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娘よ、大志を抱け  作者: 匿名社員
冒険その2
60/76

とある弟子の受難その2

音ゲー見てて思いついたネタ。

何事も極めれば凄いんだなぁって思いました

まる

アルと師弟関係になってから、1週間ほど経った。この1週間で分かった事がある。


「はい全力で走って! 遅い遅い!まだまだ頑張れるぞ! 休んだら体力回復させてやらないぞ!」


「うぉぉぉぉ!」


アルには、サボり癖がある。


「はい、休憩したし次の特訓だ」


「えー……」


「何か問題でもあるのかな?」


「い、いや、なんでもない」


「そうだよね。問題なんて無いもんね」


「う、うん」


師匠の声に凄みが乗せられたせいで、アルは萎縮してしまっている。


「さて、次は呼吸法を覚えてもらおうか」


「こきゅーほー?」


「そうだ、呼吸法だ。取り敢えず、今からやる呼吸を真似してみてくれ」


師匠が実演し、アルは呼吸音を聞く。


「……と、まあこんな感じだ。なんか変なリズムだっただろ? その変なリズムで息を吸ったり吐いたりしてくれ」


「分かりました」


アルは師匠の呼吸を真似し、師匠がここが違うからこうやれと指示する。


絵面は凄く地味だが、師匠が教える技を使うには呼吸法を覚えなくてはならない。そして、この呼吸法を覚え、普段から行う事によって身体の調子もよくなり、きっとアルの身体もドンドン成長していくだろう。というか、成長してくれ……と、師匠は考えていた。


「おしおし、なんとなく形になってきた。普段からその呼吸法を意識してやってくれ」


「分かりました」


返しがテキトーである。


「……サボるなよ」


「分かりました!」


声に凄みを乗せれば、直ぐにアルは態度を変える。


「だって、普段からその呼吸をしてないと、その……死ゴニョゴニョ……」


「なんか今聞きたくないのが聞こえた!」


「まぁとにかく、普段からその呼吸を意識してくれ。いいね?」


「し、ししよぉ……」


「はっはっは! 私の足にしがみつこうなど、えーと……100年は早いな!」


「100はえーと……なんか沢山!」


「ッッ⁉︎」


この時、師匠は気がついてしまった。


やっぱり子供だからバカだ。学校に通わせなければ……と。

それと同時に気がつく。

あ、自分で教えればいいか……と。


「ふふふふふ……」


「し、ししょうこわいよぉ……」


「おっと、顔に出ていたか」


顔はローブで隠れて見えないが、本能的に自分に迫る危機を感じ取っていた。


「さて……そろそろ基礎練習でも始めるか」


「きそ?」


「そう、実戦で使う技の基礎だ」


「おぉやったぁぁぁぁ!」


両腕を上げてガッツポーズ。


「そんなに嬉しいか。そうかそうか」


「うん! 嬉しい! 」


満面の笑みである。


「そうかそうか……」


こちらもいい笑顔である。


「凄い技を使いたいか?」


「うん!」


「すぐにでも使えるようになりたいか?」


「うん! ……ん?」


アルドット異変に気がつく。


「そうかそうか」


時既に遅し。


「そうかそうか。今日は帰って手伝いをしなさい。特訓は明日からしようか」


「あ……はい」


「また明日、空いた時間に来たまえ」


少年は困惑する。

今の心境は、きっとこんな感じだろう。


あっるぇぇぇ?おっかしーなー?

