薬草採取
探検者ギルドに到着し、カランカランと鈴を鳴らして重たい扉を二人で開ける。前回と同じように探検者達の視線を浴びて中に入り、正面にある依頼掲示板を見付けて、近くまで行って眺める。
「私達はEだから…この辺りがそうみたいね。」
首から提げて服の内側に仕舞っておいた、この国でのEにあたる文字を象ったギルド員証を取り出して揺らして見せる。涼も思い出したように自分のギルド員証を取り出して嬉しそうに頷いた。なんやかんや言って、探検とかそういうのに憧れる年頃なんだろう。
「薬草採取もいくつかあるにゃ。」
「平原と森では同じ薬草採取でも報酬が倍以上違うのね。ラルクさんが、森は魔物が出る量が多い上に強い魔物が多いって言ってたからその兼ね合いかにゃ。」
「やっぱり最初は安全にゃとこから始めようぜ!」
「そうだね。じゃあこれ受けようか。」
「おう!」
涼の元気な返事を聞いてから二人で依頼受付に向かう。数人が並んでいたので少し待ってから受付のお兄さんに質問する。
「Eの平原での薬草採取の依頼を受けたいんですけど…」
「はい。Eランクの依頼でしたらほとんどが常時依頼ですので、依頼受領手続きをしなくてもお受けになれますよ。素材採取後は直接素材受付にお持ち頂ければその場で依頼完了となり、依頼達成記録をお付けします。」
「分かりました。それと、薬草はどうやって見分ければ良いんですか?」
「ギルドで図解の貸出を無償で行っています。そこに、その薬草が群生している事の多い場所なども記載されています。お持ちしましょうか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「…薬草の見分け方までは考えて無かったにゃ。ギルドが至れり尽くせりで助かったぜ。」
受付のお兄さんが図解を取りに離れた後、涼が小声で呟いた。私もそれに頷き返して同じく小声で話す。
「私も勢いだけで来ちゃったからね。さっき思い付いたんだよ。危にゃかったねー。」
「だにゃー。」
「お待たせしました。こちらがEランクの採取依頼での、平原の薬草の図解になります。紛失や破損にご注意下さいね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
受け取った図解を、ギルドから出てすぐにその辺に座って二人で眺める。十枚程の紙には白黒ではあるが薬草の絵と、効能のある採取部位、群生地などが記載されていた。
「これなんか良さそうじゃね?」
「どれどれ?カンル草…平原全域で採れるのか。良いね、これ行ってみる?」
「おう!行こうぜ!」
一旦孤児院に戻って採取した薬草を入れる袋を借り、魔物や魔獣などが出た場合に備えてナイフを持った。涼の武器は今の所武器とも言えない金盥しか無く、重くて大きくて邪魔になるから今回は持って行かない事にした。
街を出る為に門に行くと、そこにはこの街に来た時にお世話になった門番のラルクさんや、他にも見知った者達が詰めていた。
「おう!アマミヤ。久しぶりだな。二人とも元気にやってるか?」
「はい。おかげさまで。」
「元気です!」
「今日はどうしたんだ?」
「実は先日探検者登録をしたので、平原で薬草採取をしようと思っているんです。」
「へえ、探検者か。この街じゃ多分最年少だな。じゃあここに名前とギルドランクを書いて、ギルド員証を見せてくれ。それで通れるから。」
「そうにゃんですか?まあ登録料も掛かりますしね。」
ラルクさんと話しながら、渡された羽ペンで二人分の名前とその横に探検者・Eランク、と指示された通りに書いて行く。
「ああ、書けたか?…よし、問題無いな。昼の平原ならそう危険は無いと思うが、明るい内に帰って来れるようにするんだぞ。」
「はい!ありがとうございます、そうします。」
「行って来ます!」
「おう、気を付けてな。」
門から出て、私はペコリと頭を下げて、涼は手を振って、歩き始めた。足元と周囲を注意深く確認しながら目当ての薬草、カンル草を探す。
「お、これは?…って、違うにゃ。」
「そうね。えーっと、あれそうじゃにゃい?」
「あ!そうだ!結構いっぱい生えてる!」
「この辺りだけ残して他は取っちゃおう。」
「全部取ったら駄目にゃのか?」
群生するカンル草の一部を指差して言った私に、涼が素朴な疑問といった感じで聞いて来た。
「うん。次のシーズンも生えて来られるようにちょっと残しとくんだよ。そしたらまた増えて、採った分も元に戻るからね。」
「にゃるほど。りょーかい!」
その後は二人で交代しながらナイフで黙々とカンル草を採取した。他の群生地点も二箇所見付けて、日が落ちて来たので今日は終わりにして、探検者ギルドに向かう。
素材受付にカンル草を納めて、報酬と依頼達成記録を付けて貰った。報酬は一本20マネ。267本あったらしいから5340マネを受け取った。
「…なんか、びっみょーな報酬だな?」
「時給換算するとね。内職だと考えたらかなり割の良い仕事だよ。」
探検者ギルドを出て、二人でそんな会話を交わしながら孤児院へと戻った。




