第17話 ちゃんと冒険者始めました
短いです。
「元【夢想旅団】所属。現【私立総合学校】校長、セルバルドーじゃ」
真っ白な髪と髭を蓄え、黒のローブを纏った如何にも魔法使いな爺さんは、確かにそう言った。
「あ、あんた……本当に、あのセルバルドーなのか?」
「当たり前じゃ。これでも一応、エルフの血が流れた人じゃぞ? おっと、話してる場合じゃなさそうじゃのぉ」
違和感を感じて視線を戻すと、奴が呼吸を整えていた。
「コォォォォ……」
「おっとっと、本当に不味そうじゃ」
「オアァァァァァァァァァァッ!」
「こ、こいつ⁉︎ って熱っ! 熱っ!」
奴の咆哮と共に、視界が黒一色で埋め尽くされた。
「憤怒の黒炎を纏うか……こりゃ危険じゃのぉ。『来なされ』」
一瞬で視界が変わり、気が付けば地面に座っていた。
「た、助かったぜ……だが、ありゃあ一体何者なんだ?」
ついさっきまで竜と人が合わさった様な見た目だったのが、今度は全身に黒い炎のような物を纏っていやがる。
「あれは、憤怒の化身『サタン』の力を振るう誰かじゃ。人かもしれんし、魔物かもしれん。暴走を止めれば分かるじゃろう」
「なんかよく分からんが、止める方法はあるか?」
「あぁ、あるのぅ」
「だったらさっさと教えろよ! 街に危険が迫るかもしれないんだぞ!」
「まぁ落ち着きなされ、若いの。いいかね? 全身を包む、霧のような靄のようなあれは『憤怒の黒炎』と呼ばれる物じゃ」
「だからなんだってんだよ!」
「あれに触れると、思考が短絡的になるんじゃ。ほれ、今もかなりキレやすくなっとるじゃろう?」
確かに……俺は、普段ならこれくらいでは起こらないはず。
「中々恐ろしい能力だな。戦い辛い」
「当たり前じゃ。邪神の力の一端でもあるからのぅ」
「おぃぃぃぃ! ちょっと待てぇ! 今、不穏な聞き捨てならない単語が聞こえたぞ!」
「ほれ、そんな事に気を取られてる場合じゃないぞ」
「グォォ……オォォォォォォォ!」
奴の身体から、黒い火柱が上がる。
「なんじゃありゃぁ⁉︎」
火柱はどんどん膨れ上がり、球状に変化していく。
「おいおい、なんかヤバいんじゃねぇのか⁉︎」
「敵に変身させるのは愚の骨頂じゃ。変身なんてさせる訳無かろうに。先ずは動きを止めよう。『ニブルヘイム』『コキュートス』」
辺り一帯が氷に覆い尽くされ、視界が銀色に染まる。
「そして封印。『神の慈悲』」
「とんでもねぇ魔術だな……」
銀世界が発光を始める。
この銀世界が、魔術陣のようなものだったのだろう。
「グゥゥアァァァァァァ……」
悲鳴が段々と小さくなっていき、身体に纏っていた黒い炎も鎮火していった。
「え、マジかよ……」
白銀世界の真ん中で倒れ伏す少女が1人。俺は、彼女の事を知っている。
「なんで、カグ」
「まさかカグネちゃんだったとはのぉ」
おい、俺の台詞返せや。
「はぁ。安心したっつうか、なんつぅか……もう限界」
腹に穴空いて、よくこんだけ意識を保っていられたな。我ながら感心する。
「後は……任せました」
この人は、本物の英雄だ。俺が寝ても、もう問題は無いだろう。
モブはここで大人しく退散しますかね。
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「……知らない天井だ」
私は、何をしていたんだっけ……?
えぇと……うぅん。
なんだろう。上手く、考えられない。
「……集中」
……あれ? なんでだろ? なんで私は集中って言ったんだっけ?
あれ? なんで?
「おや、目が覚めたようじゃのう」
あれ? 誰か居る? 誰だろう?
