第20話 ようこそ、ブラック企業へ
今日2回目の投稿
「カグネ先生」
おぅ、いつもの貧弱教師ではないか。
「はい。なんでしょうか?」
「授業……体験してみますか?」
「……は?」
今更、あんな低次元の授業を受けろと?
「おい、ややこしい言い方するな」
貧弱教師の背後から、普通教師が顔を出してそう言った。
「分かりにくかったか?」
「さっきのだと、お前はもう一回授業を受けないとダメなぐらい次元が低いって言ってるようなもんだぞ」
「あ、カグネちゃんごめん。言い方が悪かったみたい。えっとね、僕たちみたいな授業をやってみない?」
「……は?」
「お前はどんだけ説明がヘタなんだ。それでも教師か? あぁん?」
「あはは。これでも教師だから、人生も世の中も不思議だよねー」
「うっせぇ! ……はぁ。俺が代わりに説明する。冒険者として、体験談だとかを生徒に語ってくれって事だ。雑学とか、色々な事のお得情報とか、コツとか、模擬戦とか」
模擬戦? いいの? あんまり舐めてる生徒が居ると殺っちゃうけど、いいの? いや、いいから言ってるんだよね? よし、殺ろう。これはもう殺るしかない。
「面白そうですね。やります」
「おぉ! それはよかった! 明日は特別授業だ!」
「お前、絶対後先考えずに思いつきで提案しただろ……」
▼▼▼
「カグネ先生、こっちの棟です」
「この棟、あまり生徒が居るようには感じないんですが」
「まぁ、魔法使いじゃなくて、若くして魔術師に至れた生徒だけが居る棟だか、ね。エリートコースみたいなもんかな?」
成る程。そういう事か。
「それじゃ、この教室だから。先に入るから、後から続いてください」
貧弱教師が扉を開け、先に中に入る。
「はいはーいおはよー。見ての通り、今日はカグネ先生も参加する授業だ。おっとっと、まずは挨拶だったね、先生なのに忘れてたよ。アッハッハッハッハ」
教壇に立ち、いきなりペラペラと話し始め、今度は笑い出す。
……まったく、なんでこんな人が教師をやってるのか、本当に分からない。
「はい日直、号令お願い」
「んうぇ⁉︎ あ、はい」
お前、机に湖が出来てるぞ。寝てたな。
「きりーつ、きおつけー、れーい」
『ぉはよーござぃまーす』
「ちゃくせーき」
なんてやる気のない挨拶なんだ……
「んじゃ、さっきの話の続きね。今日はカグネ先生も参加するから、色々と話を聞いたりしてねー。基本的に、カグネ先生中心で、俺は補助に回る形だね。うん。質問あるー? あったら手ー挙げてー」
1人も手を挙げない。
「はいじゃあ朝の会終了! 休憩挟んで授業だけど、もう色々聞いちゃっていいよ! 解散!」
「カグネ先生ー!」「先生ー!」
「質問だー!」「先生すごーい」
殆どの生徒が質問に来る中、こいつだけは違った。
まず、私の前に跪き、なんかペラと語り出した。
「今日の放課後空いてるかい? もし空いたなら、王族の僕が財を費やして得た紅茶を一緒に堪能したいのだが、どうだい? 悪い話じゃぁないだろう? あぁ、君はまるで月夜に照らされ、野に咲く一輪の花の如し儚さ可憐さを持ち合わせていながら、太陽の如し力強さも持ち合わせている。こんなにも相反した者を持ち合わせた君は、正に女神だ!」
なにこいつ怖い。
「……みんな、他の教室に行こうか」
「……そうですね」
「せんせーい。あの人こわ〜い」
「 あぁ、私の女神。挙式はどこで上げようか? やはり、女性に人気なスシクイーネ大陸の海岸がいいだろうか? あそこは夏がよく合う。冬に上げるなら、ボールシチ大陸にある、氷で出来た巨城はどうだろうか? あそこは太古の昔の建造物だし、ロマンチックだろう? 春ならば、此の世と彼の世、何処に在るかも定かではない、蓬莱島はどうだろうか?」
「みんな移動ひ終わったよ〜?」
暇だからという理由で朝食を食べる貧弱教師。見た目に合わず、朝食はステーキセットである。なんと800グラム。
使用されているのは、庶民にはちょっとお高いオークジェネラルのお肉。
パンは学校の近くにあるパン屋で買った普通の物。スープは学校の購買のおばちゃんからの貰い物。サラダは裏の栽培場で取れた新鮮な野菜達。因みに自家栽培。
こいつ、見た目はガリガリ無気力なのにやる時はやる奴である。
「彼処には世界樹が生えていて、一年中温暖な気候で、桜と呼ばれる淡い桃色の花を咲かせる木や、ありとあらゆる大陸の花が一年中咲き乱れている、幻想的な島らしい。まさに、桃源郷。理想郷。あぁ、君にはやはり蓬莱島が似合うだろう。その白い肌。夜の闇の如し、力強い黒髪。意志の強さが感じ取れる切れ長の目に長い睫毛。唇は可憐な桃色。身長は高めで、鍛えられているのがよく分かる手や脚。だが、決してゴツい訳ではない。適度に女性らしさが残っていて、その女性らしさのアンバランスさが色気を醸し出している。」
「あぁ〜美味かったぁ〜。てか、まだ口説いてたんだねぇ。なぁんでまだ気付かないんだろうねぇ」
