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106話

若干内容にズレが出てしまった為、前話(105話)は早々に書き直す予定です。申し訳有りません。



「よおっし、こうなったら出奔でも何でも、このお姉さまに任せなさい!」


 ワタシは浴槽の中で立ち上がると、ググッと握り拳して大きな声を上げた。


 伯爵家総領姫だった頃ならいざ知らず、今のワタシは唯の流れの従騎士だから、貴族社会の流儀なんか関係無く、どんな手段だって取れちゃうもんね。


 イザとなったら攫って逃げちゃうってテだってあるし、やり様なんて様々だ。


「お姉さま・・・」


 長い事湯に入ってたせいか、ポーっと赤い顔のアリーが見上げて来て、更にヤル気が湧く。


 うむっ。こんな愛らしい義妹いもうとの為ならば、例え火の中水の中ってヤツだよ!


「お言葉はとっても嬉しいのですが、実は私、高等学院卒業までの道筋は既に出来上がっておりますので、出奔などしてお姉さまにご迷惑をかける心配はありません」


 しかし気合が入ったのも束の間、直後にアリーの口から信じられない様な言葉が出てきてビックリ。


「へ? ソレってどう言う事?」


 鏡で見たら結構な間抜け面なんだろなって顔になったワタシが疑問を口に出せば、アリーは可愛い胸を張って、滔々と話し出した。


 それによればアリーは幾度もの交渉や裏取引を経て、今では次期ルロン家当主を従兄弟殿に譲った上で貴族籍から抜ける事を周囲に認めさせているのだそうだ。


 しかも高等学院卒業までは実家に面倒を見て貰う物の、その後の立ち位置は全くのフリーで、公国で独立騎士団をやってる伯母上(父親の妹さんらしい)と連絡を取り合って、18で成人と成るまで一時的に身を寄せる計画まで立ててたらしい。


 うはぁ。何かドッとお疲れーって言うか、身体中から一気に力が抜けちゃう様な話ですよ。


 大体さー、従兄弟や親族連中を個別に懐柔して味方に付け、何時の間にか包囲網を作って両親に選択肢を無くさせるなんて、12歳少女が考える様な作戦じゃ無いよなぁ。


 可愛いだけじゃなくて才能も・・・なんて思ってはいたけれど、幾ら自分の為とは言え、この歳でそこまでの手配りをこなすなんて、生半な才能の持ち主じゃ無いわ。


「イタい」などと思ってしまい、大変失礼を致しましたって感じだよなー。 


 同年代の頃のワタシなんか、まだ山中で黒歴史を積み上げてた頃なんだから、あまりの差にもうガックリって感じ。


 はぁ。リーズと言い、アリーと言い、どうして此処まで自分と違うのかなぁ。


 所詮脳筋は脳筋ってコトなんだろうけど、ホント、己のバカっぷりが憎いわっ。


「えっと、それって要するに高等学院を卒業した後でワタシの独立騎士団に入りたいって事?」


 まあしかし、取り敢えずは話の整理ってワケで一言で纏めた結論を口に出すと、アリーがこくんと肯いたので、ワタシは更なる脱力感に襲われた。


 なんだかなぁ。一瞬マジで色々と考えちゃってソンしたわ。


 結局、学院を出て初位の魔法位を持った仮成人がワタシの所に来るってダケの話だし、それって初めっから何の問題も無い話じゃんか。


 しかも貴族籍から抜ける以上、実家からだって完全にフリーになるんだから、尚更問題ナシだ。


「だったら初めからそうだって言ってよねっ。こっちはつい、アリーが何かに追い込まれてるんじゃないかって心配しちゃったよ」


 ちょっとイラッと来ちゃったせいで、ワタシの口から反射的に抗議の言葉がこぼれ出た。


 確かに早とちりしたこっちも悪いけど、アリーだってもう少し話し様ってのがあると思うんだよ。


 謝る様な事じゃ無いものの、ちょっとは心に留めておいて貰いたいモンだよね。


「わ、私はお姉さまに受け入れて貰えるかどうかが心配だったのです。所詮は唯の小娘ですし・・・」


 しかしそんな風に思ったのも一瞬で、ワタシの抗議を受けたアリーが見る見る内に何時ぞやのレティもビックリな萎れたワンコ状態になっちゃって、思わずアセる。


「い、いや、その、別に怒ってるワケじゃ無いよ? 心配しちゃった裏返しって言うかさ、そんな感じだからそこまで気にしなくても・・・」


 ダッシュで言い訳を口にして、何とか誤魔化そうとしたけど、アリーのしょげ様がハンパ無い。


 ま、不味ぅい!


