喧嘩上等
翌日から針のむしろ生活が始まった。歴史、地理、体育、道徳と社会を混ぜたような授業(総合と言うらしい)をこの教室や、他のクラスで受ける。体育はハブされて、他の時間もガン無視されていい加減イライラしている。…主に涼が。毎日孤児院の自分達の部屋に入った途端に軽く愚痴大会になる。
それと、上級生になると裁縫や応急手当などの保健の授業、それに城壁の外の事や魔物についても教えて貰える。
裁縫の授業ではボタンを付ける練習をするのに一人二個貰えたのでワンピースの胸元に縦に付けた。木で出来たボタンはナチュラルな木目が出ていて中々可愛い。
城壁の外の事や魔物に関する授業はとても興味深い。
いわく、魔物は魔素で出来ていて、魔獣は魔素に侵されて変異した元々は普通の動物。魔物や魔獣の中にはリーダー格の存在がいる事が多く、それらは倒したときにより大きな、純度の高い魔石を残す。
魔物や魔獣を倒した時に地面に沈んで消えてしまうのは、元は大地から生み出された魔素の塊であったり、魔素で変異したものだから大地が魔素を吸収してその体を消す。
その際に魔素以外の物質である魔獣の魔石や皮、爪、牙は吸収出来ないのでその場に残されるという仕組みらしい。ちなみに魔物は元々魔素なので魔力が集まり過ぎて出来た魔石以外は残さないらしい。代わりに魔石は、元々動物だった魔獣よりも魔素が多いため大きい物を落としてくれるらしい。
一応仕組みはちゃんとあったんだね。異世界ならではのご都合主義とか言ってごめんなさい。
とまあ、楽しい時間が三分の一。残りは無視と冷たい視線というかなり地味な嫌がらせに耐えるのみ。私は慣れてるからどうでもいいけど、涼はムードメーカーでずっとクラスの人気者だったから堪えるものがあるらしい。
もうちょっと色々勉強したら城壁の外に出て狩りをしようと思う。探検者風に言うと討伐だ。そうしたらお金が出来て孤児院の食事を増やせるし、王国への旅費も稼ぎたい。
「お前らマジでにゃんにゃんだよ!感じ悪いぜ!アホみたいに嫌がらせしやがってよ!いい加減にしろっつうの!」
と、考え事をしている内にいつの間にか涼が耐えかねてブチ切れていた。今は何されてたっけ?わざとぶつかられて10歳と5歳の圧倒的な体格差で転ばされたんだった。最初に涼が転んで、私にぶつかって共倒れ。五歳も年上のくせに大人気ないぞ!
「お前らが生意気だからだろっ!ちょっと当たっただけで吹っ飛ぶような木っ端娘どもが俺らに楯突いてんじゃねえよ!」
「…っ歳とか関係無いだろ!お前らに実力がねぇからダメにゃんじゃねーか!こんなチビに負けてるようでよくそんなに威張れるな!」
おぉう…涼、珍しく強く出たな…よっぽど腹に据えかねてたんだろうな。
「まあまあ、悔しかったらもっと努力して越えて見せればいいんじゃない?私達もそうやって結果を得たわけだから。」
まあ、実際ここの教育レベルだと難しいだろうけどね。そんな事をわざわざ教えてやる必要も義理も無い。
「うるっせーよ!なんかズルい手を使ったんだろ!?一気に五年一組まで飛び級なんかおかしいじゃねーか!」
「そんな事するわけ無いじゃん。馬鹿だなぁ。そんな馬鹿でよくこのクラスに入れたね。」
「なんだとっ!?」
「君が言ってるのはそういう事なんだよ。私はただ言い返しただけ。そんなカッカして怒ってる暇あるなら勉強したら?」
「そうだそうだ!」
完璧なタイミングで合いの手入れてくれたな涼よ。ところでつい思いっきり喧嘩売っちゃったけど大丈夫かね?




