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命がけの戦闘




「んじゃ、おやすみー!」


「おう!おやすみ!」


涼が集めてきた草をたっぷりと敷きつめた大きな盥に、その小さくなった体で身を寄せあって丸まる二人は、そうやって寝る前の挨拶をすると目を閉じる。


「「・・・・・・・・・・・・」」


そして、その場にしばし静寂が訪れる。


「・・・涼。寒くにゃい?」


その静寂を破り、気づかう様な声で話しかけた姉に、涼はできるだけ心配をかけない様にと答える。


「・・・うん。大丈夫。

 俺、暑がりにゃくらいやし。」


「そっか。・・・よかった。」


凛香は、その返事に安堵のにじんだ笑みを浮かべる。


「俺より、おねえの方が心配やし。

 おねえは、寒がりやろ?」


その様子を見て、今度は逆に涼が心配する。


「うん。・・・まあ、そうだけど大丈夫よ。

 冬って訳でもにゃいんだし、ね。

 ・・・それに、涼もいるしね。」


「・・・?にゃんで、俺がいると大丈夫にゃんだ?」


その言葉に、涼は不思議そうに聞く


「・・・だって、くっついてるとあったかいじゃない?

 それに・・・涼がいれば大丈夫なの。」


「にゃんだよーそれー!答えになってねーじゃねーか!

 ったくよー!まあ、俺もお姉がいれば安心だけどよー!」


その、要領を得ない答えに最後は照れながらもそう返す。


「ありがと!おねーちゃんもだよ!」


その言葉に凛香は、そう、機嫌よさげに言う。


「・・・こーゆうの恥ずかしいんだよー!

 もう、寝る!おやすみ!」


涼は、その白いがゆえに赤みがすぐに分かる頬を真っ赤にして言うと、それを隠す様に凛香に背を向けて宣言する。


「・・・おやすみ。」


凛香も、そう言うと涼の背中をトントンと優しく叩き、眠りへと誘う。


「・・・・・・涼、私にはあなたしかいないの。

 私は、涼さえいれば・・・それで・・・」


ボソッと小さく呟いた凛香は、どこか危うげに見えた。


「って、寝ちゃったか。

 私も、早く寝にゃくっちゃね。」


そう言うと、すでに寝ていた涼を見て自分も目を閉じる。

そして、しばらくして凛香は眠りへと落ちていった・・・



✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦



グォゥゥ!グゥゥゥ!ガゥゥゥ!ウォーン!


たくさんの野獣の音が聞こえてきて


にゃにっ!?」


ガバッと飛び起きそう叫ぶ。


「うぅ・・・ん!どうしたの?」


涼もそのただならぬ事態に目をこすりながらも起きて周囲を見渡す。


「・・・・・・くっ!しくった・・・!」


凛香は、それには構わず火が消えてしまったたき火の残骸を見て

焦ったような、しまった!と言う様な声を上げる


「・・・おねえ?」


「いつの間にか、火が消えてたのよ!

 だから、獣がいっぱい集まって来ちゃったの!」


怪訝そうに名前を呼ぶ涼に、凛香は、せっぱつまった声で叫ぶ。


「・・・え?え!?まじかよっ!?」


涼は、ようやく事態が飲み込めてきた様子で、驚きそう叫ぶ。


「マジよ!このままじゃ喰われて死ぬ!」


「に、逃げられにゃいのかよっ!」


「逃げられたらとっくに逃げてる!」


凛香は、自分達を囲む獣達を真正面から見据えてそう叫ぶ。


「じゃあ、どうすんだよ!」


「ころっ!・・・倒すしかないでしょ!」


一瞬、殺すと言いかけた凛香は、涼のために優しい言い方に言い直す。


「でも、どうやって!」


「ニャイフでよ!」


聞き返す涼に、凛香はそう叫び返す。


「でも・・・そんなこと!」


「涼は、盥のにゃかにでも隠れてにゃさい!

 盥を裏返して!そのにゃかに入っておけば

 運が良ければ助かるから!」


ためらう涼にそう言って、手に持ったナイフを構える凛香に


「そんにゃことできないっ!

 俺も一緒に戦うっ!」


涼はそう言って、横に並び立つ。


「・・・分かった!

 じゃあ、にゃにか武器になる物をっ!」


「・・・・・・これしかないな!

 こんにゃもんじゃ、頼りにゃいがにゃいよかマシだろ!」


そう言って、涼が持ってきたのは神から唯一渡されたかろうじて武器になりそうなモノ。


金盥かなだらい!』


「よっしゃ!じゃあ、背中は頼んだっ!」


「おうっ!頼まれたっ!」


その場が盛り上がって来て、二人が背中同士をくっつけた所を、もう待てないといった様子の獣達が、グルルルッ!と、唸り前足を蹴って襲いかかって来る!


