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孤児院と食事

「おはよ〜

 凛香姉りかねえご飯まだ〜?」


女の子が一人階段から駆け下りて来て凛香に声をかける。


「ちょっと待ちにゃさ〜い。

 後は、目玉焼きだけだから。」


「は〜い。」

そう言いながら料理を続ける凛香は、いつの間にかここではみんなのお姉さん的な存在となっている。


「凛香ね〜!」


「凛香姉!朝ごはんまだ〜?」


他の子達も続々と起きてきて「速く!」と、朝ご飯をねだる。


「もうちょっとだから、手ぇ洗って待ってにゃさい。

 他の子達もよ!」


「「「はぁ〜い」」」


そう返事をしてさっき起きてきた三人は

洗面所に向かおうとする。

ある事を思い出した私は、そんな三人を呼び止めて問いかける。


「そうだ!

 ちゃんと顔は洗ったんでしょうね!

 まだ、洗ってにゃい子はついでに洗って来る!

 分かった?」


聞くと、三人のうち二人がバツの悪い顔をしたので

ちゃんと洗って来るように指示を出す。


「「はーい。」」


それに、間延びした声ながらも、

ちゃんと返事をした二人を「やれやれ」と見送り、

目玉焼きに目を戻すと、ちょうどいい感じに焼けていた。


火を止めて、くっついている目玉焼きを切り分けて、それぞれの皿に分け入れる。

一人ひとりの皿には、レタスやトマト、きゅうりのサラダに先ほど乗せた目玉焼きが入っている。


それとは別に、一人二個ずつのパンにスープがついて今日の朝ごはんは全て完成だ。

テーブルの上に皿を並べ終え、一段落ついて

ホッと一息つくと、この孤児院に来た最初の日を思い出す。



✦✧✦✧✦✧✦✧✦



辺境伯に連れられてやって来た孤児院は、

教会の隣にある小さな建物だった。


実は、教会付属の孤児院という事で、

必ずその教会に入信しなくてはいけないのかと

辺境伯に聞いてみた所、その必要は無いとの事で

一先ず安心して訪れたところでもある。

どんな信仰をする宗教かも分からないので

宗教には、あまり関わりたくないのだ。



「それでは、よろしく頼む。」

「はい。

 お任せください。」

「ああ。・・・ではな。

 いい子にしておるのじゃぞ。」


何やかんやで、辺境伯と教会側との

話がまとまったようで、

辺境伯は最後に私達にそう言って話し掛けてきた。


「はい。今日は、お忙しいところを

 連れて来て頂いてありがとうございました。」


「お前達は何も心配せずともよいから

 よく食べ、よく笑い、健やかに成長するのじゃぞ。」


「はい。ありがとうございます。」


「ああ。それではの。」


「はい。さようなら。

 本当にありがとうございました。」


そう言って、辺境伯を見送った私達は、

教会の司祭で、この孤児院の院長でもある人に

再び向き直りペコリと頭を下げる。


「今日からよろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。」


「はい。よろしくお願いします。

 挨拶がしっかり出来るのはいい事ですね。

 礼儀正しい子は好きですよ。」


司祭はニコッと笑って柔らかい声で言う。


「ありがとうございます。司祭様」


「それでは、さっそく孤児院のお友達を紹介しますね。

 皆さん食堂に集まっているのでついて来てくれますか?」


「はい!よろしくお願いします。」


「では、行きましょう。」


そう言って、司祭に先導されてやって来た食堂は、

玄関からすぐそこの位置にあった。


そこには、すでに数人の孤児達が集って

テーブルを囲んで座っていた。

おしゃべりをしていた子達は、

司祭がパンパンと二度手を打ち鳴らすと揃って静かになってこちらに注目した。


興味深そうに見る目がたくさんこちらに向けられると司祭は、口を開いた。


「皆さん、昨晩お知らせした通り新しいお友達が増えました。

 二人は、姉妹だそうです。

 では、いきなりで申し訳ありませんが

 簡単な自己紹介をお願いします。」


そう言って司祭がこちらに目を向けるので、子どもたちに向かって一礼すると言われた通りに自己紹介を始める。


「はい。

 私は、凛香と言います。

 妹と共に5歳です。

 趣味は色々ありますが、家事をするのが得意です。

 ですが、遠い国の出身ですので

 道具や、やり方も違う所があると思います。

 分からにゃい事があったら、教えてくれると嬉しいです。」


「俺は、涼です。

 しゃべり方とか変だと思うけど

 色々あったんで気にしにゃいでください。

 俺は、家事は人(にゃ)み程度にしか出来にゃいし、

 おねえと一緒で分からにゃい事とかあると思います。

 けど、がんばるのでよろしくお願いします。」


そうやって、それぞれが自己紹介を終えると司祭も子どもたちもパラパラと手を叩き「よろしく!」などと声が上がる。


「はい。立派な自己紹介でした。

 では、次は他の子達も軽く自己紹介してください。」


「・・・んじゃ、俺から」


司祭から自己紹介を振られた子どもたちは顔を見合わせ、誰が先にやるか決めあぐねているようだった。


そんな中そう言って、軽く手を上げたのは

この中では一番年長と思しき少年だった。


茶髪で巻き毛の少年は年齢は14,5歳の様に見える。

(地球だと)西洋人である事を考えると

もう少し実際の年齢は若くて12,3歳くらいか?

孤児院に居られるのが15歳までと言う事を考えると

そのくらいの年齢だと思う。


「俺はワーヒド。13歳、今んとこ最年長だ。

 家事は基本的に一通りこなせる。

 まあ、ここにいる奴らはちっちぇ奴ら以外は大体できるが。

 ま、分からない事は何でも聞いてくれ。」


「「はい!よろしくお願いします。」」


「んしゃ、次はわたし!

