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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
表彰式@ランス
110/221

110話

「フライングパピー、と言ったか? 騎士があるじの紋章を背中に背負う事は良くあるが、あれ程ド派手なモノを見たのは久方ぶりだったぞ」


 幻痛から本物の頭痛に切り替わりそうな気配に苦しみ始めたワタシに、エルンストさんが追い討ちを掛けて来た。


 ぐはぁ…。やっぱりエルンストさんが見た騎士紋(魔法陣)は、あの極悪魔法陣がプラスされたブツで間違いが無いわ。


 なんたって、クーちゃんとピーちゃんを足して二で割った様な図案は、その極悪魔法陣を誤魔化す為に装飾を付け足し捲くって迷彩を施した物だからねぇ。


 そもそも「ワタシの完全オリジナル」なやり方で作られたその魔法陣は、余程のヒトじゃ無い限り、それが魔法絡みのブツである事にすら気が付けないとは思うものの、そんなモノを人に刻んでる事がバレるのが怖くて、一生懸命に考えたんだもんなぁ。


 でも世にはどんな化け物が居るか判んないし、ワタシだって絶対バレないなんて考えられる程、幸せなオツムの持ち主じゃ無い。


 ううっ、マジで頭痛が痛い気がするよぅ。


 頭を抱えながらもレティを見れば、ヤツは何時の間にやら夏の侍女姿定番着であるジレを脱いでて、白いブラウスだけになってた。


 コ、コイツ、まさか自分もここで騎士紋を見せる積りなんじゃないでしょうね?


 速攻でガルルルゥッと威嚇すると、脳筋モ-ドのレティもさすがに気が付いたのか、バツの悪い顔でブラウスを直してジレを着直す。


 何考えてるんだよ、全くっ。


 極悪魔法陣アレの事がエルンストさんにバレたらどうするんだっつーの!


「ん? 何かあったのか」


 突然のワタシの威嚇攻撃に目を丸くしてたエルンストさんが、様子を伺う様な感じで言って来るのをニッコリと微笑んでかわす。


「おじ様の騎士紋って、カスタマイズ後はまだワタシも見てないからさ。ちょっとね」


「ああ、そう言う事か。いや、それならばこちらの方こそ悪かった。まさか当のあるじ殿が未見だとは思わなくてな」


「ううん、別にイイよ。それより、おじ様の騎士紋に何か魔法絡みで特徴的な雰囲気とかあった?」


 両の掌を上に向けて「申し訳ない」って態度をして見せたエルンストさんに、ちょっと罪悪感を感じながらも肝心な事を尋ねる。


 エルンストさんは長年に渡って対魔物戦場で戦い、同時にデラージュ閣下の右腕としても活躍して来た、この世の裏も表も知り尽くした様な討伐騎士卿だ。


 幾ら熟練の魔法士では無いと言え、魔法絡みの事柄を簡単に誤魔化せる様な相手じゃ無い。


「ふむ…装飾としての絵柄こそ随分と特徴的ではあったが、魔法陣そのものはお前さんが入れた物ダケに見えたから、妙な心配はいらないだろう」


 ちょっと考え込む様な仕草のエルンストさんの口から、ホッとする内容の言葉が出て来て一安心。


「良かった。おじ様に限って妙な事は無いとは思うけど、人によってはこっち(刻む側)の魔法陣に直結する様なブツを平気で入れるのも居るしね」


 安心した心の内を表に出して答えると、エルンストさんは「心配し過ぎだ」と言って笑った。


 うむうむ。どうやら露見はしていない様だ。


 ホッとしたよ!


 ま、普通に考えたらこの場合、あるじに黙って勝手に請願系の魔法陣ブツとかを入れてないかって心配する感じになるから、エルンストさんもそんな意味で取ってくれたんだと思う。


 だからワタシもそう言う意味で答えてみたんだけど、どっちにせよ魔法の気配を感じられなかった様だから、助かった事には違いない。


「あの絵柄はお嬢様の個人的な紋章なのです。ですから勿論、このわたくしも背負っておりますっ」


 しかしホッとしたのも束の間、ジレを着直したレティのヤツが、笑うエルンストさんとワタシの間にチャチャを入れて来てグッタリ。


 コイツってばホント、一体何を考えてやがるんだってーの。


 そんなにあの絵柄が気に入ってるのかなぁ。


 まあ確かにあの絵柄は、その経緯はともあれ、結構可愛いので密かなワタシのお気に入りでもあるんだけどさ。


「そうか。レスタンクールと言えば、ナンヌ南東部から西聖王国にかけての単独討伐で名を上げた、若手じゃ赤丸が付いてる討伐騎士だと聞いているが、成る程な。こんなあるじが居たんじゃ、何処の誘いも蹴り捲くる訳だ」


 ほえ?


