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娘よ、大志を抱け  作者: 匿名社員
冒険その2
59/76

とある弟子の受難

ほのぼのが難しすぎるので番外編。

まぁ一応、こいつらもその内出すけどさぁ……

そいつに興味を持ったのは、自分と似たような境遇だったからだ。


「よぉアル。この人形を返して欲しかったら、俺に勝つんだな」


「か、返してよ!」


「ま、俺たちが行かせないけどな」


とある村の外れ、山の入り口付近で、1人の小さな少年が4人の少年に囲まれていた。その内のガタイの良い1人が、人形を持って山道へと去っていった。残った3人は、その少年の取り巻きである。


「へへへ、おら、どうした? 返して欲しいんじゃないのか?」


「う、うぅ……」


少年達の年は5歳ぐらいだろうか。精神的にまだ未熟なその年頃では、イジメられても、恐怖で反抗も出来まい。


「ギャハハハハ! ビビってやんの!」


「ギャハハハハ!」


囲まれた少年は項垂れ、人形を取り返せない自分の不甲斐なさに悔しく思っているのか、拳を固く握り締めるのみ。


「じゃあな。返して欲しかったら、決闘で勝つんだな」


子供らしい、単純な事だ。

決闘と言う名の喧嘩で、負けた方がなんでも一つ言う事を聞く。

ルールは簡単。勝つのみ。卑怯汚いは敗者の戯言。勝ったものがすべてを握る。


「ウッ……クソゥ……」


少年は、涙を流していた。悔しさから来るものなのか、恐怖で来たものなのかは分からない。だが、ハッキリと分かる事がある。


少年は、現状をよろしく思っていない。どうにかして打破しようとしている。


少年は、毎日欠かさず身体を鍛えていた。効率なんてものは知らないのだろう。家族の手伝いと並行して筋力を鍛えているが、それでは逆効果だ。


遠くから観察し続けること、およそ1ヶ月。


「あーあ……情が湧いちゃったよ。ちょっとぐらい手伝ってやるか」


重い腰を上げ、迷える弱き者に手を差し伸べる。かつての自分がそうしてもらったように。


弟子でも取ってみるかな。

……なんて事を考えながら、立ち上がった。




▼▼▼




「やぁ少年」


「うわっ⁉︎」


山の中、背後からいきなり声をかけてくる人が居たら、普通どんな反応を取るだろうか。


「ッッッ⁉︎」


「おっとっと、叫ばないでくれ。重要な話なんだ。あぁ、念の為に言っておくが、私は人攫いとかじゃないからな」


「〜〜〜〜〜ッ!」


少年は自分の口を塞いでいる手を外そうと必死に足掻くが、一向に外れる気配は見当たらない。


「はいはい、ちょっと落ち着いて話を聞いてくれ。」


「〜〜〜ッ! 〜〜ッ!」


「あ、ちょ、泣かないでって! 私が悪い事してるみたいじゃないか」


無理言うな。ローブで顔が隠れている者が少年の口をいきなり塞ぎ、悪い奴じゃないよー……なんて言っていて、信用出来る方がおかしい。少年にとって恐ろしくて仕方ないだろう。泣いても仕方ない。というか、普通泣く。


