表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

プレミーア領

3月6日誤字修正しました。



っつ!


「・・・・・・わあああぁぁぁっ!!」


・・・ついに

「・・・ついに・・・・・・


 やったあああぁぁぁ!!!」


み、


「みつけたああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」



さて、なんでこんなに馬鹿みたいに

『あ』と『ぁ』を羅列して叫んでいるのか説明しよう。


ついに、ついに!

見つけたのである!

何を?


     町をだ!


町!町だ!町なんだ!


何日ぶりだ?

ああ、いや昨日ぶりか。


そこまで長くもないか。

いや、だけど長く感じたんだよ!


だってこんなの初めてだぞ!

異世界もだし!野宿もだし!

俺はサバイバル訓練なんか受けてねーんだよっ!

おねえは、ブートキャンプとか行ってたらしいけどよ!

つか、なんで黙ってたんだよ!

俺も連れてってくれりゃぁよかったのによ!


まあ、そんな訳だから

町なんだ!



あ〜

さっきから弟がすいません。

えっと、どうやら混乱しているようなので何言ってるか分かんないと思うのですが。


要するに町です。

町が見つかりました。


ちなみに、一番最初に


「『あ』と『ぁ』を馬鹿みたいに

 羅列して叫んでいる理由を説明しよう。」


みたいな事を、言ったのは私だ。


で、その後は錯乱したりょうだ。


という訳で町だ。町です。

・・・いかん。


前言撤回。


やっぱり、私も混乱、錯乱していたようだ。

落ち着こう、冷静になるんだ。


そうだ。あの後私達は川に向かって、それで、そこで火を焚いてお湯を沸かしたんだ。で、そのお湯に水を加えていい感じの温度にして・・・それでそのお湯で体を洗ったんだ。ついでに服も。


紫の宝石みたいな石とか、獣の死体の後から出てきた、というか残った物達はお湯で洗うとヤバいかもしれないから川の水で洗ってそして、元の様に私達のポケットの中に分けて入れたんだ。


それから、焚き火の近くで体を乾かして暖めて、そして涼の体調が問題なさそうなのを確認してついでに、擦り傷とか、切り傷とかの小さな傷を応急手当して、それから森を出てさらに進んだ。

歩いて歩いて、それから町を発見した。


戻れなくなったら、水を得られなくなって大変だから。


森が見えなくなる寸前の所まで行って町が見つからなかったら一旦森へと戻る。と、そう決めて歩いていたのだ。


それが・・・

見つかったのである。


色々と準備をして、明け方には出発して、そして、昼間、真っ昼間。


それくらいの時間に私達はその町を発見した。森はもうほとんど見えなくなっていてそろそろ戻ろうか?という話しになっていた所へ、見えたのだ。


大きな、大きな町。


高い壁、城壁のようなその壁に囲まれた町。


それが、見えたのだ。

城壁があるので町の全貌を見ることはできないが城壁の真ん中には、大きな門があって、その扉は大きく開かれている。よって、そこから町が覗き見れるのだ。


そしてひと通り叫び終わって状況確認を終えた私達は、顔を見合わせると同時にコクリ、と頷きそして、これまた同時に走り出す。


ぶわっ、と駆けて辿りついた先は城壁の大きな門の前。


そして門番の一人も立っていない、その門の向こうに向かって声を張り上げる。


すぅ・・・


「「・・・ったのもぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅぅぅ!!!」」


大きく息を吸い、思いっきり大きな声で言ったそれは、すぐに近くの人達に聞こえ、慌てて門番と見られる者達が走って来た。


その男達は、金属の鎧をまとい、片手に槍を持った奴らだった。



・・・・・・要するに、

結局二人共冷静では無かったと言う事だ。


普段の凛香なら町を見つけてもすぐには近づかず、しばらく様子を見て安全かどうかなどしっかり確かめてから、慎重に大人しく静かに、出来るだけ目立たない様に行ったのだろう。


