134話
どうなってんの?
思わず唖然としちゃいながらも考える。
確かに想写された魔法陣ってヤツは耐久力がゲロ弱だから、とっても無効化され易いけれど、ワタシが「地面に想写した魔法陣」が無効化される事は、普通なら有り得ない。
何故ならワタシには地精の援護があるからで、地面に想写する限り、それはワタシの最高機密である「精霊魔法もどき」に近い形での魔法行使になっちゃうからなんだよね。
だからそれが破られたってコトは、精霊魔法もどきが破られたってコトとほぼ同義になる。
「勘弁してよね、もう」
溜め息と共に口から言葉が漏れた。
精霊魔法は確かにワタシのオリジナルでは無いけれど、普通なら魔法士間でも口にすれば笑われちゃう程の完全な幻想だ。
そんなブツを無効化出来るなんて、真龍か悪魔くらいなモンだと思ってましたよ、エエ。
世界って本当に広いわ。
こんなバケモノが実在するなんて、考えもした事無かったよ!
「御前! まさか御出座しになられるとはっ」
倒れてたボロボロ状態の黒鎧野郎が跳ね起き、ワタシと声のする方の間に転がりながらも入って来て、ワタシはハッと我に返った。
ちっ、やっぱまだ動けやがるのかよ。
愕然としながらも何とか体勢を整え、鉄棒君を抜いて構える。
何時までも呆ける場合じゃないわ。
「ほぉ。このワシを前にして随分とやる気満々な様じゃな」
御前とやらがナニか言ってるのを無視して、再度遠くに視点を移す。
ワタシの魔法カンが正しいなら、御前の本体は未だに300(約270m)ヤード向こうに居る筈なんだよね。
草むらの中に居るのは、どうせゴーレムかそれに近い人形(魔法人形)で確定だ。
「ヤる気も何も、喧嘩を売ってるのはそっちだろ?」
適当な事を口に出して時間稼ぎをしながら、ワタシは心の中だけで更なる溜め息を付いた。
だってコレ、真剣にヤバイ情況なんだもんな。
御前とやらが精霊魔法もどきをブチ破る人外もビックリなバケモノ級の魔法士である以上、この300ヤードの間は何が仕掛けられてるか判らないから、こっちは迂闊に突っ込む事も出来無いのに対して、向こうにはこの謎の人形以下、数々の手下が居るからこっちを攻撃し放題だ。
勿論、並大抵の遠距離ワザなんて、全て躱されるか無効化されるかして通用しないだろうしね。
普通なら、間違い無く詰んでる状態ってヤツなんだよなぁ。
でもこっちにはまだ「奥の手」がある。
片手をインベントリに突っ込むと、ワタシは白剣を出して鉄棒君と持ち替えた。
鉄棒君を仕舞うと、白剣は真打登場とばかりに、早速紫電を撒き散らしてこっちのやる気に応えてくれて、ちょっと嬉しくなる。
うんみゅ。正直この剣ってば重荷にしか感じてないのが本音なんだけど、こう言う時は頼りになるわぁ。
「ほお、白刃剣かっ。まさかソレを生きている内にまた見ようとは思わなんだが・・・となれば、そうか。やはりお主が討伐姫か」
ちょっと気を良くして白剣を握り締めると、御前とやらが何か懐かしそうな声で喋り出してガックリ。
ちっ。御前ってば、白剣を知ってやがるのかよ。
言葉の内容から、どうやら白剣だけでなく、ししょーの事まで知ってるらしい御前の声に、一旦ググッとそっちを睨みつける事で応えると、ワタシは一気に各種魔法を再励起して、身体中に幾つも想写している研究用インベントリから目的のブツを拾い出した。
「うふぉっ」
瞬間的に凄い量の魔法力が食われてクラッとする。
うわあ。何だか良く判らないけど、想定を遥かに超える魔法力が流れ込んじゃってますよ。大丈夫なんかいな?
って、考えて見れば、コイツって幼女化後に実験した事が無かったわ。
今更ながら間抜けな事に気が付いちゃって、ちょっと反省。
でもそうなると、コレってヘタすると制御が効かないどころか、暴走する恐れまであるから、自爆ワザになっちゃうかも知んない。
「ま、しょうがないか」
声に出して呟いて、ワタシは気合を入れ直した。
例え自爆ワザになったって、向こうを盛大に巻き込む自信はあるもんな。
灼熱地獄が「ああなった」のを考えると、何処までイッちゃってるのか想像も付かないけど、300ヤードの距離を銃弾をブッ千切る一瞬で駆け抜け、躱す暇も与えずに一撃でブッ倒す方法論なんて、ワタシにはもうコレしか無い。
「むっ、ソレはなんだ!?」
魔法の気配に気が付いたのか、御前とやらがアセったような声を出した。
フンッだ。もう遅いんだよ。
励起した全ての関係魔法・魔術を一発で発動させると、ワタシを含めた白剣の周囲、半径およそ20フィート(約6m)が突如円形に光って、直後から異様な音と共にその園内を数匹の紫電の大蛇がうねった。
ああ良かった。取り敢えず、出だしは成功だよ。
今までに行ったどの実験よりも「結界圏内」が倍近く広いけれど、経過は概ね良好だ。
地の底を流れる雷気を強引に集めて作るこの事実上の結界は、この魔法の前段階に絶対的に必要なブツなのですよ。
「マズいっ。全員、距離を取れ!」
じい様がそう叫んで、他の四人と共に下がった。
うんうん、イイ判断だ。
でもね、驚くのはまだまだこれからだよん?
葦の草むらに居る御前とやらが使う人形と黒鎧野郎の二人を残すのみとなった戦場(?)で、ワタシは不敵に笑った。
今宵もここまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。