第13話 ちゃんと冒険者始めました
ほのぼのって難しいね。
ギャグの書き方も忘れてしまったよ。
「ギルドから来ました、Cランク冒険者です。村長さん居ますか?」
「おぉ、よく来てくれたな! 村長の家まで案内するぜ」
「ありがとうございます」
村の入り口に居た男性が案内してくれるようだ。
「それで……嬢ちゃん、仲間はいつやって来るんだ?」
「いえ、私1人ですが」
「はぁ⁉︎ 止めとけ! 嬢ちゃんみたいなのじゃ、あいつらに逆にやられちまう!」
「はぁ……」
心配してくれるのはいいが、そんなに弱そうに見えるのだろうか?
「どうすれば実力を認めてくれますか?」
「ぐぬぬ……そうだな。この村一番の力持ちに、腕相撲で勝てたら認める」
「……分かりました。村長さんに挨拶をした後、腕相撲をしましょう」
「真っ直ぐ行った所にある、一番大きな建物が村長の家だ。俺はこの村一番の力持ちを呼んでくるから、村長の家で待っててくれ」
「分かりました」
男性は右の道へ行った。
「はぁ……なんだか面倒臭そうだな」
▼▼▼
「おぉ、よく来てくれたね。ささ、椅子に座って寛いでいて下さい。なにか飲み物を淹れて来ますから」
見た目は人の良さそうな中年のおっさんが、お茶を淹れてくるみたいだ。
駆け足で部屋から出て行った。
「忙しそうな人だ」
椅子に座り、寛ぐことにした。
「お待たせしました。うちの村の特産品の紅茶です。ささ、どうぞどうぞ」
机の上には二つの紅茶。砂糖は無し。飲まないといけない雰囲気になるが、元々飲むつもりだったから飲みやすくなって嬉しい。
ただ、砂糖を置いていない事が残念だ。
「……美味しいです」
「おぉそうですか! ありがとうございます! 」
「本当の事です」
お互い、手慣れた営業スマイルだ。
「では……本題に入りましょう。」
切り替えも早い。
「説明お願いします」
「ええ。お分かりの通り、うちの村の特産品は紅茶でして、半年程前から、コボルト達がうちの茶畑を荒らしに来るんです。それが原因で摂れる量が減ってしまい、税金を納めようにも納められなくなってしまう可能性が高まってしまい……」
「そうですか」
「この村を救って下さい。お願いします!」
おっさんは頭を下げ、勢いで頭を机にぶつける。
飲みかけの紅茶が波を打つ。
「……分かりました。出来るだけの事はやってみます」
「おぉ! ありがとうございます!」
何度も何度も頭を机にぶつける。
紅茶を手元に寄せておいて正解だった。おっさんが頭をぶつける光景を見なかった事にし、紅茶を堪能する事にした。
▼▼▼
村長宅から出た後、腕相撲はギリギリで勝った風に演出。
その頃には、陽は高く登っていた。
「さて……森を探索しますか」
今はまだお昼。
急いで殲滅すれば、夕方には帰れるだろう。
命の危険が高まるから、慎重に、かつ大胆に索敵殲滅するけど。
森の手前で神経を研ぎ澄まし、辺りの魔力を探る。
……南の方向に反応13、南西に40ぐらい。
先ずは、南の方を殲滅しよう。
縮地による高速移動により、一瞬でコボルト達を視認出来る距離まで移動した。
「フッ!」
最速の連撃を叩き込み、怯んでからトドメを刺すつもりだったが、どうやら最初の一撃で倒せたようだ。
「キャウン!」
「フッ! フッ!」
残りの3体も倒した後、半犬半人達の血抜きをし、道具袋に詰め込んでいく。
さて、次は西だ。
▼▼▼
「ふぅ……殲滅完了」
合計67体討伐した。予想外の出来事は起きなかったが、数が多かった。
そして、コボルト達はかなり好戦的で、ドンドン飛びかかって来たせいでなんとなく疲れた。
……いや、違う。私を絶対に排除しないといけないような、もう逃げられないから覚悟を決めたような、そんな感じがした。
なんでだろう……分からないから、この事は無視しよう。
取り敢えず、依頼は恐らく完了した。このコボルト達の死体を見せれば、分かってくれるだろう。
「……?」
今、一瞬気配がしたような……
「ブモォォォォォ!」
「あんたはしつこい!」
「プギュイィィィ……」
ワイルドボアだった。
感じ取った気配は、恐らくこいつだろう。
パパッと血抜きをし、道具袋に詰め込んで保存する。
癖があるけど、中々美味しいから非常食になる。
さて、もう夕方になってしまったし、村長さん達に報告して、パパッと帰りますか。
▼▼▼
「〜〜〜〜〜っ!」
「ーーーー!」
なんだか騒がしい。
「依頼が完了したと、村長さんにお伝え下さい」
「おっ⁉︎ 冒険者さんだ! 頼む! 助けてくれ! お願いだ!」
「私からもお願いします!」
「ん? どうしたんですか?」
全身ボロボロの男性と女性がいきなり地面に頭を擦り付けて、私に懇願してきた。
話が進まなそうなので、聞くことにする。
私、村長さんに依頼完了って伝えて欲しいって言ったばかりなんだけどね。
隣のおっちゃんも困惑してるんだけど。
「あ、あぁ、話す! 俺たちは茶畑に居たんだが、オークがやって来て、リリアを攫って行きやがったんだ! 頼む! 娘を助けてやってくれ!」
「お願いします! まだ5歳になったばかりなんです!」
成る程……
「分かりました。直ぐに助けて来ます。方角はどちらですか?」