だがしかし、突然異世界へと飛ばされ子どもの容姿にされ、夜中に野宿をしているとおよそ動物のものとは思えない赤い瞳をした

獣達に襲われ、弟は怪我をし、やっと倒したと思ったら獣の死体は消え、代わりに紫の宝石のような石や、皮や角、牙に爪などだけが残るといった摩訶不思議な現象を目にし、冷静でいられる方がおかしいのである。


普通なら今ごろ発狂していてもおかしくないような状況。


しかし、凛香と涼には、今まで二人きりで生きてきたという強い絆がある。


そして、その時に、そのために培った技術もある。故に、心が壊れてしまう事は無かったが、やはり安心して緊張の糸が切れてしまったのだろう。


・・・・・・やってしまった・・・・・・


凛香もようやくその事に気づき、焦りや、後悔や、こんな事をしてしまった自分への嫌悪で満ち溢れた顔をしている。


そんな凛香や、今だ自らがやった事に気づいていない涼を見てどう思ったか、門番の彼らは近寄ってきて


「お嬢ちゃん達どうしたんだい?

 お父さんやお母さんはどこかな?」


そう、努めて優しくしようとした声と顔で聞く。


「・・・!えっ!?え、ええっと・・・・・・」


凛香はいきなりの事に驚き、困惑して言葉になっていない。 


その様子に見かねた門番は、


「お父さんとお母さんはもう少ししたら来るのかな?

 城壁が近くなってきたからお母さん達を

 置いて先に来ちゃったんだね?」


と、答えやすいように憶測を述べる。


「・・・えっと、いえ。違います。

 私達にはお父さんもお母さんもいにゃいので。」


少しだけ落ち着いた凛香がその質問に答えると、門番は明らかに戸惑いの表情を浮かべて


「・・・えっと、じゃあ

 おじいちゃんとかおばあちゃんとか、

 おじさん、おばさんとか・・・

 それか、歳の離れたお兄さんかお姉さんと来たのかな?」


子どもの保護者となりそうな人達を次々と言っていく。


なんとなくこの門番達が

歳の離れたお兄さんかお姉さん説を

一番信じていそうな気がする。


わんぱくな子ども達をしっかりと見張れていない

まだそこまで歳もとっていなくて

それでいて子どもという訳でもない年頃の兄か姉。

うん。割とピッタリきそう。


だがまあ違うのだ。


「いえ、そういう訳でもにゃくて・・・

 私達、二人だけにゃんですけど、

 気づいたら知らにゃい森の近くにいて、

 とりあえず町を目指したんですけど・・・」


凛香がそこまでを説明し終えると


「んなっっ・・・・・・!!!!」


門番達は信じられないといった顔で絶句している。


「・・・それで・・・・

 この町への立ち入りを

 認めてもらえるのでしょうか?」


門番達はその言葉を聞いていても、魚のようにパクパクと口を開け閉めして反応出来ないでいる。そしてしばらく経ってようやく我に帰った門番は他の門番達と相談し始める


「どういうこった!?

 城壁の外は魔物がいるんだぞ!

 そんな危険な所に幼い娘二人でいただなんて!

 信じられない!」


「魔物に運良く襲われず、運良く生き延びたのか!?

 どうやってそんな・・・・・・」


「いや、それよりも城壁の外には

 子どもだけでは出られんのだ!

 どうやって子ども二人だけで・・・・・」


「いや、子ども二人だけでは無かったのかも知れんぞ!

 親か、親戚と一緒に出て

 親は魔物にやられたのかも知れん!」


「いや、親に捨てられたのかも知れんぞ!

 口減らしとかよくある話しじゃねぇか!」


「だがそれなら奴隷商に売った方がよっぽどいい!

 金は入るし口減らしはできるしで。」


「それもそうだな・・・それじゃあ、

 もしかして・・・・・・」


「何か事情があるんじゃねぇか?

 奴隷にもできねぇ程の訳ありの!」


「どっかの王族の隠し子か!?」


と、門番達の話し合いの雲行きが怪しくなってきた所に待ったをかけるように凛香が口を開く。


「・・・えっと、

 隠し子という訳ではにゃいのですが・・・

 にゃんといったらいいのでしょうか・・・?

