第12話 ちゃんと冒険者始めました
疲れた。精神的に。
「依頼……達成しました」
「はいはーい、ギルドカードをお預かりします。はい、これでCランクになれました。おめでとうございます! 詳しい説明は明日するから! あ、報酬は角銀貨1枚ね、はい」
「……ありがとうございます」
「それでさぁ、カグネちゃーん……パーティー、作らないの?」
目の前のダークエルフが頬杖をつき、ニヤニヤしながら私に聞いてくる。
「予定は……無いです。」
「あら、そう? でもねぇ、パーティー作った方がいいわよ? だってカグネちゃん、凄い勢いでランク上げてるじゃない? だから、こういう時に信頼出来る仲間が居ると、街中で奇襲された時とかいいわよ?」
「遠慮しておきます」
「もったいなーい。カグネちゃん色々な所からパーティーに入らないかって誘われてるでしょ? 入っておくと、いい男を堕としやすくなるわよ? お姉さんだって、それで旦那さん手に入れたんだから。馴れ初めはねぇ……」
「それでは、失礼します」
余計なお世話だ。惚気話も遠慮する。
「あっ、ちょ、カグネちゃん! これからがいい所なのよ!」
「チクショウ! フィレンシア嬢が結婚してたなんて! 俺、密かに狙ってたのに!」
「俺だって狙ってたさ……チクショウ」
「クソッ、俺はカグネちゃんとシア嬢の絡みを期待してたのに……まさか、結婚してたなんて……」
「現実は非情だ……俺だって、前パーティーで組んでた女が、許婚が居たなんて知らなかったんだよ……」
「……その、なんかゴメン」
「あぁ、その……次があるさ」
「そのまま結婚する事なく、今54歳だぜ? もう……手遅れなんだよ」
「「「チクショウ!」」」
はいはい茶番乙。
ギルドを出て、普段泊まっている宿へ向かう。
「おっ! カグネちゃん! 丁度今串焼きが焼きあがった所なんだが、食べるか?」
「……三本下さい」
「毎度ぉ!」
「ハフハフ……」
出来立ての串焼きはやっぱり熱いけど、熱いから美味しい。冷めたのは好きじゃない。
出店通りを、途中で買い食いをしながら宿屋へ向かう。
宿の入り口に、女将さんが立ってた。どうしたんだろう?
「おっ? カグネちゃん、夕御飯の時間だよ。早くしないと、野郎共に食われちまうよ! ハハハハハ」
「女将さん! いつも通りで! 」
「あいよ」
直ぐに席に座り、ご飯を待つ。
「カグネちゃん、おっちゃんと一杯どうだい?」
隣の部屋に泊まっているおっちゃんが、話しかけてくる。
「おっちゃんは……おっちゃん同士で仲良く飲んだ方が楽しいと思うよ?」
「いや〜、どうせなら美人に注いで貰った方が、美味く飲めるからさぁ」
「ほぅ……俺の娘が注ぐ酒は……飲めないと言うのか?」
何処からともなく顔の怖いおっさん、愛称は店主が現れた。本当、何処から現れたんだろう。
「て、店主! そ、それは違うぜ! いや、本当! 偶にはカグネちゃんに注いで貰ってもいいかな? って! アレだよ! 娘さんの負担を減らそうと! 娘さんの仕事はウェイトレスだし、わざわざ注がせない方がいいかと、ね⁉︎」
「酒代……お前が全員分奢れ」
不幸な事に、隣の席の若い男が話を聞いていた。そして、大声で叫んだ。
「皆んな注目しろよ! なんとなんと! 今日は気前のいい、この……冴えないおっさんが、全員分の酒を奢るそうだ! 俺たちはこいつの懐の大きさに甘えて、呑み明かそうじゃないか!」
『ウォォォォォォォォォォォ!』
「野郎共ォ! 準備はいいか!」
『オォォォォォォォォォォォ!』
「今宵は宴じゃあ! 呑み明かせぇぇぇぇぇぇ!」
「ちょっ! お前らマジで止めろ!」
「旦那、あんた冴えない顔の割に、中々懐が広いじゃねぇか! 俺は尊敬したぜ!」
「え? あっ、まあうん? 俺、懐広いからね! じゃんじゃん尊敬しなさい!」
「あんた! もしかしてBランク冒険者の、『幻槍』の二つ名持ちか⁉︎」
「お、おう、一応な……」
「スゲェぜ! 俺は感服したね! ささ、旦那! じゃんじゃん飲んでくだせぇ……」
「は、ハハハ! 今日は宴だぁぁぁぁぁぁぁぁ! うぉぉぉぉぉぉ!」
「我らの旦那が一気飲みするぞ! 」
「おお⁉︎」
『一気! 一気! 一気! 一気!』
「チクショウ! 呑んでやるよ!」
う、煩い……なんて食事するのに相応しくない、劣悪な環境なんだ……
た、確かに楽しそうにしてるから言いにくいけど……耳障りだ。