 ううっ、自分で口にしといて言うのも何だけど、もう少し柔らかい物言いにしとけば良かったよ。


「お姉さま」


 萎れたワンコ状態のアリーが顔を上げたので、ハイハイッと肯く。


「お姉さまが言うお話はもっともです。そもそもいきなり臣下などと言われれば、誰だって驚くのが普通ですから」


「え? ああ、いやー、まあそうなんだけどさ。でもアリーにも色々と思う所があるんだろうし・・・」


 涙目になりながらもアリーが口を開いてくれたので、ワタシは何とかさっきの発言を誤魔化そうとやっきになったけれど、脳筋な阿呆たれにそうそうウマい言葉なんて出て来ない。


 しどろもどろに弁解めいた言葉が出てくるのがやっとだ。


 ホント、こんな時は自分で自分がイヤになるよな。


「お姉さまには申し訳有りませんが、私、初めて千体斬りの噂を聞いた時は『ああ、また下らない貴族もどきが妙な事をやっているな』としか思わなかったのです」


 しかしワタシのしどろもどろな返事にも関わらず、アリーが何やら話を続けてくれたのでホッとする。


 少しイヤな気配がするけれど、気のせいと切り捨てて、ウンウンと肯いて見せた。


「そもそも御落胤などと言うやからは大抵、貴族のくらいに汲々としているモノです。その生まれ方には確かに同情を致しますが、地位や名誉に固執する在り様には嫌悪しか感じません。お姉さまの噂を初めて聞いた際は、そのような者がまた過剰な宣伝でもやっているのだろうと、タカを括っていたのです」


「まあねぇ。御落胤なんて自ら名乗る様なヤツって、大抵はそんなモンだもんね」


 切り捨てたってのに、イヤな気配がイヤな予感に切り替わって纏わり付いて来る中、取り敢えずは助かったかなと思って話の内容にノッて見せると、アリーは遠慮がちながらも笑顔を見せてくれた。


 にゅうん、可愛い!


 美少女って、こんな状態からでも微笑むと可愛いんですねぇ。


 しかし、アリーに微笑まれてなんか嬉しくなっちゃったワタシに、特大のイヤな予感が襲って来る。


 うおっ、お風呂に入ってるってのに寒気までするって、一体何事だってのっ。


 まさかと思うけど、ここからアリーが例のアレでも始めるって事じゃないんでしょうねぇ?


「しかしお姉さまは違いました! トカゲ共から助けられた際は世間ズレした自らの心の狭さに、地に頭を擦り付けて謝ろうかと思った位ですっ」


 へえっ!?


 ちょっと前まで萎れたワンコ状態だったアリーが、突然全復活したかの様に立ち上がって、両手を握り締めて大きな声を出した。


 ゲッ、ホントに来たぁ! しかもこれはアカンヤツだっ。


 他の人達ならともかく、アリーに本気で「褒め殺し」をやられたら、耐え切れる自信が無いよっ。


 しかしそんなワタシの想いが届く筈も無く、一挙に復活した感じのアリーが渾身の力説を開始した。


「討伐士協会の総裁殿下のお墨付きを投げ捨てて省みない程、世の地位や名誉と言う物に御興味が無い稀有な御方であると同時に、このランスの街を守る為、誰もが恐れて逃げ惑う魔物ドラゴンにたった独りで立ち向かう程の強者つわもので、更に、とてもお優しい御心まで持っておられるのがお姉さまですっ。そんな崇高な御方のお側に仕えたいと思うのは、いけない事なのですか!?」


 ええっ!? ちょっと待ってよっ。ワタシってばそんな素晴しい人物じゃ無いってば!


 もう一瞬で茹でデビルフィッシュの如く真っ赤になっちゃったワタシは、クラクラと眩暈がする中、なんとか体勢を整えようと浴槽の縁に手を掛けた。


 ヤバいっ。マジで倒れそうだわ。


 くうっ。予想した通り、アリーの褒め殺し攻撃の破壊力はシャレになんないよっ。


 そうだっ、こんな時こそ深呼吸だ!


 速攻で腰に手を当てて、スーハースーハー深呼吸!


 しかし深呼吸体勢が取れたのも束の間で、なんとこの状態でアリーが抱き付いて来ちゃったからさあ大変!


 ヤバい! マジでヤバいよっ。


「私、お姉さまの愛人枠でも構いません! お側に置いて下さいっ。貝合わせだって平気です!」


 ゲッホ、ゲホゴホ。それはちょっと勘弁して下さいアリーさんや。


 ワタシってばまだゆりりんな人ってワケじゃ無いんだからさぁ。


 って言うか、やっと12歳なアリーに「貝合わせ」とか言うエグい単語を吹き込んだヤツは、何処のどいつだって言うんだよっ。


 十中八九レティのヤツが裏で糸を引いているに違いないとは思いながら、怒りが湧いたワタシは両肩を掴んでアリーを引き離し、「馬鹿な事を言うなっ」と怒った。


 ワタシの剣幕にアリーはシュンとして俯いちゃったけど、怒りのお陰で何とか体勢は取り戻せたみたいでホッとする。


 後でレティのヤツには辛い釘でも刺しておく積りだけど、ここはまずアリーを安心させる事が大事だよね。


「アリー程の才能の持ち主なら、基本的に何処でもウエルカムだと思うし、それはワタシだって同様だよ。ましてや義姉妹の契りまで交わしてるんだから、何時でも歓迎するに決まってるじゃない」


 膝を屈めた低い体勢から、ジィっと目を覗き込む様にして宣言する様に言い放つと、俯き加減だったアリーが即座に抱き付いて来た。


「有難う、お姉さまっ!」


 ぬうっ。どうやら何とかなった様ですな。 


 ウンウンと肯きながら、頭をナデナデしてアリーの可愛さを堪能しながらも、ワタシはやれやれと溜め息を吐いた。


今宵もこれまでに致しとう御座います。

読んで頂いた方、有難う御座いました。


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