第16話 ちゃんと冒険者始めました
この話を書くために全力を尽くしあ結果、投稿が遅れた本末転倒。
全力で書いたのに、出来はまぁまぁという。
これが素人の限界。
書き方勉強しないとなぁ。
「……ッ⁉︎」
それは、一瞬の事だった。
「アァァァァァァッッ!」
「ぐっ……マジで死にそぉ……」
気が付けば、不利な間合いを取られていた。
「俺の身体が無意識で、本当にギリギリで反応出来る速度って……ッッ! 勝て、なさそぉだなおいぃっ!」
爪と槍での鍔迫り合い。
ギャリギャリと嫌な音を立てながら、奴が少しずつ近づいてくる。
「クッ……んんん!」
一歩、側面に入り込むように踏み込み、槍を捻りながら爪を滑らせる。
槍の穂先付近を手に持ち、脇腹を裂きながら駆け抜け━━
「ゴァァッ!」
「オプゥッ……ッ!」
━━尻尾が、俺の鳩尾を的確に打ち抜いた。
駆け抜けて間合いを取る事が出来ず、後方に飛ばされる。
「ロアァッッ!」
「ゲホッゲホッ……宙に浮いてるから、上手く衝撃が伝わるか心配なんだけどなぁ!」
飛ばされつつも槍を全力で薙ぎ払い、間合いを一瞬で詰めてきた敵の頬を殴る。
攻撃が当たった事により体勢が崩れ、敵の攻撃が空振ってる間に、そのまま後ろへ移動する。
「なんで槍使いなのに近接戦なんだよ……ったく。今度は俺が有利に進めさせて貰うぜ」
奴は拳と尾、俺は槍。
この距離は槍にとって最適な距離。
そして、冒険者は魔物との戦いを専門にしている。
つまり……
「負ける筈が、無い!」
「ガァァァァッッ!」
「……」
ダメだ。勝てる気がし無い。
雄叫びだけでこんなに足が震えるとか、勝てる訳が無い。
……だがなぁ!
俺は、ただでは死ねないんだよなぁ!
「坊主! 街へ行け! こいつは恐らくSランクの実力は持っている! 直ぐに伝えろ! いいな! 分かったんならさっさと行け!」
お願いだから、さっさと行けよ……こいつが雄叫びを上げてる隙に。
「わ、分かった!」
「バカ! 声出すんじゃねぇ!」
「ッッ! クヒ……ヒヒヒッ!」
化け物が、俺を視界から外した。
笑っている。嘲笑っている。
……こいつ、弱い奴から狙うつもりか⁉︎
「ロアァァァァァァァァァァァァ!」
「行かせるかぁっ!」
刹那、2人の姿が消えた。
そして、重厚な不協和音と共に姿を見せた。
「欲張りだな……今、お前と戦ってるのは俺なんだぜ? この尻軽さんよぉ。今は、俺に夢中になれよ」
爪を槍で抑える事によって、耳に悪い嫌な音が鳴る。
「オアァァ……ガァッ!」
「けっ……イケメンじゃないと、見向きもしないってかっ!」
爪で槍を弾かれ、距離を取られる。
「なんだ、急に距離を取って。どうした? 怖いのか?」
怖いのは俺の方だよ。
本能が延々と警音を鳴らしてるんだ。
今直ぐにでも逃げだしてぇよ。
「スゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
「何してんだ? 呼吸でも整えてんのか?」
実際は全然違った。
奴の胸が大きく膨らみ……
「嘘だろ⁉︎」
口から、ドス黒い炎を吐き出した。
「ぬぉぉぉぉッ⁉︎」
視界が真っ黒に染まる。
槍を身体の前で高速回転させ、炎を払い切る。
視界が元に戻ったが、奴は既に目の前には居なかった。
「ッ⁉︎ 上かよ⁉︎」
奴は竜のような大きな翼で羽ばたき、空中で滞空していた。
そして再び胸が膨れ上がり……
「おい! マジかよ!」
空から、黒く燃え盛る炎弾が降って来た。
着弾と同時に爆発し、大きな爆風が発生する。
そのお陰で逃げるのが大変だ。
オマケに、砂埃が巻き上がるせいで視界がドンドン悪くなっていく。
槍を引きずりながら、焦げ臭い屍体と、空から降ってくる炎を避けていく。
「マジで危ねえっての! 」
グニャグニャ移動しないと避けられないぐらい、大量の炎弾が降ってくるようになった。
最早、極地的な豪雨のようなものだ。降ってくるのは恵みの雨では無く、破壊を齎す爆炎だが。
「クソッ……出来れば使いたくなかったが、一気に決める!」
右目を閉じ、意識を右目に集中させる。
奴を倒すには、俺の一族に伝わるもう一つの眼を開くしかあるまい。
あっても倒せるか分からんけど、まぁ生き残る可能性と、奴を倒せるか可能性はグーンと上がるだろう。
【先見の魔眼】発動!