 とりあえず自己紹介をさせていただきます。

 私は、雨宮あまみや 凛香りか

 雨宮がファミリーネーム、名字で、

 凛香がファーストネーム、名前にゃまえです。」


凛香は、そう言ってペコリと頭を下げると、


「涼!あにゃたも。」


涼にも名乗る様にうながす。


「お、おう。

 俺は、雨宮 涼です。」


涼は、戸惑いながらもそう言って名前を名乗る。


「ど、どうも。

 俺はラルクです。

 ラルクは名前で、名字はありません。」


そして凛香、涼、門番達。


この中で、最も戸惑っていた門番達の中からまだその中でも冷静だった門番の一人が前に出てそう名乗る。


「はい。ラルクさん。よろしくおねがいします。


凛香はそう言って頭を下げ、


 さっそくですがいくつか質問させて頂きたいのですが。」


すぐにそう切り出す。


「は、はぁ・・・

 えっと、俺に答えられることなら何でもどうぞ。」


ラルクは、五歳くらいに見える幼い女の子が、まるで大人のような言葉使いをする事に驚きと困惑しながらもそう答えてくれる。


「では、失礼ですがラルクさんには

 名字がにゃいとの事ですが、

 それはラルクさんだけですか?

 それともこの国の人はみんにゃそうにゃのでしょうか?」


凛香は、ラルクが子ども相手でもきちんと答えてくれそうな事にホッとひと安心しながら努めて冷静に言う。


「ああ、はい。

 この国だけでなく、

 周辺の諸国でも名字がある人は少ないです。」


ラルクは何故こんな常識的な事を知らないのだろうと思いながらもまあ、いくら大人びて見えてもまだ子どもという事か、と自分のなかで納得して答える。


「そうですか・・・

 ちにゃみに、名字を持っているのはどんにゃ人ですか?」


凛香はそんなラルクの顔を見て少し考えながら続けて質問をする。


「それは、王族や貴族、金持ちが多いですね。

 名字はお金で買えますから。」


ラルクは特に考えもせずにスラスラと答える。


「・・・そうですか、分かりました。

 では、次にこの町の名前にゃまえと、

 この町が国の一部にゃのであれば

 この国の名前にゃまえを教えてください。」


凛香はこの国には、王族や貴族がいるのだという事をしっかりと脳に記憶させながら言う。


「はい。この町の名前は

 プレミーア領。

 クライラット王国の領地の一部です。」


「プレミーア領・・・クライラット王国・・・」


凛香は、ラルクの言葉を繰り返しつぶやくように言う。


「・・・にゃるほど。

 聞いた事の無い名前ですね。

 ・・・ちなみに、ディバインヘルツ王国

 という国を知りませんか?」


そして、記憶の中からその二つの名前を聞いた事がないか探し、

少し考え、凛香はそう尋ねる。


「・・・ああ・・・・

 ディバインヘルツ王国なら聞いた事がある。

 確か世界三大国の一つで、

 魔術が栄えている国らしいよ。」


ラルクのその言葉に、ゴクリと喉を鳴らした凛香は、


「!・・・・そうですか・・・

 ディバインヘルツ王国、あるんですね・・・」


ほっ

と、安心して胸をなでおろす。

そして冷静を装っていた感情を出してしまっていた事に気づく。


「ああ。・・・もしかして、

 アマミヤ達はその国から来たのか?」


今まで感情を見せなかった幼い娘とは思えない凛香が感情を表した。


自分と話しているのは幼子の形をした得体のしれない者かもしれないと、内心で思っていたラルクもホッと胸をおろし、そして、今までしていた慣れない敬語を崩して聞く。


「・・・いえ。

 ・・・ただ、私達の母の生まれ育った国で、

 父が昔住んでいたというだけです。」


凛香のその答えに一番驚いたのは涼だ。


「え!?マジ?

 ここってお父さん達がいた世界やったん!?」


そう叫ぶように言って、盛大に驚いている。


「うん。そうみたい。

 全く知らない世界だったらどうしようって

 私も心配だったんだけどね。

 よかったよ。この世界なら

 まだ、お父さんから教えてもらった知識で

 にゃんとかなるかもしれないしね。」


「お?え?にゃにそれ?

