第9話 そろそろ本気出す
やぁ、更新だよ。
明日も更新。明日は午前8時頃更新。
戦闘が終了した。コウヤは死にかけだ。蘇生するまで刻一刻を争う。
本当、準備しておいてよかった。
『完全回復』
これだけの怪我を治すには、チョット手間がかかる。
魔法陣を展開し、術式も魔法陣に組み込み、儀式方式と触媒も用いて、出来るだけ魔力の消費を減らし、出来るだけ効果の向上を目指した方がいい。
私の自作の魔導書から回復用の魔術が書いてあるページを開き、描いてあるのと同じ魔法陣を、コウヤの足元と壊れた魔術回路が書かれているページに展開する。
触媒はこの本。儀式はこれから行う。
壊れた魔術回路が書かれているページに、強引に魔力を流して完璧に破壊する。
これで魔術回路は無くなり、白紙のページに戻る。
儀式はこれで終わり。
壊れた魔術回路は人体に見立て、壊す事によって白紙に戻す。つまり、身体の壊れた部分を無かった事にする。
まぁ、それだと結果を無かった事にする、時間に関連する魔術になって無駄に魔力を使うから、チョット魔法陣を弄って変えてるけど。
『怪我した部分周辺を魔力に変換し、それから肉体を構築する』
というような風に。
……まぁ、かなり手間がかかるし、演算したりするのにも時間がかかるから、いざって時は使えないんだけどね。
展開した魔法陣の効果により、ボロ雑巾の様な外見だったコウヤの身体が、見る見るうちに治っていく。
変な方向に曲がっていた腕は、真っ直ぐ元に戻り、凹んでいた全身は膨らんでいき、バキボキに折れていた骨は、破片も元の場所に戻り、しっかりとくっ付いた。
よし、成功した。良かった。
でも、予想外だったな。
まさかあのイノシシ擬きが変身するなんて……変身して一気に強くなるのは、流石に想定外だよ。
まぁ、それ相手にコウヤが勝てるようになっただけ、強くなったのかな。うん、ならいいか。終わりよければ全て良し。過去は振り返っちゃいけない。コウヤが魔術師に一歩近づいただけ良しとしよう。
取り敢えず、ここに居るとまたボスが出てくるかもしれないし、部屋の外に出よう。
この大広間の奥の方に、真っ青な扉があるから、多分、そこの扉を開けたら出れる筈。
木刀とコウヤを回収し、青い扉を開ける。視界が青白い光で埋め尽くされ、一瞬の浮遊感を味わう。発光が終わった時、私はボス部屋の前と似たような大広間に立っていた。
やったね、これは嬉しい。ここには魔物が現れないから、心置きなく仕込みが出来る。
コウヤが目を覚ますまで、しばらく仕込みをしていよう。
何を仕込もうっかなー? うーん、私の服の加工とかは終わったし……そろそろ、武器に手を出し始めよっかなー?
道具袋から色々と取り出し、並べていく。
「うーん……効果、どうしよう」
魔力吸収にするべきか……いや、魔力伝導率を高めて……でも、変形するのもトリッキーで良い……ううむ、悩む。
……あ、どうせだし、コウヤのも改造しちゃおう。そうだ、改造しちゃおう。直ぐにポックリ逝きそうだし、人を助ける為の改造だから別にいいよね。今意識無いけど、人のためだし、許可貰わなくてもいいよね?