なんか嫌な感じがしたんだけど……まぁ、気のせいかな。



「師匠、また明日」


「あぁ、また明日」




師匠にとって、ここまで天国。明日から緩めの天国。

アルにとって、ここまで地獄。これから地獄の3丁目曲がり角。交通事故多発。


乗り越えれば途中で心臓破りの上り坂あり。



▼▼▼




「やぁ少年おはよう」


「おはようございます!」


「今日はちょっと移動するぞ。まぁ、既に移動は終わってるんだけどね」


「わぁ師匠すごーい。手を繋がれたと思ったら、違う所に居たー」


師匠の非常識っぷりに慣れてしまっている。このまま、まだ幼い彼の常識が非常識で塗り潰されて成長して行くと、将来が不安である。


「……ここどこ?」


「見てわかる通り、木々の間にポッカリと空いた空間だ」


「村はどこ?」


「歩いてあっち方向に4日」


「え?」


「ちょっと遠くに来たね」


「そうだね……」


アルの目から、光が消えた。


「そんなに愕然とするな。普段と大して変わりないさ」


「……ほんと?」


「あぁ」


「……頑張る」


「では、まずは正拳突きから教えよう」


「なにそれ?」


「まぁ見ておけ。ちょっと離れてろよ」


木の前に立ち、呼吸を整える。


「コォォォォォォ……」


「……」


あまりの気迫に、アルは呼吸を忘れ、瞬きする事なく師匠を凝視していた。


師匠の両手が腰に付けられ、左腕が前にゆっくりと伸ばされる。


「よく見るんだ。これが、基礎的な技の正拳突きだ」


一瞬の間の後


「バッ!」


発声と共に高速で右腕が突き出され、一瞬で木が粉々に粉砕された。


あまりの速さに音速を超え、拳圧と風圧による波で、周りの木々が根こそぎ抜け飛んで行く。


「まぁ、こんな感じだ」


師匠が振り返ると、アルの顎が外れていた。


「……はぁ。ふんっ!」


「おぐっ⁉︎」


少し手を抜いた処置により、顎が治る時に衝撃で、アルの意識が覚醒する。


「し、ししょう……あれ……」


「あれが基礎の技、正拳突き。頑張れば、必殺技になる」


「ほ、ほんとに?」


「あぁ。別に、難しい技を覚える必要はない。基礎の技さえ覚えていれば、ドンドン発展させていく事が出来るし、なにより……」


「なにより?」


「基礎の技、簡単な技でこんな威力を出せると……カッコいいだろ?」


ローブで師匠の顔は見えなかった。でも、アルには笑顔に見えた。


「では、これから正拳突きを毎日500回やってもらう」


「それって、どのくらい?」


「私がいいって言うまでやり続けろ」


サーッと、アルの顔から血の気が引く。


「もちろん、家にも帰らせない。帰りたかったら、全力で頑張れ」


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」


彼の受難が、本格的に始まった。


「叫んでる暇あるなら、早くやった方がいいと思うよ。もちろん、正しい形で出来るように、常に隣で教えてあげるからね」


5歳児にこれは辛い。



「本当は体力筋力トレーニングやりたいんだけどなぁ。子供にそれはダメだし、基礎練だけかぁ……仕方ない。やっぱり楽しくできるのをやった方がいいか」


「いやぁぁぁ……」


アルは正拳突きをしながらも泣き叫ぶ。

器用なものである。




▼▼▼



「やっぱり、ししょうはおかしいよ」


今日は手伝いを休み、家で人形を造っている。人形を造る事にかけては天才である。5歳でありながら、熟練の職人レベルのを造れる。手先が器用かと思えば、人形以外は全く上手く造れない。人形に技術極振りである。


「あれだけやったのに、ぜんぜん疲れてない……変な飲み物を飲まされて、変な食べ物を食べさせられて、背中とか指で押されて、気が付けばぜんぜん疲れてない。やっぱり、なんか変だよ」


