132話
「ひゅう」
ワタシは黒鎧野郎の必殺技に敬意を表して口笛を返した。
なんたって今のヤツは、幼女化後のワタシですら、慣れてなかったら一発でこの世にサヨナラって世界だもんな。
幾ら剣の流儀流派では格下と言っても、黒鎧野郎の強さは本物だよっ。
「口笛などと舐めおって!」
でもこっちの思いは通じ無かった様で、口笛にキレたらしい黒鎧野郎が突っ込んで来た。
またもや凄まじい連続技の猛攻!
「ウッ、ホッ、ハッ」
凄まじい連撃の嵐を、またまた笑っちゃう様な掛け声と共に凌ぎ続ける。
ちなみに鉄棒君の握りは既に両手だ。
幾ら見切ったとは言え、黒鎧野郎相手の打ち合いに、片手じゃ絶対に追い付かないからね。
「信じられぬっ。これ程の者が野に居ようとは!」
大剣と鉄棒君が凌ぎを削り合って火花を散らす中、黒鎧野郎がまたまた唸る様に声を上げた。
うーん。黒鎧野郎ってホントに良く喋るわ。
普通ならこんな時に喋るってのは、呼吸を読まれちゃうから悪手中の悪手なのに、黒鎧野郎ってばそんなのお構いなしって感じだもんな。
「好き好んで野に居るヤツだって居るさっ」
ほとんど呼吸に頼らずに口先だけで喋りを返すと、ギョッとした様に黒鎧野郎の剣先が少し鈍った。
成る程ね。そういう事か。
さっきの大技の時に気が付いたんだけど、黒鎧野郎の喋りって「誘い」で間違い無いみたい。
それも多分、相手に喋らせてその呼吸の隙間を突くってヤツでは無く、自分から隙を作ってそこを突かせるって感じだね。
こりゃ想像以上の使い手だわ。
だってそんなの、自分の呼吸を完璧に操ってないと出来無いコトだもんな。
「くっ。貴殿、まさか直伝の者か!?」
喋りの秘密(?)を見抜かれた事に気が付いたのか、黒鎧野郎がアセッた様な声を出した。
でもコレ、アセるのはこっちの方だよっ。
だってどうやら黒鎧野郎ってば、こっちが同系流儀だって気が付いちゃったみたいだもんね。
「となればっ、まさかっ、貴殿がっ、千体斬りのマリー殿かっ!?」
ぶふぉっ!
流れる様な連続技の猛攻を仕掛けながらも喋り続ける黒鎧野郎の口から、いきなりこっちの素性が言い当てられちゃってドッキリ。
アセって凌ぎワザをミスりそうになっちゃったよ!
「なんだそりゃ、食えんのか?」
即座にアホ臭い言葉を口に出して牽制。
あーあ。こりゃもう攻めて出るしかないわ。
向こうの剣筋を見切りながらも凌ぎ続けて来たのには、実は理由がある。
探知魔法もどきの圏外に、気配だけならさっきの魔法女もビックリって感じの化け物が居るんだよね。
多分、それがこいつらの主である「御前」なんだろうけど、そいつの出方を見てたってのが本音なのですよ。
でもこうなったら仕方が無い。さっさと黒鎧野郎は沈めてラスボスと対決するか。
「ふざけるなっ!」
牽制ゼリフに返って来た黒鎧野郎の怒号、その呼吸の境目でワタシは前に出た。
待ってましたって感じで降って来た大剣に、一瞬の呼吸で這わせる様に鉄棒君を合わす。
ふふん。コレが出来るのは、別にお前だけじゃ無いんだよん。
「なっ」
呼吸を逆手に取られて、瞬き位の間押し込まれた黒鎧野郎が、それでも鉄棒君を弾き飛ばそうと、間合いをズラし気味にしながら大剣に力を入れた。
うん。そう来るよねっ。
ワタシはフフンと鼻を鳴らしながら、向こうのベクトルに逆らわず、滑らせる様に鉄棒君を這わせて動きを流し、間合いの奥に更に身体を押し込む。
そのまま手と手がぶつかる様な間合いに滑り込み、刹那の瞬間、コントロールが揺らいだ向こうの持ち手に下から膝頭をブチ込んでカチ上げた。
「おうっ!」
直後に鉄棒君を上からブン回して振り付け、一気にブン回しワザに繋げる。
「なんと! 天才か!?」
技をコピられたと思ったのか、黒鎧野郎がアセッた声を出して退いた。
無論こっちは押しますよー。押して押して押し捲る!
さっきとは完全に攻守が逆転した格好だけど、ブン回しワザはこっちだって得意技だ。
ししょーに何百万回やらされたと思ってるんだよっ。
ホント、きっつい修行なんだよね。このブン回しの修行ってさぁ。
昔を思い出してちょっとダウナーな気分に入りそうな所を振り切り、ブン回しワザで黒鎧野郎を追い詰める。
「ぐぐっ!」
すると地面の草に足を取られた感じで、退き捲くってた黒鎧野郎がちょっとよろけた。
お陰で向こうの片側上半身がガラ空きになる。
でもコレって・・・。
「ふんっ!!」
バック・ブロウ!
やっぱそうかよっ。クると思ったわ!
こいつはよろけた様に見せて隙を作りながらも身体を捻って力を溜め、相手が打ち込んで来た所を一気に逆撃するイヤな技だ。
このテのヤツを応用したワザとか、散々ししょーに食らい捲くってたから、イヤな予感がしたんだよね。
瞬時に蹴り足をそのまま背後にふっ飛ばし、強引に体を落として躱す。
それでも躱し切れずに前髪を何本か持ってかれた。
うっひょー! クると思っててコレだよっ。
黒鎧野郎って、本当に強い!
でもこっちの「ブン回し」だって、まだ生きてる。
今度は下からだっ。
切っ先を地面スレスレにブン回して鉄棒君を振り付けると、結果的に死角からの攻撃になった為か、黒鎧野郎が今度は本当にヨロけた。
「なんとっ!!」
必殺の逆撃ワザを凌がれた直後に、スピードの乗った下段斬りを食らって、流石の黒鎧野郎も辛うじて躱すのが精一杯って感じだ。
思わずニヤッと嗤いながらも、ワタシは更なる連撃の体勢に入った。
こっちの本当の「攻め」はこれからだよ、おっさん。
今宵もこれまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。