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探検者ギルド

少し長めです



「「「行ってきまーす!」」」


翌日の朝、学校に行く全員で元気良く孤児院を出た。


「二人は今日テストだっけ?がんばってね!」


「「はい!がんばります!」」


「…ところで探検者ギルドってどこにあるか分かりますか?」


「ああ、それならあそこ!街の中心部にあるんだ!」


「あそこか~!凄いですね!」


「ほんとだにゃ!いかにもにゃ ザ・冒険者ギルド!まぁ、探検者だけど。」


うん、そうだね。

剣と盾のエンブレムに、黒っぽい無骨なデザインの石造りの建物。からんと鳴る鈴が重そうな木製のドアについている。


あ、また何か思い出しそう…


「じゃ、またね。」


「「はーい!」」


ギルドからそうかからずに着いた学校の玄関先で別れて、私達は教員室に向かう。


「失礼します。…教頭先生いらっしゃいますか?」


ちょっと奥まった所にある教頭先生の机を覗きながら訊ねた。


「あぁ!おはようございます。リカさん。リョウさん。」


すると、机の影からひょっこりと教頭先生が出て来た。引き出しを閉めて中から取り出した紙を手に持っている。


「今日使ってもらうテスト用紙です。さあ、静かにテストが出来る場所を確保してあるので移りましょう。」


「「はい!」」


「…それにしても、紙って高いんじゃにゃいんですか?私達のために、申し訳にゃいです。」


「構いません。何教科もあるテストをいちいち黒板を使って書いては解いて採点して消して、していたら手間がかかり過ぎます。…ちなみに紙は一枚で給食に出すパン半分程度の値段です。」


それは…50円くらいか?まだ貨幣価値は良く分かっていない。実は使う機会どころか、目にした事すら無いのだった。


…でも、50円で高いとは言わないだろうから、パンが無茶苦茶高いのかな…んなわけないか。


「……そうなんですか。」


「着きましたよ。ここです。他の教室はみんな使っているので、緊張するかもしれませんが、我慢してくださいね。」


「「ここは…!?」」


校長室じゃないっすか!…まじでここでやるの?


「校長先生はただ今出張中です。大丈夫ですから、お座りなさい。」


「「わ、分かりました」」


おっかなびっくり指された席に二人とも座る。急遽運び込まれたと見られる机が二つ離れて置かれていて、それぞれの机にテスト用紙が置かれた。


「それでは、最初に国語の実力を測ります。読めない所、問題文に理解出来ない所があれば静かに知らせて下さい。時間は30分です。…それと、羽ペンの使い方は分かりますか?」


「えっと、ペン先にインクを付けて書けば良いんですよね?」


「その通りです。…問題が無い様なら始めて下さい。」


教頭先生は私達の様子を見回して、開始を告げた。

初めて扱う羽ペンは少し握りにくかったけれど、苦にはならなかった。


「…………………」


しばらく無言が空間を支配して、私達は夢中で回答欄を埋めていった。すぐに終わって、三回見直し確認をした。100点の自信がある。


涼も五分、十分遅れて見直しを終えた。


残り時間15分ほど、どうしようかと困惑する私達を察した教頭先生が声をかけた。


「なんと、もう終わったのですか……それでは休憩していても構いませんよ。それか、次のテストに進みますか?」


「「ぜひ!」」「テストで!」「休憩で!」


あれ、久しぶりに揃わなかったな。


ちなみにテストを望んだのが私。

休憩したかったのが俺だ。


「にゃんでだよ!休めるにゃら休んだ方がいいだろー!別に難しくは無かったけど、ぶっ続けは疲れるだろ!」


「それもそうだけど、でも早く終わったらその分早く帰れるよ?」


「「この、わからずや!」」


「まあまあ、それでは五分休憩してそれから次を始めるか考えましょう。」


「「分かりました…ふんっ!」」


て、それまで被ったし!恥ずかしっ!




「終わったー!」


結局、5分休憩してテストを始めて、全教科休憩を挟みつつ終了した。


「では、採点をして明日クラス分けを発表します。今日はもう帰ってよろしいですよ。」


「「はい!」」


「それにしてもあれだねー。簡単だったねー。」


「まあにゃー。小6くらいまでの問題だろ?」


「そーねー。給食貰って、探検者ギルド行こうかー」


校長室を出て、喋りながら教室に向かう。とりあえずクラスが決まるまでは昨日見学した教室で給食を貰えばいいらしい。


「もぐもぐもぐ、じゃあ探検者ギルドに行こうか!」


「おう!」


てことでやって来ました探検者ギルド!


カランカランと鈴を鳴らして重たい扉を幼女二人で開ける。


「「ふんぐーーっ!開いたっ!」」


中に入ると、鈴の音で私達に気付いた強面の男達や魔術師と思われる女性達がじろりと感じる様な視線を送って来た。…わぁお!テンプレ!