 お父さんからにゃんか教えてもらったん?」


涼は、それを聞いて訝しげにそう聞く。


「まあ、ちょっとだけね。

 たまに寝る前にはにゃして聞かせてくれたのよ。

 けどまあ、にゃいよりましね。」


「ふーん。

 ・・・おねえだけずるい。

 俺、そんにゃの一つも知らにゃいのに。」


ねて、不機嫌そうに言う涼に、


「しょうがにゃいよ、・・・それは。

 だって涼、寝てたし。

 それに、他所よそで変にゃ事いいそうだったし。」


凛香もそう言って反抗する。


「そんなことっ・・・・・!」


涼も反論しようとする、


「まあまあ、兄弟喧嘩もそれくらいに・・・」


が、ラルクが間に割って入り


「そうですね。はにゃしを戻しましょう。」


凛香は、そう言って言い争いをやめる。


「ああ。まずは話しを聞かせて欲しい。

 えっと、アマミヤ達は

 ディバインヘルツ王国から来た訳ではない。

 それなら、アマミヤ達はどこから来たんだ?」


「・・・・・・そうですね。


凛香は、異世界から来たことを伝えるかどうか思案するようにしばらくの間、目を閉じて黙りこみ、


 私達は、日本という

 遠い遠い所にある国から来ました。」


結局異世界という点を伏せて国の名前だけ伝える。


「私達は両親こそにゃくにゃっていたものの、

 二人で平穏に暮らしていました。

 ですが昨日、突然。

 気づいたらこの国の近くの、森の近くにいました。

 私達は、とりあえず町を目指し、

 一晩を森のそばですごしました。

 眠りについた後、夜中よにゃか

 一度獣達に襲われましたが、

 全てを倒し、すぐにその場をはにゃれました。

 それから、朝を待ってまた、町を目指しました。

 そして、このプレミーア領を見つけました。

 そこからは、ラルクさん達も知っての通りです。」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・・

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」


凛香の話しを聞き終わったラルクと他の門番達は、絶句する。


「・・・え、えっと・・・え!?

 森って!?森の近くで寝たのか!?」


少ししてやっと気を取り戻したラルクが、それでも混乱している様子で尋ねてくる。


「はい。森の中に川があって

 水を確保しやすいので。

 あと、魚も木の実もあるので、

 水と食べ物には困りませんでしたから。」


凛香は、驚く門番達と違い、極めて冷静沈着に言う。


「いや、それはそうだろうが

 そうじゃなくて・・・!」


その様子に、さらに戸惑ったラルクが二の句が継げないでいると、


にゃにか問題があったのでしょうか?

 えっと、森に入ってはいけにゃいとか

 そういうのがあるのでしょうか?」


心配顔をした凛香が、少し戸惑いながら聞く。


「いや・・・そういうのはないけど・・・

 森は魔物の出る量が多い上に、

 強さも他より強い魔物が多いから・・・

 冒険者ぐらいしか森で寝るなんて真似

 怖くてとてもしないし、出来ないんだが・・・」


「・・・・そうだったんですか?」


「ああ。そんな危険な所に

 子ども、しかも女の子二人で

 寝たって言うんだから驚いてるんだ。

 というか、獣に襲われたって言ってたが、

 魔物だったんじゃないのか!?」


「・・・ああ、そうだったんですかね?

 どの、獣も真っ赤な眼をしていたのですが・・・」


「それが魔物だよ。

 魔物はみんな赤い眼をしているんだ。」


「へ〜!そうにゃんですか!」


「ああ。・・・というか、魔物の事を知らないのか?」


「え?ええ。

 ほとんど知りませんね。

 私達の国には魔物は出にゃいので。」


「んなっ!?まさか魔物がいないなんて!?