瞬間、世界の時の流れが遅くなる。
引きずっていた槍を肩に担ぎ、もう片方の手を地に当てる。
「俺がただ逃げてるだけだと思ったら、大間違いだぜ! ずっと1人で戦ってきたからな! 大抵のことはこなせるんだよ!」
魔術陣は描き終わった。後は、詠唱をして発動させるのみ。
『其処は不可侵の領域なり。侵す者には罰を。覚悟ある者には祝福を。支配者には栄光を。夢見る者には絶望を。叶える者には栄華を。地と風の精霊よ。今こそ我に力を貸したまえ【空磔】』
空中の奴の動きが、完全に止まった。
つまり、この攻撃は絶対に躱せない。
「【刺刄滅風】!」
風の精霊の加護を受けた槍の穂先を人差し指と中指でガッチリと握り、奴の心臓目掛けて投槍。
空気を裂き、暴風を撒き散らしながら、槍は奴の心臓目掛け飛んでいく。
「アアッ!」
「マジか⁉︎」
少しだけ、上に動いた。
俺の時の流れを早くし、尚且つ奴を魔術で空中に止めた筈なのだ。
それでも動いた。
「やっぱ周囲から魔力を吸ってるから、魔術もあんまり効果が無いのか。ふざけんなよ! ……痛ッ」
クソッ。眼はもう限界か。
痛みで右眼が強制的に閉じられた。
そして時は、正常に流れ出す。
「やっぱ、直撃は無理だったか」
投げた槍は、奴の尻尾の先端を掠っただけだった。
「グルゥア……」
奴の口角が釣り上る。
掠っただけで直撃はしていない事に対しての侮蔑、俺が武器を持っていない事に対する余裕の現れだろう。
だが、それらは甘んじて受け入れよう。本当は直撃を狙っていたのだが……まぁ、最悪当たりさえすればいいんだよ。俺は勝つか時間稼ぎをするか、どっちかが出来ればいいんだよ。
「ゴアァァァァァァッ!!?」
槍が掠った地点から、広がるように尻尾が斬り刻まれていく。
苦痛が来ると思っていなかったのだろう。少し間を空けてから痛みが来たのだ。痛みが来ると分かってない時に尻尾を斬り刻まれているのだから、そりゃあ覚悟も出来てないし、痛いだろう。
「風の精霊の加護を受けた槍だ! 持ち主には軽く、敵には重く感じる槍だ。そして、投げた時に当たった地点を起点として、暴風が斬り刻むような性質もあるんだぜ! バーカバーカ!」
全力で挑発をする。
俺のやるべき事は、時間稼ぎだ。少しでも余裕があるように見せないと、こいつはどっか行っちまいそうだ。
「出でよ槍!『召喚』」
両掌を合わせて叩き、離す。
手と手の間の虚空に魔法陣が描かれ、槍が現れる。
「仕留められなかったのは残念だ。まぁ、尻尾を抉れただけマシか。どう考えても格上だし」
槍を力強く握り締める。
「苦しんでいる今が好機! もう1発喰らっとけ!」
再び投槍。
「グルルゥゥアアアッ!」
「バカ! 2度も同じ手を使うとでも思っていたのか!」
奴は身を捻り槍を躱したが、そんなの誰だって予想出来るわ!
