第24話 旅の始まり
クリスマスプレゼント
「お〜い」
「やっぱり、南の方へ行くべきだと思う。こんな寒い所、誰も住みたく無いと思う」
「うーん……たしかにそうだな。それは盲点だった。よし、南へ行こう」
「お〜い。聞こえてる〜?」
「「うっせぇ! 人が話してるときに話しかけるな!」」
「うぉっ⁉︎ 聞こえてんのか」
いつの間にか、黒い外套を纏った一人の女が部屋に侵入していた。煙草を口に咥えているせいで臭い。
「……誰」
警戒するカグネ。
「あれ? なんでお前がここにいんの?」
「ん? あー……まぁ、気にすんなって!」
細けえ事ぁ気にすんなと言わんばかりの歯を見せた満面の笑み。綺麗な白色で、光に反射して輝いている。タバコを吸っているので、念入りに磨いているのだろう。
「いやいや、なんでここ来てんの?」
残念。セルバルドーを誤魔化すことは出来なかった。
「あ〜んと……なんだっけ。ん? あれ? やばくね? 記憶が変」
「取り敢えず落ち着け」
「おう、そうさせて貰うわ」
その場で坐禅を組み、精神を統一し始めた。落ち着くどころか、悟りを開きそうだ。
「……ねぇ、本当に誰? この人」
「団員の一人だよ。エルフで暗殺を生業としてる。細かい事情とかが気になるなら本人から聞け。俺が話す事じゃない」
テキパキと移動の準備をするセルバルドー。
「はぁ……味方なら、いいか」
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「ウッ……ここはどこだ?」
ダークエルフの女が、そう呟いた。
「果たして、宿命は果たせたのか? うむ
、この上なく最高潮だが、ショートケーキが八等分されてしまったようだ」
背中から羽の生えている、翼人族の男がそう答えた。
「あー成る程。他のみんなはどっかに飛ばされたってことね。ありがとう」
「うむ、広告は重要だ」
満足気に頷く彼だが、なぜダークエルフの彼女がこの意味の分からない発言を理解しているのかと聞かれれば、長い付き合いだからと答えるであろう。
彼女以外にも付き合いが長い者が何人か居るのだが、彼等からすれば「なぜ理解できる?」と、思わず聞き返してしまう回答である。
「平原地帯に出たのは良かったね。うんうん。見晴らしもいいし、色々と便利道具の実験とかも出来そうだし。まったく、副団長も酷いよね。何が『過去へ戻って、未来を救うのです!』だよ。それだけじゃぜんぜん意味わからないって。本当、もう……」
頬を膨らませ、如何にも私怒ってますアピールをする彼女。
ダークエルフは、普通なら長身ナイスバディな美女もしくはムキムキのワイルド系イケメンなのだが、彼女には当てはまらない。
ドワーフと同程度の低い身長に、童顔で胸はまな板。それに、少し膨れたお腹。
麦わら帽子を被り、白いワンピースと対照的な褐色の肌が映え、チラチラと見える脇やうなじが本当にエロいです。
何処からどう見ても合法ロリです本当にありがとうございました。
対し、翼人族の彼の姿は奇抜としか言いようがない。
上は裸で下も裸。局部には葉っぱがへばり付いている。でも、この世の奥様方、安心して下さい。履いてないのに例のアレが見える事はありません。
見た目は美術展に展示されるような鍛え上げられた肉体に、一体何人の女を泣かせたのか分からない整った顔。
まぁ、実際は違った意味で泣かせているのであるが。
本当ら悲しいかな。見た目は良いが、中身は全くもってダメだった。
「この世にある唯一の宝を求め、いざ行かん!」
言っていることがメチャクチャで、何言ってるのか分からない。
「うん、うん。つまり、何かを探し当てるのが正解ってことね。理解出来た」
彼には、優れた直感能力と未来予知能力があるのだが、何言ってるのか分からないので宝の持ち腐れになってしまっていたのだ。
まぁ、ダークエルフの彼女は理解してるので、その力を全力で発揮出来ている。
良いコンビであるとも言えるし、諸悪の根源とも言える。
「フハハハハハハハハ! さぁ! 今こそ我等の力を見せつける時なり!」
「よしきた! 今まで倉庫に眠ってた至高の宝を使うぞ! 宝探しなんかより、こっちの方が重大だ! 先ずはこの七千五百三十四連式爆破解体装置の実験をしよう! ここに設置して……」
