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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
表彰式@ランス
108/221

108話

「ねえ、どうしてもコレを着なきゃいけないの?」


 ワタシは目の前にある淡いブルーのドレスを見ながら溜め息を吐いた。


 レティのヤツが「これでどうですか」と、衣装用トルソーに着させたそのドレスは、多分ランス政庁の貴賓室なんだろなって思うこの豪華な個室の中にあっても、一際豪華な雰囲気を醸し出しててちょっと引く。


 夏用ってコトなのか、鎖骨くらいから上は両肩含めてモロ出しなクセに、キュッと締まったウエスト部分から下は「これでもかっ」って大量のヒラヒラで埋め尽くされてて、こんなの着て歩くとしたら引き摺って歩くしかないって勢いだ。


 平民の感覚、ううん、それが士族だったとしても、こんなのどう見てもウェディングドレスとかにしか見えないよなー。


 コイツってば、ワタシを何処に嫁に出す積りなんだろう。


「地方とは言え政庁で行われるお式なのですから、着飾るのは当然です」


 あまりと言えばあんまりだって感じでレティを見れば、ヤツはさも当然ってな顔で言葉を返して来た。


 うーん。何かレティのヤツ、妙に気合が入ってやがりますよ。


 この調子じゃコイツ、この件では絶対に退く気が無いんだろうなぁ。


「お式って言っても結婚式の新婦とかじゃないんだし、こんな派手なドレス、浮き捲くりなんじゃないのかなぁ」


 丸っと拒否は出来そうも無い雰囲気なので、もう少し手加減を…って感じの戦術に切り替え、再度レティの顔を伺う。


 しかしヤツはワタシの言葉を聞くと、表情の無いお面の様な顔になって、こっちをズバッと指差した。


「ひぃ様は城塞都市を挙げて行われるお式の主賓なのですっ。一際派手な御衣裳で登場するのは当たり前ではありませんか!」


「ああ、いや、うん、まーそうだね。確かに主賓と言えば主賓だよ。一等功なんだしさ…」


 こりゃダメだ。コイツってば、絶好調だわ。


 適当な事を言いつつ、アハハハと乾いた笑いで誤魔化して目を逸らす。


 ちくしょー。レティのヤツ、こんな時だけ教育係だった時のポーズで決めて来やがって、お陰でつい全肯定しちゃったじゃんか。


 ウンザリして傍らの丸机に置かれた靴や装飾品に目をやれば、そっちはそっちでまた豪華絢爛なブツが揃っていらっしゃる。


 大粒のサファイアが眩しいイヤリングも凄いけど、繊細な金鎖でアクセントの付けられたベルベットのチョーカーには、真ん中に薄青い宝石のペンダントヘッドみたいなヤツが付いててヤバい雰囲気だ。


 何がヤバいってこの宝石、どうもブルーダイヤモンド臭いんだよね。


 本物だったらシャレになんないよ! 城が買えるんじゃないの!?


「このアクセサリー類、何処でかっぱらって来たワケ? 売ったらシャレになんない金額になると思うけど」


 ヘタしなくてもブロイ(ウチ)の家宝級なブツだよなーと思いつつ、ジト目でレティのヤツを睨む。


「お母上からわたくしが預かった品々ですので、これらは全てひぃ様の物で御座います。お売りになりますのならお好きになさいませ」


 ブロイ(ウチ)からかっぱらって来たブツだったら、その内に売り飛ばしてやろうと思ったのに、涼しい顔のレティから思いも寄らない答えが返って来てガックリ。


 は、母上…。


 思わずうな垂れちゃうよ。


 なんだかなー。母上ってば実子でも無い出奔した娘に、こんな大層なブツを持たせないで欲しいよなぁ。


 そんなモノなら絶対、例え金に困っても売る事なんて出来ないじゃんか。


 だってさ、もしこれが母上がくれたモノだって言うんなら、真ん中の石は紛れも無く、母上が輿入れの際に持って来た最大の隠し資産であるブルーダイヤで間違い無いと思うからだ。


