第26話
へへっ……すまねぇ。
こんなにも遅れちまったぜ……
はい。これから頑張ります。
「おー。見える運命が増えたと思ったら、こういう訳か。なるほどなるほど 」
森の方から、目は隠れ、足元まで伸びた金髪の女が歩いて来た。粗末な服を身に纏い、だがしかし、見た目とは相反する得体の知れない存在感を醸し出しながら。
「いやいや、あんた誰だよ」
警戒に値する相手に、そうとは思わせないよう軽い口調で尋ねるエルン。
「フッ。そんなに聞きたいのなら仕方あるまい」
もったいぶった前口上と共に彼女の右手が顔を覆い、左手で此方を指差しながら話し始めた。
「我こそは梨の妖精こと麗那! 梨の妖精だがその実、神様だということは秘密だ! 職業無職! 敢えて言うならば神様! 未来では世界樹とか呼ばれてる存在なのである! どうだ驚いただろう! 敬え! 敬うがよい! 信仰心を私に寄越すのだ!」
『ッッ⁉︎』
その時、夢想旅団の思考が一致した。
こいつ、相手にしたらマズイ奴だ。この際神なのかなんなのかは置いておいて、どうにかして距離をとらねば。
だが、そうは問屋が卸さない。
今度は左手を腰に当て、右手で此方を指差しながら再び衝撃の発言をした。
「ククク。さっきまで居た少女……彼女は、異世界に飛ばされたわ。運が悪かったのね。空間の歪みが原因となって、他の世界に飛ばされちゃうなんて、本当に運が悪いわ。爆発によって空間の歪みを作るだなんてアホな人が居なければ、こんな事にはならなかったのにねぇ?」
「またお前が原因かぁぁぁぁぁぁ!」
「ホゲェッ! せ、セルバルドー! く、首絞めないで!」
極々普通の女の子なら出さないような声を出しながら抵抗する幼女体型のリィ。
その幼女を、首を絞めながら顔の前まで持ち上げるという、紳士としてあるまじき行動を取るセルバルドー。
絵面が完全に犯罪である。
衛兵さんこいつです。
「よせ、セルバルドー。こいつはタダでは死なん。取り敢えず、カグネとやらを救い出す方法を考えよう」
「クッ……分った」
ニムの言葉で、セルバルドーは首を絞めるのを止めた。
「ゲホッ、ゲホッ。あー死ぬかと思った。確かに悪いと思ってるけど。でもそれは事故だし、まさかこんな事起きるとは思ってなかったし。部外者を巻き込むのは流石に想定外って言うか……」
「まぁ、カグネちゃんなら大丈夫だと思うわよ? ほら、私って運命の観測できるから、あの子の生存も確認できてるし」
「なっ⁉︎ それは本当か⁉︎」
麗那の言葉を聞いて、詰め寄るセルバルドー。
「えぇ。運が良いのか悪いのかは知らないけど、その世界に行けば、世界を救うという目的も果たせる筈よ。運命がそう示してるし」
「お前……一体、何者だ?」
「さっき言ったでしょ?」
セルバルドーの問いに対し、ククク……と、怪しい笑い方で返す麗那。
セルバルドーの疑念は、深まるばかりだった。
「それで……一体、どうするんだい?」
シグラムの問いに、セルバルドーは即答した。
「異世界に行く。だが、行けるのは恐らく俺だけだ。揺らいでる空間に突っ込んで異世界に行くには、相当な魔法の腕が必要だ。つまり、この中で該当するのは俺だけだ」
「あれ? じゃあ俺ら、この時代に来た意味無くね?」
「かもしれないし、違うかもしれないわねー。でも、ここに居た方がいいかもしれないねー、うん。どちらかというと、ここに居た方がいいかもしれないなー」
棒読みである。そのせいで、怪しさが膨れ上がっている。
「……あんた、一体どこまで知っているんだ?」
「さて? どれくらい知ってるんでしょうか? なんでも知ってるかもしれないし、何も知らないかもしれないですねー? もしかしたら神様じゃあないかもしれないし、敵かもしれない」
ニムの問いに、まともに答えない麗那。
「ま、こうなっては仕方ないね! セルバルドー! 君に世界の命運を委よう!」
リィは自分は関係ないことを確認すると、全てをセルバルドーに任せた。
「テメェが原因で団員殆ど巻き込んだ癖に、何偉そうにしとんじゃコラァァァァァァァァ!」
「し、死ぬ! ギブギブギブギブ!」
「流石にリィちゃんが可哀想だって! 首を絞めるの辞めてあげなよ」
「チッ……シグラムのお陰で命拾いしたな」
リィから手を離した。
「ふぎゃっ」
重力に従って落下し、尻を打ったようだ。
「リィちゃん大丈夫?」
「ふふふ、私はこの程度でくたばる程ヤワじゃないのよ!」
「そっか。ならよかったよ」
「で、爆弾を仕掛けた場所はどこだ? 早く教えろ」
「い、いや、場所分からないんだけど」
「あぁん?」
「分かったから! 今場所を探すから!」
そう言って帽子の中に手を突っ込み、少し探るようにしてから小さな水晶を手に取った。
「ええっとぉ。歪みは……分かった! 北東の方角!」
ご丁寧に、水晶から北東へ向けて光の線が伸びている。
「それだけで充分だ」
「は?」
たったそれだけの一言で、セルバルドーは行動を始めた。
「直ぐに行動するその姿勢、嫌いじゃないわー。残業されると残業代出さないといけなくなっちゃうし、本当に効率的でいいわぁ。いや、でも私は無職だし。そもそも働いたら負けだし。そうだね。仕事はしないに限る」
「俺たちする事ないけど、どうするよ?」
麗那の発言を聞かなかった事にし、シグラムはみんなにこれからの方針を聞いて見た。
「待つしかないでしょ」
「ねーねー麗那さん。未来に返してくれたりしない?」
「無理。そんな力、私には無いのであーる」
「……なぁ、これさぁ。もしもセルバルドーが帰ってこなかったらさぁ」
「もしかして……」
「未来に、元の時代に、帰れないかもしれんな」
『……』
団員達は、暫くの間黙り込んだままだった。
─────────────────
「……」
不安定に揺れる床と慣れた匂いを感じ取り、カグネは目が覚めた。
気配を探り、魔力を探る。
「……?」
探れない。
気配は分かる。だが、気と魔力だけは感じ取る事が出来ない。
なぜ? なぜ探れない?