「あぁ、私は一目惚れだったんだ。君の名を知れて、私は歓喜に溢れている。この上なく幸せだ。あぁ、私と結婚してはくれないか?君が望むものなら何でも手に入れるし、君が望むなら、たとえ火の中水の中草の中森の中土の中雲の中女神のスカートの中、なかなかなかなかなかなかなかなか大変だけれども、必ず、何処へでも向かおう! 私は君を永遠に愛し続ける! だから、我が王妃となってくれ!」
パカッと、手の平程の大きさの箱を開けると、中から白銀に輝く指輪が現れた。金ピカにしないあたり、本気で相手の事を考えている事が分かる。
材質は婚約指輪としては最高級の材質
『精霊銀』。聖霊が祝福し、破魔、破邪の効果を与えられし、祝福された銀。その所持者には、聖霊の加護と祝福が与えられ、闇に堕ちるのを防ぐと言われている程の希少物質。
この物質を触れるのにも資格が必要であり、扱い、細工するには恐ろしい程の技量と資格が必要である。
扱えるのは、永き時を生きたドワーフのみと言われている。
人が扱うには、時間が足りない。技術力も無い。
実際、扱えるのは世界規模で数えても十人居るか居ないかである。
あくまでも、それはこの時代に限られた話だが。
「さぁ、指輪をはめてみてくれ」
『人族』である彼が指輪を手に取り、前を向くと……
「……あ、あり?」
「あ、王子様気が付いた? もうみんな移動したよ?」
「……え"」
▼▼▼
「えー、はい。授業始めます」
教壇に立ち、生徒達を順々に見ていく。
年齢はバラバラ。でも、多いのは7歳ぐらい。
ひよっこ魔術師か。
「……で、魔術について、何を知ってる?」
「はいはーい!」
「はいそこの君」
「えっとね、魔法を作れる!」
「……まぁ、その認識で大して間違ってない」
「はいはーい!」
「はい君」
「魔術は、己の渇望が結構重要で、扱いやすいのが、己の渇望を具現化したりするやつ!」
「魔術とは、己の渇望を実現する為の術である。また、神の力を借りずとも生きていくという、一つの自立である。そして、魔術を扱う者は決して渇望に呑まれてはいけない。それは、神が望まないからだ。……ですよね? 先生?」
「はい、そこのメガネ君。よく出来ました」
解説ご苦労。手間が省けた。
「では、魔術を発動させるには、何が大切でしょうか?」
「魔術陣!」
「魔術陣を描く為に魔法陣も勉強しないといけないから、面倒だよねー」
「あれ必要! 触媒!」
「踊りとか、礼儀作法でも大丈夫!」
「魔術を発動させるには、先ずは魔法から学ばなくてはならない。だが、昔の人は魔法を学ばず、魔術を発動させていた。つまり、魔法は学ばなくてもいい!」
「じゃあ、どうやるんだよ」
「えーっとー……」
おい、こっち見んな。
……いや、分かったからもう見んなよ。話すから。
「魔術には、認識がかなり重要になるの。この世界は生きていて、一種の生き物であるの。その生き物に誤認識をさせて、わざと不具合を起こす。それが魔術。だから、認識が大事」
「そ、そうそう! 俺が言うまでもなかったなぁーあっはっはー!」
おい、あんた15歳ぐらいだろ。
なんで7歳に負けてんだよ。
ま、これでみんなど素人って事が分かった。
さぁって、模擬戦をしますかぁ。
▼▼▼
「ほらそこ! さっさと魔術陣描いて! そっちはテキパキ行動する! ぼーっと突っ立ってないで! 動きながら考える!」
「うぉぉぉぉ⁉︎ 陣が描けねえぇぇ⁉︎」
「か、考えが纏まんないよぉぉぉ!」
「じ、陣が崩れるぅぅぅぅ⁉︎」
「ぎゃー⁉︎ 頭噛まれた! 誰か助けて!」
そこは、地獄だった。
迷宮で戦い方を教えてもらえると知らされ、狂喜乱舞する生徒達。
それが今、魔物達に襲われ、狂気乱舞する始末。
やはり、実戦は早かったのか?
いや、実戦をすれば成長を促進できる。手っ取り早く強くなれるのだから、ドンドンやるべきだ。よし、徹底的に鍛え上げよう。
こんな思考の結果がこれである。
「はい、休憩していいよ。周りの掃除してくるから、安心して休んでいいよ」
「ふぁー……」
意識が飛ぶ者。
「あひひひり、ひひは……」
ちょっと意識がトンでしまった者。
「……」
出血多量で、意識が逝ってしまっている者。
「あ、あひぃ……」
被虐趣味のドM野郎も野郎で、白目を剥いて泡を吹きながらイッてしまっている。
……ナニとは言わないが。
休憩はこれで3回目である。
重傷は治され、軽傷は治せる者に治してもらえと言われる始末。
その結果、回復系の術が使える者はドンドン上手くなり、軽傷の者達は、ちょっとやそっとの傷では考えが鈍らなくなっている。
徹底的なスパルタ教育である。
だが、その実戦重視の教育の結果、彼等は恐ろしい早さで強くなっている。
既存の魔法陣を改良し、オリジナルの魔術陣を手に入れた者が大多数。
中には、効率化に成功した者も居るし、強化に成功した者もいる。
これが、火事場の馬鹿力とか、そういう類の奴なのだろう。
人間、死ぬ気でやれば大抵の事はなんとかなる。
この教育は日暮れまで続き、彼等は恐ろしい程の実力と技量を手にした。
代わりに、カグネに絶対服従するようになってしまったが。
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