「そんな話を聞いちゃったら、どう考えても売る事なんて出来ないよ」


 盛大な溜め息と共にレティに視線を戻せば、ヤツは涼しい顔で「それは良う御座いました」なんて返して来やがった。


 ちっ。コイツってば最も大事なコトをサラッと口に出しやがってぇ。


 母上絡みなら最初からそうだと言えってんだよ。


 レティを睨みつけながら更なる溜め息を噛み殺し、ワタシは天を仰いだ。


 これらのブツ達が、ワタシの晴れの舞台の為に母上が用意してくれたってブツだって言うんなら、もう何も言えない。


 ワタシにとってあの人は、それだけ特別な人なんだからさぁ。


「コンコン」


 母上の事を思い出しちゃって、色々な想いに沈み込みそうな感じになってると、入り口扉からノックの音が鳴った。


 おんや。まだまだ指定の時刻には随分と早いけど、何かあったのかな。


 ささっと応対に出たレティの方を見れば、どうやら相手は知り合いの様で、ヤツがこっちに「通して良いか?」って感じのサインを出してる。


 いや別に、アンタが通しても良いと思った相手なら、そのまま通しちゃってもイイけどさ。


 レティにOKのサインを出して、入って来た人影を見ると、相手はなんとエルンストさんだった。


 にゅうん。これはまた思いも寄らないヒトがやって来ちゃいましたよ。


 挨拶の為に立ち上がりながら、ワタシは首を捻った。


 そもそもエルンストさんってヒトは貴族家の出で、割りと格調高い生まれ育ちのヒトだ。


 その上、実力も西聖王国では5本の指に入る討伐騎士卿だし、西聖王国の現王陛下も「直臣に」と何度も誘ったと言われる程のヒトなんだよね。


 だから随身するデラージュ家の中でも別格の扱いで、常にその立場はデラージュ閣下自身に次ぐ形の筈だ。


 中身が「あんなヒト」だとは思わなかったけど、そんなヒトがこの情況でヒマなワケが無い。


 予想外に早く終了式典が行われる事になったせいか、昼を過ぎても功績の度合いやそれに伴う褒賞の中身なんかで関係者達が揉めてるって聞いてるしねぇ。


 エルンストさんは討伐軍ナンバー2だから、その調整役をやってるとばかり思ってたのに、違ったのかなぁ。


「女性の控え室に失礼だとは思ったが、バカ共がつま先程度の利益を確保するのに躍起になって追い回して来るもんでな。ちょっと匿ってくれ」


 うわぁ。


 部屋に入って開口一番、やってられんってなポーズでアレな言葉を口にするエルンストさんが酷いです。


 此処って一応ランス政庁のド真ん中だよ? おっさんも酷いとは思ったけど、エルンストさんも相当なモンだよ。


 確かに今、この貴賓室っぽい部屋にはワタシとレティしか居ないから、どんな事を口に出そうと平気なのかも知れないけど、聞かされたこっちが頭を抱えたくなっちゃうわ。


「良くそれでデラージュ家の筆頭家臣が務まるよね。閣下が太守になった暁には男爵サマに成って、南部連合の将軍の一人になるんじゃないの?」


 席を勧めながらも、呆れ顔で真正面からの嫌味を言ってやると、そんなものは何処吹く風って調子でエルンストさんは涼しい顔で笑った。


「今の所、南部連合には王がいないから新たな爵位なんぞ出んし、そう言った仕事はさせられるかも知れんが、今と大して変わらんからどうでも良い」


 ここが戦場なら頼もしさを感じちゃうくらいのふてぶてしさでお茶を飲むエルンストさんに、心底呆れながらこっちもお茶を飲む。


 いやー、ホントこのヒトってハンパ無いですわ。


 貴族のクセにこんだけ正直でもやって行けるんなら、ワタシだって伯爵目指してもう少し頑張っても良かったのかも知れないよね。


「それにお前さんがそんな事を俺に言える立場か? 本来ならばそっちこそ、ランス太守として立ってもおかしく無い功績を挙げた張本人だろう」


 ゲッホゲホ。


 か、勘弁して下さいよ、エルンストさん。 


「ポッと出の未成年にムチャな事を言わないでよ。こっちは家臣も居なけりゃ政治力とかも全く無いんだからさ」


 予期しない反撃に、思わず咳き込んじゃって涙目で抗議すると、エルンストさんは「はぁっ?」って声が出そうな程、不思議そうな顔でこっちを見た。


「討伐士協会七大騎士の一人であるバルリエに始まって、シルバニア女王とヘルミネン、更にオストマークだのブロイだのにまで強力な繋がりを持つと言われるお前さんに政治力が無い? 笑わせるなっ」


 ぬにゅうっ。そ、それを言われるとツラいかも。


 ちょっと怒った様な、それでいて同時に呆れた様な感じのエルンストさんが人差し指を突きつけて来るので、思わず退き気味になっちゃう。


 確かに、傍目から見ればワタシってそう見えても不思議じゃ無いけどさぁ。


 でもねー、どう考えてもワタシって、ブロイ(ウチ)家以外で今名前が挙がったヒトらには、ただ単に面白がられてるダケって感じだし、当然ながら政治的とか実利的とか言った繋がりなんて全く無い。


 それに元々、ワタシは修行中の討伐従騎士風情でしかないんだから、家臣団どころか、まともな代理人すら居ないのが実情だ。


 そんな事を口に出すと、エルンストさんは更にふてぶてしい表情になってニヤりと笑った。


「その代理人に討伐士協会から毒蛇バイパーのドバリーを引き抜いたそうじゃないか。ヤツならどんな合議の場でも、お前さんにちょっとした大貴族並みの発言力を持って来るぞ」


 うわっ。おじ様ってば、毒蛇バイパーなんて渾名が付いてるのかぁ。


 そりゃあの異様と言ってイイ手腕を考えたら、そんな渾名が付くのも納得だけど、どうせウラも満載なんだろうな。


 聞きたい様で聞きたくない様な微妙な話かも知れん。


 そんな事を考えてると、エルンストさんからは見えない角度で、レティのヤツがニヤりと笑った。  


「ワタシなんて所詮は世慣れして無い未成年の子供だよ? あんな凄いヒトに付いてくれるって言われたら、喜んで迎えるに決まってるでしょ」


 ぬう。レティさんや、今の余裕の笑みは何だね?


 訝しげに思いながらも、まずは目下の敵であるエルンストさんに向けて言って見るテスト。


 どうもこのヒト、ワタシの知らないおじ様を知ってるっぽい感じだし、聞ける話は聞いておいた方が良いよねっ。


「オイオイ。お前さんが子供だって言うんなら、世の中なんてガキだらけだろうが。大体、毒蛇バイパーが唯の子供に忠誠を誓うかよ」


「はい?」


 こっちに突きつけてた右手を、今度はググッと握り締めたエルンストさんから妙な言葉が返って来て驚く。


 ちゅ、忠誠って、一体何のコト? おじ様、エルンストさん相手に何をやらかしたんだろう。


今宵もこれまでに致しとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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