手足と首に拘束感があるが、恐らくこれらが原因なのだろう。枷同士は鎖で繋がれており、腕や足を広げることはできなかった。
服もいつもの服ではなく、麻布で出来た粗末な貫頭衣を身に纏っている。
石を踏んだのだろう。床が跳ねた。
感じ取れる気配や状況から察するに、自分は今、馬車に乗せられて居るのだろう。
逃れるタイミングを図る為、カグネは機会を待つ事にした。
▼▼▼
「着いたか」
馬車が止まった。
「おら! お前ら! さっさと降りろ!」
馬車の戸を開け、顔を見せた男がそう叫んだ。
「……」
人を攫っておいて顔を隠さないとは、こいつ素人なのか? その道の者ならそこら辺しっかりしなさいよ……って、おっと。いけない。思考が危ない方向にいってしまっていた。
周囲を見渡すが、居るのは女子供だけだった。
どう考えても人攫いの奴隷商人である。質の悪い方の。
「おら! キビキビと動け!」
男が見せしめに1人の女性を鞭で叩いた。
「あぁあああっ!! く、うぅ……」
悲痛な叫び声が放たれた。子供達は萎縮し、老婆は目を伏せた。
あいつは後でブッ殺そう。カグネはそう固く決めた。
馬車を降りると、周りは石で出来た空間だった。そのまま指示通り階段を降りる。
「お前らはここに入れ。お前らはこっちだ」
階段の下は、長い一本道に、両側が檻で構成された場所だった。
選別され、檻に入れられているようだ。
「お前は……そうか、エルフか。ならこっちだ」
カグネは奥の方へと連れられて行く。
「ねぇ。ちょっと聞きたいんだけど」
「あぁん? んだよ」
男はぶっきらぼうに答えた。
「なんで私だけ奥へ向かっているの?」
「常識ってもんを知らねぇみてぇだな。お前、ある意味じゃあ幸せかもしれねぇな」
呆れたように言われても困る。
「お前はあいつらとは違って、地上の牢に入ってもらう。まぁ、牢とは名ばかりのテントだがな。床には藁が敷き詰めてあるから寝やすいだろうよ」
そうか。やはりエルフは高く売れるから、質を落とさないよう快適な生活を送らせる訳か。
「ねぇ、私の服はどこ?」
場所が分からないと逃げる時に困る。
「あぁ、服ねぇ……まぁ、管理人が持ってるだろ。買ってもらった時にでも返してもらいな。まぁ、買ってもらった段階で、返してもらったところで不要だろうがな」
うわぁ。いやだなぁ。
▽▽▽
テントで生活すること3日。驚く事に、たいして不便しなかった。強いて挙げるとするならば、貫頭衣が粗末な点か。
「おら、お前を買い取りたい奴が来たぞ。面接するからテントから出ろ」
うわ。最悪だ。
石畳を歩いて移動する。
右、左、真っ直ぐ行って右に曲がる。
「ここだ、入れ」
扉を開けられ、押し込まれる。
「……はぁ」
扉が閉まった。2人きりだ。
「……で、ご用件は?」
「……エルフ、初めて見たよ」
口の動きと聞こえる声が違う。
なるほど、変声の魔術か。
「そりゃあそうでしょうね。基本、人前には出ませんからね」
壁にもたれながら会話をする。
肌の色は黄色に近く、髪は黒。
あまり見ない人種だ。田舎者か? それとも先祖返り?
「僕は、君を仲間に加えて旅をしたいと考えている。ついて来てくれるか?」
なるほど、旅の仲間ねぇ。
「具体的には、何をしてもらいたいのよ。私じゃあ出来ない事だってあるわよ」
「大丈夫。旅には慣れてる。戦闘を手伝ってもらいたいんだ」
あー、なるほど。
「……交渉成立ね。」
こいつは死んでもいい人間だ。
契約書に記入した。
隷属の首輪とやらが主人に反抗しようとしたら首を絞め、最終的には絞め殺されるらしい。
まぁ、抜け道はあるが。
「じゃあ、僕が泊まってる宿まで行こうか」
大体展開は分かりますよ、えぇ。
はぁ、こりゃあ憂鬱で死ねる。
次回更新「未定」
来月には投稿したいね!




