第11話 そろそろ本気出す
これにて2章終了。
次回更新は恐らく7月の頭。
もしかしたら、番外編みたいなのを投稿するかもしれないです。
目標は10話書く。ダメでも8話ぐらい……
「ん……ここは?」
「お、目が覚めたか」
地面に仰向けに寝転がってる私の視界の端に、コウヤが映った。
私が教えた通りに足捌きを練習している。て事は、ここは安全地帯だ。
「……はぁ」
「どした?」
「……なんでもない」
ため息と共に緊張感が抜けていき、張り詰めていた気と力も急激に威勢を弱めていく。
はぁ、本当、あんな化け物相手にして、生き延びられてよかった。
視界の隅にコウヤを映しつつ、全身の力を抜き、ボーっとする。
足捌きを練習し、木刀を振り、魔力を操り、身のこなしや、実戦でしっかり動けるように、少しづつ地力をつけようとしている。
「コウヤ……」
「ん?」
「敵を横に斬る時は、もう少し手を引きながら斬って」
「んあ、そうなのか。ありがとな」
そしてまた架空の敵を想定し、素振りを始める。その光景をボンヤリと眺め、思考も放棄する。
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「……んあ?」
「二度寝してたぞ」
音が、耳を通り抜けていく。
ん? 音?
「ぬわぁ⁉︎」
「おわっ⁉︎ どうした⁉︎」
「な、なんでもない」
「そ、そうか……」
コウヤが苦笑いしてる。なんかイラってくる。まぁいい、許す。でも、なんでこうも無防備にしちゃうかな。はぁ、最近気が抜けてるなぁ。
「んで? どーすんだ? 進むのか? それとも、ここで暫く何かやんのか?」
「うーん……取り敢えず、進んでみよう」
「あいよ。でも、先に腹ごしらえしないか?」
「……そう、だね」
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「それじゃあ、進もうか」
「おう」
扉を開き、次の階層へ移動する。視界が青白い光で埋め尽くされ、視界が戻った時、そこは……
「……ここ、何処?」
私は廃都の高い建物の、屋根に立っていた。コウヤは居ない。いや、この街からは、生気すら感じられない。
酷い臭いがする。肉が焼け焦げた匂いだ。血の匂いだ。獣の匂いだ。そして、死者の匂いだ。
「この街で……何が、あったの?」
そう呟かずには、いられなかった。
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視界が戻る。目を開けるとそこは……
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
一面真っ青な景色と、白い雲、そして、地面はなかった。
「下が海とか、漂流して死ぬわ!」
こんな事言ってる間にも、ドンドン落下していく。
『減速ゥ!』
教えてもらった風の魔法を発動させ、強烈な上昇気流を俺目掛けて吹かせる。
「おしおし、減速してるぞ!」
海に大きな音を立てて着水する。
「ふぅ、死ぬかと思ったぜ。てか、カグネはどこ行った?」
もしかしたら……もしかしたらだけど、迷宮の外に飛ばされた? て事は、別れた? バラバラ? え? て事はつまり……
「俺、詰んだ?」
漂流して野垂れ死ぬかもしれん。嫌だ。そんなの嫌だ。彼女が欲しい。折角異世界に来て、向こうでの生活から解放されたんだ。結婚させてくれ。ダラダラひも生活がしたいんだ。
こんな所で!
「野垂れ死んで、たまるか!」
魔力を体内で循環させて、身体能力を向上させる。手足を結界で覆い、ヒレを作る。
「延々と息継ぎしながらドルフィンキックじゃ!」
覚悟完了。よーいドン。
方向なんて分からんけど、取り敢えず泳いでりゃ陸地に着くだろうという楽観的思考で泳いでいく。
学ランが凄く重いが気にしない。あぁ、カグネにもうちょっと便利な魔法教えてもらえばよかったな。
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あれから9日たった。未だに陸地に辿り着かない。海の魔物と戦ったりした結果、方向を間違えたのかもしれない。クソぅ。
「プハァ、ハァ、ハァ……」
水面から顔を出し、息継ぎをする。肺活量が上がったのか、多分8分ぐらい息を止められるようになった。泳ぎも上手くなった。だが、大陸が見つからない時点で詰んでる。
それに、腹が減った。あの時、一週間持つトンデモ食料を食ったのは正解だった。一週間は腹が減らなかったからな。だが、それの効果は消えた。9日も泳いでいる。2日分お釣りが来てる。もうそろそろ限界だ。腹減って死にそう。
「ハァ、ハァ……ん?」
なんだか、急に暗くなってきた。どうしたんだ? 雨でも降るのか?
