王の剣と魔族イデア
何だあれ?
何もない所に穴が開いている。
そこから・・・また出てきた。
また。
ゴブリンキングの巣?
「アトム、あれ何か知ってる?」
『あれは・・・・まさか?』
「あ、知ってるんだ?教えてよ。」
『いや、だが、まさかココがそうなのか?』
「おーい、アトムさん?」
『これは、我の知った者の仕業かも、知れない。』
「てことは、ココがアトムの来たかった世界って事?」
『まだ確定ではないが・・・元々、我がいた世界はなんの変哲もない《剣と魔法の世界》でな。似た世界に小僧と何度も行った。まだ、断言は出来ないんだが・・・空間に穴を空けるやり口はあいつのやりそうな事では。』
「誰だい?あんた?」
急に女性の声が聞こえた。
「誰だ?」
振り向くと、いわゆる魔法使いのローブを着ている女性がいた。
「私かい?私はイデアだよ、お坊っちゃん。」
『小僧、すぐに撃ち殺せ。』
「・・・わかった。」
バシュシュンと極小範囲の超電磁砲を頭、心臓の2箇所に撃ち込む。
しかし、平然と笑っている。
「ホログラム?」
「ホログラムとは?」
聞き返されてしまった。
「君はここにいないだろう?という問い掛けだよ。」
「そうとも!良くわかったね!それに冷静だ!穴が空いた人間を前にしたら、大抵の人間はマトモじゃいられないのに!」
アトム、こいつは一体?
『久しぶりだな、マッドサイエンティストが。』
「その単語が何を表すかは分からないけど、その声はまさか我らの栄えある魔王様ではないか?」
「知り合いのようだね。」
『こいつは我を殺した集団の一人だ。』
「殺したなんて!暴君となった君を、僕達が成敗したんだ。」
『暴君だと?息子を傀儡と化し、私の仲間を策略で遠方に飛ばし、勝手に軍を動かし、その間に、私を処刑したのは誰だ!!』
「そうだっけ?魔王様を殺して5年も経っているから、覚えてないや。」
『この世界では5年しか経っていないというのか!?』
完全に口論になってる。長くなりそうだ。さっきからゴブリンキングが増え続けてるんだけど・・・ロゼッタ国軍が交戦を始めてるけど、そんなに長くは持たないんじゃ・・・
「リシアー?」
「ここにいますよ!って何ですかこの状況は?」
「ステファニアは?」
「今は、ロゼッタ国軍の作戦事務所で指揮をしています。」
「・・・記憶が戻ったの?」
「いえ、そんな筈はないんですが。体に残った感覚なのかもしれません。現在、指揮の出来る人間が誰もいないので、当然のような顔で入り込んでいました。」
「そう、ならいいけど。あのゴブリンキング達、何とかなる?」
「いいですが、魔力貰いますよ?」
「いいよ。」
「はむ」
「なぜ僕の首に噛みつく?」
「はむはむ」
吸血と違い牙は立てられていないし、これが魔力を吸う一般的な方法なんだろう。
「ごちそうさまでした!」
首筋が涎だらけの僕を無視するように飛び去っていった。
暫くするとゴブリンキング達の首がまとめて吹き飛んだ。
平常運転だな、リシア。
「もう終わった?アトム。」
『あぁ、こいつがクソ野郎という事が更にわかったわ!』
「身体をなくした魔王様、その宿主の人間ね。しかし、お坊っちゃんも変な子ね。さっき何に魔力を上げていたの?」
「応える必要が?」
何って物じゃないんだから、何だよその言い方。
「いいわ。全部捕まえて、調べてあげる!」
「アトム。力を。」
『おう、手加減は無しだ。』
バシュンバシュンと体に黄金の鎧が着いていく。
「『王の剣よ』!!」
大地から黄金の剣が出てくる。
「その力を、使えるのね?」
今まで余裕な姿勢を崩さなかったイデアが急に慌て始めた。
「『そうとも、この力は私という存在の体現だからな』」
この状態の時の僕はアトムと融合しているといえる。他のモードだと別々の精神が保てるが、この《黄金騎士》モードでは強力すぎる為か一人では正気を保てないのかもしれない。
いずれは、一人で制御できるようにならないとな。
「『貴様は人に害しか与えぬ存在。王の剣で切り捨ててくれる』!!」
ちょっとアトム寄りの性格になる気がするから、嫌な理由でもある。
「『聖剣よ、光を!』」
剣が光を纏い、イデアに対して構える。
「『千刀』」
千刀は王の剣の纏った光を、千に分け、相手に突き刺す技。
光自体がエネルギーの塊なので、そのままぶつける使い方も出来るけど、千刀にすれば、逃げ場が無くすことが出来る。
今イデアを囲むように、千の光の剣が静止している。
「『刺突』」
僕の声を合図にイデアに剣が突き刺さる。
「なかなか、効くねぇ・・・・ゴフッ」
「『まだ、生きているだと?』」
「この五年で、自分自身を改造してきたのだよ。だから」
突然、スライムのように溶け始める。
「さらばだ。元魔王様。」
イデアは何処かへと消え去っていった。