その通り。師匠は変である。


「でも、すごかったなあ。木がパンチで飛ぶなんて。僕も、出来るようになるかなぁ」


勿論、出来るようになる。

あの師匠の特訓に耐えられば、だが。


「僕、強くなってるのかなぁ」


ぶっちゃけ、大して強くなってない。


「はぁ……早く、苛められないようになりたいな」


そうかそうか。

フフフフフ……明日からは、もっと特訓をキツくしてもいいかな。


さすが神通力。役に立つ便利能力だ。これから毎日、盗聴盗撮してしまうか……フフフフフ。


「ううっ……なんか寒気が」


危機察知能力に長けているな……うん。これからの特訓内容が、段々と思いついて来た。



アルはこれから、地獄を見るだろう。既に地獄だと感じているが、それが生温く感じるような地獄を。




▼▼▼



「アル」


「な、なに?」


「強く、なりたいか?」


「う、うん」


師匠の声が、重くのしかかる。


「なんで強くなりたい?」


「もう、負けたくない、から」


「守りたい者を守るためじゃなかったのか?」


「負けなければ、守れるから」


「受ければ、直ぐにでも強くなれる特訓がある……強くなる覚悟は、出来ているか?」


「……うん」


「ならば話は早い」


「……え?」


風景が移り変わる。見慣れていた木々に包まれた場所から、雲の上、剣山に囲まれた山の頂上へと。

緑は一切見当たらず、彼らの立っている安定した足場も、あんまり広くない。


「絶対に死ぬなよ? 死んだら困るからな」


「え……ここ、どこ?」


「仙境と呼ばれる場所だ。仙人を志す者がここ目指し、ここで修行をする」


「え? 仙人? え?」


「詳しい事はまた後だ。ここは、時の流れが歪んでいる」


「えぇっと……どういうこと?」


「これから毎日ミッチリ特訓出来る。村の手伝いの事はまったく心配しなくてもいい」


「あ……はは」


もう笑うしかない。


「これから延々と修行だ。覚悟は出来てるんだろ?」


師匠は、最高の笑顔だった。


「という訳で、これからはこれをやってもらう」


地面が盛り上がり、土の中から鉄の塊のような何かが出てきた。


「こいつの名前はマキマキ。似たような物が沢山あるから、音ゲーと呼んでいるがな」


「(なにそれぇ……)」


「こいつを使っての修行は簡単だ。見ておけ」


師匠が音ゲーを操作すると、なにやら軽快な曲が流れ始める。そして、機械の円形に囲まれた場所で絵が動き始める。


なんで絵が動いているのかは聞かない。一々驚くのに疲れ始めていた。


円形に囲まれた中で模様が動く。模様に合わせて師匠の手が動く。叩いたりなぞったりしている。その速度は異常に速いが。


「こんな感じだ。動く模様に合わせて叩いたりなぞったりしろ。まぁ、最初は簡単なやつから始めよう。勿論、呼吸法も忘れるなよ?」


「……はい」


アルが音ゲー名人になるのは早いかもしれない。


「そこは、ここを叩いた後に叩くんだ」


師匠のとても丁寧な説明。子供心くすぐるゲーム。やればやるほど上手くなる自分の腕。


「や、やった! ここ出来た!」


「おぉ、すごいな。おめでとう」


「エヘヘヘヘ……」


子供は凄い勢いで技術を会得していく。

音ゲーの達成率が上がれば上がるほど、新しい曲が開放されていく。アルは音ゲーにハマってしまい、食事と睡眠を指摘されるまで、一日中音ゲーをするようになってしまった。音ゲー大好き少年の完成である。


「よしよし、今日からは難易度を上げてやろうか」


「どういうこと?」


「昨日までの難易度は、簡単と普通だった。今日からは難易度を上げて、難しいにしよう」


「どれくらい難しいの?」


「こんな感じ」


師匠に教わったが、絵が動く部分を画面と言うらしい。その画面を動く模様が速く、そして量が増えている。師匠の腕が交差したり、片手だけで連打したりしている。


「えー。なにそれ」


アルはぶっちゃけ舐めていた。上手くなっていたせいで、ちょっと舐めていた。難しくなっても大して変わりないだろうと。


「難しくても、慣れれば問題ない。慣れてしまえば目を瞑っても出来るさ。ほら、こんな感じで」


「えー……」


今気がついたようだが、師匠は目隠しをしてやっていた。


「ま、ようは慣れだ。いつも通り、一日中やっていればすぐに出来るようになるさ」


「無理でしょ」


思わず本音が出る。


「まぁまぁ、取り敢えずやってみろ。すぐ出来るようになるかもしれないぞ?」




▼▼▼




「難しいよー!」


「当たり前だ」


「出来ない出来ないー!」


アルは、ついに癇癪を起こした。一時間やっても、全然出来るようになる気配がない。まぁ、そんな簡単に出来るようにならないのだから仕方ない。


「手っ取り早く強くなるには、これはかなり良い方法なんだけどなぁ……」


「だって!遊んでるだけじゃん! なんで強くなるのさ!」


その通り。側から見れば、遊んでるようにしか見えない。アルだって遊び感覚でやっている。


「じゃあこうしよう。私はアルを捕まえようと手を出す。アルはその手を殴れ。叩いたり、払ったりしてもいい。手を殴り損ねたらゲームオーバーだ。いいな?」


「いいもん。どうせ出来ないし」


「やってみないと分からない」


師匠はアルの前に胡座をかいた。


「では、 始める」


師匠の両手がアルを捕まえようと、大の大人と同じぐらいの速さで動き始める。まぁ多少手を抜いて、動きは割と簡単にしているが。


アルは師匠の手の動きを予測し、殴り、払い、叩いていく。


「なんだ、出来てるじゃないか」


手を動かしながらも、師匠が褒める。


「本当だ……なんで?」


「音ゲーで、似たようなことをひたすらやってただろ?」


「あ、ほんとだ」


「そのおかげだ。それと隙あり」


「うわぁっ⁉︎」


一瞬考え事をした結果隙が出来てしまい、師匠に捕まってしまう。


「お仕置きだー! こちょこちょこちょこちょ!」


「あ、あははは! し、ししょ! や、やめっ! あははははは!」


「やめないもんねー。こちょこちょこちょこちょ」


「あ、あははははは!」


仲がいいものである。この時ばかりは師匠に対しての好感度パラメーターがぶっちぎっていたが、次の日には元に戻っていた。


「そこはね、ここやってからここやんの」


「出来ないよー!」


アルの音ゲーライフが、再び始まった。


ここまでお読み頂きありがとうございました

誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等

お待ちしております。


次回更新明日

時間は多分昼か夕方。

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