113話
その後、フェリクスおっさんとアルマスのオネエが二回ずつ、代わる代わる壇上に上がり、それぞれが討伐士協会代表、魔法士協会代表、公国大公殿下代理、シルバニア女王陛下代理を名乗ってワタシに祝辞を述べ、色々なモノを渡して行った。
いやー、長かったわ。
閣下達も大変だったとは思うけど、こっちは一人で概算5人の相手をしなきゃいけないし、一々礼式に則った動作もしなきゃならないから、疲れ方がハンパじゃ無い。
さっさと帰って、お風呂に入って寝ちゃいたいくらいだ。
でもそうも行かないんだよな。
叙勲者の謝辞&挨拶ってヤツがあるんですよ。
つまり本番はこれからだって事だね。
デラージュ閣下に促されて壇上に上がったワタシは、取り敢えずはありきたりな謝辞と挨拶を口にしてから、閣下の方をチラッと見た。
うむ。と即座に肯いてくれる閣下が頼もしい。
そんじゃ行かせて頂きますか。
「さて挨拶も終りました所で、わたくしからデラージュ閣下にご提案がありますっ」
挨拶より一段上げた声量でそう言い放つと、結構な拍手で挨拶に応えてくれてた参列者たちの拍手が止んで、急にざわめき出した。
ま、そうだよね。
こんな場で「提案」なんて口に出さないのが普通だし、無作法にも程がある。
「わたくしことマリア・コーニスは、個人的な依頼であった魔法士協会からの賞金を除いた、西聖王国と討伐士協会からの魔龍討伐賞金全額を此度の討伐戦場において戦い、傷付いたり亡くなったりされた方々への見舞金として寄贈したいと思うのです!」
おおおおおっ!!
でも大きな声で一気に最後まで言い切ると、参列者達から一様に歓声の様な声が上がって、場は大きく盛り上がった。
にゅふふふ。ちょっとは驚いて貰えたかな?
西聖王国と討伐士協会からの賞金を足せば、総額は大箱で7つ(約1億4千万円)は下らない。
ちょっとした士族だって一生遊んで暮らせる金額だ。
それを全部寄付しようってんだから、幾ら裕福な西聖王国の貴族連中にだってアピールするとは思ったんだよ。
後でレティには色々と言われるだろうけど、コレこそがワタシ流の挨拶のし方ってヤツだ。
そもそも、ワタシは横からしゃりしゃり出て魔物ドラゴンの首を取っちゃった愉快犯みたいな立場である以上、何か大きな形で仁義を切らないと気が済まない。
考えた末に出て来たのがこう言うやり方って感じかな。
こんな形なら、ワタシは閣下やエルンストさんだけで無く、この討伐戦を戦った全ての人を相手に仁義が切れる。
自分的には正に肩の荷が降りたって感じだねっ。
「喜んでお引き受けいたそう」
閣下が間髪入れずに引き受ける旨の発言をしてくれて、ホッと一息。
以前の呑み会の時に話を通しておいて良かった!
ふう。
祝賀会と言う名の政治的駆引きの場を早々に逃げ出して、何とか代官屋敷に辿り着くと、時刻はとっくに夜の10時を回っていた。
部屋にはおじ様はおろか、ロベールさんもレティも居ない。
何か色々と走り回っている様で、ワタシの手元には三人分のメモや書置きがあるだけだ。
しっかし疲れたわぁ(主に精神的に)。
あの後ワタシは、やたらとヒートアップした感じの参列者達に握手攻めだの挨拶攻めだのに会ったりして、結構大変だった。
ホント、なんだかなぁって感じだ。
確かに大箱7個と言えば大金だけど、政治屋共が動かしている金額はヘタをすればその100倍を超える筈だし、徴税権を持つ地封貴族ならば1000倍を超えて来る事だって普通にある。
貴族とは王に代わって権力を振るう存在である以上、並みの金銭感覚の持ち主なんて居ないと思うのに、あの反応は本当に謎だわ。
しかも祝賀会の冒頭で「ランスにおける魔龍討伐記念基金」なるモノが提案されて、寄付者が殺到してたしさ。
全く解せない展開だとしか言えないよなぁ。
貴族とかって善性の薄い生き物だと思ってたんだけど違うのかな。
それとも何か裏でもあるんだろうか。
本当に謎だ。
しかし謎と言うなら、こっちの方が更に深刻な謎なんだよな。
ワタシはベッドに寝転ぶと、インベントリからレティ経由でオネエに貰った大箱を取り出して蓋を開けた。
最初っからおかしいとは思ったんだよね、コレ。
だって数えてみると、一列25枚の筈の大金貨の列が27枚あるしさ。
良く良く見れば判るんだけど、この大箱に入ってる大金貨の列は最左の列がかなりおかしい。
ぶっちゃければ最左列の8枚分は良く出来たイミテーションで、ちょっとした小物入れになってるんですよ。
で、その中に入ってたのが驚天動地のブツで、コレがなんと、現シルバニア女王陛下であらせれるベアトリス陛下の玉璽だ。
何度も魔法で確かめたけど、れっきとした本物で、最初に見た時は頭の中が真っ白になっちゃいましたわ。
一緒に入ってた紙片には、女王陛下直筆と思われる筆跡で「マリーちゃんへ。何かあったら使いなさい。ベアトリス」って書いてあって、更に頭を抱えた。
何かあったらじゃねー!!
冗談じゃ無いよ。
一体全体、何がどうなってるのか、真剣に判らなくなって来ちゃったよ。
確かに女王陛下の玉璽ってヤツは、国璽と違って女王個人の印章だから、ある程度は彼女の勝手で他人に預けたりする事が出来ると思うけど、こんなの持ってるのって、宰相とかくらいの筈だ。
王太子を含めた直系王族は皆自分の印章を持ってるから、女王の玉璽なんて持たない筈だし、何よりコレを持ってる奴は女王の代理人として事実上無制限にその権力を借りる事が出来ちゃうんで、それが緊急時のその場凌ぎって感じでも無きゃ、まず外部流出なんて有り得ない。
それでも、もしそんなコトがあるとしたら、それは「未だ認められていない王族の子弟に、女王が王族と認めた証として渡される」とか、そんな所くらいだろう。
うおおっ、何か寒気がして来たっ。
もしかして実母サマって本当にシルバニア王家直系筋の出なのかなぁ。
顔も似て無いし、何より髪色が違い過ぎるから、ほぼ有り得ない話だと思うんだけどねぇ。
シルバニア直系王族の髪色はプラチナブロンドで有名なのに対して、実母サマもワタシも髪色はほぼ黒に近い。
並み居る王家王族でも、この髪色に近い色を持つのは公王家くらいしか居ないもんな。
でももし、ソレが本当だった場合は大変な事態に発展する事請け合いだ。
シルバニア王家と言えばほぼ絶対的な女系主義で、代々強力な魔法力を持つ女王が君臨して来た経緯があるのに対して、現在は王太子からワタシ世代に至るまで、何故か男子ばかりで女子が居ない。
傍系まで手繰れば女子は居るものの、その魔法力は青級どころか緑級にも届かないと聞いてる。
そんな所にほぼ青系の魔法力を持つワタシが、例え末席に近い血筋でも王族として出て来ちゃったら・・・。
ぬにゅうううん。考えるだに恐ろしい話ですわ。
頭が痛いと言うより、もはや激痛に苛まされる感じだよ。
今宵もこの辺までに致しとう御座います。
読んで頂いた方、有難う御座いました。