「ホントに大丈夫っ?」


凛香が最後の確認といった様子で尋ねる。


「ああ!大丈夫!

 それより、おねえこそ大丈夫にゃのかよ!

 ニャイフなんか使えるのかっ!」


力強く頷き涼は、冗談めかして尋ね返す。


「心配すんにゃっ!

 うちはこれでも米軍のブートキャンプ

 受けてん・・・の、よ!」


ガルッ!そんなびっくり発言をさらっとしている間にも獣達は、目の前まで迫って来ていて・・・


それを、喋りながらナイフで切り裂く。


「それは、初耳にゃんやけどー!

 後で詳しく話し聞かせろよっ!と!」


涼もそう言いながら盥で獣の頭を殴りつける。


グシャッと音を立てて潰れるソレに、怯えた様子を見せながらも次々と襲いかかって来る獣達を狩っていく。


「そうそう。その調子!」


そう励ます凛香も、もうたくさんの、山と言える程の獣の死体を作っていた。


「けっこう減ってきたな!

 俺、腕痛くなってきたし!」


そう言いながらも、その小さくなった女の子の体で大きくて重い金盥を持ち上げて振り下ろす。


「もうちょっとの辛抱よ!

 あと、何匹かのはにゃしだから!」


そう言いながら、凛香はさらに一匹を斬る。


「おう!」


そう言って、涼ももう一匹を倒すと残りはあと、一匹だけになる。

それは、鹿のような獣で

他の獣達と同じ様に真っ赤な瞳をしている。


「涼!こいつは、多分強いよ!」


「オッケ!じゃあ、一緒に倒そうぜ!」


「おう!」


二人でそう言いあうと、凛香はナイフを、涼は金盥を構え直して

鹿の獣に向き直る。


グゥァゥァァァ!


鹿は歯を剥きだして襲いかかって来る。 


ガンッ!


それを涼が、鈍い音を出して金盥で受け止める。生まれた隙に、すかさずナイフで斬りかかる。シュッと、音が出て、鹿の首元にかすり傷を作る。


「・・・っ!涼っ!」


凛香は涼に指示を出し、涼は無言でそれに応えると続け様に、鹿の頭目がけて金盥を振り上げ・・・


ガルッッ!


鹿は、唸りながらそれを避け涼に体当たりをする。


「っああっっ!!!」


涼は、叫び声を上げて弾き跳ばされる。


「涼っ!」


凛香は、叫び涼の倒れた先をチラリと見て、トドメを刺そうと、今にも襲いかかろうとしている鹿の進路を塞ぐ様に立つ。


「・・・っ!俺は大丈夫だから!」


「分かったっ!そこで、休んでて!」


痛みをこらえながらも、心配をかけまいとする涼にそう答えると、ナイフを構え直し、しっかりと握って鹿と向き合う。


そして、

ガウッ!と、向かってきた鹿の顔、目がけて精一杯跳び、


「・・・ハァッ!」


気合を入れる声を上げて、その両目を一気に切り裂く。


ギャァァァ!


両目を斬られた鹿は、血をボタボタと流して痛みで叫び声を上げ暴れ回る。


すぐに、凛香は暴れ回り目が見えなくなっている鹿の首元目がけてナイフを振り下ろす!


ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!


鹿は、断末魔を上げるとゆっくりと倒れドッシーンと、大きな音を立て地面に崩れ落ちる。


「・・・っ!はあはあはあ。

 ・・・涼!大丈夫!?」


凛香は、しばしの間それを眺め、息を整えると涼のそばへと駆けよる。


「・・・お、おう!大丈夫!」


「痛いところは?

 体に変にゃ所とか感じとかにゃい?」


気丈にもそう答える涼にそう聞きながら自身も手であちこちを触り傷がないか確認する。


「大丈夫だよ。ちょっと打っただけだし。」


そう言って起き上がろうとする涼を


「まだ起き上がっちゃダメ!」


と、手で制して再び寝転ばせる。


「打っただけだし・・・じゃにゃいでしょ!

 こういうのが一番怖いのよ。

 見たこところ大きな傷はにゃさそうだけど

 頭打ってたら脳震盪のうしんとうとか脳挫傷のうざしょうとか

 その辺が一番危にゃいんだからね!」


「分かったよ・・・大人しくしてる。」


凛香の鬼気迫る程の勢いに、そう言うと、力を抜き言われた通りにする。


「そうそう。それでいいの。」


それに、満足そうに頷くと


「それじゃあちょっと死体を見てくるわ。」


凛香はそう言って、まずはすぐそばの鹿に似た獣の死体へと近づく。


「やっぱり目は赤いのね。

 不思議にゃ生き物。こんなにたくさんの獣達が

 みんな赤い目をしてるなんて。」


もしかして、この世界の動物はみんなこうなのかな?

