孤児院の事情
夕方になって帰って来たワーヒドとイスナーニ達と一緒にご飯を食べ、洗い物を終えて声をかけた。
「ワーヒド、ちょっと聞いてもいいですか?」
ワーヒド達が帰って来てから呼び捨てで良いって言ってもねぇ…と思い悩んで、ワーヒド…さん。と何度か呼んでいたら本人直々に許可が下りた。ちなみにその様子を見ていたイスナーニからも。
「なんだ?言ってみろ。」
「中央孤児院の事情とは何ですか?先生方は知ってるような口ぶりでしたけど…」
「あぁ……それか。…この孤児院がやけに人が少ないのは分かるか?」
「分かります。少し異様だとすら思います。」
孤児どころか、面倒を見る大人まで少ないどころかほとんどいない。
「その通り、異様なんだ。ここは問題のある厄介な孤児ばかりが集められた孤児院だ。だから、他の孤児院と比べたら人は少ない。俺は元々スラムの浮浪児だし、ここにいるのはそういう訳アリな奴ばっかだよ。」
「そういう事ですか……。うーん、それって、ここに私達の面倒を見る専属の大人がいない事や、食料が少ない事は関係ありますか?」
「あー……それか。…それは別問題だ。要は横領なんだけどな、ここの専任修道士が現物支給の食料も、足りない分を補う金も堂々と掠めてやがる。」
「……それって、領主様や教会の人に知らせたりしないんですか?」
「教会では周知の事実だよ。俺らみたいな出身の子どもにまで施しを与えるのは良く思わねぇ奴も多いしな。教会の上層部は横領の事実を隠したくて、領主様にも上手く誤魔化してやがる。俺らではどうにもならねぇな。」
「……にゃるほど、そうだったんですか。教えてくれてありがとうございます。それと、もう一つだけ良いですか?」
「何だ?」
「これにゃんですけど、どこかで売れますか?魔物から得た物にゃんです。」
「そういえば城壁の外から来たんだったな。魔物の素材なら探検者ギルドで売れるよ。」
「そうなんですか、良かった!それって、私達のようにゃ子どもでも買い取って貰えますか?」
「ああ、ギルドは世界規模の組合だからな。地域によって変わる大人とか子どもとかでの区別はしてねぇよ。犬が持ってったって買い取ってくれるんじゃねぇか?」
さすがにそれは冗談として、そのくらい緩いのはありがたいな。
「それにゃら明日、学校帰りに行ってこようかにゃ。」
お礼を言って早々に部屋に戻る。既に中でゴロゴロして待っていた涼に聞いて来た結果を伝えた。
「……ってことはさ、俺らそいつのせいで腹空かしてるって事じゃん!マジ腹立つんですけど!」
「まぁ、私達よそ者が、領地の税や教会への寄付金にゃんかで養われてる事は事実だしねぇ……ま、だからって横領が許されるわけじゃ無いけどね。」
「でもさ、探検者ギルドがあるってスゲーよにゃ!ファンタジー感あるよにゃ!俺、探検者ににゃりたい!」
「出た!中二病!………あ、でも!うーん?何か思い出せそうにゃんだけど……」
また、からかってやろうと思ったのに、何かが引っかかって、でも出てこない。
「気ににゃるじゃんか!思い出せよー!」
「うーん?やっぱダメだ…もうちょっとの所で思い出せにゃい。」
「ちっ、にゃんだよー!まあ、売れるにゃら良かったな。どれくらいの値段で売れるのかは分からんけど、服買えるといいにゃ。」
「ほんとねー。昨日も今日も一日が終わったら日が暮れる前ににゃるべく早く手洗いして乾かさにゃいといけにゃかったもんね。その間着る物無いし。」
「困るよにゃ~!孤児院にも他に服、無いんやろ?」
「うん。そうみたい。余分な服はみんな他の孤児院に回されてるみたいよ。」
「酷ぇにゃ。」
「こういう事があるから施設に入りたく無くて、二人で頑張って生きて行こうって思ったのに結局入る事ににゃっちゃったしねー。」
「そうやったん?」
「詳しくは話して無かったっけ?私達がまだこの世界で暮らしてた頃、経緯は忘れたけど父さんと一緒に孤児院に行ったのね。そしたら酷い虐待が行われていて、助け出したけど結局死んでしまった子もいたの。だから孤児院にだけは入っちゃダメだとずっと心に残っててね。……まぁ、ここは生きてけるだけの食料はあるし、暴力が振るわれてる訳でも無いからまだマシな方ではあるけどね。」
「そうやったんか、それで……」
「まあ、こうなった以上は仕方無いよ。何とかして出来るだけ早く自立して、自分達だけで生活できるようににゃらにゃきゃ。このままここに留まっても何も変わらにゃいしね。」
「おう!にゃらバリバリ勉強して方法を見つけようぜ!」
「言ったね!張り切って頑張るよ!覚悟しときにゃさい!」
二人で気合を入れてから明日に備えて早々に寝た。
…それにしても、何だっけな~?




