130話
偶には何時もの火曜日ではなく、月曜日に更新してみようと思い、更新してみました。
なお、既に次の分もほぼ出来ていますので、次回は水曜日に更新する予定です。
「御令嬢! 今此処で貴殿が戦っても得る物など何もありませんぞっ。馬鹿も程々にしなされっ」
案の定、こっちの提案を聞いて止めに入って来たじい様に、剣気をぶつけて黙らせる。
「馬鹿で悪かったなぁ、じい様よぉっ」
フンっだ。バカで不器用で悪かったよねっ。
でもここで止める方がどうかしてるでしょ?
「ぬぬうっ。き、貴殿はあの方がどなたか知っているのか?」
しかし流石は人外じじい。ほぼ不意打ちでワタシの剣気を食らったってのに、速攻で体勢を立て直してきやがった。
にゅうん。このヒトってば本当にデキるわー。
出来ればこっちとも戦ってみたかったよね。
「さあ、全然知らないねっ。判るのはバカみたいに強いってダケかな?」
ちょっと勿体無かったかなと思いつつ、ワタシはよろめきながらも前に出たじい様を突き放す様に、ハハハッと笑った。
大体さー、氏素性なんてどうだってイイんだよ。
こっちにとって大事な事は、三倍加速状態のワタシに100発100中で銃弾を当てて来る本当のバケモンとヤれるって事だけだ。
「なんとまぁ、豪快な・・・」
呆れ顔で立ち竦んだじい様の呟きを、更に鼻で笑って再び前に出る。
「ま、悪いけどアンタにゃ立会人をやって貰うぜ。人をダシにしようとしたんだから、その位の事はしてくれてもイイだろ?」
後ろを向いてウィンクしながらそう言うと、じい様が観念した様に盛大な溜め息を吐いた。
「むう・・・合い判り申した。貴殿がそこまで言われるならば、もう何も言いますまい。御武運を」
ワタシの言葉に一寸考え込む様な素振りを見せたものの、渋々と言った感じで肯いて、この場を離れて歩き出したじい様を見送る。
うんむ。これでこっちは片付いたかな。
じい様が他の四人が居る場所まで動いたのを見届けると、ワタシは漸くと言った感じで黒鎧野郎に向き直った。
「で、そっちはどうなんだい?」
改めて見れば、黒鎧野郎は大剣を地面にブッ刺して両腕を組み、事態の推移を見守ってた感じだった。
でもさっきまでとは違って、ヤる気とか闘気とかってのが漲ってる雰囲気ですよっ。
そうそう、そう来なくっちゃ!
「有り得ぬほどの御配慮を忝い、と言っておこう。だが、手加減などは出来ぬぞ?」
「バーッカ、ハナっから全開で来いってんだよ。下らねえ事考えてんじゃねえっ」
「ふっ、そうだな。我ながらこの期に及んで馬鹿な事を言った物だ・・・」
なんだかなーって感じの上から目線な物言いに、ちょっとキレ掛かりながらもタンカを切ると、黒鎧野郎が大剣を片手で持ち上げながらも苦笑した。
「ならば! 我、聖王正統流剣公派ランベルト、貴殿に一騎打ちを所望いたすっ!」
観念した様な、それでいて晴々とした様な感じで、黒鎧野郎は片手で持ち上げた大剣でこっちを指し、大声を上げた。
へっ? 何その物言い?
一瞬キョドったものの、ああそうかと納得。
黒鎧野郎ってば、果し合いに望んだ一剣士として名乗りを上げて来たんだね。
流派名とファーストネームだけしか名乗っていないものの、それでも騎士が名乗りを上げた以上、これは本式の立会いってコトになるもんな。
全くもー、ホントに脳筋者だよなぁ。
でも何かちょっと何処かの騎士物語みたいで、ワクワクして来ちゃう。
「ワタシは・・・」
ワクワクついでに、ではこっちもって感じで声を上げたのはイイけれど、ここでワタシってば、肝心な事を忘れていた事に気が付いた。
アレ、ワタシって何流って名乗ればイイんだ?
