第10話 そろそろ本気出す
おはようございます。
二章の山場です。
盛り上がります。盛り上がります。
大事なことなので、二度言いました。
はい、カグネが『本気』出します。
作者は、第三章から本気出します。
「着いた」
「ソ、ソウデスネ」
ダンジョンの40階層、つまり、私たちは今、フロアボスが居る部屋の前に立っている。
「ツカレター」
相変わらず扉の模様などは変わりなく、ここにダンジョンの手抜き加減が窺える。
「ハラヘッタヨー」
無駄に大きい扉、無駄に大きい休憩部屋、無駄の無い、何もない部屋。
「ネムイヨー」
そして
「プギュラッ⁉︎」
無駄に煩いコウヤ。
「ちょ、いきなり人の頬を殴るとか酷くない⁉︎ 確かにね、俺も構って欲しいアピールしたよ? でもね」
そこで間を置き、大きく息を吸い込み、大声で叫んだ
「いきなり殴るのはさすがに酷いよ! 勘弁して下さい! 」
「……煩い」
「……はい」
素直でよろしい。
「はぁ……で、今度はどんな特訓するんですか? お嬢様」
不満タラタラな表情で話しかけてくる。
「予測、逃げ方、守り方、言語、魔力の扱い方、ちょっとした魔法を教えたから……生き残る戦い方とかかな?」
「やったぜ! つまり、逃げるが勝ちなんだな! どこまでも逃げてやるさ!」
声は元気だが、明らかに空元気だ。どうしたんだろう……体調でも悪いのかな?
「どうしたの? 体調でも悪いの? それとも、頭が悪いの?」
「うんうん、頭が悪……じゃねぇよ、なに人の心配しつつ、さりげなく酷い事言ってんだよ。てか、別に体調が悪い訳じゃないし」
「そう……なら、いい」
「で、どんな戦い方なんだ、生き残る戦い方ってのは?」
「力の効率的な運用法」
「え? なにそれ、難しそうなんだけど」
今日も元気に、コウヤは苦笑いをしている。うんうん、平和だね。
「やる事は簡単。敵によって攻撃の仕方を変え、敵の攻撃の仕方によって、身の守り方等を変える……とか」
「うん、嫌になっちゃうね!」
殴りたいその笑顔。殴るのはセルフサービスです。お手拭き、ガントレット、グローブ等は持参して下さい。
そんな思いを口を閉じて外に出さず、呑み込んでやり過ごす。
「それが難しいなら……どんな事をしてでも生き残るっていう、強い意志と根性が一番大事」
「あぁ、痛感した。火事場の馬鹿力って出るもんなのな」
「次に必要なのは……」
「なのは?」
「無い」
「……はぁ?」
コウヤは目を丸くし、口を大きく開いている。
「本当にそれだけなのか?」
「そう、それだけ」
「そうなのか……ま、頑張るか」
「そう、だから、どんなに不利な状況でも、諦めるなんて事は絶対にダメ。後でどんでん返しがあるかもしれないんだから」
「ま、世の中何があるかも分からんし、生き残るのに必要なのは、生きるという意志が大事ってのは確かだな。諦めたらそこで試合終了だもんな」
「それじゃ、明日に備えて準備しようか」
「そーだな」
「力の効率的な運用法、今度教えるから」
「ウゲ……」
心底嫌そうな顔をしたコウヤを、嫌がらせにスパルタ教育しても問題無いだろう。
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「それじゃあ、扉を開けよう」
扉を開け、恒例の転移の魔術が発動する。
今度は、広い闘技場のような場所のようだ。空が見え、客席も見える。
「コロッセオみたいだな」
「それより、アレを見て」
「ん?」
私が指を指した方向には金属製の柵があり、それが上の方に引っ張られている様子が確認出来た。
「「……ッ⁉︎」」
背筋を、嫌な感じが駆け抜けた。
「俺……アイツを対面したら、どうやっても生きられそうに無いんだが」
震える声が横から聞こえた。
「……コウヤ、客席の方に逃げて、全力で結界を張って。いいね? 絶対に結界から出たらダメだからね? 私でも、ちょっと危ないかもしれないから」
「あ、あぁ、そうさせてもらう。後、死ぬなよ」
歩く音が遠ざかっていく。
「あ、一つ言うの忘れてた」
「なに?」
一拍間を置き、応えた。
「私、この戦いが終わったら故郷に帰るんだ」
「何盛大に死亡フラグ立ててるんだよ! お前アレか⁉︎ 自殺志願者が何かか?」
