたモノを見れば、御前とやらが放り投げて来たのは、鞘に入ったままでも業物だって判る様なカタナ剣だった。
剣の気配って言うんですか? そう言うのがちょっとシャレになんない位の凄いブツだ。
デラージュ閣下に貰った剣、名付けて「デ剣(仮名)」と良い勝負なんじゃないのかな。
「ワシは元騎士であるから騎士の作法しか知らぬ。だからこうした迄の事」
はぁっ? なんだってぇ!?
こっちの問いに答えた積りなんだろう御前のセリフにグッタリと力が抜ける。
何処の世界に、魔法人形なんて魔力をバカ食いするブツを前面に出して、自分は隠れてる「騎士」が居るってのよ。
しかもその上、初手で精霊魔法もどきを打ち破る程の魔法の実力を見せ付けてるんだから、御前は紛うかた無く魔導師級の魔法士で決定だ。
それを言うに事欠いて「騎士だから魔法士の事は判りません」なんて、トンチンカンにも程があるわ。
「魔法士の間では他人の魔法を勝手に無効化するのは侮辱であり、剣で斬り掛かる行為に等しいと、コヤツに聞いて今知ったのでな。改めてお主に降伏を申し出たと言った所じゃ」
しかしグッタリとするこっちの気も知らない御前とやらが、更に妙な物言いを続けて来たので、さしもの脳筋一代女たるこのワタシも「何かおかしい」と気が付いた。
勿論それは、後ろを向いて何だかフガフガやってた魔法士女の事じゃないよ。
面白いなーと思って見てたけど、そんな説明をしてたとは思わなかったよなぁ。
って、違う違う。
問題なのは魔法士女の可笑しさでは無く、御前とやらの言動にあるおかしさの方だ。
「なあアンタ、今『元騎士』って言ったよな。ソレってアレか、騎士の称号を返上したって事か?」
先ずは疑問を口に出して様子見。
良く考えて見れば、騎士の称号を返上するなんて、普通じゃ有り得ない只事じゃ無い話だもんな。
この件、もしかするとワタシってば、トンデモ無い勘違いをやらかしてるのかも知れないですよ。
「うむっ。色々あって返上せざるを得なかったのだ」
「マジかよ・・・」
御前とやらの返答に、思わず即答で切り返してグッタリと疲れる。
もしやと思って口に出したのに、まさかのビンゴですか。
いやー、何て言うか「もっと冷静になって物を考えろよ、ワタシ!」って感じだわ。
このテの思考とか言動をするヒトらって、そもそも馴染みの連中なのに、何で今の今まで気が付かなかったのかなぁ。
やたらと上から目線の物言いも、魔法士の常識を知らない事も、御前が「そう」なら納得出来る。
だって本当にエラいんだから、世の常識なんて御前には通じる筈が無いんだよ。
御前は貴族どころか王族だ。それも多分、直系中の直系で間違い無い。
取り敢えず、この一話はここまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。