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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
騎士達の主(あるじ)
135/221

135話

「御前が何だと訊いておられるのだっ、答えよ!」


 重症の筈の黒鎧野郎が、それでも剣を構えると突っ込んで来た。


 うわぁ。信じられない程の脳筋バカヤロ様だよね、この黒鎧野郎ヒトって。


 未知(多分)の魔法が行使されてるってのに、何も考えずに突っ込んで来るなんて、無謀どころの騒ぎじゃ無いよ。


 ズバシィッ!


 案の定、結界内に足を踏み入れた瞬間に異様な音が響いて、紫電の大蛇に打たれた黒鎧野郎は、糸の切れた操り人形の様にスッ転がった。


「あーあ」


 思わず溜め息。


 雷撃のスピードは音のスピードを遥かにブッチ切るから、ソイツが金ぴか(金章討伐卿)だろうが何だろうが、体術のみで何とかなるって世界じゃ無いんだよね。


 見ればオーガだって即死しちゃう雷撃を食らった黒鎧野郎は、身体中あちこちからブスブスと煙を上げながら痙攣してて、どう見ても物言わぬむくろ状態って感じだ。


 バカだなぁ。どうせ未だ生きてるとは思うけど、ほとんどもう虫の息なんじゃないのかな。


「馬鹿め。先走りおって・・・」


 草叢から溜め息にも似た御前の声が聞こえた。


 まあねぇ。確かにその意見には同意するよ。


 でも今のって、どう考えても黒鎧野郎コイツ御前あるじの捨石になる積りで、実験台として突っ込んで来たって感じなのに、その言い草は無いでしょ?


「オイオイ。臣下がやった事を、そのあるじが他人事みたいに言うのはおかしいだろ?」


 ちょっとムッとしたので文句を言ってやる。


 臣下にやらせておきながらも知らん振りなんて、他所では通じても、このマリーちゃんには通じないんだよ。


 そもそもこっちの魔法陣をいきなり無効化レジストして、喧嘩を売って来た事実は変わんないんだしねっ。


「ふむ。言われてみれば確かに最も話ではあるし、お主には悪かったと詫びておこう。が、あるじが『勝負あった』と宣言したのに、それを無視して突っ込むなど、およそ臣下の者としては言語道断であろう。しかもワシは初めからお主と争う積りは無いのだ」


