スリにスラムと派遣会社。
「よし、じゃあ入ろうか。」
扉に手をかけた時だった。
トンっと腰くらいの背丈の子供が僕にぶつかってそのまま走り去っていった。
「ちょっ!追いかけるわよ!」
「え?え?」
「財布盗られたわよ!」
財布なんて持ってないけど・・・?
そう口にするのがはばかられる剣幕のリシア。
そして、飛びやすいようにかいつもの10歳くらいの姿から更に小さくなり飛んでいった。
「ちょっと待ってよ!!」
僕は急いで追いかける。
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「ようやく追いついたわよ。」
「はぁ、はぁ、ねえちゃん達何者だよ・・・俺の足に追い付くなんて・・・。」
僕達は「国」を出て隣接するスラムまで来た。
スラムには先日のゴブリン軍の被害の跡は見えず、それどころか小さいながらマーケットが開かれていて賑わっていた。
ただ、それと隣接する希望の無い瞳や絶望の影が多く見て取れる。
「僕達から取ったものを返してくれるか?」
とは言っても何を取られたんだ?
観念したのかしぶしぶ返しに来る少年。
よく見ると衣服は所々破れ、真っ白だったであろう上着は黄色くなっている。髪も伸び放題で、見窄らしい姿に僕は思わず言葉を失う。
「オラ、これだよ。返せばいいんだろ?返せば。」
差し出してきたのは・・・トランプだった。
「あんたらが城から出てきたのは見ていたんだ!これは金なんだろ?いいじゃないか!俺達は金もないし、腹も減っているし、子供ばかりなんだ!恵んでくれよ!」
「それは、違うんだよ、坊主。それはお金じゃないんだ。」
「お金じゃない・・・?」
「お金じゃないんだよ。この国のお金は、こういったものなんだ。」
僕は銅貨を見せる。金貨や銅貨も持っているが、見せびらかすものじゃない。
「そんな・・・じゃあ、これは?」
「それはトランプというカードの種類で、ゲームの道具なんだ。」
「そっか、なんだ・・・俺のした事は何も意味なんて無かったんだな・・・。」
「お金が必要なのか?」
「だから、そうだって言ってんだろ!!ナメてるのか!」
「この辺りに顔はきくのか?」
「・・・何させるつもりだよ。」
少年を追って辿り着いたのはスラムの1区画。
ギルドで出すつもりだった依頼を彼にするだけだ。
「人を集めて欲しいんだ。文字が書ける者と、計算が出来る者。あと料理が出来る者と、力自慢と体力自慢。それと・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!兄ちゃん何者なんだ?!それに人を集めて何をするんだよ!」
「まぁ、待ちなよ。人の話は最後まで聞いた方が良い。自分に有理か不利か判断する上でも、最後まで聞いたうえで質問をするべきだ。ところで、君の名前は?」
「・・・ペンだよ。」
「そうか、ペンか。宜しくね。あと君に頼みたいのは、スラムで一番偉い人に会わせて欲しい。」
「会わせることは出来る。それに、人を集めるのも。兄ちゃん、少しだけでも教えてくれないか?内容が分からないと、みんなになんて言えばいいんだよ。」
「みんなには、能力がある人間に仕事を紹介したいと伝えて欲しい。僕は、能力のある人を望む場所で働けるようにしたいんだ。」
裏を返せば、能力のある人を求める人手の足りない場所を助けることにもなる。
「そんな事・・・本当に?」
「あぁ、本当だ。最初は信じてくれないかもしれない。ただ、信じてくれた人こそ、今僕が求めている人材だ。そこの広場に・・・」
ゴーッンと教会の鐘がなる。
「次の鐘がなる頃にそこの広場で待っている。そこでテストをする。と伝えて欲しい。わかったか?」
伝えるとペンは笑顔になった。
「わかった。ちょっと待っててくれよ!」
そういってペンは暗い路地裏から明るい広場へとかけていった。
さて、こっちはこれでいい。
問題なのは・・・
「リシア?」
「・・・」
「リシアちゃん?」
「・・・」
「キキョウさん?」
彼女は妖精の姿を借りた外見から元の姿になっていた。プラチナブロンド豊満な肉体。レイス王女と呼ばれていた頃の姿。そして、つい最近キキョウと名付けられた姿に戻っていた。
「さん付けで呼ばないで!」
「あぁ、悪かったよ。でも、泣くことは無いじゃないか。」
「うるさいわね!あんたが名付けたのに他人行儀で呼ばれて、泣きたくなったのよ!」
そういって泣き腫らして真っ赤に染めた眼と、同じく真っ赤になった頬を膨らませる。
強がりな人だよ。全く。
そこが嫌いじゃないけど。
「ねぇ、あなたは何をするつもりなの?」
「ん?」
「スラムの人を王城で働かせるつもり?本当に能力のある一部の人はいいけど、そうじゃない人は?危ない人がいたらどうするの?このスラムの人達はゴブリン軍に滅ぼされた国や村から集まってきていて、政治の能力を持っている訳でも、戦闘力を持っているわけでもないの!身元もわからないし、危険な魔法を使う人が隠れていたら?魔族が化けていたら?だから・・・助けたくても・・・ヒック・・・助けられなくて・・・ヒック・・・ヒック・・・・うぅ・・・うぇーん!」
という事を色んな人達に言われていたんだな。
自国の王女と、城で働く自分や身内、そして自国民を守るためであり、人材を発掘する人出もなく、ゴブリン軍に戦争もふっかけられ、対処するのに精一杯だったんだと想像ができる。
「だから僕が動くんだ。僕は王城につてがあり、人出の確保を求められている。これから行うテストでは能力があるかないかじゃなく、どんな能力を持っているかを測るんだ。身元が無いなら僕が身元を保証するんだ。身元を保証できるかは僕に任せてほしい。不安なら、君が妖精の力で心の声を聞けばいい。」
「本当に・・あなたは何をするの?」
「僕は人材派遣会社を作る。協力してくれるかい?」
「人材派遣?会社・・・?」
会社の概念は無いのか?!
「さっき、ペンに言っていた通りだよ。ハワードさんのように人出が足りない所に有能な人材を送り、有能な人達には王城で働くチャンスを。そして、スラムの人達が自分達で立ち上がるチャンスを作れると思っているんだ。」
「チャンス・・・?」
「あぁ。僕の想像だととりあえず2つの道が考えられる。1つはロゼッタ王国に庇護を受ける。スラムを改善して、今スラムと呼ばれている場所にも壁を作り・・・いわば領土を広げる形になるのかな?」
「もう1つは?」
「彼らの独立した村を作る。そこから、この国や商業都市などに働きに出る仕組みを作る。」
「会社ってギルドみたいな仕組みを作るってことなの?それとも・・・国でも起こすつもり?」
「国なんて大それたものじゃないよ。ただ、僕は折角知り合えた人達に恩返しをしたいし、君の愛した国をいい方向に進ませたいんだ。その為には君の力が必要なんだ、キキョウ。力を貸して欲しい。」
言い終えた僕の手を両手で握り締めるキキョウ。
「あなたが望むなら、どこまでも。当たり前じゃないですか。私はあなたの為なら何でもしますわ。」
涙を目元に浮かべ、鼻声で誓ってくれる。そんな微笑む彼女は眩しくて、まるで太陽のようだった。