「はぁ……仕方ない。勝手に話す。よーく聞けよ!」


変質者は一拍間を取り、口にした。


「お前、強くなりたいか?」


「ッ⁉︎」


ビクンと、少年の肩が震えた。

対面に屈んで居る者から、視線を外せない。


「自分を虐げる……は、分かりにくいか。あいつら4人を、見返してやりたいと思うか?」


「……」


コクリと、少年の首が縦に動いた。


「私は、お前を強くする事が出来る。あの4人を見返したかったら、ここに来い。時間はいつでもいい。じゃあな。私は何時までも待ってる」


不審者は口から手を離し、そのまま背を向けて歩き出した。


「僕には……そんなの無理だよ」


少年は、強くなる機会を逃した。




▼▼▼



あれから、数年の月日が流れた。少年の周りの環境は特に変わり無く、イジメは続いていた。


変わった事と言えば、少年に好きな子が出来た程度だろう。

少年には告白する勇気が無い。遠くから見る程度だ。


そんなある日、少年に転機が訪れる。


村長から「街へ行って、お前が作る人形を売ってみないか?」と、提案されたのだ。

少年は、「行く」と即座に答えた。

少年は人形を売り、それで得たお金でプレゼントを買い、好きな子に贈り、そのまま告白しようと考えたのだった。


だが、事件は帰りに起きた。


「あれ? なんか、村の方が燃えてる……え? 村? 村が燃えてる?」


「火事だ……急ぐぞ」


街へは、村でそこそこ実力のあるおっさんと徒歩で2人で向かっていた。馬も馬車もないので、全力で村目掛けて走る。


「村が、燃えて、燃えて」


「落ち着け! まだ村が燃えたと決まった訳じゃない!」


嘘だ。あの方角はどう見ても村のある方角だ。現におっさんも焦燥にかられ、少年を少しずつ引き離して先に進んでいる。


「坊主! 他の村に火消しの応援を頼め! 」


「わ、分かった!」


言いたい事を言えたからか、おっさんが物凄い速度で駆け出す。


「近くの村に、行かないと」


村が燃えているというショックが大きく!少年はまともに頭を働かす事も出来なくなっていた。命令されないと動けない程に。




「野郎……山賊の仕業か」


火消しが終わった少年の村は、誰もが酷いと答える光景であった。


斬首された死体。四肢を切り落とされた死体。臓物をぶち撒けた死体。酷い死体ばかりだった。すべてが炭化している。


「……坊主、死体を集めろ」


「わ、かっ……た」


ショックが大きく、あまり頭が働かない少年は、命令通り死体を集め始めた。


「あ、あぁ……」


そんな中、少年は見つけてしまった。


「……ッ!」


好きだった子の死体を。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」





「どうしたの? 怖い夢でも見た?」


「ッッ⁉︎」


声のした方向を見ると、母親がこちらを向いていた。


「ウッ……グスッ……ッ!」


少年の心の中は、あれが夢で良かったと思う気持ちで一杯だった。


「よしよし」


少年は母親の腕の中で、そのまま眠りについた。





早朝。少年はあの場所に来ていた。周りには、誰も居ない。

皆が使う、踏み慣れた道の真ん中、周りには木々、人の気配は無い。

だが、少年は分かっていた。ここに、尋ねるべき人が居る事を。


「……強く」


拳を固く握る


「強く」


昨晩の夢を思い出し、足は震えている。

だが、


「強く……なりたい! だから、僕を弟子にして下さい! お願いします!」


発した声は、芯が通っていてよく響いた。


「へぇ。こんなに早く答えが出るとは、驚いた」


少年の前に突然、誰かが現れた。


「お前は、何のために力を求める」


「守りたい人を、守るため」


「ほう……」


幼いが故に言える事。まだ力を手に入れてないから言える。ここから力に溺れるかどうかは知らない。


「……いいだろう。今日からお前は、私の弟子だ。」


少年の前に、手が差し出される。


「え?」


「ほら、握手だよ握手」


「う、うん」


少年は、おずおずと手を差し出す。


「よろしくな」


少年の手は、柔らかく、大きくて暖かい手に包まれる。


「よし、じゃあ今日から修行を始めるか?」


「え? あ、えーと。」


「悩むなら、明日からでいいさ。時間が出来たらここに来い。いいな?」


「あ、うん」


「……で、今更だけど。お前、名前はなんだ?」


「……アルドット」


「へぇ……いい名だな」


「えっとぉ「師匠と呼べ」……師匠の名前は?」


「私の名前は……そうだなぁ」


顎に手を当て、考えているような行動をした後、答えた。


「その内教えてやるよ」


「えー……それはズルい」


「ハハハ。大人はいつだってズルいのさ」


