第14話 ちゃんと冒険者始めました
今回は短いです。
次から一気に話が進みます。
「おはようございます」
「あ! カグネちゃんオハヨー! 今日も早いわね。依頼は完了した?」
「はい、完了しました。この通り」
シアさんに依頼書を渡す。
「サインも書いてあるね。はいはい今回も依頼達成でーす! オメデトー! イェイイェイ!」
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑顔でダブルピース。特大の脂肪の塊も、嬉しいのかプルンプルン震えてる。
「今日もフィレンシア嬢は可愛いなぁ」
おっさん黙れや。巨乳は皆爆ぜればいいのに。具体的には、脂肪が。
「今日はどんな依頼を受けますかー?」
「今日は……」
プルンプルン
「殲滅系の依頼で」
不快に思われないように、満面の笑顔で頼む事にした。
「あ、ハハ……わ、分かったわ」
「そんなに顔を真っ青にして、怖がらないで? 私は依頼を頼んだだけなんだから……ね? 私、傷ついちゃうわ?」
「ヒャイッ⁉︎ しゃがして来ましゅ!」
「そんなに慌てて、走らなくてもいいのに……フフフ」
そんなに慌てて走ったら、その駄肉が余計に揺れるじゃないの。
「おぉふ……カグネちゃん、バーサークモードだわ。関わるの止めとこ。あぁ、やっぱシア嬢のは目の保養になるわぁ〜」
……路地裏でボコボコにしておこう。
▼▼▼
今回受けた依頼は、作物と森荒らす害虫の駆除。
先日のドラゴン騒ぎの所為で、変な所から蟲がゾロゾロと編隊を組んでやってきたらしい。
森の木をドンドン食べ、作物は持ち帰って効率的に食べるなんていう、無駄に頭のいい事をしているようだ。
ちなみに、人はその場で食べているらしい。保存が効かないと分かってるのか、それともお菓子感覚で食べてるのか、それとも遊び感覚で嬲ってるのかは知らないが、結局人を殺す事に変わりない。
理由なんてどうだっていい。鬱憤を晴らせれば問題無い。
さぁ、パパッと殺って来ますか。
「え、えへへ……い、行ってらっしゃ〜い……」
「はい。行ってきます。しっかり殺り遂げて来ますから、期待してて下さい」
「そ、そうね……そのぉ……笑ってると変な人だと思われちゃうから、笑わない方がいいと思うわ」
「忠告ありがとうございます。では、行ってきます」
「ま、待って!」
「なんでしょうか?」
人を引き留めるための為に手を伸ばす、その動作でまた駄肉がプルンと揺れる。
「や、やっぱり笑ってた方がいいわ! だから笑って! お願いだから!」
「そうですか、分かりました。とびきりの笑顔で、依頼を受けることにします」
「い、行ってらっしゃ〜い……」
「行ってきます」
周りの人に変に思われないように、心からの笑顔を浮かべて、街を歩く。
『なんなんだあいつは⁉︎ 悪魔か何かか⁉︎ 』
『気をつけろ! あいつは今、笑顔とは裏腹に、内心は怒り狂っている……目が合った時……それが、俺たちの人生の終わりだ』
『やだ! 死にたくない!』
『なら下を向いて、大声を出すな……気がつかれるぞ』
「皆さん下を向かれてどうされたんですか? 道を踏み外して、暗闇を彷徨ってるんですか? しっかりと前を見て下さいね。もしもぶつかったりしたら、周りの人に迷惑ですよ?」
『ヒイッ⁉︎ な、なんでもありません!』
「そうですか。気を付けて下さいね。中には、ぶつかった事に対して因縁を付けて、大事なナニカを奪っていく人も居ますからね?」
『き、気を付けます!』
先程まで噂していた人物が突如彼等の正面に現れ、ギラついた笑顔で因縁云々について話し始めた。
カグネは勿論、9割の善意と1割の怒りを込めて注意したのだが、彼等は、違った風に捉えてしまった。
テメェ、コソコソ陰口叩くとはいい度胸してんじゃねぇか。口は災いの元と言うし、喋れなくしてやろうか? それとも、テメェの大事なリトルボーイを削いでやろうか?
……と、いった風に。
こう捉えてしまうのも仕方ない。笑顔は綺麗だが、その裏の感情が隠し切れていないからだ。
「うふ、うふふ……」
恐ろしい笑顔を振りまく事によって、自然と道が出来る。
「今日はいい事あるかなぁ〜?」
普通に、危ない人である。
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「さて、気配が有るのはあっちだね」
気配を消して木々を伝って移動していくと、あたり一帯が荒野になっている場所に到着した。
「これが巣か……土の山の癖に、無駄に大きいな」
土の山の頂上から、蟻のような見た目の魔物が出入りしている。
巣は、もちろん地中にある。蟻のような魔物は、特性として地下深くまで巣を造っている。
つまり、殲滅するならここから一帯を吹き飛ばすしかない。
「フフフ……やっと出番が来たね」
流動性金剛聖魔銀の形を変えていき、大砲のような見た目にし、片手を突っ込む。
『魔砲』
使うのは火の魔術。弱点である熱は、保護してあるから問題ない。
威力は不明。効果は爆裂。周りに人の気配は無し!