「ハハハハハ! いい呑みっぷりだねぇ! 男なら、そうこなくっちゃ!」
「あ、あの……女将さん?」
「ハハハハハ! ん? どうかしたかい?」
「部屋で……食べていいですか?」
「あー……確かに、この馬鹿見たいな空気は、カグネちゃんには合わないねぇ……うん、お盆に乗っけてあげるから、部屋で食べな」
「ありがとうございます」
「ハハハ! いいって事よ!」
お盆に山盛りの夜ご飯を載せて、上にある部屋へと戻ろうとしたが、
「オブォッ……オロロロロロ……」
「ばっ、お前、直ぐに吐くから飲むなって言ったじゃねぇか……」
「よくも……」
「あ……やべ」
「よくも……」
「俺シーラネ」
「よくも! 私の夜ご飯に、吐瀉物ぶちまけてくれたなぁぁぁ!」
「みんな! カグネちゃんを抑えろ! 一度暴れたら手がつけられねぇぞ!」
『おう! 全ては、この宿の為に!』
う、動けない⁉︎
「離して! 私は、夜ご飯を台無しにしたこいつに、天罰を与えないといけないの!」
「クッ、力が強過ぎる! Cランク冒険者八人がかりでやっと抑えれるって、どんだけ力がある強いんだよ!」
「テメェの臓物ぶちまけてやろうか!」
「ほら! あたしが作った、特製オークステーキだよ! これ食って落ち着きな!」
く、口の中に何かが……
「……美味しい。お代わり」
「はい、あーん……」
「あーん……」
「なんかよぉ……」
「……なんだ?」
「女将さんが餌付けしてるみたいで、なんか見てて微笑ましいな」
「そうだな。カグネちゃん、普段は無表情だけど、飯食う時だけ笑顔だもんな」
「メシの恨みは凄いけどな」
「あぁ……つまみ食いされて、本気でキレる奴なんて俺、初めて見たぜ?」
「あぁ、俺もだ。つまみ食いした結果半殺しにされたあいつは、自業自得だったな」
「……女将さんと、場所代わってもらいたいな」
「……それについては、同感だ」
▼▼▼
翌日、私は日の出と共にギルドに向かった。
「ウゲェッ⁉︎」
勿論、宿に転がってる屍は踏み越えて来た。
「シアさん、おはようございます」
「あっ! カグネちゃんオハヨー! 今日はどんな依頼を受けるのかな?」
「……まずは、その殺気を抑えてはくれませんか? 」
「へぇ……やっぱり、カグネちゃんは只者じゃないみたいね」
いつもニコニコしているシアさんの目が細くなり、その眼力で、弱い魔物なら殺せそうな迫力を出す。
「二階に行きましょう……色々と、話す事があるから」
▼▼▼
「ここで色々と話すわ……入って」
扉を開ける。
「ゴッ⁉︎」 「ギァッ⁉︎」
「アッ⁉︎」 「ボアッ⁉︎」
私は迷い無く、最速の一撃を当てた。
「はぁ……やっぱり、並みのCランク冒険者じゃ対応出来ないか……」
「それで……なぜ、不意打ちなんてしようとしたんですか?」
「簡単な実力確認と、この子達にいい経験を積ませてあげようと思ってね。でも……プ、ク、ハハハ。一瞬で四人に攻撃を当てちゃうとか、あの子達も、流石に予想外だったでしょうね」
「速さは力、当たらなければどうという事は無い……そう、お母さんが言ってました。」
「その通りなんだけどね……あの子達にとって、いい経験にはならなかったわね。気がつかぬうちに気絶なんて……ねぇ?」
そんな目で見ても、私は何もしない。謝罪もしない。
「ま、いいか。説明するね」
「説明って、なんの?」
「取り敢えず、ギルドカード渡して?」
道具袋の中を漁り、渡す。
「それじゃ、ちょっと待ってて。ほんの十秒ぐらい」
「一、二、さ」
「あちょ! 早い! ……じゃなくて、普通数えないでしょ⁉︎ 」
「六……七……」
「遅ければいいって問題でも無いの‼︎」
「はぁ……じゃあ、どうすれば?」
「お願いだから普通に待ってて! 」
「……分かった」
「はぁ……」
シアさんが猫背で扉を開け、外に出る。
「猫背……身体に悪そうだなぁ。いや、違う。見た目は若いけど、エルフだからお婆ちゃ……ゲフンゲフン。死に損ないのクソババアなんだ」
「フフフ、影口とはいい度胸ねぇ……」
「あ、死に損ないのクソババアだ」
「ちょっとカグネちゃん? 心に突き刺さるから止めてくれない?」
「分かったわ、言い直す。……オホン。その見た目で旦那さんを誑かして、結婚まで漕ぎ着けた死に損ないのビッチだ」
「ウグゥッ……‼︎」
「あれ? なんか臭い。香水に混じって、変な匂いが……あ。これ、加齢臭」
「カグネちゃんもう止めて! 私泣きたい!」