「フフフ……」
「な、なんだよ」
「その調子なら、コウヤは死ななそうだね」
「お前もな」
お互い、軽口を叩きあう。
「生きて帰ってこいよ」
「勿論よ、私を誰だと思ってるの?」
胸を張り、自分に言い聞かせるように言う。
「命の恩人で凄く頼りになる、とても強いお師匠様だよ」
私の心を代弁するように、コウヤは答えた。
「諦めんなよ」
「諦める訳ないわ」
最後は、お互い背を向けて歩んだ。
「グシュー……グシュー……」
闘技場の端、戦士たちの出入り口に、奴は現れた。
ヘビのような顔、手と一体化した、コウモリのような翼、トカゲのような体躯、鋭い爪と牙に、堅牢な鱗、そして、見る者を絶望の淵に叩き落す、圧倒的強者。
「……ワイバーン」
思わず、呟いた。
呟いてしまった。
まさか、出てくるとは思わなかった。こんな化け物が。
デカイ。
黒く光ってる。
人ひとり飲み込むのが容易そうだ。
「グォォォォォォォ!」
奴の咆哮で、闘いは始まった。
50メートル程の距離を、一瞬で詰めてくる。
疾い! 流石ワイバーン。ドラゴンのなり損ないだけど、想像以上の速さ……そして、久し振りに感じる濃厚なその殺気に、思わず身体が震える。
ワイバーンは私目掛け、その堅牢な鱗を纏った拳を撃ちだしてくる。
「グッ! ガァッ!」
ワイバーンの動きに対応しきれていない。今までに培ってきた直感で咄嗟に後ろの方に飛んだが、拳を受け流しきれず、衝撃が腕を軋ませる。
後方へ飛ばされ、痛みで顔を歪ませながらも、両足でなんとか地を踏みしめ、少しづつ減速していく。
「頑張れー! 負けるなー! カグネなら勝てそうだぞー!」
「グッ……そうかもね」
幾らなんでも、ビビリ過ぎだっつーの。たかがワイバーン。竜という括りの中にいるけど、ただのドラゴンのなり損ないだっつーの。
ほら、見てみろよ、あいつの顔。
余裕そうな顔して、こっちを見下して、完全に油断してる。
だったら、この状況を、最高の技を決める、最高の瞬間にしようか。
本気で、全力で殺しに行こう。
『金剛甲冑・武王』
魔力と気の複合体、『魔闘気』による
身体能力の向上と、魔闘気の結界で身体を覆い、外部からの衝撃に強くする。
でも、これでもまだ奴には届かない。
だから、懐から愛用の武器を取り出す。
『武具一体』
私の言葉に呼応し、武器が身体を覆って行く。
この武器は、『流動性金剛聖魔銀』によって出来ている。
簡単に説明すると、とても頑丈な水銀だ。
そのとても頑丈な水銀が変形して身体を覆い、鎧のような形に変化していく。
頑丈な水銀による鎧と、魔闘気で出来た鎧、それに、超向上した身体能力。
これで、奴に勝てるかもしれない。
魔闘気の制御に馬鹿みたいに集中力使うし、消耗が激しいから、先ずは挨拶代わりに必殺技。
『山崩し』
縮地で間合いを詰め、腹の下まで潜り込む。
「これはお返し」
そこから頭上の腹に向かって、衝撃の貫通する肘突き、掌底、膝蹴り、足蹴りを流れるように繰り出す。
修練されたその滑らかな動きは、身体に確かな手応えを与えてくれる。
確実に技が入ったお陰か、ワイバーンの巨体は微かに上へと浮いた。小さな奴の呻き声が私の耳に届く。
幾らあのワイバーンが硬い鱗を持っていようと、巨体であったとしても、内側はそうではない。
貫通するような一撃は重く重くワイバーンの内部へと衝撃を伝え、内臓にダメージを与えるはず。
内臓が駄目になれば、大抵の生物は無事ではすまない。私の技量では殺せないにしても、ほんの少しの間は動けないはずだ。
ーーだが、流石は竜という括りに入るだけあった。
「んなっ⁉︎」
ほんの少し浮いた身体は隙を作る事なく、真下にいる私を潰しにかかっている。
信じられない思いをしながらも、なんとか腹の下から脱出を図る。
「くっ‼︎」
間一髪。潰されそうだった身体をなんとかワイバーンの腹から抜け出させ、状況判断の為に一旦間合いをとる。
「……ウソ、でしょ?」
信じられない光景を目撃し、思わず声が漏れ出す。
ワイバーンは唸り声を上げながら睨み付けていた。
瞳を、憤怒の色に染めて。
口から赤色を漏らしながら。
「グォォッ!」
「クッ!」
速い!
