128話
「あいや、待たれいっ!」
度重なる挑発に耐え切れなくなったらしい黒鎧野郎が、半歩前に動いた瞬間、何処からとも無く声が飛んで来た。
むうっ。これからって時に、なんじゃい無粋な。
ムッとしながらも探知魔法もどきに意識を寄せると、風系魔法で声を飛ばして来たらしい声の主はすぐに見つかった。
と言うより、結構なスピードで総勢5人程の連中がこっちに突っ込んで来てた。
前を見れば、折角ヤる気になった感じだった黒鎧野郎の動きも止まってるし、コレってどう言う事なんだろう?
ふうむ。
もしかして、街道役人のエラいさんでも出て来ちゃったのかな。
不可抗力とは言え結構派手に色々やっちゃったし、女魔法士のせいで大街道の一部も舗装が全部スッ飛んで、大穴が開いちゃってる。
街道役人の側から見れば、不倶戴天の敵認定されちゃっても不思議じゃ無い。
しかも面倒臭い事に、三倍加速状態で普通に声が聞こえるって事は、声の主は経験も実力もある金ぴか(金章討伐卿)級で確定だ。
当然ながら官位や爵位も持ってるんだろうし、これはちょっと面倒臭いコトになるかも知れないですよ。
「はぁ」
溜め息をついたワタシは、取り敢えず鉄棒君を地面にブッ刺すと、腕を組んで戦闘を凍結する意思表示を示した。
もしアイツらが街道役人だってんなら、御取調べにはちゃんと対応した方がイイもんね。
勿論逃げるなんてのは論外だし、無視して戦闘を続行するってのも、西聖王国の色々な筋を敵に回しちゃうから悪手だ
大体今の所ワタシは被害者なんだから、そう言うスタンスが取れる間くらいは大人しくしとかないと、後でまたレティ達に怒られちゃう。
「ピピッ」
仁王立ちで構えてると、何時の間にか一羽だけになってたピーちゃんが肩にとまって一声啼いた。
うんむ、可愛い!
ちょっと和んだ。
擦り寄って来るピーちゃんに頬ずりを返しながらも、ワタシは役人共を待つついでに、今までの経緯を整理してみる事にした。
そもそもこの一件って、軽鎧野郎がワタシに喧嘩を売って来たのが原因だから、それだけだと単なる喧嘩事の範疇で、街道上じゃ良くある事の一つでしかないんだよね。
続く魔法師女との対決だって、破壊跡こそ凄まじいけれど、基本的にはそうだ。
だから簡単に考えれば、例え役人共が嘴を突っ込んで来ても、ワタシだけならともかく、向こうは結構なおエラいさんの一行だから、従者が勝手に喧嘩を始めたダケって形で、決着が付いちゃう可能性が高い。
「ああ、そうか」
ポンッと手を叩いて、思わず納得。
コレ、多分介入のタイミングを図ってた腕自慢の役人連中が、黒鎧が銃を使ったのを見て、おエラいさんに貸しを作る為、ムリムリに仲裁として突っ込んで来たって事なんじゃないのかな。
やり方こそ卑怯極まりないものの、軽鎧野郎の件も、女魔法師の件も、一騎打ちである事は確かだから、今なら未だおエラいさんに大した傷は付かない。
でも一騎打ちの最中に、他のヤツが銃で相手の騎士を狙い撃ったとなったら、只事じゃ済まないもんな。
「双方共、殊勝な御態度で感服仕った」
考えてる間に目の前までやって来たさっきの声の主が、ワタシと黒鎧野郎の間の丁度真ん中に陣取った。
改めて見ればそのヒトは、結構歳食ってる感じではあるものの、やっぱり結構な人外さんで、20ヤード近く離れた所で止まった、中々の使い手っぽい他の四人と比べても受ける雰囲気のレベルが違う。
黒鎧野郎よりちょっと落ちるって程度じゃないかなぁ。
「あのさぁ、これからそこの黒ゴキ野郎と一騎打ちって所で、なーに横入りしてんだよ。例え街道役人だって、街道から一歩でも離れたらそんな権限無い筈だろ?」
なんだかこのじい様、役人っぽくないなぁと思いながらも、まずは御挨拶って感じでタンカを切ってみる。
今ワタシ達が居る場所は大街道から軽く100ヤード(約91m)は離れてるから、コイツが役人だったとしても、まずもって強権を使う事は出来無い筈なんだよね。
それでも止めるってんなら、ウデで来いって感じかな。
「横入りなどでは無い! そもこの私闘は私が貴殿に後始末を頼んだ事から始まった物である以上、私も当事者であろうっ」
すると、全然考えもしてなかった台詞が返って来てビックリ。
ハレ?って感じで良く良く見れば、このじい様、さっきのデストリア隊の隊長さんだったよ。
なんだこりゃ。一体全体、どーなってんの?