「こんにちは~!」

「お邪魔します!」


とはいえ、何かいちゃもんをつけられたりする事も無く、パラパラと挨拶を返してくれた。


受付らしき所に行って、素材受付と書かれた窓口へ行く。


「あの、魔獣の素材にゃどを買い取って頂きたいのですが。」


「はい。…こちらですね。ギルド登録はされていますか?その場合、討伐記録などが付きますので…」


私達が孤児院から借りた袋からジャラっと出した紫の石や獣の皮、爪、牙、角などを確認して受付嬢は訊ねた。


「いえ、まだです。討伐記録などが付くとどうにゃるのですか?」


「はい。こちらで書類を作成し、記録します。この記録によって探検者のランクが決まります。」


「にゃるほど…登録料などはかかるのですか?」


「ええ。一人500マネになります。」


通貨の価値や物価が分からないから、高いのか安いのかも分からない。…でも、


「……涼、後々必要になるだろうから登録しときたいんだけど良い?」


「ああ!俺は探検者とか憧れるしにゃ!けど金足りるのか?」


「この素材を売ったお金で登録料に足りますか?」


「はい。素材は全部で8100マネでの買い取りになりますので問題ありませんが、どうされますか?」


「…登録お願いします!」


「それでは先に明細をお伝えしますね。ボス個体の魔石は800マネ、素材は300マネ。その他が魔石一つにつき200マネで素材は100マネになります。ボス個体以外の魔獣の魔石が20個、素材が30個ありますので合計金額は8100マネです。どうぞご確認下さい。」


「ありがとうございます。」


一応渡されたお金の入った袋を確認して見たけど、さっぱりね。まあ、今回は騙されても仕方無いって割り切るしかないな。


「大丈夫です。」


「では、総合受付の方にて探検者ギルドの説明をお受けになって、登録をお願いいたします。こちらの討伐記録の書類を持って行って下さいね。」


ニコッと営業スマイルの受付嬢さんに挨拶をして、総合受付に向かう。


「すみません、ギルド登録をしたいのですが。あとこれ、討伐記録の書類です。」


総合受付のお姉さんに声をかけて書類を渡す。


「はい。ご登録は二名様ですか?」


「そうです!よろしくお願いします!」


「それではまず探検者ギルドについてご説明しますね。

 探検者とは城壁の外の魔物や魔獣を討伐して素材や生活に欠かせない魔石を売って生活する者達です。魔物が大量発生した場合や、城壁の外にある集落が襲われた場合なども依頼を受け、討伐に赴きます。

 その探検者の補助をしたり、依頼主との仲介役をしたりするのが探検者ギルドになります。」


さっき、渡した素材を魔獣だと言っていたから獣系の魔物を魔獣と言うのかな?…要確認だね。それと魔石は何に使うんだろう。


「ギルドには規約、制約にゃどがありますか?」


「ええ。ギルドには規約があり、ギルドの名を汚すような犯罪行為を行わない。戦争に加担しない。などが代表的な物です。

 制約に関しては特にありません。身分、年齢、性別、職業など全て関係無くなれるのが探検者です。

 探検者だからといって住居や思想、行動などの全てが束縛・強要される事はありません。また、探検者を辞めた後も探検者だった事によって制限される事柄はほとんどありません。」


「…分かりました。」


「それではこちらにご記入下さい。名前以外は未記入でも構いませんので。」


渡されたのは名前や性別、年齢、職種などを書き込む用紙。二人とも名前と年齢まで書いて手が止まった。


「…あの、職種とはどういう事を書けばいいのですか?」


高校生とか?…そんなわけ無いか


「職種は剣士、弓士、槍士、魔術師、治癒士などの戦う時に主に使う武器などの攻撃手段による物です。自分が将来こうやって戦いたいなどの希望でも構いませんよ。」


「えっと…じゃあ私は魔術師かな。」


「俺は剣士で!」


サラサラと羽ペンで記入して受付嬢に差し出す。


「…はい。確かに。お二人に討伐記録を付けておきます。他の魔獣は半々に記録を付けておきますが、ボス個体の記録はどうされますか?ボス個体の方が評価ポイントが高いのです。」


「うーん……では、今回は私の方に付けておいて下さい。一緒にランクが上がらないと意味が無いのでこちらで調整します。」


って、堂々と言うのもどうかと思うけど。パーティを組んでいる所なんかは普通にやってるでしょうしね。


「はい。それではこちらをどうぞ。ギルド員証です。」


と、特に発言は問題視されず、渡されたのは鈍色の鉄と思われる金属で出来た、この国でのEにあたる文字の形をしたネックレス。鎖には小さなプレートが付いていて「リカ」と名前が彫られている。超早業だな!


…ずしりと重いそれをしげしげと眺めて、唐突に私はある記憶を思い出した。


「あっ!あああーーーーーーっ!」


「ちょ、にゃんだよ!いきなり!」


涼のびっくりした様な少し焦った様な、そんな声で我に帰った。


「と、とりあえず出るよ!」


「お、おう…」


「皆さんお騒がせしてすみませんでした!」


ペコリと頭を下げ、何がなんだか分からなくて戸惑った様子の涼を引っ張って探検者ギルドの外へ出る。


「…で、どうしたんだよ?」


ギルドの建物の端っこで体育座りをしてとりあえず落ち着いて、涼が聞いてくる。


「いや、それがね。このギルド員証を見て思い出したんだけど、これ。父さんもつけてたわ。」


「えっ!?つまり父さんも探検者だったって事!?」


「そうそう。しかも結構強かった気がするのよね。母さんとの結婚を認めて貰えたのは父さんが凄く強い魔物か何かを倒したからとかって…」


「おお!かっけー!武勇伝じゃん!憧れる!」


「そうね。見事麗しのお姫様を射止めちゃったんだもん。」


くすくす笑いながら今は亡き父さんの事を語る。そういえば向こうの世界ではあんまり父さんや母さんの話題は出せなかったな。お互いに。


「俺達、異世界人と地球人とのハーフなんだもんな。あんまり実感ないけどよ。」


「そうだよー。世にも珍しいって銘打って見世物でもしようか?儲かるよきっと!」


「それうけるにゃ!」


馬鹿な話をして、バカ笑いしながら二人で首にかけたギルド員証を眺める。


………そして、


「……あ、登録料払ってにゃいじゃん…!」


一気に青褪めた私達は急いで扉をこじ開け、受付に戻った。



「「すいません!泥棒じゃありません!ごめんにゃさい!」」



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