117話
こ、このままではまた週一の更新頻度になってしまうー、と思い、ダッシュで書き上げてみました。
「先ずはお前に言っとかないとイケねえ話が二つある」
調度品が無いだけで、他は如何にも貴族の私室って感じな部屋の中、向かい側のソファーに座ってるフェリクスおっさんが、妙な迫力を出しながら口を開いた。
最上階である5階に着くと、ワタシとレティは高級な宿屋の入り口みたいな所に出て、しばし呆然としたんだけど、待ってたらしいロベールさんに直ぐにこの部屋に通されたんですよ。
何か途中に立派な設備が色々あったものの、やたらと急かされちゃったせいでキョロついてるヒマも無かったわ。
しかし目下の問題はこのおっさんだ。
おっさんってば、ワタシ達が部屋に入った時には既に応接セットなソファーに腕組みして座ってたんだよね。
で、こっちが反対側のソファーに座ったら、真面目腐った調子で話をし始めたって感じ。
何の罰ゲームだよとも思うけど、わざわざ「話がある」って言って来た位だし、やっぱ相当な厄ネタなんだろうなぁ。
こんな調子だと、聞かされるこっちはビクビクしちゃうよねぇ。
「一つはグランツのじい様がリプロンを発ったって話だ。お忍びってヤツでアクス-マルスまで行くらしいが、目当ての一つはお前だろうな」
はぁー、総裁サマの話か。
ちょっとビク付きながら話を聞いてるワタシにとって、先ずは予想通りの話が出て来たので一安心。
実際、総裁殿下のお出ましは想定内の話だ。
彼が本当に年少の強者を探しているって言うのなら、魔物ドラゴンを単独討伐したワタシに興味を持たない方がおかしいもんね。
でもついこの前までならイザ知らず、今のワタシにはベアトリス陛下の玉璽だってあるんだし、総裁殿下と会うくらいなら問題は少ない。
「ふぅーん、総裁殿下がねぇ。まあワタシとしては、会いたいって言われれば喜んで会うよ。光栄な事だしさぁ」
取り敢えず、思った事をそのまま口に出して様子見。
ホントは一度会って見たいと思ってたヒトの筆頭格なんだよね、総裁サマってさ。
だって物語に出てくる英雄サマと直に会える機会なんてそうそう無いし、出来ればサインの一つも貰いたいってのが本音なのよ。
「お前、何だか妙に余裕があるじゃねえか。また俺の知らないところで、雲の上の連中と妙な協定とか結んでるんじゃないんだろうな?」
ちょっと浮ついた感じのワタシの言葉に、おっさんが訝しげな表情でこっちに指差し攻撃をカマして来た。
おやおや。おっさんってば、完全にワタシの庇護者って感じな言い様ですよ。
こう言う無形の好意ってヤツを示されると、何だかちょっと嬉しくなっちゃうけど、おっさんのクセに随分と背負ってる物言いだよなぁ。
「そう言うわけじゃ無いけどさ。何か逃げ回ってる様に思われるのもシャクじゃない?」
指差し攻撃を躱してお手上げポーズで答えると、おっさんは少しイラッとした顔になった。
「ふんっ。まあ対策があるってんなら、グランツのじい様の件はお前の好きにするとイイ。だがな、余裕をカマすのはもう一つの話を聞いてからにしろ」
にゅう。もう一つの話?
話の切り出しに何か躊躇してる感じがするから、どうやらおっさんのイラッとした表情はワタシの態度だけでは無く、もう一つの話のお陰らしい。
うーん。もう一つの話ってのは、そんなにイラッと来る様な話なんですかね。
「もう一つの話ってのはな、サントル-レアンを訪問中だったマルシルの王族、ロスコー伯爵ブロイ様がリプロンへ向かったって話だ。しかも、此処にも来るんだそうだぞ?」
はっ?
一瞬、何の話なのか良く判らなくてちょっとボケッとしちゃったけど、それって・・・。
って、ち、父上が此処に来るだってぇ!?
「ハッ、やっぱりな」
そら見た事かって顔になって、おっさんが鼻を鳴らした。
でもこっちはそれ所じゃ無い。
もう一気に身体中から血の気が失せちゃって、顔面蒼白状態だ。
「ちょ、ちょちょっとぉ! な、なんでおっさんがそんな事を・・・」
もう頭の中がパニック状態寸前になっちゃって、全く考えが纏まらないよっ。
って言うか、どうしておっさんが「ブロイ家とワタシの関係」を知ってるんだっつーの!
思わずおっさんの顔を睨み付けると、おっさんがやってられないポーズで応えた。
「俺はお前の『前の姿』を知ってるんだぜ? 歳こそ違うが、背格好は手配されてるブロイの総領姫そのものじゃねえかよ。それに侍女の件だってある」
げげぇ。
そう言えば、おっさんってば今ワタシの周りに居る身内以外の人間では唯一、幼女化前のワタシの姿を知ってる人間だったよ。
ワタシってばバカなんじゃ無いの?