「……ケチ!」


「ケチで結構。じゃあ、明日ここに来いよ。じゃあな」


「え?」


師匠が手を振った瞬間、その場から消えてしまった。


「これも、夢……だったのかなぁ」


頬を抓ってみる。


「痛い」


抓った跡が残った。




▼▼▼



「やぁ少年。朝早くに来るなんて、感心感心」


「うわぁっ⁉︎ 驚かさないでよ!」


日が昇り始め、世界が黒から白色に変わる頃、アルと師匠は出会った。


「背後から声をかけるこれも修行の一貫だ。さて、今日から君には私の修行を受けてもらう。覚悟はいいか?」


「あ、えっと……」


「いや、まだ早いか。覚悟はおいおい決めてもらう。先ずは、体力を付けよう」


「えー……必殺技使いたい」


ポロリと、少年の口から溢れた言葉に、師匠は反応した。師匠は屈みこんでアルの肩を掴み、目を見て話し始めた。


「はぁ……あのなぁ、一つ言っておくぞ。必殺技ってのはなぁ、絶対に相手を殺す技なんだ。そんなホイホイ教えられるもんじゃないんだよ。いいか? 命ある者を殺す時、責任が付き纏う。そして、その責任から逃げない覚悟も必要だ。だから、必殺技は無闇矢鱈に教える事は出来ないんだ」


「あー……えーと……」


アルには難しかったのか、ハテナでいっぱいである。


「分かりやすく説明するとだなぁ、今は危ないから教えられない」


「えー……」


「私は、『今は』教えられないと言ったんだ。だから、『教えない』とは言ってないぞ」


「え? てことは……」


「将来的には教えてやるよ」


「いやったぁ!」


「ははは……」


師匠はアルから手を離し、アルの喜ぶ様を見ていた。


私も、昔はこんな感じだったなぁ。師匠が中々に厳しくて、修行が辛くて 、それでいて優しくて……本当、あの人には頭が上がらないな。


過去を思い出し、自嘲気味にニヤケてしまっていた。


「はいはい、喜ぶのはそこまで。修行に入るぞ。先ずは、私と走ろうか」


「えー……」


嫌そうな声を出すのも当たり前だ。走るだけなのはつまらない。


「そんなにつまらなそうにするな。修行はそんなもんなんだ」


「……分かった」


「じゃ、私に付いて来いよ。見失うんじゃないぞ」


師匠は道から外れ、山の中へ走っていく。


「えぇっ⁉︎ そっち⁉︎ え、ちょ!」


アルは驚きから思わず大声を出してしまう。


「ほら、さっさと来な。見失っちまうぞ!」


「あ、待ってよししょう!」


「はっはっは! 待たないもんねー」




数分も走ると、アルは体力が尽きて地面に座ってしまった。


「もう、疲れたよ……」


「おいおい、強くなりたいんだろ?」


「疲れたよぉ……」


「はぁ……まぁ、こんなもんか。まだまだ身体も小さいし、体格も良くないしなぁ」


道のない、足場がマトモじゃない所を走っていたんだ。普段から走っていないのだから、そりゃあ疲れる。おとなでも直ぐに体力が減ってしまうのだから。


「もう疲れたよぉ」


とても綺麗な体育座りである。


「そういえばお前……今日は手伝いしなくていいのか?」


「……あ」


アルは気付いてしまった。

手伝わないと、あいつらになんてからかわれるか分からない。


「ど、どうしよ……帰り道分からないよ」


「あぁ、送るから気にするな」


「あ、ありがと、う……」


「そんな他人行儀にするな」


「うりうり」と言いながら、師匠がアルの頭を撫でる。


「あ、うぅ……」


恥ずかしいのか嬉しいのか分からないが、アルの顔が赤くなっている。


「さて、氣の流れも整えてやったし、今日1日は元気に動けるんじゃないか?」


「あ……身体が、疲れてない」


「よしよし、村の近くに着いたぞ。今日は頑張って働きな」


「うぇあっ⁉︎ えっ? え?」


気が付けば村の近くに居て、尚且つ疲労感が消えているのだ。混乱するのも当たり前だ。


「……えっと、手伝わないと」


結局、彼は考える事を止め、目先の事を優先する事にした。





「さて……アルにはどんな技術を優先的に覚えてもらおうか。見切りと力の流れ、力の効率化と呼吸法……まぁ、最低このくらい覚えれば、後は応用でなんとかなるかな」


アルに悪寒が走ったのは間違いないだろう。難易度が高い技術ばかりである。


「1番の近道はやっぱり実践……殺し合いなんだよなぁ。間違って殺さなければいいけど」


冥福を祈るしかない。



ここまでお読み頂きありがとうございました

誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等

お待ちしております。


次回更新明日

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