「……ウッ、ここは何処……」
「危ない!」
「オブッ⁉︎」
「危ない危ない、コウヤが蚊に刺されるところだった。でも、手が滑ってコウヤのコメカミに直撃、運悪く意識を刈り取ってしまったー。これでは、改造していいか確認が取れないではないかー。しょうがない、これは人のためなんだー。許可は貰わなくてもいいよね。人のためなんだし。」
白目剥いて泡吹いて倒れ、ピクピクしてるコウヤから靴を脱がし、観察する。
うーん、靴ダメだね。これは壊れやすくて戦いに使えない。軽くて柔らかいのはいいけど、ぜったい直ぐに壊れる。山登りには向いてないし、水もドンドン中に入る。
そのまま観察を続け、裏を見ると、綺麗な円形の溝があった。うん、これは使えるね。
円形の一部に『く』の字に切れ込みを入れ、靴の裏に魔力を込めながら、溝にそって魔法陣を描いていく。
くの字に切れ込みの入った円形。まるで、尾を咥えた蛇のように見える。
円と蛇、永続性の象徴、これによる魔術の恩恵は、理論上は『不壊』『不滅』『不死』などが可能になる。
まぁ無理だけどね。私には出来ない。
私に出来るのは、頑張って『堅固』と『寿命延長』
普通にやって『劣化耐性』と『頑丈』『強化』ぐらいかな。
まぁ、術式とか使わずに魔法陣だけで強引に発動させてるから、発動するのは『劣化耐性』と『強化』ぐらいになるんだけどね。効果は、鉄ぐらい劣化しにくくなるってぐらいかな。
これ、大した事無いように思うかもしれないけど、布みたいなのが鉄並みの耐久力と頑丈さを持つって時点で異常だからね。うん、見た目使い物にならなくなりやすそうな靴なのに、鉄並みの頑丈さと耐久力を持つって凄く便利だね。
さて、中敷きには直接魔法陣を描くことにしよう。
次、上着とズボン。これは裏地に直接魔法陣を描けばいいか。
さて、なんの効果のを描こうかな? 材質的に、衝撃緩和と頑丈、もしくは劣化耐性の効果がギリギリ使えるかどうかってぐらいかな? うん、そうしよう。欲張って失敗すると、服が細切れになっちゃうからね。
コウヤからズボンと上着を引っぺがし、裏側に魔法陣を描いていく。
……うん、やっぱりギリギリっぽいね。ギリギリ素材が魔力に耐えられる。細切れにならなくて良かったぁ。
さて、これでコウヤの服の改造は終わった。後は……
「ムフフ、楽しいなぁ。エヘヘ、次は何を改造しよっかなぁ……」
これからは、私が全力で楽しむ時間だ。何人たりとも邪魔は許さない。
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痛え……なんか、頭痛が酷い。特にコメカミ。メチャクチャ痛え。まぁ、取り敢えずは生き残れたんだろう。今ある生に感謝しよう。
「ムフフ、楽しいなぁ。エヘヘ、次は何を改造しよっかなぁ……」
なんか、聞き捨てならない台詞が聞こえたんだが……
目を開き、首だけ動かして周りの様子を確認してみる。
パンイチの俺、愉悦な表情のカグネ、辺りに散った俺の服。
つまり……うん、そーゆー事だろう。
『あぁ……遂に俺は、人間を辞めてしまったのか。改造人間になってしまったのか』
身体も違和感を感じるし、カグネは魔法の袋から次々と猟奇的なナニカを取り出している。
釘バット、メス、ドリル、鉈、ノコギリ、その他沢山……
『アハハ、もう嫌だ。死んだ方がマシだったかもしれない……』
神様……どうか、私の人生の難易度を低くして下さい……お願いします、生かさず殺さずを絶妙にやってるんです、精神的にも肉体的にもキツイです。
死期がいつ来てもおかしくないdeath
天を仰ぎ見るが、生憎ここは土の中。意地悪な神様が居るであろう、空の上を見る事は叶わなかった。
『はぁ、地面に直で寝てるからかなのか。ヒンヤリして冷たい上に、身体中が痛い。頭痛も酷い。からだ中に凄い違和感を覚える……ハァ』
回復魔法でも教えて貰えば良かった。てか、回復魔法って二日酔いも治るのかな? ちょっと気になるな。
「魔力吸収、伝導率向上、振動、頑強……エヘヘ、楽しいなぁ。」
『アー、アー、キコエナーイ、キコエナーイ、キキタクナーイ。』