 そんな良い国があるのか!?」


「えっ!ええ・・・

 良い国かとうかは分かりませんが・・・」


「そうかぁ・・・そんな国から来たのか・・・」


「はい。」


「そうか・・・うん。

 まあ、事情は分かった。

 領主様に話しを通そう。

 大丈夫。ここの領主様は優しい人だから

 無碍には扱わないよ。きっと何とかしてくれる。

 少なくとも奴隷に

 売られるような事は無いから安心しな。」


「・・・ありがとうございます。

 ちなみに、領主様は貴族にゃんですか?」


「そうだよ。

 領主様は辺境伯へんきょうはくなんだ。

 名字がプレミーアだから

 プレミーア辺境伯様って言ってね。

 このプレミーア領も、

 正式名称はプレミーア辺境伯領って言うんだ。」


「・・・にゃるほど。そうなんですか。

 プレミーア辺境伯様・・・

 プレミーア辺境伯領・・・ですね。」


凛香は、これも脳にしっかりと記憶させるために、噛みしめるように言う。


「・・・それから、

 この国には奴隷制度があるみたいですが

 それは、どういったモノにゃんですか?」


そして、少しの間を開けて、凛香は、先程自分達が門の前で騒いでしまった時に、ラルク達門番が奴隷の事をしゃべっていた事を思い出して聞く。


「・・・・・・!

 ・・・えっと、な。

 奴隷制が廃止されてる国もあるらしいんだが、

 この国じゃ、まだ奴隷制が廃止されてなくてな。

 だから、食うに困った親が

 子どもを売って、金にしちまったりとかあるんだよ。」


ラルクは子どもの(外見をしている)凛香に、

非じょ〜うに言いにくそうにしながら説明する。


「・・・・・そうにゃんですか・・・」


う〜ん・・・

大丈夫かなぁ・・・

門番も槍とか持ってたくらいだし、銃刀法違反とかないんだろうな〜。この世界だと子どもになっちゃってるからな〜。この体で誘拐とかされそうになったらどうしよう?


凛香はそんな事を考え、思い悩む。


凛香が難しい顔をして考えこんだのを見て安心させようと思ったのか


「・・・ああ。

 だけど、このプレミーア領でその心配はない。

 領主様が奴隷制を禁じているからな。

 なにせ、奴隷を持っている奴は

 ここには入れないくらいだからな。

 だから、安心しろ。な!」


ラルクはそう言って、凛香の頭をくしゃりと撫でる。


「・・・!そう、にゃんですか?」


びっくりして、体の大きさ的に自然と上目遣いになって聞く凛香に、


「ああ。ホントの事だ。

 だから、安心してくれ。」


ラルクは、安心する様な笑みでポンポンと頭を撫でて答える。


「そうですか。それにゃら良かった。

 ありがとうございます、ラルクさん。」


「いや、いいんだ。

 妹ちゃん・・・ええっと、涼ちゃんも、

 安心してくれ。」


ラルクは、そう言って奴隷制の恐ろしさをあまりよく分かっていないながらも、凛香の様子から不安になっていた涼の頭も撫で、

安心させようとする。


ちなみに涼は、この世界では女の子の姿になっているのでラルクに、『ちゃん』付けで呼ばれてしまっている。


「・・・お、おう!

 子どもじゃねぇんだし大丈夫だよ。」


「ははは。可愛いな〜。

 でも、その年で大人ぶるのはまだ早いんじゃないか?」


ラルクは、明らかに子どもの見ためをしている涼が大人ぶっているのがおもしろかった様で、からかう様に言う。


「俺は14歳やし!

 もう子どもじゃねぇし!」


涼はそれが気に食わなかった様で、叫ぶようにそう言う。


「・・・涼。

 今は(・・)、5歳でしょ。

 それに、14歳でも大人じゃないんだから。」


凛香は、涼や自分の体が五歳児程の見ためになっている事を指して言う。


「それはっ・・・!