「【爆裂】」
槍が爆発し、粉々になった槍の破片が爆風と共に飛び散り、奴に傷を付けているだろう。
「おごぉッ……ッ!!!」
躱したんじゃない……槍を蹴って、一瞬で俺の懐まで移動して、腹を殴ったんだ。
「ぼっ! がっ! あっ!」
地面を跳ね、回転しながらぶっ飛ぶせいで、視界がグルグル回る。腹を思いっきり殴られたってのもあって、吐きそう。ってか、無理。我慢出来ない。吐く。
「ぼえっ! ぼえぇぇぇぇ……」
喉に血が詰まってた。血ごと吐き出し、息が出来るようにする。吐きながら回転してるせいで、彼方此方に吐瀉物を撒き散らしているだろう。
「グギ、ギ……」
「おえっ、おぇぇぇぇ……」
うつ伏せになった状態でも吐く。
吐きながら遠くに居る奴を見ると、俺を殴った姿勢で動きが止まっている。
「へ、へへ……中々に、強烈だろう? 俺の、お手製の毒は……」
さっき爆発させた槍の中には、多量の毒が含まれている。
本当、一番最初に麻痺が回ってよかったぜ。
血と吐瀉物でグチャグチャになった地面とキスしてる俺が言った所で、全然カッコよくもなんともないけど。
「ラアァァァァァァァァッッッ!」
先ずは心に活力と気合を。
「散々俺を嬲りやがってぇぇぇっ!」
痛みを怒りに変え、力に変え、腕を使って上半身を地面から離す。
「腹に、穴が空いてるとか……ッ! ふざけんじゃねぇぞぉぉぉぉ!」
ボロボロの心と身体に鞭打ち、気合で上半身をしっかりと地面から離す。
「あの街は! 俺が守らなきゃいけねぇんだよ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
抱え込むように右膝を移動させ、震える脚を強引に抑えて立ち上がる。
「ゴアァァァァァァ!」
クソ! この短時間で麻痺の耐性が付くとか、マジで化け物じゃねぇか!
なんとなく予想は出来ていたが、目の前で見せられると絶望感が凄いな。
「ゴアァァァァァァッ!」
「【背槍刺串】」
奴が動くのと俺が言葉を発するのは、恐らく同じタイミングだった。
「グロァァッ⁉︎」
「ギリギリで間に合ったか……」
背後から槍が奴の腹を食い破り、そのまま地面に突き刺さる事でつっかえになっている。
そして、刺さっている槍は最初に投げた槍だ。
武器を捨てたと思っていたこいつは、やはりバカだな。愛用の槍を捨てる訳が無いのに。
「はぁ、はぁ。まったく、心臓に悪いぜ。だが、これでおあいこだな」
後方に跳躍し、距離を取る。
「『召喚』」
手を叩き、離す。つっかえの代わりになっていた槍が、手元に現れる。
「グルァ、アァ……」
俺とあいつの腹から、ダバダバ血が流れている。もう、長くは持ちそうに無い。速攻で、一撃で決める。
「ゴァァァァァァァァァァァ!」
奴の咆哮に反応し、腹が黒い靄のような何か包まれる。
「おいおい……なんとなく予想が出来るぞ」
「ゴアッ!」
「クソッ。マジかよ」
靄が晴れた時、さっきまで穴の空いていた腹は、艶のある綺麗な鱗で覆われていた。
「グァァ……」
おいおいなんだよ。勝負はこれからだ! みたいなその表情は。
クッソォ。こうなったら、何が何でも一撃で決めてやるよ。
離れた間から、お互いにジリジリと距離を詰める。
「……クッ」
「グルァ……」
後一歩。後数ミリ。後一瞬。刹那の時。
お互い機会を伺い、刹那を悠久に感じ、焦燥感が心を支配する。
死臭を乗せた風が肌を撫ぜる。
積み上がった屍体の血液が垂れる音と風による木々のざわめきだけが聞こえる。
落ち着け……まだだ。まだ焦ってはいけない。
お互いが練り上げた闘気と殺気とが混じり合い、膨れ上がり、周りの空間が歪んで見える。
まだだ……すべては、一瞬の為に! すべてを賭けた一撃の為に!