「ババアの泣き顔は誰も得しないわ」
「ウワァァァァァン!」
「はぁ……やれやれだわ」
「私はババアじゃない私はババアじゃない私はババアじゃない私はババアじゃない私はババアじゃない……」
シアさんが床に突っ伏し、同じ言葉を吐き続ける。普段ピンと伸びている耳も垂れて、鼻水も垂れている。
「シアお姉さん、今日も綺麗」
落ち込んでいた、ダークエルフの特徴的な長い耳が、真っ直ぐに伸びた。
「但し、その年齢の割には」
「ウワァァァァァン! カグネちゃんのバカァァァァ!」
シアの気分はどん底に落ちた。伸びた耳も落ち込んだ。
「はぁ……今日は依頼を受けよう」
説明がどうって言うのは、また今度にしよう。
「カグネちゃん待って!」
足首を思い切り握られた。
「はぁ……なんでしょうか?」
「説明だけは! せめて説明だけはしないとダメなの!」
「……分かりました。お願いします」
「じゃあ、端っこにある椅子とか持って来るから座っていいわよ。あ、端っこにある人間は無視してね」
人をゴミ扱いとは……うん、男だからゴミだね。うん、正解。
「はい、椅子どうぞ。ついででお茶も」
「……どうも」
「さて、説明を始めましょうか。先ずは、こう言うべきね。」
わざとらしい咳払いの後、シアさんは満面の笑みで発した。
「ようこそ冒険者ギルドへ! 私達は冒険者成り立ての君を歓迎しよう!」
「……は?」
「恒例の奴だから無視して。何が言いたいかと言うと、カグネちゃんは、やっと冒険者に成れたという事」
「……ん?」
「つまり、Cランク以下は冒険者として見られていないって事。これで理解したでしょ?」
「あぁ……そういう事ね。でも、なんで冒険者として見られてないの?」
「Cランク以下は基本、冒険者じゃなくて騎士がやってもいいような依頼だもの。村が襲われたから助けてくれ! みたいなのが多いからね。逆に、そこから上は個人の依頼が多いわ。遺跡の探索、ダンジョン踏破。その名の通り、冒険が多いわ。」
「へぇ……そうなんだ」
「理解してくれてありがとう。それじゃあ……いえ、そうね。この場合はこう言うべきね」
少し思案したような表情の後
「この更新した、カグネちゃんのギルドカードを見て」
私に、ギルドカードを渡した。
「……あれ? なんか、違和感を感じる気が……」
「へぇ……やっぱり、実力はかなりあるみたいね。御察しの通り、Cランクからは、ギルドカードに魔術を使われる。」
「違和感は、それだったのね」
「なんの魔術が使われてるかは自分で解明して頂戴。私達じゃ、到底理解出来ないから。後、カードの材質も青銅に変わったでしょ?」
「うん」
「ランクが上がる程、カードに使われる材質も向上していくわ。簡単に言えば、材質で実力が簡単に分かるわ。」
「確かに……」
「それと、Cランク以上の殆どの人が、この二階の受付を使って依頼を受け、報告するわ。理由は簡単。Cランク以上は、冒険者の誰もが夢見る一種の憧れの様な存在なの。だから、顔を覚えられると闇討ちされたりするの。カグネちゃんも気をつけてね。」
「分かった。」
お金稼ぎのチャンスだ。
「それと、闇討ちしてきた奴はギルドに連れて来て。高く買い取ってあげるから」
私の考えを読み取ったのか、嫌な笑みを私に向ける。
「よさそうね」
だから、ギルドの考えに気が付いた私も、同じ様に嫌な笑みを返してあげる。
▼▼▼
所変わって一階、いつもの場所。
「シアさん、おはようございます」
「はいはいカグネちゃんオハヨー! 今日はどんな依頼を受けるのかな? それとも、お姉さんにお任せしてくれるのかな?」
「うーん……どんな依頼があるの?」
「そうねぇ……コレなんてどう? ヘズ村の近くにコボルトの集落があって、既に被害が出たから早めに討伐してくれって依頼」
「……じゃあ、それで」
ギルドカードを渡し、依頼を受けたと記録する。
「はいはい。報酬金額は3000ミル、銀貨換算で30枚ね。もしも依頼を失敗したら4500ミル払ってもらうから、失敗しちゃダメよ?」
「分かってます」
「はい、ギルドカード。それじゃ、気を付けて行ってらっしゃ〜い」
さて、村の場所は南の入り口から南南東の方角。距離は5キロメートルぐらい。
……直ぐに着くね。早めに終わらせたいし、走って行こう。
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