妙に禍々しい箱を、麦わら帽子の中に手を突っ込んで取り出した。
その箱が麦わら帽子の窪みよりも大きい事や、なぜそんな所から出てくるのか? と、聞いてはいけない。
嬉々とした表情で、その仕組みを説明するからである。
「爆破はやはり至高故、最高!」
翼人族の彼が、満面の笑みで手に持っていたスイッチを押した。
「えっ? えぇっ⁉︎ ちょっ、退散!」
振り返り、そのスイッチを確認するや否や、手に持っていた箱の形をした爆弾をそこら辺に放り捨てる。
そこから流れる様な動作で新たに麦わら帽子の中から道具を取り出し、スイッチに全力で、最速で、己の持てる力をすべてを込めて、拳を叩きつけた。
一瞬で姿の消える二人。
その、刹那にも満たない時間の後、箱が爆裂した。
このコンビにとって、自爆スイッチと誤爆スイッチはお約束だったのである。
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「で、なんでお前は俺の頭の上に乗ってるのかな?」
海から、頭だけを出している男が問う。
「仕方あるまい。お前は海人族。対し、俺は獣人族。海の中に居るべきなのは、どう考えてもお前だろう」
答えは、上から降ってきた。
「いや、そうだけどさぁ……もうちょっとこぉ……そのぉ……なんかあるじゃん?」
「では、逆に問おう。男の濡れ姿なんざ、誰が得する?」
「成る程、たしかにそうだ。でもなぁ……」
少し溜め、呆れたように海人族の男は言った。
「だからって、俺の頭の上に乗って坐禅組むのは違うだろ?」
「……」
「おい、無言はやめろ」
「……」
「はぁ……まぁ、いいか。取り敢えず、陸に向かって適当に進むからな。草木の匂いがしたら、直ぐに報告してくれよ」
「了解した」
「はぁ。あいつらの監視役は、お前だけなのになぁ。本当、絶対なんかやらかしてるよ」
「……仕方あるまい。運が悪かった」
「それで済む話じゃないんだけどなぁ」
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「いやー、美味いもんが出来そうな畑ですなぁ?」
「当たり前ですよぉ。だって、私が丹精込めて耕した畑なんですから」
「ククク、いやぁ、久し振りに腕が鳴りますなぁ。まぁ、私スケルトンなんで、カラカラという音しか鳴らないんですが?」
「アハハッ! 面白い冗談ですね!」
「いや、見ての通り、骸骨なんですけど」
「またまたー……変化してるだけでしょう?」
「いえいえ奥様。この通り、骸骨です」
「奥様なんてそんな……キャッ」
何がそんなに嬉しいのか、頬を赤く染め少女が出すような声を上げている。
「……そうそう、私、ちょっとすごい事出来るんですよ」
話題をズラす骸骨。
「何が出来るんですか?」
簡単に食いついた。きっとセールスには弱いのだろう。
「まぁ、見てて下さい」
骸骨が、畑から少し離れた場所に立ち、鍬を構えた。
両手でしっかりと持ち、頭上に掲げる。
「母なる大地に感謝。恵の雨に感謝。命の源に感謝」
目を瞑り、自分に言い聞かせるように呟いた後
「セイッッッ!!」
鍬を振り下ろした。
瞬間、手入れの行き届いた、根菜類用の畑に生まれ変わっていた。
「わぁー! すごーい!」
パチパチと手を叩き、凄い凄いと褒め称える彼女に満足したのか、骸骨は鍬を担ぎ、(骸骨なので表情は分からないが、恐らく)ドヤ顔をキメた。
「あ、そういえば奥様。お名前の方は? おっとっと、失礼。名乗るなら、私の方からですね。まぁ、私には名乗る名前などございませんので、気軽に『骸骨』や『スケさん』とでも呼んで頂ければそれで満足でございます」
「へぇ、じゃあ、スケさんって呼ぶわね。それで、私の名前は……そうね。今はこう名乗るべきね。」
感慨深そうに言った後、輝かんばかりの笑顔で答えた。
「少し前に、『麗奈』って名前を貰ったのよ。だから、気軽に呼んでね」
今、この時、この瞬間。
物語の歯車はカチリとハマり、急速に進み始めた。
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