「おわぁっ⁉︎ な、流れが⁉︎ クソッ、なんでこのタイミングで嵐が来るかなぁ!」
本当についてない。運が悪すぎだ。流れに逆らおうにも、もう限界だ。
「あぁ〜、どうせなら、陸地まで運んでくれや」
立ち泳ぎをしながら、そう呟いた。希望を持つだけなら、別にいいだろう。
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街を歩いていると気がついた。この廃都には、見覚えがあることを。
「やっぱり……」
私とコウヤが、前まで滞在していた街だ。何があったんだろう。
街を隅から隅まで歩き回り、壁の外を見た時、疑惑が確信へと変わった。
「まさかとは思ったけど、やっぱり……」
街の外の平原には、大量の死体があった。人の死体も、魔物の死体も、沢山転がっていた。死体と言うより、骨の方が多いが。
「大侵攻……か」
『大侵攻』
魔物の群れが、人の村や町、更には多種族の住処を侵略する行動のことだ。
侵攻の理由は分からないが、そう簡単に街が堕とされる事は無いはず。
だが、もしかしたら、強い冒険者や騎士が、なんらかの理由で出払っていたのかもしれない。
もしかしたら、とても強い魔物がこの街を滅ぼし、次の街へ侵攻しているのかもしれない。
もしかしたらを考えると止まらないので、思考を放棄する。
取り敢えずは……
「他の街を目指して進もう」
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南へ走り続けて三日、三つの廃都と二つの廃村を越え、街を発見した。だが、入り口にはかなり人が並んでいる。なんとなく察しはついているが、聞いてみよう。
「なぜ、この街へ来たんですか?」
前に並んでる、商人風の男に声をかける。
「おぉ、嬢ちゃんは冒険者か。そうだな、俺がこの街に来た理由は簡単だ。滅ぼされた街から、一番近いってだけだ。因みに、俺が居た街に来る前には、既に二つも街を滅ぼしてたらしいぜ」
「でも……この街も、滅ぼされる可能性もありますよ?」
「いや、なんでも王国の十二騎士が一人、序列2位の竜殺しが派遣されるらしいぜ? そんだけの奴が来るなら、どこの街に居ても、大丈夫だろう。」
「それは、凄いですね」
「あぁ、竜が来ると予測されてる日の、前日には到着するらしい。だったら俺ら商人は何か役に立つような事をして、王様御用達にしてもらうのさ。大量の食料や補給物資を配り、民衆を味方につけるとかさ。おっと、この話は内緒だぜ?」
男は上機嫌なのか、ニヤリと笑う。
そうか、竜か……気になるな。どんな戦い方をするのか、凄く気になる。
「どこの街に来るんですか?」
「この街に、三日後に来るらしい。だから途中で竜の意識を引いてこの街から遠ざけて行き、遠くで戦うんだとさ。国の伝達兵が教えたんだ、信じていいだろう。にしても凄いよな、竜と戦うなんて」
「確かに、凄い」
「だって、竜殺しなんて、全く居ないんだぜ? その内の一人がこの国に居るなんて、頼もしくて仕方ないぜ。おっと、もうこんな時間か、んじゃ、審査受けてくるぜ。何かあったら、『レイ商会』に来てくれよ!」
忙しい人だなぁ……
「次の人ー」
どうやら、順番のようだ。
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これから竜が来るというのに、街は活気があって明るかった。竜が退治される事が、当たり前の様に信じている。世の中何が起こるか分からないのに。そこまで信じているという事は、竜殺しの騎士は、余程強いのだろう。
凄く気になる。
どれだけ竜が強いのか、どれだけ騎士が強いのか、どんな戦い方をするのか、凄く気になる。
「冒険者のみなさんーん! リーリア支部のギルドの者でーす! 冒険者でDランク以上の方は、リーリア支部ギルドの、会議室までお越し下さーい! もしかしたら恐慌状態になった魔物が街に攻めてくるかもしれませーん! ですので、Dランク以上の冒険者の皆様は、リーリア支部ギルドの、会議室までお越し下さーい! 繰り返しまーす!」
そうか……確かに、圧倒的強者の竜が自分の住処に近づいたら、怖くて頭が上手く働かなくなっちゃうからね。魔物も、頭が上手く働かなくなって、訳も分からず行動するかもしれないのか……まぁ、私はFランクで関係ないから、竜退治を見学させてもらうけどね。