一度、呼吸を整え……今だ!
【先見の魔眼】発動!
両目で【先見の魔眼】を開く。
奴の動きが止まる。
今、俺の中の世界は加速した。
時が止まったと錯覚する程、周りの時の流れは遅くなる。
今、この世界を自由に動けるのは、この俺だけだ。
「オラァッッ!」
足で大地を踏み締め、眉間を狙って全力の突き。
本当は、これで終わる筈だった。俺の槍が、奴の脳髄を掻き乱す筈だった。
奴の身体が、ドス黒い靄のような物で覆い包まれ……
「オ……オォ!」
「嘘だろ⁉︎ 」
この世界に、奴は侵入して来た。
そして、頭を右に傾けて槍を躱す。
「シッ!」
右に払うが屈んで避けられる。
だが、こうなることは【魔眼】が読んで、分かっていた。
「加速ゥ……ッ!」
眼と頭、それに身体中が痛みを訴える。
身体中が痛みで動かし難く感じるが、風精霊の加護を受けた槍はブレる事なく、直線の途中から曲線を描き、斜め下に切り裂いた。
「ゴアアァァァァァアア!」
これは、角と左腕を切り落とされた事による奴の悲鳴ではない。
切り落とされた事による、憤怒の声だ。
敵は屈んだ状態から思い切り跳び上がり、右の拳が眼前に迫る。
その光景が見え、咄嗟に躱そうと動くが、奴の動きは想像以上に疾かった。
「速すぎぬぉあぁ……ッ⁉︎」
槍で防ぐが、背後に倒れかける。
後方に跳躍しながら体勢を立て直そうとしたが……
「クソッ。もう、限界なのかよ……」
もう、限界だった。眼を開くのも、身体の方も。
「尻尾……か!」
クソッ。いつの間に尻尾を生やしたんだよ。
身体が尻尾に締め付けられて、身動きが取れねぇじゃねぇか。
「殺……死!」
拳が眼前に迫る。
当たれば、確実に死ぬ。
クソッ。何か手は無いのか!
身体はピクリとも動かない。
魔法はきっと意味が無い……クソッ。
俺は、此処までなのか……いや、まだだ。死ぬと決まった訳ではない! 死なぬ限り、勝機はある筈だ!
痛みと衝撃に備え、決死の覚悟も決めていたが、死の気配は、たった一言で消え去った。
「『絶望氷棺』」
「ガァァッ! アァァ!」
「……なにが、あった?」
当たれば俺をミンチにしたであろう右腕が、眼前で止まっている。よく見れば、腕が水色の塊……氷で覆い尽くされている。
「やっと見つけた……探すのに苦労したわい。ハァ、大変だったわ。本当に間に合って良かったわい」
「だ、誰だ⁉︎」
「あ、儂? 儂はのう……」
真っ白な髪と髭を蓄え、黒のローブを纏った如何にも魔法使いな爺さんが、声高らかに宣言した。
「元【夢想旅団】所属。現【私立総合学校】校長、セルバルドーじゃ」
ここまでお読み頂きありがとうございました
誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等
お待ちしております。
次回更新は明日の朝8時頃の予定。
え? セルバルドー? ダレダロウナァ……