「あ、あっちだ! あっちに行った!」
「お願いします! どうか、娘を!」
あっちか……最初にコボルトを殲滅した方向だ。入れ違いみたいな感じだったのかな。
まぁ、私もほんの少しぐらい関与していたみたいだし、断れないしね。断る気も無かったけど。
「じゃあ、サクッと助けて来ます」
一旦空中に足場を作り、縮地で一気に茶畑の奥の方、その上空に移動する。
縮地は便利だけど、障害物があると移動出来ないんだよね。
お母さんは障害物があってもポンポン移動してたけど。まぁ、それは私の鍛錬不足。これからも精進するべし。
空中にある球状の足場に立ったまま感覚を研ぎ澄まし、小さな気配を探す。
「……違う、違う……居た」
大きな気配と一緒に行動してる。
リリアちゃんとオークだろう。
「……ん?」
気配が集まってる場所があるが……まぁ、いいか。今はリリアちゃんの救出の方が大事だ。
身体を前方に倒し、逆さまになった所で球形の足場を蹴り、音も無く一瞬で着地する。
「標的までの距離……一歩」
踏み込み……
「ハッ!」
首を小太刀で一閃。
「よっと」
「っ、ひぃ!」
担がれていたリリアちゃんをオークから引っぺがし、背中に負ぶさる。
「大丈夫、味方だから」
「ほ、本当?」
「勿論。じゃあ、直ぐに帰るからね」
「お姉ちゃん、怖かったよぉぉぉ」
余程怖かったのだろう。安心したのか、背中でえんえん泣き出してしまった。
「それじゃあ、しっかり掴まっててね。直ぐに村に着くからね」
もう、オークを見るのも嫌だろう。死体を放棄する事にし、全力で、一直線に村を目指す。
「ギャア!」
「邪魔!」
途中で見つけたゴブリンの頭を、通称魔弾と呼ばれる魔術で撃ち抜き、川を飛び越え、村へと一直線に進む。
リリアちゃんを助けて、戻ってくるまでに所要した時間、およそ1分。
「助けて来ました」
「リリアちゃん!」
「おぉリリア! 無事で本当に良かったよぉぉぉぉぉ!」
リリアちゃん一家が、感動の再会で泣き出してしまった。
「うんうん、良かった良かった」
頑張った甲斐があった。
さて、私はお暇しますか。この雰囲気に耐えられないし。
「あ、村長さんいい所に」
「ん? どうかしましたか?」
「これを見てください」
「……んぇ?」
袋からコボルトの死体を取り出すし、並べていく。
「殲滅完了しました。この依頼書にサインお願いします」
「え、えぇ……そうですね」
笑顔が引きつっている。
「はい、ありがとうございます。それでは、私はこれで」
幸いな事に、ここから街までに障害物は無いから、私の縮地でも一瞬で移動が可能だ。
「お、おねぇちゃん!」
「ん? どうしたの?」
気付けば、リリアちゃんが直ぐ近くに来ていた。しゃがみこみ、同じ目線の高さにする。
「これ! あげる!」
「これは……」
魔石だ。
籠っている魔力の純度が高く、輝いていて、それでいて小さい。
魔石を知らない人からすれば、綺麗な小石にしか見えないだろう。
「たからものなの! だから、またきて!」
「うん、そうだね。また来るよ」
「やくそくだからね!」
目が真っ赤で、鼻水ダラダラだけど、熱意は伝わった。
「じゃあ、私もこれをあげる」
「うん」
「手を出して」
その小さな手の、小さな指に、小さな指輪をはめてあげる。
「ふわぁぁ……キレー……」
「いつも、その指輪を身に付けておいてね。何かあったら、直ぐに助けてあげるから」
その指環には、魔石が使われている。そこに術式を刻んだ結果、結界を張れるようになっている。安全を考慮した結果だ。
「ほら、お揃い」
私の方は、リリアちゃんの方の指輪が結界を張ると、魔石が光るように設定してある。
元々は、コウヤにあげる予定だったんだけどね。
コウヤに結界を張る方。私に光る方で。
「ありがと!」
「おっとっと」
リリアちゃんごしゃいのだいしゅきホールドを、私は優しく包み込んであげる。
「何かあっても、今度は直ぐに助けてあげるからね。だから、今日は安心して眠るのがいいよ」
優しく耳に囁きながら、頭を撫でてあげる。
「うぅん……」
「今日は休みなさい。いいね?」
「はぁい……」
リリアちゃんにとって、今日はとても濃い1日だっただろう。瞼が垂れ下がり、声に元気が無い。
「うぅん……おやすみぃ……」
「……おやすみ」
「すみません、家の娘が」
「いえ、大丈夫です。また、会いに来ますから」
「いやいやそんな! 迷惑でしょう⁉︎ そんな無理しなくても!」
「大丈夫です。私も、偶には息抜きしたいですから」
血生臭い世界に慣れたとはいえ、ずーっと嗅いでいると、気が狂ってしまう。たまには息抜きしないと、調子崩してしまうしね。
「そ、そうですか……なら、お願いします」
「えぇ、お願いされました。それでは、私はこれにて……」
「「ありがとうございました!」」
『ありがとうございました!』
どうやら、村の人達も集まっていたようだ。
「どういたしまして。それでは」
このやり取り、どんだけやらせれば気が済むのだろう。
リリアちゃんを助けた時は夕方だったのに、もう陽が暮れちゃってるんだけど。ねぇ、本当ならもうお風呂に入って、ご飯食べてる時間なんだけれども!