 名前はイスナーニ!元気がとりえの10歳だよ!

 よろしくね!」


そう言って明るい茶髪で、笑顔が印象的な女の子は挨拶する。

どうやら、年齢順に自己紹介してくれるらしい。


「はい。よろしくです。」

「よろしく。」


次に声を上げたのは可愛らしい印象のくすんだ金髪の女の子。

その髪を2つに結び上げている。


「私はサラーサです。

 8歳です。好きな事はお絵かきとかわいい物です。

 よろしくおねがいします。」


「「よろしくおねがいします!」」


「俺はアルバー、同じく8歳。

 木材とかで物を作るのが得意だ。

 よろしく。」


そう言って続けて挨拶したのは、焦げ茶の髪を後ろで纏めた少年。なんか、釘を咥えたら似合いそう。


「「よろしく!」」


「…わたしはハムサ。さんさい。

 サラーサに作ってもらったぬいぐるみが大好き。

 よろしくね」


最後は、亜麻色の髪を顎と肩の中間くらいのショートで、少し眠たそうな女の子。


「うん!よろしくね。」

「よろしく!」


それぞれに挨拶し終わって、それでは昼食という事になった。

私達が他の子達と、早く馴染むために食事を共にして会話が弾むようにとの配慮だった。


有りがたくそうさせてもらおう。と、準備の段階から手伝うと申し出たのだが、もう既に用意は出来ているらしい。

それならばと、食器を運んだりセッティングのお手伝いをさせてもらった。


ーーそういえばなぜ昼間にも関わらず全員が揃っているのかというと今日が休日だからだ。一番年下のサラーサ以外は皆、平日は学校に通っているーー


そして、その時に気づいてしまったのだ。

料理があまり上手くないと。

スープなどの野菜は型崩れしてしまっている。


それに、あまり量もないと見た。


これは孤児院であるが故に仕方ないのかとも思ったが、自分達がここに入る事によって、さらに一人一人の取り分が減るのではないかと思うとかなり申し訳なくなった。


これは何とかせねばなるまい。

早々にこの世界での料理の仕方を覚えて改善してやる!

そう決意して密かに闘志を燃やす。


ひとまず、いただこう。

食べてみて改善すべき点が分かるかもしれないし。


という事で、最年長でまとめ役のワーヒドが「じゃあ食べようか」と言った所で、皆が各々神への感謝?を述べたり、述べなかったりして食べはじめたのを見計らって、私達も目を見合わせて食べ始める。


「「いただきます。」」


そう言って食べ始める私達だったが、周囲の者達は食事の手を止めてこちらを驚いた顔で見ている。


「…ん?」

「どうかしたのか?」


その様子に二人揃って、口に運んだスプーンを置いて怪訝そうな声を上げる。その疑問にはワーヒドが答えてくれた。


「………いや。いただきますなんて初めて聞いたから驚いてるだけだよ。それは、何かの決まりごとなのか?」


「……?いえ。そういう訳じゃないですよ。

 ただにゃんとなくというか、暗黙の了解というか、母国の慣習です。元はといえば自分達の血肉となる食材に、それを調理した者や、くれた者に対して感謝の気持ちを示すみたいな意味合いだったみたいですけどね。今はにゃんとなく口にしている者の方が多いと思います。」


「…そうか。そんな慣習が……。それならいいが。」


そういいつつも、ワーヒドはまだ何かひかかっているような懸念している様な顔をしていたので念の為聞いてみた。


「…にゃにか問題が?

 …………ああ。いえ、宗教的なものではにゃいですよ。

 そこは、ご心配なく。」


が、その途中で彼の言いたい事が分かって、それに関しては訂正しておく。


「ああ。なら、いいんだ。

 さっき司祭様も戻ったし、俺達は別に構わないが

 そういうのに煩く言う奴もいるから。」


彼は私の言葉を聞くと、憂いの晴れた表情になったので

彼は心底皆のリーダーなのだなと思った。


私達が異教徒と言われても良くても、

孤児院の他の子達は困っちゃうもんね。

仮にも教会にお世話になってるのに、

孤児仲間が異教徒なんて噂広がったらさ。

教会からも他からも圧力がかかっちゃうよ。

そしたら、彼らは文字通り生活に関わるからね。


「にゃるほど。そうでしょうね。

 外では気をつけます。」


そっかー。そうだよね。

宗教が違うとなかなか理解はされないし。

日本が特殊なんだよ。宗教観が薄いっていうか。

まあ、それにしても新興宗教とかには厳しいけどね。


「うん。じゃあ、冷めないうちに食べよう。…皆も。」


そう言って、ワーヒドが場を取りなしてくれる。

皆も多かれ少なかれ彼が懸念していたような事を気にしていたので場が固まっていたのだ。


そうして食べ始めた私は、この量は5歳児には物足りないし、他の子達の皿にも年齢に合わせた量が乗ってるけど、どう考えてもそれぞれには合っていない。明らかに少ない量しか配られていないようだ。


食事は毎食、自分達で作って自分達で盛り付けるみたいだから、大きい子達がたくさん取って小さい子にはほとんど行き渡らないなんて事が無い事だけは、素晴らしい事だし純粋に凄いとも思ったが、何せそのくらい量が少ない。育ち盛りの子にはかなり厳しいだろう。この量はかなり問題とも言えた。


教会側の管理体制が甘いのか。ネコババしている者がいるのか。

それとも本当にこれだけしか予算がないのか。

あるいは孤児など本当はどうでもいいと思っているのか。


分からない事ではあったが、少なくとも改善する必要は有りそうだった。



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