思い出してみればワタシって、自分の剣技の名前とか全然知らないんだったよっ。
ししょーのヤツ、流儀流派の名前どころか、技名すら教えてくれなかったんだもんなぁ。
例の「雷光剣」は色々とヤバいらしいし、そもそも何かカッコが付かないから、そんなアレな名を名乗るのはイヤだしねぇ。
、うーん、困った。笑って誤魔化せる雰囲気じゃないし、どうしよう?
ええい、仕方が無いっ。
「ブーツォ辺境流マリア、貴殿の挑戦を全力で受けて立とう!」
しょうがないから、ししょーの名を取って即興で流派名をデッチ上げて誤魔化す。
まあ白剣まで貰ってる以上は、剣の一流を立てる印可を貰ったも同然だし、どーせししょーの家名なんてデッチ上げに決まってるんだから、貰っちゃっても構わないよね。
勿論こっちも、鉄棒君で向こうを指してポーズを決めちゃうよ(半分テレ隠しだけど)。
「マリア殿か。うむ、良い名だ」
ワタシの名乗りを受けた黒鎧野郎が肯く。
ホッと一息。
ああ良かった。どうやら流儀流派の名前って、あんなデッチ上げでも通じるらしい。
しかしコレって、良く考えたら名案かも知れないわ。
再度大剣を構え直した黒鎧野郎に合わせて、こっちも鉄棒君を構えながら、ワタシは今の名乗りを思い返した。
だってワタシがこう言う名乗りを上げる度に、ししょーの名前がクローズアップされるってことだからねっ。
恥ずかしい顔で逃げ回るししょーの姿を想像して、ニヤっと笑う。
ケッケッケッ。嘘つきししょーにはイイ薬だよ。
下手に新聞にでも書き立てられれば、ししょーの剣名はイヤでも盛り上がっちゃうから、もう隠遁生活なんか出来無いし、それどころか色んな人達に追い回される事が必定だ。
にゅっふふふ。ししょーの慌てふためく姿が目に浮かぶわぁ。
「これは私闘などでは無く、ランドルフ殿とマリア殿が騎士としての面目を掛けて闘う尋常な勝負であるっ。何人も手出し無用っ。見届けは不肖このクリストフが承った!」
ししょーの困った顔を想像してニヤついてると、じい様がさっきと同じ大音声で口上を発した。
おっと、いよいよ始まりですよ。
ニヤついてる場合じゃないわ。
「では剣士ランドルフ、参る!」
気合を入れ直そうとしたのも束の間、黒鎧野郎がそう言うが早いか、物凄い勢いで突っ込んで来た。
直後、凄まじいと言うのもバカバカしい程のスピードで、剣が上から降って来る。
「うおっ!」
一秒の何百分の一かは判んないけれど、その瞬間、ワタシは横っ面を引っ叩かれた様な衝撃を食らって、目の前を星が舞った。
勿論当たってなんかいない。
大剣を振った事で生み出された大気の圧力の固まりがほんの少し掠った程度だ。
でも剣圧だけでココまでの衝撃って、直撃食らったらどんだけだって言うんだよっ。
「ハハハッ。さっきの威勢はどうしたぁ!」
野生のカンで辛うじて初撃を躱したものの、フラついちゃったワタシを黒鎧野郎が嗤う。
でも歩法と体術のみで何とか向こうの連続ワザを躱し捲くるワタシには、言い返す余裕もへったくれも無い。
しかも黒鎧野郎の連続ワザが起こす剣圧が地面を抉り捲くるせいで、辺りは濛々たる土煙りで視界はゼロだ。
ぺっ、ぺっ。舞い上がった土が口の中に入って来ちゃうよ。
ちっ。黒鎧野郎のヤツ、ついさっきまで萎びてやがったクセに、いきなり絶好調のノリノリに成りやがって、冗談じゃ無いって言うんだよねっ。
今宵もこれまでに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。