・・・う〜ん、とりあえず皮でも取っておこうか?さすがに肉を食べるのはまずかろう。ウイルスとか病気とかやばいし皮・・・も、剥ぎ方分かんないしなぁ・・・


と・・・いうか・・・


「涼!このままここにいるとやばいかも!」


ある事に思い至り思わず焦って叫んでしまう。


「え?にゃんで?」


突然の事に困惑した様子の涼。


「死体の臭いを嗅ぎつけた

 他の動物達がやって来るかもしれないの!

 すぐにここを離れないと!」


「えっ!?」


その言葉に驚いて飛び起きようとする涼をまた止めると、


「まだ大丈夫だから、ゆっくりと起き上がって!」


努めてゆっくりと落ちついた口調でそう言って手を貸す。


「うん。」


涼は、返事をする間も惜しいとばかりに短く返事を返すと指示通りにゆっくりと起き上がる。


「よし!えらい!

 それじゃあ、どこかへ移動しよ・・・う?」


涼を褒めて、すぐに次の行動へ移ろうとしていると、視界に摩訶不思議な光景が映る。


「・・・・・・にゃにこれ?」


「・・・死体が・・・・・・」


凛香達が見たモノ。


それは、獣達の死体が地面へと沈み消えていく姿である。


それらは、完全に消えると地面も元通りの形に戻り、後には、月の光で輝く様々な大きさの、紫の宝石の様な石と、何故か獣の皮や角、爪や、牙と思われるものが無数に転がっている。


「・・・・・・えっと・・・えっと・・・

 つまりこれは、異世界にゃらではのご都合主義で

 えっと・・・一定時間経つと死体が消えて

 アイテムが残るみたいにゃ?」


凛香は、考えて考えてようやく推論がまとまるとそう言って涼の顔を見る。


「・・・・・・そういう感じ?」


涼も、そう言って・・・というか聞いて凛香の顔を見る。必然的に顔を見合わせる形になってしばらく見つめ合うこと数十秒。


「・・・・・・ま、いいや。

 これ拾って行こ!多分これ

 街に行って売ると

 お金ににゃるパターンだと思うから、さ。」


先に気を取り戻した凛香が、身についた『何とかなるさ』思考でそう言うと、


「・・・・・・お、おう。

 じゃあ俺も手伝う。」


数瞬遅れて涼も気を取り戻し、そう進言する。


「あ~、いや、いいよ。

 しばらく大人しくしてて。

 あんたは怪我してるんだからさ。」


凛香は、少し考えてそう言うと、一人で紫の石や獣の皮、爪牙、角といった物を次々と拾い上げていく。


そしてそれらを無言で

ロリータ風の白と薄い水色のワンピースのポケットにパンパンになって今にもはち切れんばかりになるまで入れ続けてもう、どうしても入りきらないという所まで来るとようやく、


「涼、あにゃたのポケットにも入れさせて頂戴。」


涼に向き直って言う。


「おう!いいぜ!半分こにしよう!」


「うん!ありがと。じゃあ入れるね。」


涼に礼を言うと、手始めに自分のポケットの中に入っている物を

半分と少し、涼のポケットに移して、それから空いた自分のポケットにさらに拾い集めた石達を入れる。


そうして、全ての石を拾い終える頃には空が明るくなり始めていた。


「よし、じゃあ・・・とりあえず、

 これ、洗いに行こうか。」


凛香は、ポケットに入った石などの物。

砂や、拾った時に手についていた血がついてしまったソレらを見て、ポケットを軽く叩きながら言う。


「おう!俺も、このままじゃ気持ち悪いしにゃ。」


涼は、それに大きく頷き、ワンピースの裾を少し持ち上げて血や地面を転がった時についた砂の汚れを見てそう言う。


「うっしゃ!じゃあ服もついでに洗っちゃうか!」


凛香も、自分と、涼の服や体を見て、拳を握り空に向かって上げる。


「おうっ!!!」


涼も、それに応じてそう叫ぶと同じように拳を握り空に向かって上げ、その拳を凛香のそれに当てる。


コツンとした音を楽しみながらしばしそのまま拳を合わせ続け、やがて自然と下ろすとごく自然に手を握り、川のある森へと目印を辿って入って行く。


その姿は朝日に照らされ、とても眩しかった。





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