「ああ、さっきのアンタか。まあ確かにそうかも知んないけど、そもそもはそこでヘバってる軽鎧野郎がいきなりワタシに剣を向けたのが原因なんだから、アンタは部外者じゃねえのか?」
片手でやってられないポーズをキメながら、考えを纏める時間稼ぎの為、じい様に喧嘩を売ってみる。
しかも笑える程子供っぽい物言いながら、内容は結構キワかったりするんだな、コレが。
同じ主に仕える者である軽鎧野郎を、このじい様が「部外者」と認めればそこで話は終わっちゃうし、逆に身内認定すれば、こっちはこのじい様も相手に出来るって寸法だ。
「御令嬢っ。貴殿は御目見え以上の位をお持ちの、立派な貴族なのではありませんかな? 御姿からして何処ぞのエルフ家の姫か、幼年の高位貴族と御見受け致しますが、左様な言葉使いは感心致しませんな」
ぶふぉっ!
こっちの質問に答えるどころか、斜め上の攻撃かよっ。
シレッとした顔でワタシの質問を無視したじい様の口撃に思わずガックリ。
なんだかなー。このヒトってば、タダ者じゃ無いわぁ。
まあこのクラスに隠蔽魔導具なんて通用しないだろうとは思ってたけど、妖精ヅラを見られた挙句、こんな素っ頓狂、かつ逆撃な質問の返し方をされるなんて、まるでマチアスおじ様だよ。
でも御目見え以上の位(5位以上の官位を指す)持ち云々は別にしても、人をエルフ呼ばわりとは酷いよねっ。
つい条件反射で睨んじゃうわ。
「ハハハ、怖いですな。しかしさるエルフの姫が出奔して行く方知れずと言うのは有名な話。先の魔法戦を見せられれば、ついそう訊いてしまうのも無理からぬ事とお許し頂きたい」
「ソレって十年は前の話じゃねえか。人をロリババア扱いしやがって」
こっちの睨みに詫び言っぽい台詞を口に出したじい様を、ワタシは更に睨みつけて、当たり前の如く憎まれ口で応戦してやった。
当然だよねっ。一体ワタシの歳を幾つだと思ってやがるんだってーの!
エルフってのは、生まれた直後から例外無く魔法症が出る一族で、人の技術を嫌い、森で原始的な生活を営む特殊な連中のコトだけど、魔法症が出るせいか、他の人種より寿命が長かったり、成長が遅かったり、パッと見が無茶苦茶若く見えたりするのが特徴なんだよね。
つまりこのじい様は、ワタシを初対面からロリババア認定してやがったってワケだっ。
「ほお? エルフの姫君失踪話は、一部高位貴族の間では知られた話ですが、一般は当然として、普通であれば貴族や士族の間でも、まず噂になった事は無いと記憶しておりましたが?」
しかし怒りに任せてつい知ってる事を言っちゃうと、じい様から新たな口撃がっ。
げっ!
ワタシってば誘導尋問って言うか、そんなヤツに引っ掛かっちゃったみたいですよ。
あー、もうっ。
このじい様、一体何が狙いなのかなぁ。
今宵もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。