 再度頭を抱えかけたワタシに、エルンストさんからこっちの知らないレティの話が出て来て驚く。


 って、レティだってまだ10代で5級討伐騎士に成ってるんだったよ! 名が売れてない方がおかしいに決まってるじゃんかっ。


「アンタって、結構有名だったんだ」


 視線を移せばレティのヤツは、涼しい顔でニッコリと微笑んだ。


「お嬢様から比べれば全く持って無名に等しい程度ですから、お気になさいません様に」


 なんだかなー。それって結構大事な話だと思うんだけど、今の今まで黙ってるってのはちょっとヒドいよね。


 何かまたグッタリって言うかゲンナリって言うかって感じだよ。


 一体今日は何度グッタリしたら済むんでしょうか。


「まあそもそも、どんな騎士紋を背負ってるかなんて話は、お前さんには判り難い話なのだろうな」


 グッタリとしたワタシを見たエルンストさんが席に腰を下ろしながら笑った。


 フンッだ。どうせワタシは騎士紋なんか背負っちゃいませんよ。


「頭では解ってる積りなんだけどね。そう言うの(忠誠とかってヤツ)を向けられる方の身にもなって欲しいとも思うよ」


 ちょっとムッとしたので嫌味混じりな事を口に出すと、エルンストさんとレティが息の合ったコンビの如く顔を見合わせて笑う。


 ぬにゅう。なんかムカッと来ますな。


 ワタシは二人に対してお手上げポーズをカマしながら盛大な溜め息を吐いた。


 でもムカッと来るのと同時に、同じ脳筋モノとして、こいつらの気持ちは強烈に解っちゃうんだよなぁ。


 ワタシだって、かつての聖王国伝説の女王みたいなヒトが居たら、押し掛けてでも臣下に成りたいって思うし、あるじの紋章を背負って、あるじの為に戦場を突っ走る事を、夢にまで見た人間なんだしさ。


「ハハハッ。成る程お前さんは『受ける側』の人間だからそれでイイんだろうが、レスタンクールにドバリーと、名の有る騎士を二人も臣下に置いている以上、これからはポッと出の未成年だなんて台詞は口にしない方が良いだろうなっ」


 こっちの気も知らず、カラカラと笑うエルンストさんにムッとするけど何も言えない。


 ちくしょー!


「一時離れてはいたけどさ、レティとは昔からの仲だし、閣下とエルンストさんみたいなモンなんだよ」


 仕方が無いので悔し紛れに言い訳めいた事を言うと、エルンストさんが笑いながらも、こっちに人差し指を突きつけて来た。


「ああ、そんな所なんだろうな。だがそれが通じる人間は極々少数だ。誰だってお前さんを見れば『持てる者』だと思う事だろうよ」


 ヘンっだ。そんな指差し程度で勝ったと思うなよ。


 何が「持てる者」だっての。


 こっちはそもそも、名も地位も捨てて全くのゼロから始めた「持たざる者」だって言うんだよっ。


「だから来るモノは拒まずって感じなのっ。ポッと出の討伐従騎士には余裕が無いんだから、利に聡くないと生きて行けないしね!」


 思い切り胸を張って、大上段から真っ正直なコトを言ってやる。


 だって本当の事だもん。


 ワタシなんてついこの前までは、名も無く地位も無くお金も無かったんだし、それが多少は何とかなったとは言え、今だってそれ程立場が変わったとも思えない。


「ほう? 利に聡くて、来るモノは拒まず、か。本気で言っているとも思えないが?」


 しかしエルンストさんは、そんなワタシを如何にも胡散臭いモノでも見る様な目付きで見ると、更に笑って見せた。


 にゅううう。一瞬で装身具は隠したものの、トルソーに飾られたドレスは見られてるし、そもそも御落胤設定があるから強い事が言えないぃぃぃ。


 くやしいぃぃぃっ。


「本当だっての! これでも利益を確保するのに汲々としてるんだから、貰える物で不利益にならない物なら何だって貰うよっ」


 ヘラヘラと笑うエルンストさんにマジでムッとして、思わず強い口調で言うと、向こうは笑いながらも一枚の高級そうな紙片を懐から持ち出して、ローテーブルの上に置いた。


「ならばこれは良いプレゼントになるのだろうな。是非とも受け取って貰いたい」


 なにゅうん?


 マズい。何か売り言葉に買い言葉って感じで、余計な事を口走っちゃった気がするけど、そのやたらと高級そうな紙切れって何なのでしょうか。


「まさかと思うが、拒否はしないだろうな。これでもアンベールのヤツからの心尽くしなんだ。快く引き受けてやってくれ」


 追い討ちを掛ける様に畳み込んで来る、エルンストさんの言葉にちょっとビビりながらも紙片を見たワタシは、思わずその姿勢のままで凝固した。


 ランス守護騎士委任状?


 えっと、コレ、マジなんですか?


 見ればエルンストさんは、笑っている様に見えても目が全く笑ってない。


 本気の目だ。


「えっと、コレって事実上、男爵位に匹敵する官職じゃなかったっけ?」


 何とか凝固状態を解いて口を開くと、エルンストさんは我が意を得たりとばかりに両手を挙げた。


「知ってるなら説明は要らんな。ヴィヨンは俺がやる事になったが、此処ランスを護ったのはお前さんなんだから、お前さんがやるのが正当だ」


 ウ、ウソでしょ?


 守護騎士なんて、普通なら名も成し功も成したヒト(しかも貴族)が就く官職だよ!


 こんなポッと出で未成年の討伐従騎士(ぶっちゃけ浪人)が、いきなりそんな御大層な官職に就くなんて聞いた事が無い。


 これはヤバいわ。何かまたまた厄介な事に巻き込まれた感じがするんですけどっ。


今宵もこれまでに致しとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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