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その光景は、最早一種の芸術の域だった。
方や真っ赤な鱗を身に纏い、絶対強者、ドラゴン。
方や、竜の鱗で出来た空色の鎧で身を包み、その身長の10倍はありそうな長さの槍を背負っている。
【ふん、愚かな人間が。我に敵わぬとも分からずに決闘を申し込むとは……笑止千万! 灰に変えてくれるわ!】
「ゴメンなさい、ゴメンなさい。怖いから早く逃げたいです。でも、逃げたらみんな死んじゃうので、戦います」
弱々しい言葉を吐いた、人間の纏う気が変わる。
弱々しい、頼りない気から、覚悟を決めた、これから死線へと向かう歴戦の兵士のような、押し潰されそうな程威圧感のある気へと、変化する。
【さっさと死ねぇい!】
竜が口を開き━━
「うらあああああッッ!」
━━口から尻尾まで、綺麗に穴が空いた。
【……あ、あぁ?】
現状を理解したのかどうかは知らないが、竜は白目を剥いて、息絶えた。
「ゴメンなさいゴメンなさい、あまり生き物を殺したくないんです。でも、家族が殺されるかも知れないと思うと、ダメだったんです。でも、貴方の死は無駄にしませんから。ちゃんと、みんなで仲良く食べますから。鱗も、加工して余すことなく全て使いますから。無駄使いなんてしませんから」
戦いは一瞬だった。
騎士が背中に背負っていた槍が消えている。そして、右手は前に向かって伸びている。つまり、槍を投げたのだ。
「はぁ、戻ってきてください。」
騎士がそう呟くと、独りでに槍が虚空から現れ、騎士が手でしっかりと握る。
「あぁ怖かった。漏らすかと思った。もう嫌だ。騎士とか嫌だ。働きたくない。」
後ろ向きな言葉を吐きながら、竜を引きずって街へ向かう。
遠くから見ていたカグネは、何も理解が出来なかった。理解が追いつかなかった。
気がつけば竜が死んでおり、槍も消えていた。
分かったのはそれだけ。魔術を使った形跡も無い。もしかしたら使っていたのかもしれないが、それでも身体強化ぐらいはする筈だ。だが、騎士はそれすらしなかった。気で身体強化をしているのはかろうじて分かった。つまり、あの騎士は、
「まさか……仙術?」
仙術……魔力を使わない、違った方法で起こす奇跡のような力……いや、技というべきか。
カグネの使う縮地も同じである。距離を詰めるという行為を、特性を、概念を、ただひたすらに、愚直に、効率的に、速く、正確に行い続ける事で出来るようになる技だ。仙術の中では比較的簡単な部類に入るが、それでも努力なしに身につける事は出来ない。
仙術は、身体に覚えさせなければ使えない。努力なしでは使えない。
その概念や特徴を掴むことによって、初めて使用可能になる。
元々の身体能力の高いものが高速で動けば、それは縮地のように見えるだろう。だが、実際は違う。
縮地は、体力をまったく使わない。距離を詰めるという概念を上手く使えば、足を少し動かしただけで行きたい場所に着く。
それだけ、仙術は効果が高く、同時に、修得にどうしても時間がかかる。
これだけ説明すれば分かるだろう。あの騎士の異常さが。
気がつけば、竜にポッカリと穴が空いていた。投槍する瞬間も、槍が飛んでいる光景すらも見えなかった。それは、最速最強の一撃。
この光景を見て、カグネは心に決めた。
「絶対に、アレに対抗できるような技か魔術を作る……その為には、実戦が手っ取り早い……なら」
この世界は、才能の無い者に優しい。何故なら、努力さえすれば、誰でもあの騎士の様な技が使えるようになるかもしれないのだから。
技を早く修得出来る様に、実戦相手まで居るのだから。
「冒険者ギルドで、沢山依頼を受けて、沢山経験を積もう。そうすれば、何か分かるかもしれない」
カグネの目標が、また一つ出来た。
その目標に辿り着けるかどうかは努力次第、才能など関係ない。
この世界を征するのは、愚直に努力する愛すべき馬鹿野郎だ。
ここまでお読み頂きありがとうございました
誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等
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え? ドラゴンが弱かった? 確かにそいつが弱かったってのもあるけど、それ以上に、騎士が異常なんだよ。
気が付いたら貫かれてたとか、グングニールも真っ青な性能だよ。