「さぁ! 大きな花火を打ち出しましょう!」
魔力を充填していく。この形態そのものが魔術であり、火の精霊の力を借りる儀式も組み込んである。つまり、後は魔力を込めるだけ。
「2割……3割……」
巣の真上に飛び、更に空中を駆け上がる。
「5割……今!」
雲の上まで行った所で、魔力を5割まで込められた。これ以上は自分に何かあった時に危険だ。つまり、これが捨て身ではない本気の一撃!
「発射ぁぁぁぁぁぁ!」
本能的に恐怖してしまうような、重く響く音と、衝撃が身体を襲う。
「これはオマケだぁぁぁぁぁ!」
ある程度魔力を込めた一撃を、何発か連続で打つ。
打ち出した人と同じぐらいの大きさの弾は、そのままゆっくりと落下していく。
「威力がどれ位か分からないし、遠くへ逃げておこう」
空中に一瞬で足場を作り、遠くへ縮地で移動する。
『伸びよ』
土を盛り上げていき、木より高くする。ここは特等席だ。さて、どれ位の威力なのだろうか。
そんな事を考えていると、轟音と共に、強烈な風が身体を襲う。
「うわぁ……たまげた」
爆心地からかなり離れた所に居るが、キノコ雲が出来ている。
「大丈夫だと思うけど……念の為、見に行ってみよう」
まぁ結果的に言えば、派手に吹っ飛んで、大きなクレーターが出来ていた。
「私は何も見ていない……帰ろう」
火の精霊の力を借りて使うのは初めてだったけど……ちょっと、これは予想外過ぎる。
「ま、気分は晴れたから……いいか」
でも、世の中そんなに甘くない。
ギルドでシアさんに報告したら
「なに派手にやらかしてるのよ! いい? 冒険者の責任は、私達ギルドが取らなきゃいけない場合もあるの。確かに依頼は殲滅だったけど、幾ら何でもあれはやり過ぎよね? だって、ここからでもキノコ雲が見えたわよ? ねぇ、自分のやらかした事自覚してる?」
怒られてしまった。
「はい、すみません」
何も言い返せないです。
はぁ……今日は厄日だ。
もう、帰って寝よう。
「人の話聞いてる?」
「聞いてます」
「なら、私がなんて言ったか、答えてくれるかしら?」
「責任を取りなさい」
「言ってないわよ。はぁ、もう……やっぱりダメね。」
こめかみを指で押さている。きっと頭痛だろう……更年期障害かな?
そんな事を考えていると、シアさんが何か取り出した。
「はい、これ」
「紙の束とペン? ……なんで?」
「反省文書きなさい。期限は明日まで」
えー、嫌だなぁ。
「嫌そうな顔しない。」
「失礼しまーす!」
「ちゃんと書きなさいよ!」
はぁ、今日は厄日だ。
早く帰って、パパッと書いて寝よう。
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「あー……反省文、書き方」
困った時の冒険者の書。
質問すれば、答えが浮き出てくる。
「うーん。やっぱり、これが一番かなぁ……」
貰った紙の一枚一枚に、大きく丁寧に、一文字づつ書いていく。
「……はい、完了。」
明日は……ダラダラしよう。
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「反省文は書いたかしら?」
「書きました。はい」
シアさんに反省文を提出し、そのまま冒険者ギルドを急いで出る。
今日は、リリアちゃんに会いに行こう。
「こんなの反省文じゃなーい! 土魔法使いを急遽招集して、整地させた私の胃の痛みが、この程度で治るかー!」
私は何も聞いていない。
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「こんにちわ」
「あら、あの時の」
お母さんが、驚いた様な表情でこちらを見る。
「遊びに来ました」
「そんな、迷惑じゃありませんか?」
「息抜きなので、全然迷惑じゃありません。」
「そうですか。本当に、ありがとうございます」
「そんな、深く頭を下げないでください」
「あ、お姉ちゃんだー!」
「久しぶりだね」
と言っても、数日しか経ってないけど。
「リリアちゃん、どこか行きたい所はあるかな?」
小さい子と話す時は、同じ目線になるのが良い。顔をよく見れる。
「えっとねー……そのぉ……」
「ん? どうしたの?」
リリアちゃんがもじもじしている。可愛い。
そんなことを考えていると、リリアちゃんがトテトテと歩きながら横に回り、私の耳元で囁き始めた。
「も、もりのおくのみずうみで、あそびたい……」
「そっか、分かった。お母さん、森の奥の方まで行くのですが、よろしいでしょうか?」
「すみません、お願いします」
可愛いリリアちゃんのためだ。護衛をしてあげよう。
「いえいえ、お気になさらず」
だって、リリアちゃん可愛いんだもん。
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次回更新も明日の朝8時頃の予定。