それにおっさんは、レティがやって来た件だって当事者だったもんな。
良く考えて見れば、今のレティ(偽名バージョン)がブロイ家に繋がる人間じゃ無いって事は調べればすぐ解る話だし、そんなのが本物の印章を持ってたら疑ってかかるのは当然だ。
くっそー、おっさんのクセに真っ当過ぎる思考をしやがってぇ。
「ぐっ、ぐぐぐ・・・」
にゅうん、ダメだ。
何とか誤魔化しの言葉を出そうとするものの、言葉にならない言葉しか口から出ないよっ。
マズい。このままおっさんに父上の元へ突き出されちゃうのかなぁ。
「まあそうアセるなよ。お前がブロイの総領姫だなんて気が付いてるヤツは、多分世の中で俺とマルコだけだ。何をどうやったのかは知らねえが、背格好だけじゃ無く、魔法力のパターンすら前とは少し変わってやがるから、まず絶対にバレっこ無えだろう」
しかし、どうやらおっさんはワタシの正体を暴いて何かしてやろうって腹は無いみたいだ。
それどころか、アセり捲くってるワタシを見て笑い出しやがった。
なんだかなー。
でも、おっさんが笑ってる今がチャンスだ。
思わず立ち上がって、スーハースーハー深呼吸!
「ブワッハハハ! 何だお前、ソレわぁ!」
直立不動で腰に手を当てると言う絵的に笑えるポーズのワタシを見て、おっさんが更なる大笑いに突入した。
フンッだっ。笑わば笑えぃっ。
深呼吸こそがワタシにとって精神を鎮める最強奥義なんだから仕方が無いでしょっつーの!
笑い転げるおっさんを無視して、無心で深呼吸を続ける事しばし、流石は奥義(深呼吸)って感じで、ワタシはすぐに落ち着きを取り戻せた。
「ふうっ。で、ワタシの正体を暴いてどうする積りなワケ?」
深呼吸ポーズのまま、ソファーに転がるおっさんを睨めつけてやると、さすがのおっさんも笑い転げるの辞めて起き上がった。
「別に何も無えよ。ただな、全くの他人なら判らなくても、実の親ならバレるんじゃねえかと思って話を持って来たって所だな」
「成る程ねぇ。でもソレってさ、まるでおっさんが今のワタシを丸っと擁護する様な物言いじゃない?」
「オイオイ、俺はお前の保護者的な立場の積りだぜ? 黙って世の中進んでりゃ伯爵サマとして何不自由無く生きて行けるってのに、わざわざ討伐士になって恐ええ魔物共とヤり合おうなんて気合のあるヤツに、惚れねえ騎士はいねえだろうがよ」
ぬう。おっさんってば、初めからワタシの保護者的な積りだったのか。
でも何か言い方がヘンだよね。
惚れた腫れたって話はともかく、それじゃまるで、本当に最初の最初からそうだったって言わんばかりに聞こえちゃうよ。
「それってさ、まるでリプロンで会ったあの時からそうだって言ってるように聞こえるんだけど?」
「おうっ、その通りだ。普通は絶対気が付かねえ程度のモンなんだが、どんなに隠してても、お前にゃ妙にカンに触る気配があるんだよ。異様な戦闘力を持つ人間独特の気配ってヤツだ。俺はグランツのじい様を知ってるから、それに良く似た気配を持ってるお前もタダ者じゃねえだろうとアタリを付けたんで、あの後速攻でマルコのヤツに調べさせたってワケだな」
はぁぁぁ。
やっぱおっさんも伊達や酔狂で騎士卿はやって無かったってコトかぁ。
要するに、おっさんには初めっから色々とバレ捲くってたってワケだ。
「アレの町の時にな、お前を一目見てピンと来たぜ。見た目は余りにも変わっちゃいるが、あの時のアイツで間違い無いってよ」
感心したのも束の間、おっさんから酷い物言いが出て来て、思わずガクッとなる。
オヒオヒ。結局はカン頼みってコトかよ。
でもまあ、それはそれで、ワタシってば脳筋者のクセに同じ脳筋者をナメてたって事になるよね。
カンで生きてるのはワタシだけじゃ無く、このおっさんだってそうだってコトだもんな。
脳筋者の強者がカンでアタリを付けて、切れ者の副官がフォローするなんて最強コラボじゃ、そりゃ太刀打ちなんか出来っこ無いわ。
しかしねぇ、エルンストさんやレティですら「大変」とグチを零すくらいなんだから、この脳筋度数マックスって感じのおっさんのフォローをしてるマルコ氏って、一体どの位苦労してるんでしょうか。
ワタシは未だに笑い顔のおっさんを睨みながらも、マルコ氏の辛苦を想って盛大な溜め息を吐いた。
今宵もこの辺で終わりにさせて頂きたく思います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。