 ・・・・・そうやけど・・・・・・」


涼は、反論しようとするが、

その通りだという事に気づいて尻すぼみになる。


「ま、そういう事だからちょっと辛抱して。

 にゃんとか元の姿に戻れるようにするから。」


凛香は、涼の肩をポンポンと叩いて慰めようとする。


「・・・分かったよ!」


涼は、不満そうにしながらもそう言う。


「よっし!えらいえらい。」


凛香は、涼が頷いた事を褒めるように涼の頭を撫でる。


「・・・何が何だか分からんが、

 まあ、けんかにならなかったんなら良かった!」


ラルクは、凛香が言ったように、明らかに涼は5歳くらいなのに

14歳と主張している事を不思議がりながらも、そう言って、とりあえず納得する。


「じゃあ、とりあえず中に入ってくれ。」


そして、これ以上城壁の外で話していても埒があかないと思ったラルクは、そう言って、城壁の中の町を指す。


「・・・!

 ・・・えっと入ってもいいんですか?」


それに驚いた凛香は、おっかなびっくりといった様子で、確かめるように聞く。


ラルクが『領主様に話しを通そう。』とは、言ってくれたものの、中に入れてくれるとは言わなかったので、てっきり、領主様に話しが行くまでは中には入れてもらえないと思っていたのだが、そういう訳では、無かったのだろうか?


そう思い若干首をかしげながら聞く凛香に、


「ああ。もちろんだ。

 いつまでも、子どもをこんな所で

 立たせておく訳にはいかんだろ?」


ラルクは、当然のようにそう答える。


「・・・・・・!

 ありがとうございますっ!ラルクさん!」


凛香は、それにとても驚いて同時に、とても喜び、そして感謝する。


「お、おう。

 まあ、当たり前の事だしな!」


ラルクも、その喜びように若干驚きそう言う。


「いえ。本当にありがとうございます。」


そう言って、頭を深く下げる凛香に、ラルクは、まだ五歳だというのに、これ程までにしっかりとしていて、しかも、この程度の事で、これ程までに感謝するなんてきっと今までつらい思いをして来たんだろうと、今度は逆に不憫になってきた。


「頭を上げてくれ!

 もう、大丈夫だからな!

 早く町に入ろう。」


そして、少しでも安心させようとしてそう言う。


「・・・はい!ありがとうございます!」


凛香は、頭を上げて力強く頷き、もう一度礼をする。


「・・・じゃあ、二人共ついて来てくれ!

 領主様の所まで案内する!」


「はい!行くよ、涼!」


「・・・おう!」


ラルクは、涼も頷いたのを確認すると、


「じゃあ、俺は二人を案内するから、

 誰かちょっとひとぱしり行ってきてくれないか?」


他の門番達に向かってそう言う。


すると、今までボーッとラルクと凛香とのやり取りを見ていた門番達の意識が戻って来て、その中から足の速い一人が出てくる。


「えっと・・・じゃあ俺が行くよ。

 領主様の屋敷に先に行って

 大体の事を伝えておけばいいんだろ?」


「ああ。よろしく頼む!」


「おう。

 じゃあ、お前はそいつらの歩く速さに合わせて、

 ゆっくり連れてきてくれ。」


「おう。もちろんだ!」


「じゃあ先に!」


「おう!

 じゃあ、俺達はゆっくり歩いて行こうか。

 その間にあいつが領主様に伝えてくれるから。」


ラルクは、先に行って伝えて来る門番を見送るとそう言う。


「ありがとうございます。

 私達は歩幅が小さいので

 歩くのも遅くなると思いますし、助かります。」


うん。

事前に情報が伝わってた方が、領主あっちも対応しやすいだろうしね。突然来られても対応に困るだろうからね。


「うし!じゃあ、行くか!

 涼ちゃんもそれでいいね?」


ラルクは、自分との会話を姉に任せている涼にも一応聞いた方がいいと思って聞く。


「・・・ん?

 ・・・ああ。

 おねえが良いっていいんなら

 俺もそれでいい。」


「・・・そうか。

 それじゃあ行こうか。」


ラルクは、先程凛香と言い合っていた時と違って、随分素直で自分の意見を言わない事に疑問を感じながらも、難しい年頃なのだろうと勝手に解釈してそう言う。


「はい!」


凛香が、それに大きく頷いて返事をすると、涼も、無言で頷いて

先を歩き出したラルクと、凛香の後について行く。


その胸の中に複雑な思いを抱えながら・・・



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