嫌だ、もうこんなの嫌だ。家に帰りたい……いや、やっぱりいい。ここの方がいい。家より100倍はマシかもしれない。
あぁ……なんかもう……
『はぁ。誰か、俺のことを助けてくれよ。』
ポツリと呟いた俺の独白は、カグネの独り言と共に、迷宮の闇へと消えていった。
〜〜〜〜〜
夜の闇の中に、灯りが見える。
暖かな光は二人の人間を映し出し、乾いた音と、話し声が聞こえる。
「今日の夜ご飯は……コレ」
焚き火の灯りがよく見える闇の中、カグネが夜ご飯を渡してきた。
『……ま、またでしょうか?』
干し肉と、パンである。
固すぎて歯が折れてしまった、ガチガチのパンと、干し肉である。
湖に突っ込んでふやかしても噛み切れない、異常な硬さのパンと干し肉である。
『そのー……エヘヘ、他に何か御座いませんでしょうか?』
ご機嫌を損ねないように謙り、超下から目線でお願いをする。
「仕方ない……コレはサービス」
溜息を吐きながら袋をゴソゴソと漁り、俺に錠剤の様なものを渡す。
「ほら……コレで、1週間は飲まず食わずで大丈夫。だから、もう喋らないで?」
『チクショウ! チョットでも期待した俺がバカだったぜ! てか、喋るなってなによ! アレか? 俺を妙に人間らしい人形にでも見立てて、サンドバッグにでもするつもりだったのか? 俺はお前の肉人形か何かか⁉︎』
「コウヤ、まさか……読心術を⁉︎ 人の心を読むなんて、人としてどうかと思うわ。死んだ方がいいわね」
『違ぇよ! 読めねぇよ! てか、何さりげなく俺を殺そうとしてるんだよ! あ、ちょ、やめて! チェーンソー取り出して構えないで! 』
「……チッ、命拾いしたね」
『いや、あんたのせいだよ! こんだけ騒いでたら、流石に魔物だって集まってくるさ!』
現在、俺たちはダンジョンの37階に居る。
30階からは迷路みたいな道ではなく、その階層一つ一つが大きな部屋になり、その部屋に樹木が生い茂り、湖や川もある。
室内スキー場みたく、室内自然公園である。
ここからはなぜか分からないが、殺しても死体が残り、食べる事が可能だ。勿論魔物も食べたが……一言言わせてもらおう。
豚の魔物の『オーク』って奴を食ってみたんだが……凄く、美味しかった。
日本ではかなりの金を払わなければ食べれないような、そんな高級感溢れる美味しさだった。
焼いただけなのに、香辛料も何も掛けてないのに、肉そのものが十分美味かった。
もう……ね、街でも魔物の肉は食べてたけど、オークは別格だった。
これじゃあもう、冒険者は止められないね。こんだけ美味い物が食えるなら……ね?
話を戻そう。
この階層は森の中と同じである。そして、今俺たちが居る水場には生き物が集まりやすいのである。そんな所で大声を出せば、自然と魔物が集まってくる訳である。
「コウヤ……こうなる事、分かっててやったでしょ」
『さぁ? 答えは神のみぞ知るってな?』
これでまともな夜ご飯を、後1週間は食べられるだろう。
ククク……
『計画通り』
「特訓メニュー増やすね?」
『し、しまった! つい口から溢れでてしまったッッ!』
「ククク……計画通り」
『ま、まさか、これさえも計画済みだったと言うのか……? つまり、俺はお前の手のひらの上で、アホみたいな踊りを全裸でさせられていたって言うのか?』
「その通り」
『チッッキショーー!』
カグネに向けられない腹いせを抱え、木刀を振り回しながら突撃し、魔物を ドンドン食料に変えていく。
この野郎! チクショウ! いつか絶対ギャフンと言わせてやるからな!
「ほら、しっかり急所を狙って? まだまだ精度が足りないよ?」
欠伸を片手で隠しながらも、カグネはチェーンソーで迫り来る魔物を御丁寧にサイコロ状に切り刻み、これまた丁寧に地面と接触する前に全て道具袋に回収している。
『誰でもお前みたいな人間離れした事が出来るとでも思うな!』
ギャフンて言わせる事……出来るのか?
ここまでお読み頂きありがとうございました
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