リリアちゃんは悪くない! 悪いのは大人だ! おのれ許さん!
縮地で門まで跳ぶ。
「只今戻りました!」
「うぉっ⁉︎ あぁ、冒険者か。通れ」
衛兵さんにギルドカードを見せ、ご飯を食べるため、全速力で走る。
「ご飯残ってりゅ⁉︎」
「あぁ、遅かったねぇ。一人前なら残ってるよ」
女将さんに、残念そうな顔でそう言われた
「今噛んだよなぁ」
「あぁ、噛んだな」
「あんなカグネちゃん初めて見たわ」
「マジで俺得過ぎるわ」
「そこ! 人が噛んだからって、ヒソヒソと話してバカにしないで!」
「いえいえ、バカになんてしてないですよー……なぁ、お前ら?」
「こいつ1人がバカにしてました!」
「とんでもねぇ事言ってました!」
「えっ⁉︎ ちょ、お前ら!」
「ウガー! 夜ご飯の恨みぃぃぃ!」
「関係ねぇだろ!」
「そいつが今日カグネちゃんが来ないことに賭けて、1人でメシかっ喰らってました!」
「メシ食いながら、『カグネちゃんの物真似ー! 夜ご飯の恨みウガー!ウケるんだけどマジ腹筋崩壊するわ』とか言ってました!」
「えちょ⁉︎ んな事言ってねえよ!」
「メシ途中で残して『もう食べられないウガー』とか言ってました!」
「お前らマジ止めろ! カグネちゃんがバーサークモードに入ってるんだけど⁉︎」
「無茶しやがって……」
「可哀想に……あいつは犠牲となったのだ……」
「勝手に殺すな!」
「あいつが最後に言った言葉……覚えてるか?」
「あぁ……こう言ったんだ」
「カグネちゃんの物真似をしまーす!『私が貧乳で何が悪い! むしろ巨乳の方が悪い! これだけ食べても大きくならないのが悪いウガー!』」
プチン
「あ……」
食堂に居た者達は、堪忍袋の緒が切れたような音が聞こえた気がした。
……いや、たしかに聞いてしまった。
「お前ら……コロス」
食堂の陽気な空気が、ドメスティックでバイオレンスな物に早変わりする。
「ギャー‼︎ マジギレしたー‼︎」
「ウガー‼︎」
ドス黒い魔闘気をばら撒きながら、悪魔は主犯との距離を一瞬で詰め
「流石にやり過ぎだよバカタレ!」
「ウガッ⁉︎」
『ホゲェ⁉︎』
流石に許容範囲を越した女将さんが、カグネと悪ノリした者達の頭をフライパンで思い切り叩いた。
金槌で硬い金属を叩いた時のような重い音と共に、カグネ達がうつ伏せで地面にのめり込む
「う、うーん……いい匂い」
「カグネちゃんの目が醒めたぞ!」
「よかった! 悪魔は消えたんだ!」
「ほら、メシの時間だよ」
「ご飯だ! わーい!」
食堂に、再び平和な空気が流れ出した。
「まさか、私が本気を出してやっと追いつける速度なんてね……ちょっと鈍りすぎたのか、それともカグネちゃんが規格外なのか……それに、あの禍々しい空気━━」
━━悪魔よりもタチの悪い奴だよ
「ま、カグネちゃんだし、メシの事で何かなければ、あぁはならないだろうし、大丈夫だろうね。ナンバーズが出張るまでもないか」
女将さん、それフラグ。
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