 おーおー。草むらに隠れたままで姿も見せない卑怯丸出し野郎のクセに、言う事だけは一人前だわぁ。


 もう、ふっざけんなって感じ。


 おエラいさんなんて誰でも基本こんなモンだけど、いきなり他人を殴りつける様なマネをしておいて「争う積りは無い」とか、ホント何様だってのよ。


「オイオイ。個人的に喧嘩を売って来たのはそっちだぜ? だから手下も突っ込んで来たんだろうよ。寝言は寝て言えっての!」


 ワタシは片手でやってられないポーズを決めながら、人形が居る草むらを睨んだ。


 喧嘩の最中ならともかく、相手の魔法陣を無効化レジストするなんて、魔法士の世界じゃ普通は侮辱も極まる行為なんだよね。


 しかもそれが「いきなり&横入り状態」でと来たら、魔法士なら誰だってキレるのが当たり前だ。


 自分で勝手にそんな状況を作っておきながら、まだ「私は何もしていないのに狼藉者が突っ掛かって来た」なんてポーズに拘ってやがるのかよ。


「御前っ!」


 ムッとしたまま返答の無い草むらを睨みつけてると、どっかからデカい襤褸ぼろ切れが飛んで来て、声がする辺りに落ちた。


 って、魔法師女だわ、アレ。


 やっぱ死んだ振りだったんだねぇと思ったものの、魔法師女の余りにも酷い様子にはちょっと呆れて声も出ない。


 飛んで来たのはイイけれど、まともに着地も出来ずにベチャって音を立てて地面に転がった上に、見るからにもうボロボロの半消し炭状態で、口が利けるのが不思議な位だ。


 いやー、あの状態で良くも未だ動けるモンだと感心しちゃいますよ。


 人外のヒトって怖いわ。


「み、未知の超戦術級魔法、で、す。お気を付け、を・・・」


「超戦術級じゃと?」


 ヘッ、漸く気が付いたのかよ。


 驚いた様な御前を無視して、魔法士女の途切れ途切れの言葉にうんうんと肯く。


 ま、気が付かない方が馬鹿だとも思うけど、普通は目の前の事に気を取られるモンだし、まさか本命が「空の彼方」だとは思わないもんなぁ。


「まさかっ!」


 御前とやらが「上」を見た気配に「してやったり」って感じでニヤリと笑う。


 今頃気が付いても、もう遅い。


 地上の魔法陣と呼応する、空の遥か彼方、高度2万フィート(約6000m)を超える上空に浮かぶ巨大な魔法術式。


 それこそが、この魔法ワザの本当の姿なんだよ。


「し、信じられぬ・・・」


 御前とやらの呆けた声を合図にしたかの様に一陣の突風が吹くと、周辺一体に風が吹き荒れ始めてニンマリ。


 上空に急激に積乱雲が形成され始めてるんだから、地上は大荒れになるんだよね。


 正直に言えば、想定を遥かに超える状況になっててちょっとヤバいんだけど、ここはもう行くしか無いっ。


「さあて、そろそろ行くかな。お前ら、泣いて逃げ惑う準備はOK?」


 ワタシはほとんど勝利宣言の如く言い切ると、人形が隠れる草むらと、御前とやらの本体が居るだろう300ヤード(約270m)彼方を交互に睨んだ。


 実を言えば地上の魔法陣は、唯の制御用のコントローラーでしか無い。


 ホントは未だ未完成だけど、コイツは正真正銘、本当の落雷を作り出して操る伝説級の大技なんだよ!


 コレなら300ヤード位の距離なんて無いも同じだし、瞬く間に何発も落とせちゃうから、対大勢でも絶対にイケる。


 さっきの黒鎧野郎もそうだったけど、どんな人外だって雷撃のスピードには対応なんて出来無いしねっ。


「ええいっ、待て待て。とにかくワシは今、お主とやりあう積りは無い!」


 御前とやらの物凄くアセったような口調が可笑しい。


 もうそんなポーズなんて付けてる場合じゃないってのに、未だ言ってんのかよ。


 まあイイさ。理論と基礎研究は実母コーネリアサマ、応用研究と魔法ワザ化は娘のワタシって言う、母娘二代で完成(未完成だけど)させた大技を食らって泣き喚け!


 キュッ!!


 あれ?


 さあ行くぞと覚悟を決めた瞬間、聞き覚えのある声(?)で警告されて、ワタシは一旦術式の行使を中断した。


 見れば足元で半透明の狸もどきがズボンの裾を引っ張って、イヤイヤって感じで首を振ってる。


 クーちゃん!?


 いやー、可愛い! って、そうじゃ無くて、一体全体どう言う事?


 クーちゃんの仕草の可愛らしさに、思わずほっこりとしちゃいそうになりながらも、速攻で頭の中を総動員させて考える。


 こんなの初めての事だけど、クーちゃんは「止めろ」って言いたいみたいだ。


「えっと、もしかしてクーちゃんは戦闘を止めろって言いたいの?」


 試しに訊いてみると、クーちゃんはウンウンって感じで肯いて見せた。


 ピィィッ!!


 しかもクーちゃんが肯くのと同時に、上空を飛ぶピーちゃんまでもが警告の声を上げて来てガックリ。


 うわっ。ピーちゃんよ、アンタもかぁ。


「はぁ」


 幾ら相手が魔物じゃ無いとは言え、クーちゃんやピーちゃんがワタシに「戦うな」って言うなんて、本当に初めての事だ。


「逃げろ」って言われた事は何度かあるけど、今回のヤツはその時よりずっと切迫してる感じだし、危機感がハンパ無い。


 御前コイツってば、そんなに強いのかよっ!?


「ふむ。どうやらこちらの言いが通じた様じゃが、ワシは本当にお主と戦う意思は無い」


 ホッとした様な御前の声が聞こえる中、ワタシはガックリと項垂れた。


今宵もこの辺までに致しとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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