「ふむ……やはり、精神的な消耗が凄まじいようじゃのぅ。うーむ……自然回復が一番かの。『お眠りなさい』」
「んぅぅ……」
眠い……寝よ。
〜〜〜
「……集中」
人の気配あり。中立。警戒態勢。
その場から飛び起き、構える。
「……何者?」
目の前には魔術師であろう老人。男性。椅子に座り、前にはテーブルがある。
私の武器は……ある。道具袋はない。道具袋が無いのは痛い。
「まぁまぁ落ち着きなされ、カグネちゃん。ほれ、ハーブティーでも飲むかい?」
「もう一度問う……何者?」
「なに、ただの学校の先生じゃよ。取って食ったりはせんよ。先生じゃからな」
ホホホと、老人は笑う。
「……質問を変える。此処はどこ?」
「学校の寮の部屋じゃ」
「……では、学校の名前は?」
「私立総合学校。平凡な名前じゃろう? その分覚えやすくて助かっとるわい」
私立総合学校……まさか⁉︎
「……セルバルドー?」
「正解じゃ」
老人は得意げに笑い、そう言った。
老人がハーブティーを飲む。
「……薄い本って、なぁに?」
「ブフォッ⁉︎」
老人が、いきなりハーブティーを噴き出した。
「汚い。不潔です。近寄らないで下さい」
思わず後退りする。
「エホッ、ゲホッ、ちょ、ま、ゲホッゲホッ。カグネちゃん、ちょ、許して」
老人が咽せながら、必死に弁明の言葉を述べる。
が、それはどうでもいい。
「……もしかして、本当にセルバルドーなの?」
「ゲホッ、エホッ、エホッ……さっきからそう言ってるんだけどねぇ」
そう呟くと、老人の身体から光が溢れ出した。
「急に発光してどうしたの? 何? 寿命で昇天するの?」
「いや、まだ昇天しないからね⁉︎ カグネちゃんは母親に似過ぎだよ⁉︎ お願いだから、これ以上似るのは止めて! 俺の為にも! ね⁉︎」
「フフフ……やだ」
部屋が輝きで埋め尽くされ、窓から光が溢れ出す。
だが、その光も暫くすると収まり、目の前には、若い男性のエルフが現れた。
「……無駄ね、その光」
「いや、雰囲気とか出すのに必要でしょ⁉︎」
「一々発光してたら、暗殺し難くなるけどね」
「あぁ、そうか。はぁ……取り敢えず、その話は置いておこう。本題に入ろう」
彼は、パチンと指を鳴らし、椅子に座った。
テーブルの汚れは消えて元どおりになり、まるで新品のようだ。
いや、新品なのだろう。
「急に真面目になったわね」
「あぁ、重大な事だからな。……一つ、問おう。君は、気を失う以前の記憶を、どのくらい覚えているかい?」
魔石が光だして、リリアちゃんの家に向かって、それから……っ⁉︎
「リリアちゃんは⁉︎ リリアちゃんはどうなったの⁉︎」
私は助けに行った! そこまで憶えてる!
「そうか……そこまでか……」
「ねぇ! どうなったの⁉︎」
お願いだから、生きていて!
「……死んだよ」
「……え?」
今、なんて?
「あの村は、滅んだよ」
「ウソ……そんな……」
また、助けられ無かったの?
「イヤ、イヤ……」
「……」
「イヤァァァァァァァァ!!!」
身体が熱い。内側から燃やされてるような、魂が揺さぶられてるような、そんな感じがする。
「こんな世界、もう嫌だ! なんでなんの罪もない人たちが殺されないといけないの⁉︎ ねぇ、なんで⁉︎ 私がもっと強くなればいいの⁉︎ ねぇ、どうすればいいの⁉︎」
「ここまで侵食されているのか……マズイな。どうにかせねば」
「あぁぁぁぁ誰かたスけ助ケ助けてあゲてよなんで助けてあゲないのなんでなんでみんナ幸セにナロうよ世界がオカシいんだ壊してなオしてシ配してぇぇぇぁぁぁぁぁぁ!!!」
少女の目は血のように紅く染まり、息は乱れて、狂乱している。
どれ程強い力なのだろうか。頭や身体中を掻き毟る事によって、血が染み出している。
「力になれず、ゴメンね……『コキュートス』」
少女の身体が氷で覆われていく。先ず腕が覆われ、次に胴体、顔、足という順で氷が侵食していく。
「『深淵心理支配』」
「うぁあ……あぁ……」
少女の瞳が黒色に戻る。
身体中を覆っていた氷は砕け、空気中を輝かせながら消えていった。
少女は糸の切れた人形のように、その場にへたり込んでしまった。
その姿からは、生気を感じられない。瞳も虚で、本当に人形のようである。
「はぁ。まさか、ここまで侵食されてるなんて思わなかった。なんとかして精神汚染を食い止めるか」
取り敢えず、目の届く範囲に置く事は確定している。
でも、彼女が納得するかは分からない。
本当はやりたくなかったが仕方あるまい。強制的に、ここに居て貰おう。
「『君は、今のやりとりを忘れるんだ。いいね? 目が覚めた時、君は落ち着いて僕の話を聞いてくれ。そして、僕の言うことを聞いてくれ。いいね?』」
コクコクと、人形のように感情の起伏も、精気も、何も感じられない少女が頷く。
「それじゃあ……『おやすみ』」
少女の瞼が閉じられ、グラリと、身体が揺れる。
「おっとっと、寝るなら、ベッドで寝ないとね」
少女を抱き抱え、ベッドにそっと乗せ、布団を被せる。
「おやすみ、カグネちゃん」
君にはきっと、大きな試練が待ち受けてるだろう。人なのかすら分からない、あの人の娘なのだから。
音を立てぬようゆっくりと歩き、扉を開ける。
「『君に幸あれ』」
振り向き、カグネちゃんに向け呟いた。
少しでもいい。
力になれれば嬉しいな。
もしも力が足りない時は、僕に相談してくれ。
僕は、手の届く範囲の人を幸せにすると決めたのだから。
全力を尽くそう。
ここまでお読み頂きありがとうございました
誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等
お待ちしております。
次回更新はきっと12月。
てか、12月で完結させたい。
まだ三分の一しか終わってないけど。