間合いを取った距離は一瞬で詰められ、奴の拳で闘技場の端まで飛ばされる。
今度は万全の状態だから然程被害は少ないが、魔闘気の障壁をかなり削られ、なんとか地面を削りながら減速していく。
だが、安堵している暇などない。
追撃しようと迫ってくるのを縮地で回避し、その際に一瞬で魔術を完成させ、ワイバーンの顔に撃ち込んだ。
「砂塵!」
ワイバーンの顔に撃ち込まれた砂塵は奴の顔面を覆い、纏わり付き、少しの間視界を奪う。この時がチャンスだ。
ワイバーンが再起するにはそう時間は掛からない。奴の背中目掛けて拳を放つが、鱗に阻まれてそこまでのダメージはないように見える。
クソッ、外から衝撃を貫通させようとしても、恐らく鱗が衝撃を分散させてしまう。
ならば、もう狙う場所はそこしかない。
「ブォォッ!」
「っぁあ!」
ワイバーンの尾が私の身体を高速で薙ぎ、吹き飛ばした。鎧を着ていなければ確実にやられていただろう。一瞬の浮遊感に襲われながらも受け身を取り、体勢を立て直す。
「ブォオオオオオオッ!」
その間にワイバーンは自身の翼を生かして空高く舞い上がっていた。
接近戦では不利と判断したのだろうか。その口には微かに魔力が集まっていくのが感じられる。
「炎の概念を、よく利用してるね!」
私の読み通り、ワイバーンは魔術的意味を持った炎弾を口から発射する。
ワイバーンが放つ、燃え盛る蒼い炎弾が、私を消し炭にしようと空から雨のように降ってくる。
色だけで判る。青い炎は赤い炎よりも高温だ。
魔闘気の障壁が多少防いでも、もしも貫通したらおしまいだ。
流動性金剛魔銀、銀の性質がつ強い金属のため、熱に強いわけではない。いや、むしろ弱体化しているため、まともに食らえば、危険だ……でも、人間を舐めてもらっては困る。
「空で戦いたいなら、戦ってあげる!」
吠え、奴の居る空へと跳躍する。更に、空中に足場を作り、炎弾を回避しながらも徐々にそのスピードを上げてワイバーンの頭上を一瞬で跳び越した。
奴は私に気がつき、頭上にいるこちらを振り向く。だが、もう遅い。準備は整った。
『極小の死神!』
かかと落としをするだけの、簡単な技。
でも、年季も、強化に回した魔闘気などの量も、全然違う。
身体中の強化などに回していた魔闘気と流動性金剛聖魔銀を、『踵』そのただ一点に集中して集めたのだから。
縮地による一瞬の移動で、奴の鼻のほんの少し上に作っておいた足場に現れる。
縮地とは、距離を詰める、言わば瞬間移動のようなものだ。対処など出来るわけがない。
回避すら取れず、私の渾身の一撃が奴の脳天に直した。
鱗を砕く衝撃が私の脚へと伝わってくる。完璧な一撃だろう。
二重の轟音と共に、ワイバーンが激突した地面に砂埃が立つ。
だが、これで終わりではない。
「ダメ押しに、もういっぱぁつ!」
空中に作った足場を蹴り、奴目掛けて加速しながら高速で接近する。
だが、やはりワイバーン。鱗を砕いたとしても、その骨も堅牢であることは変わらないのだ。奴は視界が悪い中、こちらを振り向き大きく口を開く。
私はそのままその強靭な顎に噛み砕かれる訳も無く、足場を作ってやり過ごす。
「バーカ、慢心なんて、しないわよ」
空中の足場をもう一度蹴り、奴目掛けて高速で迫り、
『二連・極小の死神!』
かかと落としで歯をへし折り、着地と同時に顎を思い切り蹴り上げる。
「グゴッ、オォ……」
重たい音と共に奴は倒れ伏す。
「止めの一撃」
『裁断』
流動性金剛聖魔銀を、薄い薄い刀の形に変えていく。
後は慎重に魔闘気で覆い、刀を振り上げる。
「――人間、舐めんなちゃいけないよ」
発し、力を込めてワイバーンの首を落とす。
斬れ味重視の刀でも、コイツを斬るのに私は技量不足だ。でも、この金属はとても硬い。多少乱暴に扱っても問題ない。
ギャリギャリと嫌な音を立てながらもワイバーンの首を切り落とし、一瞬痙攣すると、そのまま霧状になって消えて行った。
――激戦を制したのは……私だった。
「……ふぅ、疲れた」
思わず、尻餅をついてしまう。
もう、魔力も気もスッカラカンだ。お陰で、吐き気を堪えるのと意識を保つので精一杯だよ。
でも、意外と勝てるもんなんだね。
「おーい! カグネー! 凄かったぞー!」
「後は……頼んだ」
「え? あっ、ちょっ⁉︎」
私は、意識を手放した。
ここまでお読み頂きありがとうございました
誤字脱字指摘、アドバイス、評価感想等
お待ちしております。
サラッて言うけど、こいつら、常に音速以上で戦ってたんだぜ?
目で追えないんだぜ?
まぁ、達人クラスは音速余裕で戦いますが。
カグネと戦ったら、対峙した時点でカグネが負けます。
達人強すぎね? うん、強いよ。
ワイバーンって、やられ役じゃね?
でも、ドラゴンの端くれだし、かなり強いぜ?
まぁ、こいつは突然変異の強いワイバーンですが。
 




